家計簿を付けることにした。
ロイク騎士団の設立にはまだ時間がかかる。
その間、金が無くなって孤児院が無くなってしまうと、すべてがパアだ。
なので、出費を計算していた。
「……俺の酒代がデカすぎるな」
ロイクめ、いや俺め、アルコールがどれだけ好きなんだ。
さらに酒のツマミまで……これからは塩分の計算もしなきゃならんな。
騎士団の設立が出来たとしても、残りの寿命が短ければ意味がない。
これからは健康も気にして生きるとしよう。
「おはようございます。ロイク様――さん」
「おはよう、アリス」
早朝、子供たちはまだ寝ているが、リビングにアリスがやって来た。
ロイク十ヵ条の一つ、リビングは俺様専用は既に消え去った過去だ。
呼び方についてはまだ慣れないみたいだが、段々と慣れていくだろう。
「あの、聞いても良いでしょうか?」
「ん?」
まだ怯えているみたいのか、不安げな表情だ。
まあ仕方ないか。
「何を……されているのですか?」
「金の計算だ。これから先、俺たちが生きていく為のな」
子供たちの食糧は、アリスが週ごとに買い物に行っていた。
金を出していたのは俺だが、確かめてみると、よくこれでやってこれたなという金額だ。
「アリス、俺も聞きたいことがある」
「な、なんでしょうか」
「今度買い物行くとき、俺も連れて行ってくれ。今後、飯もできるだけ俺が作る」
騎士団の設立をして、さあすべて頼んだぞ、なんて馬鹿な真似はしない。
俺の能力もなければ、きっとアリスたちはすぐに消え去ってしまうだろう。
有能であるが仕事はできるだけしない。それが、大事なのだ。
そのためにはまず一歩ずつ。
「……わかりました。ですが、その間、私は何をすればよいのでしょうか?」
「勉強に決まってるだろ。悪いが家庭教師をつける金はない。今度参考書を買ってくる。それまで待っていろ」
「……どういう、意味ですか?」
おそるおそる、それでいて興味ありげにアリスが尋ねてくる。
「勉学は子供がすべきことだ。当たり前のことだろう」
いくら強くても使う頭がなければ意味がない。これくらい、当然のことだ。
「……ありがとうございます」
なぜかお礼を入れてしまう。まだ何もしていないんだがな。
それからアリスは、後ろでまた何か驚いているみたいだった。
そういえばこいつ、なんでリビングに来たんだ?
「ロイクさん、昨日のお皿は……どこに?」
「もう洗って棚に収納した」
何だそういうことか。まったく、律儀なやつだな。
なんだ、なんでそんな驚いた顔をしている?
俺が洗い物をしたのがそんなに珍しいか?
……とはいえ、記憶を辿っても思い出せないな。
まあ、そんなことはどうでもいい。
「アリス、今日は忙しくなるぞ」
「え? は、はい。わかりました……どこへ行くんですか?」
「行く?」
「はい。以前と同じように、外に武器を拾いにいくんですよね?」
武器を拾う。
……そういえば、金がなさ過ぎて外に落ちてる武器や防具を全員で探し回ったことがあったな。
魔物もいて危険すぎるのに、よくもまあ……。
「違う。それはもうしない」
「え、ではなぜ忙しくなるのでしょうか?」
「――大掃除だ」
◇ ◇ ◇
「みんな、準備はいいか?」
俺はもちろん、アリスを含む子供たちがマスクと頭巾棒を被っていた。
この家はとにかく埃だらけだ。壁に穴は開いているし、壊れている壺に破れている絵画。
いらないものは捨てる。
清潔ってのは健康に大事だ。ほとんどは俺の為だが、住環境を整えることは騎士団にとって必要不可欠。
「ん、ちょっと少ないな?」
この孤児院には、アリスと同じ歳の子供が二人いたはずだが――。
「体調が悪くて、横になっているみたいです」
すると、そこでアリスが補足した。
それは仕方ないな。よし、ならばできるところから始めよう。
「まず、俺とアリスはリビングだ。割れた皿があったりもするから気をつけろよ。ほかのみんなは床掃除だ。水濡らした雑巾でピカピカにしてくれ」
