赤色灯が、夜の住宅街を毒々しく染め上げていた。
駆けつけたパトカーは二台。
管理人の男は、額から血を流しながら救急車に乗せられる際、大声でわめき散らしていた。
「あの女だ、あの女が誘ってきたんだ! 私はむしろ被害者だ!」
「違います、まったくの嘘ですから!」
私が叫んでも、警察官たちは冷ややかな目で私を見るだけだった。
ririさんは、先に別のパトカーに乗せられてしまった。
「彼女はミナミを助けてくれたんです!」
ケントが警察官に食って掛かるが、年配の警部補は面倒くさそうに手を振った。
「はいはい、事情は署で聞くから。君たちも来て」
*
取調室の空気は、乾燥していて埃っぽかった。
パイプ椅子に座らされた私は、目の前の警部補に必死で訴えた。
「本当に、殺されかけたんです。あの管理人はストーカーなんです! 私の部屋に入り込んで……」
「証拠は?」
警部補はボールペンを回しながら、私の言葉を遮った。
「えっ……」
「それに、向こうの主張はまるで逆だ。『家賃の支払いを待ってくれるなら、抱かれてもいい』と君から誘ったというじゃないか」
「そんなわけないじゃないですか! これを見てください!」
私はスマホを取り出し、【バイバイ】のM氏の出品画面を見せた。
口紅、髪の毛、通知表。
「これが証拠です! ネットでこんな嫌がらせを受けてて……」
警部補は画面を少し眺めると、鼻で笑った。
「お嬢ちゃんさぁ。最近多いんだよね、こういうの」
「……どういう意味です?」
「『自作自演』ってやつ。承認欲求? フォロワー稼ぎ? 彼氏の気を引くためにやったんじゃないの?」
頭が真っ白になった。
自作自演?
私が?
「だってさ、髪の毛なんて自分で撮れば、いくらでも都合よくアップできるでしょ?」
「違います! 本当に……!」
「とりあえず、今日は帰っていいよ。ここにサインして」
作成されたばかりの調書が無造作に差し出された。私はその内容に息を呑んだ。
*
捜査関係事項照会書(甲)
【事案概要】
発生日時:令和X年2月18日 午後9時52分頃
発生場所:東京都〇〇区 ハイツ・愛の園 管理室
被疑者:高橋リナ(20)
被害者:管理人男性(62)
【聴取内容要旨】
1.被害者(管理人)の主張
入居者(深見ミナミ)より「相談がある」と深夜に押し掛けられ、管理室にて対応中、突然共犯者(高橋リナ)が窓ガラスを割り侵入。レンガで顔面を殴打された。性的暴行の事実は否認。過去の「合鍵の使用」についても強く否定している。
2.現場検証の結果
管理室および被害者宅から、スマートフォン、パソコン等の通信機器は発見されず。
被害者は「ガラケーしか持っていない。ネットのことは分からん」と供述しており、裏付け捜査中。
3.考察
深見ミナミが主張する『フリマアプリでのストーカー被害』については、客観的証拠に乏しい。
当該アカウント『M氏』へのアクセスログを簡易解析したところ、発信元は特定の端末ではなく、専用の匿名プロキシを経由し、常に配送状況を偽装するような不審な通信経路が確認された。
管理人のITリテラシーを鑑みるに、彼がM氏である可能性は極めて低い。
深見ミナミによる狂言、あるいは第三者による犯行の両面から捜査を継続する。
*
追い出されるように、警察署を出た。
報告書の文字が、目に焼き付いて離れない。
『通信機器は発見されず』
『ガラケーしか持っていない』
嘘だ。
あんなに出品しているのに?
でも、警察が調べたのなら……管理人はただの『ゴミ収集癖のある変態』で、M氏じゃない?
だとしたら、M氏は誰?
謎が、深まっていく。
走って追い付いてきたケントが、スマホを取り出した。
「……ミナミ。また、M氏が動いた」
見せられた画面には、新しい出品通知が表示されていた。
管理人が病院に運ばれ、私たちが警察にいる、こんなタイミングで。
*
【商品画像】

商品名:
警察署の空気
価格:
¥ 0 (無料)
説明:
正義の味方は頼りになりましたか?
残念ながら、彼らも真実を見抜く目を持っていません。
ところで、隣にいるその男の車、本当にパンクしていますか?
