俺が叫んだ言葉に理解が出来ていないのか、子供たちは困惑していた。
「え……金曜日なのに食事ができるってこと?」
「……ほんと?」
「ご飯、食べていいの?」
不安そうな表情を見て、俺の心の何かが揺れる。
これはなんだ? まあどうでもいい。
「これから毎日、栄養のバランスの取れた食事をとってもらう。好き嫌いはたまにはしてもいいが、できるだけするな。もし食べられないものがあった場合は、次回から別の食べ物で代用してもらう」
俺は常々思っていた。どうして嫌いなものを食べなきゃならんのだろうと。
栄養はほかでも取れる。そもそも、大人は嫌いな物を食べない。むしろ、無理やり食べて嫌な思い出になるほうがトラウマだ。
するとそのとき、廊下でアリスと同じくらいの男の子を見つけた。
名前はケリー。
逆立つ茶色の髪、釣りあがった目。俺に見つかって心底軽蔑した表情を浮かべた。
年齢はアリスと同じで、原作でも存在していたキャラクターだ。
奴隷として売られ、そこから同じコロセウムへ行く。
同じように腐った世界を見て復讐者となり、将来、俺を破滅に追い込む。
ここへ連れてくる前は、子供たちだけのギャングのリーダーをしていた。
昨日のケーキも食べず、俺に対して警戒心が強い。
「ケリー、体調は大丈夫か?」
掃除を手伝わなかった組はまだ何人かいる。責めるつもりはないし、嘘だとも思っていない。
「……まだしんどいんで、寝ておきます」
キッと睨みつけて去っていく。
……なんかちょっと心が痛いぞ。
悪いのはロイク、俺ではあるんだが、反抗期の息子ににらまれたような気持ちだ。
心臓がチクチク。クソ、こんなメンタルでは騎士団の成立なぞ夢のまた夢だ。
「ロイクさん、どうしたらいいですか?」
「アリス、悪いが先に子供たちを風呂に入らせてもらえないか? 熱魔法陣は、今朝直しておいた」
「え? 食事のご用意は?」
「その間に俺が作っておく。安心してくれ、ちゃんと手は洗う」
すると、アリスが今までで一番目を丸くさせていた。
え、なに? そんな不潔か?
「ロイクさんが、お料理されるのですか!?」
そこなんだ。確かに孤児院で料理はしたことないが、俺も長年一人で生きていたのだ。
料理はちゃんとできる。
「安心しろ。ちゃんと食べられるものを作る」
「わ、わかりました。早く上がったら手伝いますね」
「気にしなくていい。ちゃんと肩まで浸かれよ」
疑り深いアリスを風呂に行かせて、台所へ立つ。
冷蔵庫の中を開くと、ものの見事に食料がなかった。
あるのは穀物と調味料と肉くらい。
……おいおいどうやって今までやりくりしてたんだ。
そういえば園長とは名ばかりで、アリスに全部任せてた気がするな。
なのに一切の感謝もせず売りさばくなんて、そりゃ復讐されても仕方ねえわ。
ほかにはまだ何かないかと探していると、この世界では珍しい物を見つけた。
ロイク自身もよくわからず購入したものだ。だが、俺にはなぜかわかる。
「よし、これさえあれば何とかなるな」
思わずニヤリと笑みを浮かべてしまう。
手早くジャガイモやニンジンを切っていると、後ろから視線がした。
振り返ると、湯上りのアリスが見切れて俺を監視していた。
……もしかして毒を入れると思われている? いや、今までのロイクならありえるか。
なるほど、そういう意味でも不安だったんだな。
「アリス、見えてるぞ」
ひぇっと声を上げ、おそるおそる出てくる。
まだ闇落ちしていないと、こんなにも反応豊かなのか。
まだ十三歳と考えればかもしれないが。
「お湯、お先にいただきました……」
「ああ、そういえば子供たちは?」
「ケリーが見てくれるとのことでお願いしてきました」
……あのケリーが?
