【NEW‼︎】あなたが出品されました

 カチャリ、と音がしてから数秒。

 私は呼吸を止めて、ドアノブを凝視し続けた。

 ……開かない。
 鍵は掛けてある。
 チェーンもしてある。

 深夜二時。こんな時間に訪ねてくる人間なんていない。

 新聞勧誘でも、NHKでもない。
 じゃあ、誰?
 ドアの向こうに、誰かが立っている。

 息を潜めて、聞き耳を立てているのかもしれない。
 私は布団を頭から被り、朝まで震えて過ごした。
 一睡もできなかった。

   ***

 ――翌朝。

 大学の講義中も、昨夜の恐怖が頭から離れなかった。
 ポケットの中で、スマホが短く震える。【バイバイ】からの通知だ。

 発送通知だろうか。
 私は少し期待して、画面を開く。けれど、そこに表示されたのは無慈悲な文字列だった。

『この取引は、出品者の都合によりキャンセルされました』

「えっ……なんで?」

 思わず声が出る。
 慌てて周囲を見渡すが、教授は黒板に向かったままだ。

 私は机の下でスマホを操作する。
 キャンセル? お金も払ったのに?
 意味がわからない。

 取引画面を開くと、M氏からメッセージが届いていた。

M氏:
申し訳ありませんが、お譲りできません。

 指先が震える。
 私は急いで返信を打ち込む。

私(購入者):
どうしてですか?
代金は支払い済みです。私の探していた商品なんです。
どうしても返して欲しいんです。お願いします。

 既読はすぐについた。
 まるで、画面の向こうで待ち構えていたみたいに。

M氏:
あなたには、売れません。
これは廃棄物(ゴミ)です。
一度捨てられたゴミを、わざわざお金を出して拾う人はいませんよ。

M氏:
それに、あなたには似合いません。
もっと自分を客観的に見たほうがいいと思います。

「……はぁ?」

 全身の血の気が引いていく。
 この人、私の何を知ってるの?

『似合わない』

 まるで、私がこのリップを使っていた時の姿を見たことがあるような言い方だ。それに、文面がおかしい。

 他人行儀な敬語なのに、内容が説教臭くて、どこか粘着質な響き。

 ピロン、と新しいメッセージが届く。

M氏:
返金手続きは完了しました。
二度と私のショップに関わらないでください。

 私は震える手で、M氏のプロフィール画面をタップした。

 出品リストが更新されている。
 一番上に、新しい商品が追加されていた。

   *

【商品画像】

商品名:
不潔な髪の毛(黒)
説明:
排水口の掃除を怠るような女の子の髪です。だらしがない性格が滲み出ています。戒めのために出品します。

   *

 背景に写っているのは、ユニットバスのタイル。

「嘘! これって――」

 講義中なのに叫びそうになった。
 両手で口を塞ぐ。

 私のアパートかもしれない。だとしたら、この写真を撮ってアップロードしているのは――誰?