[映像:暗転。無音。
ゆっくりとフェードインすると、舞台中央に一本の漫才マイクが立っている。
照明が当たると、それは漫才ステージのようにも見えるが、よく見ると病室であることがわかる。
白いカーテン、医療機器の影、ベッドの輪郭]
[ナレーション(なし)。代わりに、静かな環境音。点滴の音がかすかに響く]
―――舞台「友よ」
[父、すでに舞台中央・漫才マイクの前に立っている。
目線はやや上。現実と記憶の境目に立っているような佇まい]
[舞台袖から長男が登場。少し戸惑いながらマイク前へ]
長男:
はい、どうも~!
[父がすでに立っていることに気づき、一瞬間が空く]
長男(戸惑い気味に):
……なんで一緒に出てけぇへんねん?
長男:
何してんねん!?
父:
いやぁ
長男:
何してんねん、言うとるやろ
父:
あのよ~、お前の小さい頃のこと思い出してたで
長男:
オレの? 父さんかよ!
父:
そやで、父さんやで!
長男:
はっ?
父(懐かしそうに、遠くを見る):
一歳。
お前が初めて口にした言葉はな……
「ぱっ、パパ、(間)」
[観客が「パパか」と思う間を置く]
父(少し早口で):
「は、何歳まで生きて、死んだらどこに行くの?」
[間]
長男(食い気味に):
可愛げなさすぎるやろ!
父:
三歳。
「遺書に書く言葉は決まった」やったな
長男:
悟りすぎやろ!
二歳で寺、経営しだしたんか!
[漫才のテンポだが、舞台は病室。
笑いと不穏が同時に存在する]
―――弟の証言
[映像:弟のインタビュー。カメラ正面。淡々と]
弟:
父がよく言ってました。
兄は新語も早くて、物覚えがよくて……
幼いころから賢かったって。
[弟の言葉の途中で、回想映像が重なる]
―――回想漫才映像
父(穏やかな表情で):
懐かしいのぉ……
まるで走馬灯じゃな
思い出がパラパラ漫画みたいにめくれていくわ
長男:
ちょっと待って待って
父:
なんや?
長男:
走馬灯って、もう死ぬんか?
父:
そやで
長男:
軽っ!
うどん食いに行くノリやんか!
じゃぁもう死ぬねんな!?
父:
死ぬで
今日ポックリいくでー
長男:
何でわかんねん!
―――弟の証言
弟:
父が病気で入院したとき、
兄は毎日、病院に行ってました。
―――回想漫才映像
父:
あのよ~、病室では静かにしろよ!
長男:
びょ、病室?
漫才マイクの前やろ!
父:
なんでやねん!
[父が突っ込む]
長男:
それや!
[突っ込まれた瞬間、長男は父の手を見る。
その手は少し震えている]
父(少し間を置いて):
まあ……最後に聞いてくれ
[照明が少し落ち、空気が変わる]
父:
夢は簡単に諦めたらあかん
夢ってのはな、しんどいときに試される
苦しい時こそ、心の炎を消すな
[父は漫才マイクを握る]
父:
夢を信じて走り続ければ、必ず光が見える
それが人生や
父:
お前には、小説家という未来が待ってる
夢を追い続ける勇気を忘れるな
長男(感情が溢れ):
父さん……
父:
あっ、お迎えが来たわ
ほな、人生やめさせてもらうわ!
長男:
父さん!?
なんでやねーん!
[長男が突っ込んだ瞬間、父はスローモーションで後方へ吹き飛ばされる。
漫才マイクに掴まろうとするが、離れていく]
―――弟の証言
弟:
父は、あつい男でした。
そういうところも、兄は好きだったと思います。
弟:
兄は「小説家になりたい」よりも、
父の言葉の通り生きたい、
そんなふうに見えるくらい、
ずっと小説を書き続けていました。
弟:
父の遺書に気づいたのは……
亡くなってから、一週間くらい経ってからです。
―――回想映像・実家
[舞台転換。長男・次男の実家。
次男が白い封筒を持って上手袖から登場]
次男:
兄さん……これ、父さんからの遺書
長男:
遺書、書いとったんか
生前あれだけ喋ってたのに
死んでもまだ喋る、父さんらしいな
次男:
兄弟を代表して、兄さん開けて
長男:
おう
[長男、封筒を開ける]
[書道で書かれた二文字――「友よ」]
長男・次男:
友よ!?
[長男は正面を向き、客席にも見えるように掲げる]
―――弟の証言
弟:
あれだけ気持ちを伝える父の遺書が、
たった二文字、「友よ」でした。
弟:
兄は最初、落胆したようでした。
でもすぐに、その言葉を
自分なりに理解したんだと思います。
弟:
また情熱を込めて、小説を書き始めました。
父のあつさが、兄に乗り移ったように
感じることもありました。
―――インタビュー
インタビュアー:
お父様の遺書は「友よ」だったのですか?
弟:
はい。
「友よ」でした。
[暗転。
漫才マイクだけが、舞台中央に残る]


