悪徳孤児院長に転生した俺、死にたくないので原作主人公たちを最強私兵にする

俺の名前はロイク・アルベルド。今の年齢は忘れた。もうすぐ三十くらいか?
 物心つく頃から両親はいなかった。誰かが捨てたパンの切れ端を食べ、残った瓶の水を飲み胃袋を満たしていた。
 やがて犯罪に手を染めるようになった。人殺しはポリシーに反するのでしなかったが、生き延びるために仕方ないと物をよく盗んだ。
 当然、俺みたいなやつの周りには俺みたいなやつが集まってくる。
 どいつこいつも不幸自慢しか出来ねえような奴らだ。だがふと気づいた。
 このまま生きていても未来はない。
 そう思い、俺は一人で国を出た。デカいことをしたい。そのためなら手段を選ばない。
 やがてたどり着いたファリス国で良い話を聞いた。
 どうやら最近代替わりした国王が相当な善人らしい。これは金になると踏んだ俺は、大枚をはたいて孤児院を設立した。
 ガキを集めるのには苦労しなかった。なんせ、俺みたいなやつは世界中に腐るほどいる。
 集めた奴らを使って支援金を引っ張る算段だった。自由気ままな生活、そう思っていたが、上手くはいかなかった。
 俺の予想をはるかに超えた出費に毎月赤字が続いた。周辺国が戦争を始めたせいで食料が高騰したのが一番の原因だ。
 しかも命を助けたやったというのにガキどもは俺を敬いもしない。
 いい加減、この生活にもウンザリだ。
 一体、どこで何をすればよかったんだ? 学もない俺が、どうやって未来を見ればよかったんだよ。
「おいアリス、酒はどこだ!」
 孤児院の中、テーブルを強く叩いて名前を叫ぶ。
 ここは、元々子爵家が住んでいたという屋敷だ。
 ガキが多ければ多いほど支援金がもらえる。部屋数も多いが、その分、ガキを見つけるのにも苦労する。
 俺としてはもっと小さい所でも良かったが、監査官という面倒な奴らがいるせいでこの家を買うしかなかった。
 埃は溜まるし、良い所が一つもねえ。
 狭い廊下を歩いて部屋の一つ一つを開けていく。
 すると、ガキどもの声が聞こえてくる。
「う、うう……怖いよ」
「――シッ、静かに」
 俺のことが嫌いなのか、ガキはほとんど姿を現さない。
 扉を蹴破ると、凛とした金髪、碧眼の少女(ガキ)、アリスが子供たちを守るように前に出ていた。
 年齢は十三歳くらいか? 子供たちを集めて食べ物を分け与えたりしているところを見つけ、保護してやった。
 見てくれだけはいいが、生意気ったらありゃしねえ。
 いつも自分より下の子供を守りやがる。
「おいアリス」
「……なんでしょうか」
「飯の食事をしろ」
「……わかりました。ただ、後でもよろしいでしょうか」
「ああ?」
 後でだと? クソ真面目なこいつが口答えするのはめずらしいな。
 何か理由が――なるほど。
「おいガキ、何持ってんだよ」
 俺は、後ろのガキがアイスキャンディを持っていることに気づいた。
 いつのまにこんなもの買った?
