数分後。
ファミレスに移動した私たちは、固唾を飲んでスレッドの更新ボタンを押し続けた。
最初は案の定、罵詈雑言の嵐だった。
『>>1 本人降臨かよwww』
『必死すぎワロタ』
『自作自演乙』
でも、ririさんが『M氏の正体を暴きたい。この家紋に心当たりがある人はいないか』と書き込み続けると、少しずつ流れが変わってきた。
ネット民の関心が、『被害者を叩くこと』から『謎の紋章を解読すること』へとシフトし始めたのだ。
*
78 :名無しさん@お腹いっぱい。:202X/02/20(金) 14:15:22.10 ID:TokuteiHan
なんか面白くなってきたな
このマーク、家紋っていうか呪符っぽくね?
102 :名無しさん@お腹いっぱい。:202X/02/20(金) 14:25:10.89 ID:OccultMania
これ、三つ巴じゃないな。
渦巻きの中心に「目」がある。
関東じゃ見ない形だぞ。
145 :名無しさん@お腹いっぱい。:202X/02/20(金) 14:40:02.55 ID:HistoryGeek
似たようなの見たことある。
長野と群馬の県境にある、廃村になった集落の道祖神。『千里眼信仰』とかいうカルト的なのがあった場所。
150 :名無しさん@お腹いっぱい。:202X/02/20(金) 14:42:30.11 ID:TokuteiHan
>>145
kwsk(詳しく)
その村の名前は?
168 :名無しさん@お腹いっぱい。:202X/02/20(金) 14:50:15.77 ID:HistoryGeek
『柩村』。
今はダム建設で半分沈んでるけど、昔は「人の秘密を見る目」を祀ってたらしい。そこで使われてた紋章が、この『三眼渦』にそっくりだ。
*
「……柩村」
その文字を見た瞬間、私の脳裏で錆びついた扉が開いた。記憶の霧が晴れていく。
お婆ちゃんの家の薄暗い仏間。
大人たちが小声で話していた『あの村』の話。
お母さんが絶対に近づくなと言っていた場所。
「……思い出したかもしれない」
私は震える手で口元を覆った。
「お婆ちゃんの家から、車で一時間くらいの山奥にある廃村だ……子供の頃、一度だけ迷い込んだことがある」
「そこなの?」
ririさんが身を乗り出す。
「うん。そこで……私、見たんだ。ボロボロのお堂の中に、このマークがいっぱい貼ってあるのを」
特定班の情報が、私の封印されていた記憶をこじ開けた。
M氏のルーツ。
スレッドは今や、『柩村突撃オフ』の話題で盛り上がっている。
『M氏の正体は柩村の生き残り?』
『Googleマップで見たけど、道がないぞ』
「行こう、ririさん。特定班が騒ぎ出して、M氏が警戒する前に。私たちが先に乗り込もうよ」
「……待って!」
私が移動しようとした瞬間、ririさんが鋭い声で制した。
彼女はスマホの画面に釘付けになったまま、顔色を失っていた。
「行かなくていいかもしれない。……もう、誰かいる」
「嘘?!」
「特定班の行動力、舐めてた。近場の心霊系YouTuberが、もう現地で配信始めてる」
ririさんがスマホの画面を私に向かって傾けた。
画面の中で、手ブレのひどい映像が流れていた。
*
【緊急生配信】M氏のアジト!?『柩村』に凸してみたwww
*
視聴者数、1万人超え。
コメント欄が滝のように流れている。
『うわ、霧すご』
『これガチの廃村じゃん』
『M氏出てこいやー!』
配信者は『奇札隊』と名乗る二人組の男だった。
彼らは懐中電灯を振り回しながら、霧の立ち込める山道を進んでいく。
『いやー、マジで何もないっすね。電波ギリギリっす』
『おい見ろよ、あれ! スレにあったお堂じゃね!?』
カメラが揺れる。
闇の中に、朽ち果てた木造のお堂が浮かび上がった。
入り口には、あの不気味な『三眼渦』の御札が、隙間なくびっしりと貼られている。
「……ここだ」
私の記憶が疼く。子供の頃、迷い込んで怒られた場所。配信者の男が、土足でそのお堂に上がり込んだ。
『うっわ、カビ臭ぇ!』
『なんだこれ……中身、仏像じゃねえぞ?』
カメラが内部を映し出す。
私とririさんは、同時に息を呑んだ。
そこは、異様な空間だった。
壁、天井、柱。あらゆる場所に、『写真』が貼られていた。
それも、普通の写真じゃない。
望遠レンズで撮られたであろう、誰かの日常生活。
着替え中の女性。
トイレの中。
寝顔。
そして、祭壇の中央には、雑誌や写真から切り抜かれた無数の『人の眼』だけが、コラージュのように貼り付けられ、巨大な一つの眼球を形成していた。
『……ッ! なんだこれ、気持ち悪ッ!』
『これ全部、盗撮!? M氏のコレクションかよ!』
コメント欄が阿鼻叫喚に包まれる。
『グロ注意』
『呪われるぞ逃げろ』
『おい、奥に誰かいないか?』
配信者の一人が、祭壇の奥、暗闇に向かってライトを向けた。
『あ? 誰かいるのか? おい、M氏か!?』
光の先に、人影があった。
こちらに背を向け、祭壇の『眼』を見上げている人物。
パーカーのフードを被っているが、その背格好には見覚えがあった。
まさか。
嘘でしょ。
その人物が、ゆっくりと振り返った。
配信者のライトが、その顔を照らし出す。
『うわっ、なんだお前! 何持ってるんだ!?』
その男は、手になにかを持っていた。
鈍く光る、ビデオカメラだ。
男は無表情のまま、土足で踏み込んできた配信者たちへとレンズを向け、逆に撮影し始めた。
その顔。
眼鏡の奥の、冷徹な瞳。
「……ケント?」
私の喉から、ひきつった声が漏れた。
画面の中にいたのは、パンクして動けないはずの、私の彼氏だった。
ケントは配信者に向かって、口元だけで何かを呟いたように見えた。
次の瞬間。
ザッ、ザザッ――!
