ためらいの温度 触れた者を死なせる当主が生ける、ただ一輪の花嫁

 やってきた集会の日。私のために用意されていたのは、銀の唐草模様の入った灰桜色の訪問着。上品でかつ鷹臣様を思い起こさせる色を使ってあるこの訪問着を、私は一目見て気に入った。

「鷹臣様が、奥様には絶対にこの色だと言って聞かなかったそうですよ」

 着付けを手伝ってくれていた使用人が、こっそりと教えてくれる。

(まさか鷹臣様が選んでくれたものだったなんて!)

 ふと、あの日の梅の花が脳裏を掠めて……気がつけば無意識に指で唇に触れていた。指先に紅の花が咲く。
 とくんと、胸の奥が高鳴った。


 私の隣を歩く鷹臣様は、黒羽二重の五つ紋付に仙台平の袴という正装。無駄な装飾は一切ないのに、近くにいるだけで背筋が正されるような、視線一つで場を制する静かな圧があった
 祝言の日と同じ装いなのに、どうしてこうも纏う雰囲気が違うのか。チラリと鷹臣様を見上げれば何故か目が合って「やはり俺の目に狂いはなかった。良く似合う」と褒められてしまった。……早くなる鼓動の音を誤魔化そうと、照れた笑みを浮かべるので精一杯だった。

 集会が開かれるのは宮中。時には帝も参加されるようだが、今回は欠席らしい。
 鷹臣様は毎日のように仕事で訪れている場所だろうが、私は宮中に入るなんて初めて。ついきょろきょろとしてしまいそうになるが、私は鷹臣様の妻なのだ。落ち着きある行動をしなければと背筋を伸ばして平常心を装うが、どうやら隠しきれていなかったらしい。道中で鷹臣様と少し離れた隙に、男性から声を掛けられた。

「お困り事ですか? 道に迷われたのなら案内しましょう」

 親切な人だ。鷹臣様を待っているだけなので大丈夫と伝えるために、万年筆に手を伸ばしかけたが……。

「……俺の妻に何の用だ」

 戻って来た鷹臣様の一言で空気が止まる。
 私の肩に触れようとしていた男性を手で押し退けて、鷹臣様は私を背に隠した。

「ひっ……し、死にたくない……っ!」

 鷹臣様に触れられた男性は、血相を変えて走り去った。……手袋をしているから大丈夫なのに。
 それに鷹臣様も勘違いをしているようだが、あの男性は私を助けようとしてくれただけだ。そう伝えようとすれば、何故か「俺以外の男は全て無視しろ」と怒られてしまった。