駆けつけたパトカーは二台。
管理人の男は、額から血を流しながら救急車に乗せられる際、大声でわめき散らしていた。
「あの女だ、あの女が誘ってきたんだ! 私はむしろ被害者だ!」
「違います、まったくの嘘ですから!」
私が叫んでも、警察官たちは冷ややかな目で私を見るだけだった。
ririさんは、先に別のパトカーに乗せられてしまった。
「彼女はミナミを助けてくれたんです!」
ケントが警察官に食って掛かるが、年配の警部補は面倒くさそうに手を振った。
「はいはい、事情は署で聞くから。君たちも来て」
*
取調室の空気は、乾燥していて埃っぽかった。
パイプ椅子に座らされた私は、目の前の警部補に必死で訴えた。
「本当に、殺されかけたんです。あの管理人はストーカーなんです! 私の部屋に入り込んで……」
「証拠は?」
警部補はボールペンを回しながら、私の言葉を遮った。
「えっ……」
「それに、向こうの主張はまるで逆だ。『家賃の支払いを待ってくれるなら、抱かれてもいい』と君から誘ったというじゃないか」
「そんなわけないじゃないですか! これを見てください!」
私はスマホを取り出し、【バイバイ】のM氏の出品画面を見せた。
口紅、髪の毛、通知表。
「これが証拠です! ネットでこんな嫌がらせを受けてて……」
警部補は画面を少し眺めると、鼻で笑った。
「お嬢ちゃんさぁ。最近多いんだよね、こういうの」
「……どういう意味です?」
「『自作自演』ってやつ。承認欲求? フォロワー稼ぎ? 彼氏の気を引くためにやったんじゃないの?」
頭が真っ白になった。
自作自演?
私が?
「だってさ、髪の毛なんて自分で撮れば、いくらでも都合よくアップできるでしょ?」
「違います! 本当に……!」
「とりあえず、今日は帰っていいよ。ここにサインして」
作成されたばかりの調書が無造作に差し出された。私はその内容に息を呑んだ。
*
捜査関係事項照会書(甲)
【事案概要】
発生日時:令和X年2月18日 午後9時52分頃
発生場所:東京都〇〇区 ハイツ・愛の園 管理室
被疑者:高橋リナ(20)
被害者:管理人男性(62)
【聴取内容要旨】
1.被害者(管理人)の主張
入居者(深見ミナミ)より「相談がある」と深夜に押し掛けられ、管理室にて対応中、突然共犯者(高橋リナ)が窓ガラスを割り侵入。レンガで顔面を殴打された。性的暴行の事実は否認。過去の「合鍵の使用」についても強く否定している。
2.現場検証の結果
管理室および被害者宅から、スマートフォン、パソコン等の通信機器は発見されず。
被害者は「ガラケーしか持っていない。ネットのことは分からん」と供述しており、裏付け捜査中。
3.考察
深見ミナミが主張する『フリマアプリでのストーカー被害』については、客観的証拠に乏しい。
当該アカウント『M氏』へのアクセスログを簡易解析したところ、発信元は特定の端末ではなく、専用の匿名プロキシを経由し、常に配送状況を偽装するような不審な通信経路が確認された。
管理人のITリテラシーを鑑みるに、彼がM氏である可能性は極めて低い。
深見ミナミによる狂言、あるいは第三者による犯行の両面から捜査を継続する。
*
追い出されるように、警察署を出た。
報告書の文字が、目に焼き付いて離れない。
『通信機器は発見されず』
『ガラケーしか持っていない』
嘘だ。
あんなに出品しているのに?
でも、警察が調べたのなら……管理人はただの『ゴミ収集癖のある変態』で、M氏じゃない?
だとしたら、M氏は誰?
謎が、深まっていく。
走って追い付いてきたケントが、スマホを取り出した。
「……ミナミ。また、M氏が動いた」
見せられた画面には、新しい出品通知が表示されていた。
管理人が病院に運ばれ、私たちが警察にいる、こんなタイミングで。
*
【商品画像】

商品名:
警察署の空気
価格:
¥ 0 (無料)
説明:
正義の味方は頼りになりましたか?
残念ながら、彼らも真実を見抜く目を持っていません。
ところで、隣にいるその男の車、本当にパンクしていますか?