めずらしいこともあるもんだな。
俺の知っている性格だと、そんなのはめんどくさいと言っていたはずだが。
まあ、知らないこともあるか。
「すぐできるからゆっくりしててくれ」
「私にも手伝わせてもらえませんか?」
突然の言葉に驚く。
一人でできるが、名乗り出てくれたのを断るのも良くないだろう。
「だったらジャガイモの皮を剝いてくれるか?」
「わかりました」
この素直ないい子が、将来は復讐者となるのか……まあ、そうはさせないがな。
アリスは、俺が立派な戦士に育ててやる。
「それで、何を作られるんですか?」
「知りたいか? だが、秘密だ」
どうせなら驚かせてやりたい。俺の凄さを知らしめることもできるしな。
「わかりました」
心なしか、少しだけ表情が柔らかいような?
まあ、気のせいか。
出来上がった穀物を鍋に入れる。
そして、茶色い固形物も投入した。
アリスは不思議そうに見ている。けれども俺の言うことを聞いてくれたらしく、尋ねてはこなかった。
そうしているうちに匂いが充満してくる。
彼女の鼻がひくひくしているのを見て、どうやら食欲が湧いてきたようだ。
少し味見をしてみたが、絶妙な味加減で完璧と言える仕上がりだ。
人の心を掴むには胃袋は大事だ。存分に食べ、そして肉体を活性化させるが良い。
「いい匂いがする……」
「……ほんとだ」
「なに、作ってるのぉ?」
タイミングよく、湯上りの子供たちが姿を現した。
ちょっとずつだが、俺の顔を見ても怯えないようになってきている。まあ、まだぎこちないが。
すると遅れてケリーがやって来た。
無言ではあるが、今日の食事には参加してくれるみたいだ。
ふっ、この匂いに抗えるわけがないもんな。
子供たちが座ったところを見計らって、鍋を真ん中に持ってくる。
不思議そうに中を眺める。
「これは、何というお料理なんですか?」
アリスが尋ねてくるのはいい傾向だ。騎士たるもの報連相は大事だからな。
遠慮して言えないことがあるのは良くない。
「――カレー(・・・)という食べ物だ。ちゃんと甘口にしておいた」
どうやら聞きなれないらしく、首を横に傾げる。
皿に移し替えると、ドロドロした食べ物に驚いていた。
とはいえいい匂いだ。
「みんな手を合わせろ。食事の神様に感謝、と言いたいところだが、俺は無神論者だ。少なくとも、神は弱者に手を毎回差し伸べてはくれない。だから身近な人に感謝しろ。今日、自分に対して優しくしてくれた人にだ。心の中でいい。それを忘れるな」
どの口を言っているだと思われるかもしれないが、実は、ロイク自身も根から悪い奴ではない。
自分にとって利のあるやつには恩義を感じる。まあ、それにしてもやりすぎなほうだが。
全員が目をつぶっているのを見て、原作ではなかったシーンだなと一人で感慨深かった。
まあ、こんなのは序の口だが。
「よし、食べるぞ。カレーはそのまま食べても美味いが、米と一緒に食べるとなお美味い。パンが好きだというやつは、パンと一緒に食べてみろ。――いただきます」
俺はもちろん、米と一緒にカレーを口に運んだ。
辛口ではなく甘口だが、しっかりと味のついたカレー味と、大きめの、ゴロゴロとしたジャガイモが米と絡み合っている。
香辛料の味付けもしっかりできていたらしく、深い味わいもする。ふむ、我ながらそこそこやるな。
これにはみんな喜ぶのではないかと思っていたが、なぜか無言で食べ続けている。
……もしかして苦手だったか? 確かに特殊な味付けではあるか――。
「ロイクさん」
アリスが突然俺の名を呼んだ。
もしかして毒だと思われたのか?