 ったく、何だ。壁をよく見ると……はは、そういうことか。
「なんだなんだ、誕生日パーティーしてたのか? なんで俺様も呼んでくれねえんだ?」
 壁には、五歳おめでとうと書かれていた。
 この字はアリスか。いつのまに読み書きなんて覚えたんだ。
 俺は、ガキからアイスキャンディをぶんどった。
「俺様、ロイクも祝ってやろう。――ペロペロペロペロ、はは! このアイスキャンディ、美味いじゃないか!」
 俺は、ガキどもにアイスキャンディを見せびらかしながらペロペロと舐め始めた。
 マンゴーアイスなんて、こいつらにはまだ早い。
「か、返してください!」
「なんだアリス、口答えするのか?」
 せガキどもを慰めながら、アリスが俺を鋭く睨みつけた。
 こんな過酷な状況にもかかわらず、未来を信じて生きてやがる目をしている。
 それに比べて俺――ロイクは最低な男だ。
 粗暴で、バカで、だらしなくて。洗濯物すらまともに畳めない。
 そのくせプライドだけは無駄に高い。
 本当にどうしようもない。
 最後はどうせ、アリスにお礼参りされてしまう運命だしな。
 なにぜ俺様ロイクの将来は破滅エンドを迎えるのだから――。
「……破滅エンドだと……」
 マンゴー味のアイスキャンディを舐めながら、ハッと何かが上書きされていく。
 俺様――いや俺はロイク、最低最悪な孤児院の園長。
 そして目の前にいるのはアリス。
 優しくて包容力があって、綺麗で可愛い主人公。
 だが苦難と困難にまみれながら世界を恨む。
 最後は復讐者となり、血と涙を重ねて運命に立ち向かう――。
「ロロロロロロ、ロイクだああああああ!?」
 ハッと姿見を確認すると、そこに立っていたのは極悪ロイクだった。
 短髪の黒髪、頬に三本の傷、これは幼いころ、猫に引っかかれたものだ。
 恥ずかしいから、周りにはドラゴンにつけられた傷だと話している。
 何もかも鮮明に思い出せる。
 今までの記憶と、新しい記憶が合わさっていく。
 俺は、知っている。このゲーム(・・・)。
 だが、前の俺のことは思い出せない。
 いや、そんなことはいい。俺は――『主人公アリスを虐める、極悪孤児院の園長』じゃないか。
「うぇーん……僕のアイスキャンディ―」
「……泣かないで新しいの買ってあげるから」
 いや、それよりも――。
「アリス」
「ロイク様、今日はこの子の誕生日なんです。どうか見逃して――」
「このネックレスを売って、今すぐ大量のアイスキャンディを買ってこい。デカいケーキもだ。いいか、苺はけちるなよ。ガキどもが取り合いして、食べられないやつがいたら可哀そうだからな」
 俺は、胸元のアクセサリーを引きちぎってアリスに手渡した。
 これは金が使われている。結構な釣りも出るはずだ。
 アリスは、目を見開いていた。
「……どういうことでしょうか」
「言葉通りだ。それと、こんな辛気臭え部屋で祝うな。リビングにしろ」
「で、でも……リビングは、ロイク十ヵ条そのいち、リビングに立ち入るな、は…………」
「え?」
 確かに……そんなことを言った気がする。
 後の九個はなんだ……いや、今はいいか。
「今日は特例だ。いいから買ってこい。だが急ぎ過ぎるなよ。こういうときこそ、地面に躓いてしまうからな」
 
 俺は、さっと振り返る。
 それからリビングに戻って、いそいそと酒瓶やゴミを片付けた。
 まったく、ロイクめ……いや、今は俺か。
 ほどなくして、アリスが戻ってきた。
 俺の言いつけ通り、大量のアイスキャンディとデカいケーキ。
 苺も別で購入してきたらしく、山盛りだ。
 アリスは、不安げにテーブルに置く。
 すると匂いにつられてか、子供たちが怯えながら出てきた。
「おいガ――子供たち、みんなで誕生日のお祝いをするぞ」
 俺がニタニタ笑うと、なぜか泣きだす奴がいる。
 ……そんなに怖いか? いや確かに、見た目は強面だもんな。
「アリス、まずは子供たちと一緒に手を洗え。できるだけ綺麗にな」
「ええと、お水を使ってもよろしいのでしょうか……? ロイク十ヵ条その2『水を無駄に使うな』は……」
 アリスの言葉に思わず眉を顰める。またもや十ヵ条が……。
 確かリビングは俺専用だったか。色々思い出してきたぞ。
「特別だ。寝ている子供たちも起こして来い」
「……はい」
 おそるおそる、だがアリスは面倒みよく子供たちに手の洗い方を教えていた。
 全員がテーブルに着く前、俺はスプーンを置いていく。
 キャンディは後だ。まずはケーキを食い尽くす。
 アリスは子供たちを座らせて、自分も席に座った。
 不安げに俺を見つめる。
「え、ええと、いただいてもよろしいのでしょうか……」
「ダメだ」