激しいノイズと共に、配信が途切れた。
画面が真っ暗になる。
あとに残されたのは、画面中央で回り続けるロード中のサークルと、パニックになったコメント欄だけだった。
『おい!』
『切れた!?』
『今の男、誰だ?』
『最後に映ったの、鎌じゃなかったか?』
周囲に重苦しい沈黙が落ちた。
ririさんが、ゆっくりと私の方を見た。
その目は、完全に私を疑っていた。
「……ミナミさん。彼氏、あそこで何してるの?」
「わ、分からない……知らないよ……」
「M氏のアジトに、パンクしたはずの彼氏がいて、待ち構えていた。……これでも、まだ信じるの?」
反論できなかった。
ケントがM氏?
それともM氏の協力者?
あの『眼』の祭壇を作ったのは、ケントなの?
震えが止まらない私のスマホに、新たな通知が届いた。
それは、配信が途切れた瞬間に撮られたであろう、一枚の画像だった。
【商品画像】

商品名:
【生中継】野次馬の最期(動画データ)
価格:
¥ 50,000
説明:
人の秘密を覗く者は、その眼を差し出さなければなりません。
ファミレスに移動した私たちは、固唾を飲んでスレッドの更新ボタンを押し続けた。
最初は案の定、罵詈雑言の嵐だった。
『>>1 本人降臨かよwww』
『必死すぎワロタ』
『自作自演乙』
でも、ririさんが『M氏の正体を暴きたい。この家紋に心当たりがある人はいないか』と書き込み続けると、少しずつ流れが変わってきた。
ネット民の関心が、『被害者を叩くこと』から『謎の紋章を解読すること』へとシフトし始めたのだ。
*
78 :名無しさん@お腹いっぱい。:202X/02/20(金) 14:15:22.10 ID:TokuteiHan
なんか面白くなってきたな
このマーク、家紋っていうか呪符っぽくね?
102 :名無しさん@お腹いっぱい。:202X/02/20(金) 14:25:10.89 ID:OccultMania
これ、三つ巴じゃないな。
渦巻きの中心に「目」がある。
関東じゃ見ない形だぞ。
145 :名無しさん@お腹いっぱい。:202X/02/20(金) 14:40:02.55 ID:HistoryGeek
似たようなの見たことある。
長野と群馬の県境にある、廃村になった集落の道祖神。『千里眼信仰』とかいうカルト的なのがあった場所。
150 :名無しさん@お腹いっぱい。:202X/02/20(金) 14:42:30.11 ID:TokuteiHan
>>145
kwsk(詳しく)
その村の名前は?
