あの日、君は黄昏空の下で微笑んだ。



 遠目で見れば、いつもひとりで図書室にいる生徒に、親切心から「一緒にやらない?」と誘ったように見えるこの状況だが、みのりには少し違って見えていた。

(さっくん……めちゃくちゃ悪い顔してるな〜)

 にしても、話に夢中で他に生徒がいるなんてまったく気付かなかった。位置的にみのりには見えない場所だったので、当然といえば当然なのだが。

「君は……変な子だな」

 その生徒は開口一番、朔夜を見上げてそう言った。それは別に嫌味を言っているわけでも呆れた感じでもなく、ただの感想のようにも思えるトーンで、その瞳には戸惑いの色が見られた。

 それはそうだろう。急に声をかけただけでなく、まったく交流のない他人に対して、躊躇いもなく触れてきたのだから。

「本当にごめんなさい。さっくんダメだよ、読書の邪魔しちゃ」

 変な子、と言われてショックで固まっている朔夜にみのりは助け舟を出してやる。どう見ても自業自得だが、このままでは収拾がつかないと思ってのことだった。

「……さっき、神隠しがどうとか」

「もしかして、本当に興味があるんですか⁉︎」

「いや、そうではなく……」

「ありがとうございます! そしてようこそ、夜鳴(よなき)町探索クラブへ!」

「……君もか、」

 はあ、と大きく嘆息してその生徒は肩を竦め、ゆっくりと分厚い本を閉じた。

「私は三枝みのりで、こっちがさっくんこと皆藤朔夜。この町の噂や不思議な現象を調査して解明するクラブ、夜鳴町探索クラブの隊員なんです」

 隊員? と固まっていた朔夜は頭に『?』が浮かぶ。いつから自分は探検隊になったのだろうか、と。いや、そんなことよりも。

「その本、この町の伝承とか歴史の本だよな? やっぱりそういうのに興味あるんじゃん」

「たまたま手に取っただけだ」

「時々目が合ってたのは、気になってたからってことだよね?」

「たまたま合っただけだ」

 ふーん。と朔夜はジト目で生徒を見据えた。そして改めて観察する。真面目そうなインテリ系だが、整った顔立ち。自分たちと同じ高校生で、ひとつしか年齢が変わらないというのにどこか大人っぽい雰囲気。ちなみに眼鏡はしていない。あまり表情は変わらず、それが"ミステリアス"というもうひとつのモテ要素を上乗せさせている気がする。

 制服姿。白いシャツの上に紺のネクタイとグレーのブレザー、そして黒いスボン。ちなみに女子生徒は、上がセーラ服みたいな大きめの襟(黒に白のライン)が付いたグレーのブレザーで、下が黒いスカートという、中学にしてはお洒落な制服なのだ。

 ここで目の前の生徒の胸元に注目。鳥が翼を広げている校章のその下に、青色のバッジが付いていた。この胸元のバッジの色で学年がわかるようになっており、現在は一年生は赤、二年生は緑、三年生は青だ。これは三年生が卒業すると次の一年生の色になるというスライド式だった。

 つまり、彼は三年生で先輩ということになる。

「先輩、これもなにかの縁です。運が悪かったと思って、一緒に頑張りましょう」

「そんな悪縁は遠慮する」

「そんなこと言わずに! 俺を助けると思って!」

 自分でも無茶苦茶なことを言っているとわかっていたが、正直このままみのりとふたりだけでやっていく自信がない。せめてもうひとり、彼女が暴走する前に止めてくれる常識人が必要なのだ。

 この通り! と拝むように頭を下げ朔夜は頼み込む。それから一分近く横目でこちらに視線だけ向けたまま、先輩は完全に黙秘状態だったのだが····。

「……はあ。今回だけ参加するのは有りか?」

 わかりやすく溜め息を吐き出した後、仕方ないと言った感じでみのりに問いかける。

「もちろん! 体験入部も大歓迎です」

 みのりは満面の笑顔でそう答えた。

「よろしくお願いします、ええと……?」

「……日上陽(ひかみはる)、」

 こうして、夜鳴町探索クラブに新たな犠牲者……もとい仲間が、期間限定で加わることとなった。