体を打ち付けるような衝撃と共に、深い眠りから目を覚ます。
長い間、息を止めていたかのように息苦しく、汗をびっしょりとかいている。しっとりと肌に張り付いた服が気持ち悪かった。
目が覚めた誠は、何が起きたのか理解できず、ただ混乱する。
――たしか、裕二と帰ってて……それでトラックが……!
暴走したトラックに押しつぶされてただの肉塊に成り果てた裕二を思い出す。虚ろの瞳が、真っ赤に染まった体が、脳裏に再生され、血生臭い香りを嗅いだ気がした。その瞬間、胃液が込み上げてきて咄嗟に口を覆う。指の隙間から溢れた唾液がこぼれ落ちていく。
その時ふと、誠の頭に影が落ちる。
不思議に思って誠が顔を上げると、心配そうに見つめる裕二の姿があった。
「――――あぇ?」
死んだはずの裕二が目の前にいて、誠は驚いた拍子に椅子から落ちる。裕二はパチパチと数回瞬きをして、フッと表情を和らげた。
「どうしたの? 幽霊でも見たみたいな驚き方して」
そう言うと裕二は誠に手を伸ばす。誠は咄嗟に汚れていない方の手でその手を握る。
握った手から伝わるじんわりとした裕二の温もりが誠の気持ちを次第に落ち着かせた。
どれだけの時間そうしていただろうか。
誠が恐る恐る裕二に視線を向けると、彼は陽だまりのように温かく、優しい笑みを浮かべながら誠を見ていた。
「落ち着いた?」
耳によく馴染んだ裕二の声に誠は小さく頷く。誠は震える声で「悪い」と短く謝罪すると、裕二は首を横に振って応えた。
二人がいたのは学校の四階にある空き教室だった。誠はスマートフォンの電源をつけて、日付を確認する。八月三日だった。
――八月三日? おかしい。今日は終業式の日のはずなのに。
記憶よりも時間が進んでいるという小さな違和感に首を傾ける。
「補習疲れるんだよねー。誠も疲れてるんでしょ?」
「……あぁ、そうだな」
現実のような夢を思い出して体を震わせる。
――そうだ、あれは夢なんだ。
誠はそう自分に言い聞かせるように、何度も心の中で繰り返した。
裕二は誠の目の前で笑い、話している。その手の温もりだって現実のものだった。だから、トラックで轢き殺されたなんて事実はなかったんだ。
裕二が死んだなんて、夢だったんだ。
夢に決まってる。
そう思わなければ、裕二を失う恐怖でみっともなく泣いて、壊れてしまっていただろう。
「あ、そろそろ時間だね。今日は補習終わったら何する?」
「……なんでもいい。裕二の行きたいところで」
「えー? またぁ? うーん、僕の行きたいところ? どこだろうなぁ」
裕二はこめかみに指を置くと唸りながら考え始める。しかし、すぐにその仕草をやめると誠に力なく笑いかけた。
裕二が誠の目の前にいて、笑ってくれる。
それだけで、誠は安心できた――それなのに。
昼休憩を終えて教室に戻ろうとした時。誠の背後から目の前にいるはずの裕二の声が聞こえてくる。
『本当に――?』
頭に響いた声に誠は体を震わせて固まる。
それは、さっきまで隣で笑っていた声と同じ音だった。
やめろ、何もいうな――そう願っても、何かは語りかけるのをやめない。
『もしも、あれが現実だったなら――』
体を硬直させ、恐怖を押し殺すように浅い息を繰り返す誠にひんやりとした感触が、皮膚の下に潜り込む。
それは徐々に背中を這うように上がってくると、誠の首元でぴたりと止まった。
――今、君に触れているそれは、誰?
長い間、息を止めていたかのように息苦しく、汗をびっしょりとかいている。しっとりと肌に張り付いた服が気持ち悪かった。
目が覚めた誠は、何が起きたのか理解できず、ただ混乱する。
――たしか、裕二と帰ってて……それでトラックが……!
暴走したトラックに押しつぶされてただの肉塊に成り果てた裕二を思い出す。虚ろの瞳が、真っ赤に染まった体が、脳裏に再生され、血生臭い香りを嗅いだ気がした。その瞬間、胃液が込み上げてきて咄嗟に口を覆う。指の隙間から溢れた唾液がこぼれ落ちていく。
その時ふと、誠の頭に影が落ちる。
不思議に思って誠が顔を上げると、心配そうに見つめる裕二の姿があった。
「――――あぇ?」
死んだはずの裕二が目の前にいて、誠は驚いた拍子に椅子から落ちる。裕二はパチパチと数回瞬きをして、フッと表情を和らげた。
「どうしたの? 幽霊でも見たみたいな驚き方して」
そう言うと裕二は誠に手を伸ばす。誠は咄嗟に汚れていない方の手でその手を握る。
握った手から伝わるじんわりとした裕二の温もりが誠の気持ちを次第に落ち着かせた。
どれだけの時間そうしていただろうか。
誠が恐る恐る裕二に視線を向けると、彼は陽だまりのように温かく、優しい笑みを浮かべながら誠を見ていた。
「落ち着いた?」
耳によく馴染んだ裕二の声に誠は小さく頷く。誠は震える声で「悪い」と短く謝罪すると、裕二は首を横に振って応えた。
二人がいたのは学校の四階にある空き教室だった。誠はスマートフォンの電源をつけて、日付を確認する。八月三日だった。
――八月三日? おかしい。今日は終業式の日のはずなのに。
記憶よりも時間が進んでいるという小さな違和感に首を傾ける。
「補習疲れるんだよねー。誠も疲れてるんでしょ?」
「……あぁ、そうだな」
現実のような夢を思い出して体を震わせる。
――そうだ、あれは夢なんだ。
誠はそう自分に言い聞かせるように、何度も心の中で繰り返した。
裕二は誠の目の前で笑い、話している。その手の温もりだって現実のものだった。だから、トラックで轢き殺されたなんて事実はなかったんだ。
裕二が死んだなんて、夢だったんだ。
夢に決まってる。
そう思わなければ、裕二を失う恐怖でみっともなく泣いて、壊れてしまっていただろう。
「あ、そろそろ時間だね。今日は補習終わったら何する?」
「……なんでもいい。裕二の行きたいところで」
「えー? またぁ? うーん、僕の行きたいところ? どこだろうなぁ」
裕二はこめかみに指を置くと唸りながら考え始める。しかし、すぐにその仕草をやめると誠に力なく笑いかけた。
裕二が誠の目の前にいて、笑ってくれる。
それだけで、誠は安心できた――それなのに。
昼休憩を終えて教室に戻ろうとした時。誠の背後から目の前にいるはずの裕二の声が聞こえてくる。
『本当に――?』
頭に響いた声に誠は体を震わせて固まる。
それは、さっきまで隣で笑っていた声と同じ音だった。
やめろ、何もいうな――そう願っても、何かは語りかけるのをやめない。
『もしも、あれが現実だったなら――』
体を硬直させ、恐怖を押し殺すように浅い息を繰り返す誠にひんやりとした感触が、皮膚の下に潜り込む。
それは徐々に背中を這うように上がってくると、誠の首元でぴたりと止まった。
――今、君に触れているそれは、誰?