アリスが頷き、子供たちは不安そうにした。
「……掃除って、どうすればいいの」
「綺麗にってわからない」
そんなこともわからないのか。まともな環境に過ごせなかったのは、今までの俺が悪いところではあるな。
「よし、見ておけよ。これが、掃除だ」
俺は、バケツに入った水に雑巾をたっぷりつけ、そして絞る。
それから叫び、地面を滑らせていった。
「うおおお、綺麗になれ!」
リビングの地面の汚れが取れ、雑巾が黒くなる。
それを見ていた子供たちが笑い始めた。
「あはは、綺麗になってるー!」
「僕にもできそう!」
「私もやる!」
見様見真似で雑巾を片手に、廊下で同じように磨き始めた。
まったく、単純な奴らだ。とはいえ、案外楽しくもあるな。
これで廊下は完璧だろう。
それから俺とアリスはリビングのいらない物を箱に詰めていく。
ほとんどが俺の酒瓶だったので申し訳ないが、なぜかアリスは嬉しそうだった。
もしかしてアルコールが好きなのか? 未成年の飲酒は成長を妨げる。もしそうなら絶対に止めないといけない。
やがて綺麗になっていくリビングを見ていると清々しい気持ちになっていった。
ゴミを出すのは面倒だと放置していたが、やっぱり物はできるだけ少ないほうがいいな。
すると外から子供の悲鳴が聞こえてきた。
アリスと顔を見合わせて急いで向かう。
「ひ、ひゃぇっーん」
「あ……」
「ご、ご、ごめんなさい……」
子供の一人がびしょ濡れだ。横にはひっくり返ったバケツが置いてある。
どうやらぶつかってしまったのか。
「ロイクさん、怒らないであげて――」
「まったく、大丈夫か? アリス、そこの綺麗なタオルを取ってくれ」
「は、はい!」
水を濡らすバケツは俺の目の届く範囲に置いておくほうが良かったな。
考えればわかること。騎士団を成立するということは、俺が団長になるということだ。
部下の失態は俺の責任でもある。クックック、お前たちは知らずに俺の予行練習となっているのだ。
子供たちは、今にも泣きそうな目で俺を見ていた。
だが、頭を撫でてやる。
「風呂の手間が省けたな。天才か?」
「……えへへ」
小さな子供たちの未来は原作では語られていない。
だが鍛えることで強くなることは間違いないだろう。
戦いは数だ。少数精鋭では成り立たない。どんな問題も前向きに捉えることで冷静な対処が可能となる。
ふっ、まったく俺ってやつは天才だな。
「さて、もう少しだ。これが終われば風呂、飯。最後まで綺麗にするぞ!」
「「「おぉー!」」」
「ふふ、わかりました」
すると、子供たちの声に紛れてアリスが嬉しそうに笑った。
原作では眉間に眉をひそめ、血に染まった姿しかほとんど見ていない。
実は掃除が好きだったのか。それは知らなかった。
それから数時間かけて綺麗にした。
何ということだ。
「これが、ロイク孤児院の本当の姿なのか」
「……綺麗ですね」
リビングは見違えるように綺麗になっていた。
テーブルはピカピカ。数の足りなかった椅子も、なんか色々掃除してきたら出てきた。
酒瓶も一切なし。廊下も、壁もピカピカだ。
穴の開いた壁の補強は必要だが、今のところ問題ない。
しかし疲れたな。
ロイクも昔は動けたみたいだが、今は運動不足で鈍ってやがる。
これから鍛えることも日課に入れるとするか。
子供たちも表情が暗かった。ここまで動いたのは久しぶりだろう。
だがアリスだけは笑顔だ。やっぱりこいつは素質があるな。
「……お腹空いたね」
「うん、でも今日は金曜日だから」
「そうだね。絶食の日だ」
すると、子供たちが何やら変なことを言っていた。
……絶食?
「何の話だ?」
俺が凄むと、怯えてお腹を押さえた。
するとアリスが補足する。
「ロイク十ヵ条、『金曜日はご飯抜き』、です」
……何だその訳の分からないのは。
いや、よく考えると金曜日にはギャンブルに行っていた。少しでも軍資金が欲しくて、食費も奪っていってたんだっけ。
ロイクめ!!!!!
