車は車庫へ

【未解決事件調査報告:実録・文学界の闇】
――記録された呪詛

[映像:画面全体に砂嵐のような激しいノイズ。スピーカーが割れるような不快なハウリング音。そのノイズの底から、震え、掠れ、今にも理性が崩壊しそうな男の「肉声」が響き渡る。]

仲真の声(録音テープ・10年前): 「・・・あり得ないんだ。この小説が、10年も前に書かれたものだなんて、絶対にあり得ない! 私が今、まさに直面している個人的な問題・・・昨日の夜に私が食べたもの、今朝考えていた絶望、そして・・・10年前にはまだこの世に起きていなかった出来事が、なぜ、なぜこの古い本には細部まで描写されているんだ!!」

[映像:ノイズが激しくなり、一瞬だけ「昭和の古い装丁の本」がアップで映る。インクの染みが血のように見える。]

仲真の声: 「この本が私を模倣している・・・! 過去が私を追いかけてくるんだ! 誰か、誰か再調査してくれ! 私は盗作なんてしていない、私が『盗作された』んだ・・・10年前の死者に!!」

[映像:突如、音声がブツリと途切れ、激しい風の音に切り替わる。古い神社の境内で、錆びついた風鈴が「チリン、チリン」と不規則に、しかし鋭く鳴り響く。焦点がゆっくりと合うと、神社の拝殿にある暗がりに一瞬、白い人影のようなものがよぎり、すぐに消える。]

ナレーション(低く、感情を削ぎ落とした無機質な声): 「10年前、一人の小説家が遺したこの叫びを、当時の文壇は『盗作を正当化するための狂言』として切り捨てた。だが今、その叫びは現実を侵食し始めている──。」

[映像:薄暗い書斎。窓の外は重苦しい曇天。埃の舞う光の中に、一冊の古い、手垢で汚れたノートと、10年前に自死を遂げた小説家・仲真(なか まこと)のモノクロ写真が置かれている。遺影の彼は、何かを言いたげにレンズを見つめている。]

語り(淡々とした口調で): 「はじまりは10年前。仲真氏が文学賞を受賞した直後のことでした。同業者たちから一斉に『盗作』の疑いをかけられ、彼は糾弾の標的となりました。しかし、仲真氏は周囲の罵声を撥ね退け、先ほどのような奇妙な主張を繰り返しました。」

[映像(回想):薄暗い会議室。並み居る編集者や作家たちを前に、顔を紅潮させ、『未来の自分が書くべき内容が、過去に既に奪われている。時間軸を逆転させた盗作だ』と激昂する仲真。対照的に、周囲の人間は呆れたように首を傾げ、あるいは薄笑いを浮かべている。]

語り: 「社会はその叫びを『時間感覚を失った妄想』と断じ、賞を剥奪。その後、彼は出版社の裏手にひっそりと佇む神社で、自ら命を絶ちました。現場が不可解な完全密室であったことから、人々は恐怖を込めてそれを『仲真の祟り』と囁くようになりました。しかし・・・彼が絶望した本当の理由は、盗作の汚名ではなく、『自分の人生が10年前の他人のペンによって既に書き切られていた』という、逃げ場のない檻の中にいたからなのかもしれません。盗作の真実も、彼が最後に見た景色も、いまだ闇の中に沈んだままなのです。」