「……そ、そうですよね」
「まずは手を合わせろ。いいか、食べ物は多くの人が汗を流して作っている。たとえ知らない人でも、感謝しながら食うものだ。――ほら、いただきます」
 俺は手を合わせた。しかし誰も続かない。
 アリスに目配せすると、一番に声を上げた。おかげで子供たちも続く。
 子供たちは、おそるそおろすケーキに手を付ける。あまりの美味さに声を上げ、笑顔になっていく。
 その姿を見ると、俺の知らない心の何かが揺れ動いた。
「美味しいー!」
「ほんと、おいしい!」
「ケーキ、ケーキの味がする!」
 子供たちが嬉しそうに騒ぎ出すと、アリスが笑顔を見せた。それから自分でも手を付ける。
「……ほんと、美味しい」
 アリス、彼女はこのゲームの主人公である。
 今は天真爛漫で性格も良いが、この後は最悪な出来事が待っている。
 まず、ロイク――つまり俺が子供たちを売り飛ばす。
 アリスは奴隷となりコロセウムで戦うこととなり、その場で出逢った親友すらも手をかけるしかなくなってしまう。
 血と涙が積み重なり、アリスの心は壊れ、世界の悪を憎む復讐者となっていく。
 物語としては病みゲーという種類だ。それがまたプレイヤーの心打つが、アリスにとっては地獄としかいいようがない。
 その過程でふたたびロイクと出会う。そして今までの恨みすべてを込めて剣をロイクに突き立てる。
 復讐完了。つまり、未来の俺に待っているのは破滅エンド。最悪のエピソードだ。
 だがこれはまだ先の話だ。つまり、未来は書き換えられるということ。
 といっても、俺はロイクだ。原作を思い出したところで根っこの気持ちは変わっていない。
 過去も鮮明に思い出せる。
 これは朗報だ。神からの贈り物に違いない。
 悪いなアリス、俺は――お前のことを利用させてもらう。
「アリス」
「はい」
「食事の後は風呂に入れ。たっぷりお湯を使えよ。肩までしっかり浸かれ。もちろん、子供たちもだ」
「ですが……ロイク十ヵ条は……」
「それはいい。気にするな」
「はい! ですが、それと昨晩……ロイク様が」
「あ? ――あ」
 ……思い出した。そうだ、熱を発する魔法陣になぜかムカついて、蹴っ飛ばして壊したんだ。
 術式の構築には金がかかる。お湯を沸かすことができねえじゃねえか。
 ……クソロイクめ。
「大丈夫だ。俺が、何とかする」
 ◇
「アリスー! 見てみて、泡いっぱいー!」
「こら、遊んでばかりいないで早く綺麗にしなさい」
「えへへ、見てみて―」
 俺は、壁越しで子供たちの声を聞いていた。
 そして、アリスの声が聞こえてくる。
「ロイク……様」
「なんだ」
「お、お湯加減いい感じです」
「そうか。できるだけ適温で浴びろ。ちゃんと逐一報告しろよ」
「はい」
 深呼吸して、ふたたび竹筒に口を付ける。
 そして思い切り息を吹く。
 古来より使われし装置、酸素で火をつけ、湯を温める方法だ。
 おかげで汗だく。
 しかし俺の頬は緩みっぱなしだった。
 これはただの善行じゃないのだ。
 アリスは今現在苦労しているものの、剣と魔法、才能豊かな主人公なのだ。
 彼女が最強の復讐者となるのは、まだ先の話。
 つまり今、彼女を手放さずにいれば最高の戦士が手に入る。
 さらにこの孤児院には、アリスのほかに有能な人材がいる。
 そいつらも同じく俺の戦士に育て上げ、ロイク騎士団を作ればいいのだ。
 そうなれば俺の未来は安泰だ。誰に怯えることもなく、幸せな生活が満喫できる。
 わざわざ風呂を温めるのはその過程の一つ。
 病気で体が弱ってしまうと元も子もない。
 子供たちは何の才能もないだろうが、最悪、魔法避けになるだろう。
 最高だ。これで俺の未来は安泰だ。
「ロ、ロイク様、お湯が少しぬるくなってきました」
「わかったアリス。俺に任せておけ」
 ふたたび竹筒に向かって息を吹きかけまくる。
 これは未来への投資。そう言い聞かせながら、たまに煤が俺の頬に舞い上がってくる。
 それでも、最高だ。
「ロイク様」
「なんだ」
「……私、ロイク様を勘違いしていたかもしれません。本当にありがとう……ございます」
 アリスが突然、俺に感謝してきた。
 風呂に入れるのがそれだけ嬉しかったのか?
 それより――。
「アリス」
「はい」
「様はやめろ。むずがゆい」
「……ロイク、さんでいいでしょうか」
「それでいい」
 様、のままだと原作通りになるかもしれないからな。
 少しずつ、未来を変えていこう。
 明日はこいつらに新品の洋服を買ってやるか。
 清潔に整えることで健康寿命を延ばし、俺を死ぬまで守ってもらう。
 フフフ、ハハハ!
 ロイク騎士団の設立はもう間近だ!