「知らないのか? ロイク十ヵ条は新しくなったんだ」
子供たちやアリスが表情を強張らせる。
「『金曜日はたらふく飯を食う!』だ!」
ロイク騎士団の設立にはまだ時間がかかる。
その間、金が無くなって孤児院が無くなってしまうと、すべてがパアだ。
なので、出費を計算していた。
「……俺の酒代がデカすぎるな」
ロイクめ、いや俺め、アルコールがどれだけ好きなんだ。
さらに酒のツマミまで……これからは塩分の計算もしなきゃならんな。
騎士団の設立が出来たとしても、残りの寿命が短ければ意味がない。
これからは健康も気にして生きるとしよう。
「おはようございます。ロイク様――さん」
「おはよう、アリス」
早朝、子供たちはまだ寝ているが、リビングにアリスがやって来た。
ロイク十ヵ条の一つ、リビングは俺様専用は既に消え去った過去だ。
呼び方についてはまだ慣れないみたいだが、段々と慣れていくだろう。
「あの、聞いても良いでしょうか?」
「ん?」
まだ怯えているみたいのか、不安げな表情だ。
まあ仕方ないか。
「何を……されているのですか?」
「金の計算だ。これから先、俺たちが生きていく為のな」
子供たちの食糧は、アリスが週ごとに買い物に行っていた。
金を出していたのは俺だが、確かめてみると、よくこれでやってこれたなという金額だ。
「アリス、俺も聞きたいことがある」
「な、なんでしょうか」
「今度買い物行くとき、俺も連れて行ってくれ。今後、飯もできるだけ俺が作る」
騎士団の設立をして、さあすべて頼んだぞ、なんて馬鹿な真似はしない。
俺の能力もなければ、きっとアリスたちはすぐに消え去ってしまうだろう。
有能であるが仕事はできるだけしない。それが、大事なのだ。
そのためにはまず一歩ずつ。
「……わかりました。ですが、その間、私は何をすればよいのでしょうか?」
「勉強に決まってるだろ。悪いが家庭教師をつける金はない。今度参考書を買ってくる。それまで待っていろ」
「……どういう、意味ですか?」
おそるおそる、それでいて興味ありげにアリスが尋ねてくる。
「勉学は子供がすべきことだ。当たり前のことだろう」
いくら強くても使う頭がなければ意味がない。これくらい、当然のことだ。
「……ありがとうございます」
なぜかお礼を入れてしまう。まだ何もしていないんだがな。
それからアリスは、後ろでまた何か驚いているみたいだった。
そういえばこいつ、なんでリビングに来たんだ?
「ロイクさん、昨日のお皿は……どこに?」
「もう洗って棚に収納した」
何だそういうことか。まったく、律儀なやつだな。
なんだ、なんでそんな驚いた顔をしている?
俺が洗い物をしたのがそんなに珍しいか?
……とはいえ、記憶を辿っても思い出せないな。
まあ、そんなことはどうでもいい。
「アリス、今日は忙しくなるぞ」
「え? は、はい。わかりました……どこへ行くんですか?」
「行く?」
「はい。以前と同じように、外に武器を拾いにいくんですよね?」
武器を拾う。
……そういえば、金がなさ過ぎて外に落ちてる武器や防具を全員で探し回ったことがあったな。
魔物もいて危険すぎるのに、よくもまあ……。
「違う。それはもうしない」
「え、ではなぜ忙しくなるのでしょうか?」
「――大掃除だ」
◇ ◇ ◇
「みんな、準備はいいか?」
俺はもちろん、アリスを含む子供たちがマスクと頭巾棒を被っていた。
この家はとにかく埃だらけだ。壁に穴は開いているし、壊れている壺に破れている絵画。
いらないものは捨てる。
清潔ってのは健康に大事だ。ほとんどは俺の為だが、住環境を整えることは騎士団にとって必要不可欠。
「ん、ちょっと少ないな?」
この孤児院には、アリスと同じ歳の子供が二人いたはずだが――。
「体調が悪くて、横になっているみたいです」
すると、そこでアリスが補足した。
それは仕方ないな。よし、ならばできるところから始めよう。
「まず、俺とアリスはリビングだ。割れた皿があったりもするから気をつけろよ。ほかのみんなは床掃除だ。水濡らした雑巾でピカピカにしてくれ」