「なんだアリス――」
「美味しすぎます! なんですかこのカレーという食べ物!? 濃厚な味なのに、次々と食べ進められてしまいます!」
いや、違った。めちゃくちゃ笑顔だ。
よく見ると子供たちも頬にカレーをつけながら無我夢中で食べているだけだった。
そして、やんちゃなケリーまでもが米とパンを交互にカレーにつけている。
……すげえ。やっぱカレーって凄い。
老若男女だけでなく、異世界問わずだな。
「それは良かった。食べきれないほど作ったからな。みんないっぱい食べろよ」
「美味しい!」
「こんなの美味しい食べ物、初めて……!」
「ボク、おかわり!」
みんな一斉に声を上げはじめ、俺もホッとする。
良かった。ありがとう、カレーを作り出してくれた人。
そしてケリーも、静かにおかわりしていた。
でも、一番端の女の子はビクビクしていた。
名前はレリィだ。
年齢はアリスと同じだが、原作でも臆病な子だった。
この後は同じく奴隷として売られ、主人にこっぴどく叱られたりするはず。
だがとびきり頭がよく、アリスの参謀的な扱いになる。
まあ、カレーは食べているみたいだし、無理に話し掛けなくてもいいか。
すると、子供の一人があまりにも服にカレーをつけすぎていた。
「おい」
俺はゆっくり近づく。アリスが、なぜが声を上げた。
「ロイクさん!?」
「なんだ? ――ほら、拭くから手を止めろ。カレーは美味いが、服につくとなかなか取れないんだ」
水で濡らしたタオルで丁寧に取ってあげる。アリスは、なぜかホッとしていた。
子供は初めは怖がっていたが、とても嬉しそうにした。
「ぱぱ、ありがとう」
「……ぱぱ?」
今まで一度も言われたことのない言葉に、思わずオウム返ししてしまう。
子供は、ハッとした表情を浮かべた。
孤児といえども、全員が両親を知らないわけじゃない。確この子は父親と二人で暮らしていたが、事故で失い、ここへロイクが連れてきたんだったな。
俺は、ゆっくり頭を撫でる。
「ご、ごめんなちゃ――」
「ロイクって名前は発音しづらいからな。パパでいいぞ。カレー、たらふく食べろよ」
騎士団の設立ができれば、俺は団長、つまり親父、パパだ。
この呼び方に何の問題もない。むしろ、意識改革の一歩として”あり”だ。
さあ、どんどんカレーを食べろ。
そして俺に胃袋を掴まれるがいい!
「え……金曜日なのに食事ができるってこと?」
「……ほんと?」
「ご飯、食べていいの?」
不安そうな表情を見て、俺の心の何かが揺れる。
これはなんだ? まあどうでもいい。
「これから毎日、栄養のバランスの取れた食事をとってもらう。好き嫌いはたまにはしてもいいが、できるだけするな。もし食べられないものがあった場合は、次回から別の食べ物で代用してもらう」
俺は常々思っていた。どうして嫌いなものを食べなきゃならんのだろうと。
栄養はほかでも取れる。そもそも、大人は嫌いな物を食べない。むしろ、無理やり食べて嫌な思い出になるほうがトラウマだ。
するとそのとき、廊下でアリスと同じくらいの男の子を見つけた。
名前はケリー。
逆立つ茶色の髪、釣りあがった目。俺に見つかって心底軽蔑した表情を浮かべた。
年齢はアリスと同じで、原作でも存在していたキャラクターだ。
奴隷として売られ、そこから同じコロセウムへ行く。
同じように腐った世界を見て復讐者となり、将来、俺を破滅に追い込む。
ここへ連れてくる前は、子供たちだけのギャングのリーダーをしていた。
昨日のケーキも食べず、俺に対して警戒心が強い。
「ケリー、体調は大丈夫か?」
掃除を手伝わなかった組はまだ何人かいる。責めるつもりはないし、嘘だとも思っていない。
「……まだしんどいんで、寝ておきます」
キッと睨みつけて去っていく。
……なんかちょっと心が痛いぞ。
悪いのはロイク、俺ではあるんだが、反抗期の息子ににらまれたような気持ちだ。
心臓がチクチク。クソ、こんなメンタルでは騎士団の成立なぞ夢のまた夢だ。
「ロイクさん、どうしたらいいですか?」
「アリス、悪いが先に子供たちを風呂に入らせてもらえないか? 熱魔法陣は、今朝直しておいた」
「え? 食事のご用意は?」
「その間に俺が作っておく。安心してくれ、ちゃんと手は洗う」
すると、アリスが今までで一番目を丸くさせていた。
え、なに? そんな不潔か?
