五月。GWは今思えば散々な連休だった。どこかに旅行に行くわけでもなく、しかしのんびり過ごせたわけでもない。連日、みのりから呼び出され、家も近所なので居留守を使ってもすぐにバレた。
数年前に祖父が病気で亡くなってからは両親と三人暮らしで、専業主婦の母親は家で何をするでもない息子が邪魔らしく、訪ねてきたみのりに全面協力するのだった。
連れ出された先は学校。部活勢は昼まで活動するらしく、グラウンドにも体育館にも生徒がいた。朔夜は気が乗らないまま、隣でいつものようにオカルト話に夢中になっているみのりと並んで歩く。
彼女の中の最近の話題は、どうやらこの町の『掲示板』らしい。しかも夜鳴町の噂をあることないこと語る掲示板で、90年代から現在まで続いているようだ。
「でね、ここみて? この投稿。先月まで毎日同じ投稿がされていたんだけど、今月に入ってパタリと途絶えちゃったの」
「誰も相手にしてくれないから、飽きただけだろ」
「三月の終わり頃から四月のこの日まで毎日してたのに? 絡んで欲しくて投稿してただけだったら、ふつう毎日なんてしなくない?」
それはあれだ、人それぞれというやつだ。
夜鳴町探索クラブの活動拠点としてる図書室は、あまり生徒には人気がないようで、たまにいても二、三人くらいだろうか。本を借りてすぐに出ていく生徒が多く、ここに長い時間滞在してる生徒は少数だった。今日は休みということもあって、どうやら自分たち以外は誰もいないようだ。
いつもの窓際の席に向かい合わせで座り、朔夜は頬杖をつく。みのりはスマホを親指でスクロールしながら、先程話していた掲示板の画面を出して机の上に置いた。
「毎日夜の八時くらいに投稿されててね。それとこれ。絶対関係あると思わない?」
スマホの横にすっと置かれた紙。
そこにはほとんど同じ文章が書いてあった。
『友だちをさがしています。先月の放課後に別れて以来、行方がわかりません。■■高校の花澤舞香という子です。なぜか私以外誰も彼女のことを憶えていません。誰か彼女を憶えていませんか?』
これにプラスして、紙の方にはこうある。
『これが神隠しかどうか、調査をお願いします/さとうりな』
おわかりだろうか。この夜鳴町探索クラブ、別名オカルト探求部に、とうとうなんかそれっぽい依頼が来てしまったらしい。みのりがこの図書室に設置した(一応許可はもらっている)手作りの依頼箱に入っていた五枚の内の一枚。
『二階のトイレに黒く蠢く何かがいました。調査をお願いします』
『公園前で怪しい男に声をかけられました。怖いので調査をお願いします』
『皆藤朔夜くんは現在付き合っている子はいますか? 調査をお願いします』
『お気に入りのペンが消えてしまいました。調査をお願いします』
一枚目は明らかに『G』だろう。
二枚目は警察に相談案件。
って、三枚目ぇ‼︎? と朔夜はふざけているとわかっていてもちょっぴり嬉しかった。
四枚目は……と、まあ、他の四枚はこんな感じだった。
「しかもこの投稿者は、ここの生徒だったんだよ! そして驚くなかれ····ここに書かれている花澤舞香なんて生徒は、この学校にはいなかったわ」
「いや、この子しか憶えてないとか変だろ。手の込んだ自作自演じゃないか?」
そもそも、行方不明になっているならニュースになっているはずだ。いや、違うか。家族が届出を出していないなら、事件にすらなっていない可能性もある。にしても、中学生がどうにかできる問題でもないだろう。
「もう、なんでも否定する癖やめてよね。私たちの目的はなんだったけ?」
「……依頼された噂や現象が、本当か嘘かを証明すること、」
主として嘘だと証明すること、とはあえて口にしないが。
「よろしい。時間はたっぷりあるんだから、地道に調査を始めましょ」
「行方不明なのにそんなにのんびりでいいのかよ」
「それは誘拐事件だった場合であって、神隠しが原因なら時間軸は問題じゃないわ」
みのりは自信たっぷりの表情でそう言い切った。