アリスが頷き、子供たちは不安そうにした。
「……掃除って、どうすればいいの」
「綺麗にってわからない」
そんなこともわからないのか。まともな環境に過ごせなかったのは、今までの俺が悪いところではあるな。
「よし、見ておけよ。これが、掃除だ」
俺は、バケツに入った水に雑巾をたっぷりつけ、そして絞る。
それから叫び、地面を滑らせていった。
「うおおお、綺麗になれ!」
リビングの地面の汚れが取れ、雑巾が黒くなる。
それを見ていた子供たちが笑い始めた。
「あはは、綺麗になってるー!」
「僕にもできそう!」
「私もやる!」
見様見真似で雑巾を片手に、廊下で同じように磨き始めた。
まったく、単純な奴らだ。とはいえ、案外楽しくもあるな。
これで廊下は完璧だろう。
それから俺とアリスはリビングのいらない物を箱に詰めていく。
ほとんどが俺の酒瓶だったので申し訳ないが、なぜかアリスは嬉しそうだった。
もしかしてアルコールが好きなのか? 未成年の飲酒は成長を妨げる。もしそうなら絶対に止めないといけない。
やがて綺麗になっていくリビングを見ていると清々しい気持ちになっていった。
ゴミを出すのは面倒だと放置していたが、やっぱり物はできるだけ少ないほうがいいな。
すると外から子供の悲鳴が聞こえてきた。
アリスと顔を見合わせて急いで向かう。
「ひ、ひゃぇっーん」
「あ……」
「ご、ご、ごめんなさい……」
子供の一人がびしょ濡れだ。横にはひっくり返ったバケツが置いてある。
どうやらぶつかってしまったのか。
「ロイクさん、怒らないであげて――」
「まったく、大丈夫か? アリス、そこの綺麗なタオルを取ってくれ」
「は、はい!」
水を濡らすバケツは俺の目の届く範囲に置いておくほうが良かったな。
考えればわかること。騎士団を成立するということは、俺が団長になるということだ。
部下の失態は俺の責任でもある。クックック、お前たちは知らずに俺の予行練習となっているのだ。
子供たちは、今にも泣きそうな目で俺を見ていた。
だが、頭を撫でてやる。
「風呂の手間が省けたな。天才か?」
「……えへへ」
小さな子供たちの未来は原作では語られていない。
だが鍛えることで強くなることは間違いないだろう。
戦いは数だ。少数精鋭では成り立たない。どんな問題も前向きに捉えることで冷静な対処が可能となる。
ふっ、まったく俺ってやつは天才だな。
「さて、もう少しだ。これが終われば風呂、飯。最後まで綺麗にするぞ!」
「「「おぉー!」」」
「ふふ、わかりました」
すると、子供たちの声に紛れてアリスが嬉しそうに笑った。
原作では眉間に眉をひそめ、血に染まった姿しかほとんど見ていない。
実は掃除が好きだったのか。それは知らなかった。
それから数時間かけて綺麗にした。
何ということだ。
「これが、ロイク孤児院の本当の姿なのか」
「……綺麗ですね」
リビングは見違えるように綺麗になっていた。
テーブルはピカピカ。数の足りなかった椅子も、なんか色々掃除してきたら出てきた。
酒瓶も一切なし。廊下も、壁もピカピカだ。
穴の開いた壁の補強は必要だが、今のところ問題ない。
しかし疲れたな。
ロイクも昔は動けたみたいだが、今は運動不足で鈍ってやがる。
これから鍛えることも日課に入れるとするか。
子供たちも表情が暗かった。ここまで動いたのは久しぶりだろう。
だがアリスだけは笑顔だ。やっぱりこいつは素質があるな。
「……お腹空いたね」
「うん、でも今日は金曜日だから」
「そうだね。絶食の日だ」
すると、子供たちが何やら変なことを言っていた。
……絶食?
「何の話だ?」
俺が凄むと、怯えてお腹を押さえた。
するとアリスが補足する。
「ロイク十ヵ条、『金曜日はご飯抜き』、です」
……何だその訳の分からないのは。
いや、よく考えると金曜日にはギャンブルに行っていた。少しでも軍資金が欲しくて、食費も奪っていってたんだっけ。
ロイクめ!!!!!
「知らないのか? ロイク十ヵ条は新しくなったんだ」
子供たちやアリスが表情を強張らせる。
「『金曜日はたらふく飯を食う!』だ!」


