あの日、君は黄昏空の下で微笑んだ。



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【神隠し】
喪中に神棚を白い紙や布で覆う風習、ならわし。 ある日忽然と人間が消え失せる現象。山や森で人が行方不明になったり、なんの前触れも無く失踪すること。主に子どもや娘などが突然行方不明になること。昔から山の神や天狗の仕業と信じられている。

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「ニュースでたまにワードくらいは聞いたことあるでしょ? 数日後に離れた場所で見つかったり、見つかったけどすでに亡くなっていたり····でもそれはテレビがそう報じてるだけであって、本来の神隠しではないわけ」

 山で子どもがいなくなったという報道などで、たまに使われる「神隠し」という言葉。朔夜はみのりのいう本来の「神隠し」ももちろん知っていた。

 が、あえてそれを口にはしない。

「神様が子どもを自身の神域に連れ去る、ともいわれている神隠しという現象。私たちが調査するのはこっちの方の"神隠し"だよ」

 それだと、最初から"神様"と"神隠し"を肯定していることにならないだろうか?

「····神隠しに時間軸が関係ないっていうのは?」

「神様の神域に時間なんてものは存在しないでしょ? 生還者がもしいたとしたら、浦島太郎状態になると思わない?」

 それが本当に"存在する"なら、の話だ。

 朔夜はみのり越しに、ずっと気になっていた"ある人物"と視線が重なる。神隠しの話を始めた途端、こちらの話に興味があるのか、チラチラと何度も目が合った。休日だというのにわざわざ図書室にいるなんて、真面目くんか。

 放課後にここで活動するようになってからよく見かけるその生徒。いつも同じ場所に座り、本を捲っている姿が印象的だった。同級生、ではない気がする。三組しかないクラスだ。名前は曖昧でも顔くらいは見たことがあるはず。

「ちょっと、聞いてる?」
「あ、うん。聞いてる聞いてる」
「それは聞いてないひとがいうやつだよ!」

 少なくとも、興味がなければ聞き耳などたてないだろう。これはチャンスかもしれない。

「ちょっと、さっくん?」

 立ち上り、朔夜は真っ直ぐに"ある場所"へと向かう。みのりが座っている位置からは背にしているため見えず、朔夜の位置からはよく見える場所。故にたまに目が合う。すぐに逸らされるが。

 いつも自分たちが座る窓際の席から離れた場所にある、一番奥の本棚の影になっているスペースに彼はいる。朔夜はこちらの存在を無視して、一定の速度でゆっくり本を捲っている生徒を見下ろし、躊躇うことなく声をかけた。

「ねえ、良かったら一緒にやらない?」

 本に視線を落としたまま、まったく関心がない素振りをしてみせる彼の肩に手を置き、朔夜はめいっぱいの笑顔を作ってそう言った。

 しかし彼の反応は朔夜が思っていたものではなく、そこには白昼夢でも見たかのように驚いた表情を浮かべたひとりの男子生徒がいて。

 彼のその反応の理由を、朔夜は後に知ることになるのだが。この時はただ、このふざけたクラブの道連れにしようと思って声をかけただけだったので、もちろん気付くはずもなく····。

「いつも俺たちのこと見てたでしょ? 興味ない? オカルト探求部····じゃなくて、夜鳴(よなき)町探索クラブっていうんだけど」

 左手で触れたその肩は、確かに――――。