ためらいの温度 触れた者を死なせる当主が生ける、ただ一輪の花嫁

 鷹臣様に何度も触れられるうちに、私の声が出る時間は徐々に伸びていった。今では長いと半日ほど持つこともある。
 でもその分、鷹臣様の顔色も日に日に悪くなっていく。立ち上がった拍子にふらついたのを支えた私の方が、ゾッと肝が冷えた。
 鷹臣様は「毎晩物怪を探して歩き回っていたのが祟ったのだろう」なんて言っていたが……そんなので私は誤魔化されたりしない。

「……私のせいですね?」

 梅の時期が過ぎて、桜が咲く頃。ついに私は鷹臣様に詰め寄った。

「まさか。俺は華にそんな顔をさせたくて触れている訳じゃない」
「じゃあどうして体調が悪いのか、正直に話してください!」
「説明したはずだし、こんな口喧嘩のような真似をしたくはないのだが……」
「私だって、せっかく鷹臣様が取り戻してくれている声で、こんな話をしたいわけではありません」

 鷹臣様は私に何も説明してくれない。
 そのうちに彼が私に隠れるようにして薬湯を飲んでいるのを見てしまって。……私は強硬手段に出た。

(夜に物怪を探して歩き回っているのが原因だと言うのなら……直接この目で確認するわ!)

 もし本当に無茶な仕事を抱え込んでいるのなら、私がどうにかして帝にそれを訴えよう。この前お会いした松福家の奥様にでも相談すれば、何とかなるかもしれない。
 私は異能も何も無い役立たずだけど。……妻として鷹臣様を支えるくらいは出来るはず!

 深夜。鷹臣様は宮仕えしていた時と同じ格好で刀を持って屋敷を出る。私は下女になりすまして、闇夜の中彼を追って駆け出した。