みのりは朔夜たちと別れた後、同じ一階にある職員室へと向かった。二階に続く階段前から右が正面玄関、左の方が職員室だ。扉に手をかけ開けると、ガラッと埋め込まれたガラス窓が振動で揺れる独特な音が響いた。
「失礼しま〜す」
職員室は休日のせいか数人しか先生方がおらず、集まって話している声がすぐに耳に入ってきた。どうやら、数日前に不思議な出来事に遭遇したという話をしているようだ。
みのりは科学部と自分たちのクラブの兼任顧問であり、化学と物理の教師でもある久保田の姿を見つけて聞き耳を立てながら歩いていく。
「そうなんですよ。声が聞こえたので誰かいると思って。確かめるために教室の扉を開けたんですがね、そこには誰もいなくて。勘違いかと思って一旦閉めて。それから隣の教室も確かめたんですが、やっぱりいなくて」
話しているのは国語教師の宮城だった。男性教師で、明るく賑やかしい性格からかいつも生徒に囲まれている印象がある。それとは真逆のマイペースなイメージの久保田は、後ろで話している先生方の話を聞きつつも、自分の仕事を黙々としているようだった。
「久保田センセ、図書室の鍵を返しにきました〜」
「せっかくの連休なのに熱心だな、」
「だって、やっとオカルト探求部っぽい依頼が来たんですもん。調査せずにはいられませんよ〜。それより、先生たちはなんの話をしてるんですか?」
お、聞いてくか? と宮城は得意そうにそう言った。きっともう何回も同じ話をしているのだろう。さっきの話の続きはみのりも気になっていたので、自ら話してくれるのならば好都合だ。
「実はだな。先月の終わり、ある日の放課後。校舎の見回りで、生徒たちが残っていないか確認して回っていた時の話だ。三階の見回りで三年の教室を確認していた時、一組の教室から女子生徒の話し声がしたもんだから、早く帰るように注意しないとと思って扉を開けたんだが……、」
開けてみたが誰もおらず、念のために隣の教室も確認してみたがやはり誰もいなかったそうだ。そしてもう一度気になって一組の教室に入ってみると、"あるもの"が机の上に残されていた。その"あるもの"に対して、先生は思わずぞっとしたらしい。
「それはまさに、こっくりさんシートですね」
宮城は今どき『こっくりさん』なんて時代遅れもいいところだろう、と言いつつも、放課後の薄暗くなった教室の机の上にそんなものを発見してしまったことで、その後の見回りが怖くて仕方なかったらしい。次の日に他の生徒が目にして興味を持たれても困ると思ったので、そのシートと十円玉を回収してさっさと捨ててしまったと言う。
「俺たちが子どもの頃もそういう遊びが流行ったことありましたけど、俺はやったことはなかったなぁ。あれって本当にこっくりさんが質問に答えてくれるんですか?」
「確か、勝手に十円玉が動いて教えてくれるんですよね? 私もやったことはないですけど、テレビとかアニメで見たことがあります。よくないことになるって印象が強いんですが、言ってもフィクションですしね」
「こっくりさんはまだ検証したことはありませんが、遊びとしてやるには危険な儀式だと思います。あれは降霊術の一種ですし、呼び出された霊が良いものとは限りませんから、やる側のリスクも高くなるんです」
宮城が誇張して怪談でも話すように語る中、若い女性教師と男性教師の中に混ざってみのりが得意げにそう言った。
それを横目で眺めながら白衣を脱ぎ、やれやれと久保田は寝癖の付いた頭をかいた。


