その事実に怯えながら、世界が繰り返されるのを静かに待つ。だが、いくら待っても世界は巻き戻らず、誠の胸の内に言葉にできない焦りが広がっていく。
早く、早く戻れ――そう願うのに、抱きしめた裕二の体の冷たさも、血で塗れた手の渇きも、何もかもそのままだった。このままずっと世界が巻き戻らなかったらどうしよう。そんな考えが頭をよぎり、誠は涙で塗れた顔を不意に上げる。
視線の先には二人分の勉強道具が並んでいる。何気ない日常がそこにあったはずだったのに。
顔を歪めながら嗚咽を漏らすのを堪えていると、裕二の荷物の方から何かが淡く光るのが見えた。誠は一瞬悩んだ後、裕二の体を床にそっと横たわらせる。そして、重たい体を引きずるように動かして、光の原因を探った。
光っているように見えたのは一冊のリングノートだった。表紙には何も書かれておらず、一見するとただのノートにしか見えない。
そのノートは誠が手に取ると役目を終えたように光を失った。誠は何も考えられない頭を動かし、緩慢な動作で一ページ目を開く。何が書いてあっても、これ以上心が動くことはないだろうと思っていたのに、その一文を見て誠は目を大きく見開いた。
『気がつけば僕は夏休みの始まりに戻っていた。何が起きたのかわからない。でも、誠が……誠が生きてそこにいた』
記録だ。裕二から見た、この繰り返す夏の記録。最初の一文に記録されたその文章は、まるで誠が死んでいたみたいだった。それはいつか読んだニュース記事の情報と一致することだった。だが、すぐに誠はそんなことないと自身の考えを否定する。
誠が死んだのは最後の夏祭りの時だけのはずなのだから。
裕二の記録と誠の記憶には齟齬があった。普通なら、特に気にも留めなかっただろうが、今は状況が違った。誠が覚えた小さな違和感が、この繰り返す夏を抜け出す手掛かりになるかもしれないのだ。
誠はゆっくりと次のページを開く。裕二の記憶を追体験するように、その記録を読み進めていく。
*
長いようで短かった一学期が終わっても、受験生である裕二たちに安息の日は訪れない。むしろ、この夏休みこそ最後の挽回の機会だ、と色々な先生から口酸っぱくして言われた。裕二は結局引っ越す自分には関係ないことだ、と短絡的に考えていた。それよりも、裕二には考えなければいけないことがあった。
いつもと変わらない学校。変わらない風景。変わらない誠の姿。
声をあげて笑うことはないが、誠が笑う時はとても綺麗に笑う。些細な仕草一つとっても、隣を歩く誠は裕二の知っている誠そのものだった。
だから裕二もあれは悪い夢だと思うことにした――現実は、残酷だということも忘れて。
帰路につく人たちで溢れる商店街。その先にある交差点で信号待ちをしていた二人。
冗談を言って、笑い合って。明日もこんな日が続くと信じて疑わなかったのに。
裕二の目の前でまた、誠は死んだ。
トラックに轢かれてぐちゃぐちゃになった誠は、壊れた人形のように動かなくなる。冷たくなる。笑わなくなる。
誠の体の上で、裕二は顔が歪むほど激しく感情を露わにした。
もう二度と、誠と一緒に過ごせないという事実を、裕二は――否定する。
「こんな結末、認めない。……っ認められるわけがない」
嗚咽を漏らしながら、野次馬の声にかき消されるほど小さな声で呟く。周りの人が裕二をまことから引き離そうとするのに、必死に抵抗する。今、まことから離れたら、一生後悔するとわかっていたから。
「認めなければ、きっとまた戻れる。今度こそ、うまくやってみせるから……!」
肌の色が白くなるほど強く握られた手。強い覚悟を秘めた瞳で理不尽な運命を睨みつける。
「……君だけは、何を犠牲にしてでも助けてみせる」
早く、早く戻れ――そう願うのに、抱きしめた裕二の体の冷たさも、血で塗れた手の渇きも、何もかもそのままだった。このままずっと世界が巻き戻らなかったらどうしよう。そんな考えが頭をよぎり、誠は涙で塗れた顔を不意に上げる。
視線の先には二人分の勉強道具が並んでいる。何気ない日常がそこにあったはずだったのに。
顔を歪めながら嗚咽を漏らすのを堪えていると、裕二の荷物の方から何かが淡く光るのが見えた。誠は一瞬悩んだ後、裕二の体を床にそっと横たわらせる。そして、重たい体を引きずるように動かして、光の原因を探った。
光っているように見えたのは一冊のリングノートだった。表紙には何も書かれておらず、一見するとただのノートにしか見えない。
そのノートは誠が手に取ると役目を終えたように光を失った。誠は何も考えられない頭を動かし、緩慢な動作で一ページ目を開く。何が書いてあっても、これ以上心が動くことはないだろうと思っていたのに、その一文を見て誠は目を大きく見開いた。
『気がつけば僕は夏休みの始まりに戻っていた。何が起きたのかわからない。でも、誠が……誠が生きてそこにいた』
記録だ。裕二から見た、この繰り返す夏の記録。最初の一文に記録されたその文章は、まるで誠が死んでいたみたいだった。それはいつか読んだニュース記事の情報と一致することだった。だが、すぐに誠はそんなことないと自身の考えを否定する。
誠が死んだのは最後の夏祭りの時だけのはずなのだから。
裕二の記録と誠の記憶には齟齬があった。普通なら、特に気にも留めなかっただろうが、今は状況が違った。誠が覚えた小さな違和感が、この繰り返す夏を抜け出す手掛かりになるかもしれないのだ。
誠はゆっくりと次のページを開く。裕二の記憶を追体験するように、その記録を読み進めていく。
*
長いようで短かった一学期が終わっても、受験生である裕二たちに安息の日は訪れない。むしろ、この夏休みこそ最後の挽回の機会だ、と色々な先生から口酸っぱくして言われた。裕二は結局引っ越す自分には関係ないことだ、と短絡的に考えていた。それよりも、裕二には考えなければいけないことがあった。
いつもと変わらない学校。変わらない風景。変わらない誠の姿。
声をあげて笑うことはないが、誠が笑う時はとても綺麗に笑う。些細な仕草一つとっても、隣を歩く誠は裕二の知っている誠そのものだった。
だから裕二もあれは悪い夢だと思うことにした――現実は、残酷だということも忘れて。
帰路につく人たちで溢れる商店街。その先にある交差点で信号待ちをしていた二人。
冗談を言って、笑い合って。明日もこんな日が続くと信じて疑わなかったのに。
裕二の目の前でまた、誠は死んだ。
トラックに轢かれてぐちゃぐちゃになった誠は、壊れた人形のように動かなくなる。冷たくなる。笑わなくなる。
誠の体の上で、裕二は顔が歪むほど激しく感情を露わにした。
もう二度と、誠と一緒に過ごせないという事実を、裕二は――否定する。
「こんな結末、認めない。……っ認められるわけがない」
嗚咽を漏らしながら、野次馬の声にかき消されるほど小さな声で呟く。周りの人が裕二をまことから引き離そうとするのに、必死に抵抗する。今、まことから離れたら、一生後悔するとわかっていたから。
「認めなければ、きっとまた戻れる。今度こそ、うまくやってみせるから……!」
肌の色が白くなるほど強く握られた手。強い覚悟を秘めた瞳で理不尽な運命を睨みつける。
「……君だけは、何を犠牲にしてでも助けてみせる」