「ロイクさんが、お料理されるのですか!?」
そこなんだ。確かに孤児院で料理はしたことないが、俺も長年一人で生きていたのだ。
料理はちゃんとできる。
「安心しろ。ちゃんと食べられるものを作る」
「わ、わかりました。早く上がったら手伝いますね」
「気にしなくていい。ちゃんと肩まで浸かれよ」
疑り深いアリスを風呂に行かせて、台所へ立つ。
冷蔵庫の中を開くと、ものの見事に食料がなかった。
あるのは穀物と調味料と肉くらい。
……おいおいどうやって今までやりくりしてたんだ。
そういえば園長とは名ばかりで、アリスに全部任せてた気がするな。
なのに一切の感謝もせず売りさばくなんて、そりゃ復讐されても仕方ねえわ。
ほかにはまだ何かないかと探していると、この世界では珍しい物を見つけた。
ロイク自身もよくわからず購入したものだ。だが、俺にはなぜかわかる。
「よし、これさえあれば何とかなるな」
思わずニヤリと笑みを浮かべてしまう。
手早くジャガイモやニンジンを切っていると、後ろから視線がした。
振り返ると、湯上りのアリスが見切れて俺を監視していた。
……もしかして毒を入れると思われている? いや、今までのロイクならありえるか。
なるほど、そういう意味でも不安だったんだな。
「アリス、見えてるぞ」
ひぇっと声を上げ、おそるおそる出てくる。
まだ闇落ちしていないと、こんなにも反応豊かなのか。
まだ十三歳と考えればかもしれないが。
「お湯、お先にいただきました……」
「ああ、そういえば子供たちは?」
「ケリーが見てくれるとのことでお願いしてきました」
……あのケリーが?
めずらしいこともあるもんだな。
俺の知っている性格だと、そんなのはめんどくさいと言っていたはずだが。
まあ、知らないこともあるか。
「すぐできるからゆっくりしててくれ」
「私にも手伝わせてもらえませんか?」
突然の言葉に驚く。
一人でできるが、名乗り出てくれたのを断るのも良くないだろう。
「だったらジャガイモの皮を剝いてくれるか?」
「わかりました」
この素直ないい子が、将来は復讐者となるのか……まあ、そうはさせないがな。
アリスは、俺が立派な戦士に育ててやる。
「それで、何を作られるんですか?」
「知りたいか? だが、秘密だ」
どうせなら驚かせてやりたい。俺の凄さを知らしめることもできるしな。
「わかりました」
心なしか、少しだけ表情が柔らかいような?
まあ、気のせいか。
出来上がった穀物を鍋に入れる。
そして、茶色い固形物も投入した。
アリスは不思議そうに見ている。けれども俺の言うことを聞いてくれたらしく、尋ねてはこなかった。
そうしているうちに匂いが充満してくる。
彼女の鼻がひくひくしているのを見て、どうやら食欲が湧いてきたようだ。
少し味見をしてみたが、絶妙な味加減で完璧と言える仕上がりだ。
人の心を掴むには胃袋は大事だ。存分に食べ、そして肉体を活性化させるが良い。
「いい匂いがする……」
「……ほんとだ」
「なに、作ってるのぉ?」
タイミングよく、湯上りの子供たちが姿を現した。
ちょっとずつだが、俺の顔を見ても怯えないようになってきている。まあ、まだぎこちないが。
すると遅れてケリーがやって来た。
無言ではあるが、今日の食事には参加してくれるみたいだ。
ふっ、この匂いに抗えるわけがないもんな。
子供たちが座ったところを見計らって、鍋を真ん中に持ってくる。
不思議そうに中を眺める。
「これは、何というお料理なんですか?」
アリスが尋ねてくるのはいい傾向だ。騎士たるもの報連相は大事だからな。
遠慮して言えないことがあるのは良くない。
「――カレー(・・・)という食べ物だ。ちゃんと甘口にしておいた」
どうやら聞きなれないらしく、首を横に傾げる。