168 :名無しさん@お腹いっぱい。:202X/02/20(金) 14:50:15.77 ID:HistoryGeek
『柩村』。
今はダム建設で半分沈んでるけど、昔は「人の秘密を見る目」を祀ってたらしい。そこで使われてた紋章が、この『三眼渦』にそっくりだ。
*
「……柩村」
その文字を見た瞬間、私の脳裏で錆びついた扉が開いた。記憶の霧が晴れていく。
お婆ちゃんの家の薄暗い仏間。
大人たちが小声で話していた『あの村』の話。
お母さんが絶対に近づくなと言っていた場所。
「……思い出したかもしれない」
私は震える手で口元を覆った。
「お婆ちゃんの家から、車で一時間くらいの山奥にある廃村だ……子供の頃、一度だけ迷い込んだことがある」
「そこなの?」
ririさんが身を乗り出す。
「うん。そこで……私、見たんだ。ボロボロのお堂の中に、このマークがいっぱい貼ってあるのを」
特定班の情報が、私の封印されていた記憶をこじ開けた。
M氏のルーツ。
スレッドは今や、『柩村突撃オフ』の話題で盛り上がっている。
『M氏の正体は柩村の生き残り?』
『Googleマップで見たけど、道がないぞ』
「行こう、ririさん。特定班が騒ぎ出して、M氏が警戒する前に。私たちが先に乗り込もうよ」
「……待って!」
私が移動しようとした瞬間、ririさんが鋭い声で制した。
彼女はスマホの画面に釘付けになったまま、顔色を失っていた。
「行かなくていいかもしれない。……もう、誰かいる」
「嘘?!」
「特定班の行動力、舐めてた。近場の心霊系YouTuberが、もう現地で配信始めてる」
ririさんがスマホの画面を私に向かって傾けた。
画面の中で、手ブレのひどい映像が流れていた。
*
【緊急生配信】M氏のアジト!?『柩村』に凸してみたwww
*
視聴者数、1万人超え。
コメント欄が滝のように流れている。
『うわ、霧すご』
『これガチの廃村じゃん』
『M氏出てこいやー!』
配信者は『奇札隊』と名乗る二人組の男だった。
彼らは懐中電灯を振り回しながら、霧の立ち込める山道を進んでいく。
『いやー、マジで何もないっすね。電波ギリギリっす』
『おい見ろよ、あれ! スレにあったお堂じゃね!?』
カメラが揺れる。
闇の中に、朽ち果てた木造のお堂が浮かび上がった。
入り口には、あの不気味な『三眼渦』の御札が、隙間なくびっしりと貼られている。
「……ここだ」
私の記憶が疼く。子供の頃、迷い込んで怒られた場所。配信者の男が、土足でそのお堂に上がり込んだ。
『うっわ、カビ臭ぇ!』
『なんだこれ……中身、仏像じゃねえぞ?』
カメラが内部を映し出す。
私とririさんは、同時に息を呑んだ。
そこは、異様な空間だった。
壁、天井、柱。あらゆる場所に、『写真』が貼られていた。
それも、普通の写真じゃない。
望遠レンズで撮られたであろう、誰かの日常生活。
着替え中の女性。
トイレの中。
寝顔。
そして、祭壇の中央には、雑誌や写真から切り抜かれた無数の『人の眼』だけが、コラージュのように貼り付けられ、巨大な一つの眼球を形成していた。
『……ッ! なんだこれ、気持ち悪ッ!』
『これ全部、盗撮!? M氏のコレクションかよ!』
コメント欄が阿鼻叫喚に包まれる。
『グロ注意』
『呪われるぞ逃げろ』
『おい、奥に誰かいないか?』
配信者の一人が、祭壇の奥、暗闇に向かってライトを向けた。
『あ? 誰かいるのか? おい、M氏か!?』
光の先に、人影があった。
こちらに背を向け、祭壇の『眼』を見上げている人物。
パーカーのフードを被っているが、その背格好には見覚えがあった。
まさか。
嘘でしょ。
その人物が、ゆっくりと振り返った。
配信者のライトが、その顔を照らし出す。
『うわっ、なんだお前! 何持ってるんだ!?』
その男は、手になにかを持っていた。
鈍く光る、ビデオカメラだ。
男は無表情のまま、土足で踏み込んできた配信者たちへとレンズを向け、逆に撮影し始めた。
その顔。
眼鏡の奥の、冷徹な瞳。
「……ケント?」
私の喉から、ひきつった声が漏れた。
画面の中にいたのは、パンクして動けないはずの、私の彼氏だった。
ケントは配信者に向かって、口元だけで何かを呟いたように見えた。
次の瞬間。
ザッ、ザザッ――!
激しいノイズと共に、配信が途切れた。
画面が真っ暗になる。
あとに残されたのは、画面中央で回り続けるロード中のサークルと、パニックになったコメント欄だけだった。
『おい!』
『切れた!?』
『今の男、誰だ?』
『最後に映ったの、鎌じゃなかったか?』
周囲に重苦しい沈黙が落ちた。
ririさんが、ゆっくりと私の方を見た。
その目は、完全に私を疑っていた。
「……ミナミさん。彼氏、あそこで何してるの?」
「わ、分からない……知らないよ……」
「M氏のアジトに、パンクしたはずの彼氏がいて、待ち構えていた。……これでも、まだ信じるの?」
反論できなかった。
ケントがM氏?
それともM氏の協力者?
あの『眼』の祭壇を作ったのは、ケントなの?
震えが止まらない私のスマホに、新たな通知が届いた。
それは、配信が途切れた瞬間に撮られたであろう、一枚の画像だった。
【商品画像】

商品名:
【生中継】野次馬の最期(動画データ)
価格:
¥ 50,000
説明:
人の秘密を覗く者は、その眼を差し出さなければなりません。