皿に移し替えると、ドロドロした食べ物に驚いていた。
とはいえいい匂いだ。
「みんな手を合わせろ。食事の神様に感謝、と言いたいところだが、俺は無神論者だ。少なくとも、神は弱者に手を毎回差し伸べてはくれない。だから身近な人に感謝しろ。今日、自分に対して優しくしてくれた人にだ。心の中でいい。それを忘れるな」
どの口を言っているだと思われるかもしれないが、実は、ロイク自身も根から悪い奴ではない。
自分にとって利のあるやつには恩義を感じる。まあ、それにしてもやりすぎなほうだが。
全員が目をつぶっているのを見て、原作ではなかったシーンだなと一人で感慨深かった。
まあ、こんなのは序の口だが。
「よし、食べるぞ。カレーはそのまま食べても美味いが、米と一緒に食べるとなお美味い。パンが好きだというやつは、パンと一緒に食べてみろ。――いただきます」
俺はもちろん、米と一緒にカレーを口に運んだ。
辛口ではなく甘口だが、しっかりと味のついたカレー味と、大きめの、ゴロゴロとしたジャガイモが米と絡み合っている。
香辛料の味付けもしっかりできていたらしく、深い味わいもする。ふむ、我ながらそこそこやるな。
これにはみんな喜ぶのではないかと思っていたが、なぜか無言で食べ続けている。
……もしかして苦手だったか? 確かに特殊な味付けではあるか――。
「ロイクさん」
アリスが突然俺の名を呼んだ。
もしかして毒だと思われたのか?
「なんだアリス――」
「美味しすぎます! なんですかこのカレーという食べ物!? 濃厚な味なのに、次々と食べ進められてしまいます!」
いや、違った。めちゃくちゃ笑顔だ。
よく見ると子供たちも頬にカレーをつけながら無我夢中で食べているだけだった。
そして、やんちゃなケリーまでもが米とパンを交互にカレーにつけている。
……すげえ。やっぱカレーって凄い。
老若男女だけでなく、異世界問わずだな。
「それは良かった。食べきれないほど作ったからな。みんないっぱい食べろよ」
「美味しい!」
「こんなの美味しい食べ物、初めて……!」
「ボク、おかわり!」
みんな一斉に声を上げはじめ、俺もホッとする。
良かった。ありがとう、カレーを作り出してくれた人。
そしてケリーも、静かにおかわりしていた。
でも、一番端の女の子はビクビクしていた。
名前はレリィだ。
年齢はアリスと同じだが、原作でも臆病な子だった。
この後は同じく奴隷として売られ、主人にこっぴどく叱られたりするはず。
だがとびきり頭がよく、アリスの参謀的な扱いになる。
まあ、カレーは食べているみたいだし、無理に話し掛けなくてもいいか。
すると、子供の一人があまりにも服にカレーをつけすぎていた。
「おい」
俺はゆっくり近づく。アリスが、なぜが声を上げた。
「ロイクさん!?」
「なんだ? ――ほら、拭くから手を止めろ。カレーは美味いが、服につくとなかなか取れないんだ」
水で濡らしたタオルで丁寧に取ってあげる。アリスは、なぜかホッとしていた。
子供は初めは怖がっていたが、とても嬉しそうにした。
「ぱぱ、ありがとう」
「……ぱぱ?」
今まで一度も言われたことのない言葉に、思わずオウム返ししてしまう。
子供は、ハッとした表情を浮かべた。
孤児といえども、全員が両親を知らないわけじゃない。確この子は父親と二人で暮らしていたが、事故で失い、ここへロイクが連れてきたんだったな。
俺は、ゆっくり頭を撫でる。
「ご、ごめんなちゃ――」
「ロイクって名前は発音しづらいからな。パパでいいぞ。カレー、たらふく食べろよ」
騎士団の設立ができれば、俺は団長、つまり親父、パパだ。
この呼び方に何の問題もない。むしろ、意識改革の一歩として”あり”だ。
さあ、どんどんカレーを食べろ。
そして俺に胃袋を掴まれるがいい!


