あの日、君は黄昏空の下で微笑んだ。



 煮え切らない返事ばかりする朔夜に、みのりは頬をふくらませる。クラブをつくるためには最低でも三人以上生徒を集める必要があった。先生はすでに目星が付いていて、人が集まったら科学部と兼任で顧問をしてくれると約束してくれた。

 あえて二年になってから、念願のクラブをつくろうと思ったのにはもちろん理由がある。一年の時にも片っ端から知り合いや知り合いの知り合いに声をかけまくったが、全員に断られたのだ。

 そんなことをしているヒマがあったら勉強する、とか。面白そうだけどそこまでは興味ない、とか。部活をしているからかけ持ちは無理、とか。とにかく色んな理由を付けられてしまうのだ。

 みのりは考えた。最低三人で成立するのなら、弟が入学したら名前だけ借りて、あとは幼馴染の朔夜に頼み込めばなんとかなる! と。朔夜は部活には入らず、塾に行くでもない。学校が終わったらさっさと家に帰る暇人なのだ。

「さっくん!」

 朝のホームルームに始まり、合い間の休み時間、昼休み。諦めず何度もしつこく声をかけ付き纏う。そして放課後、ついにその時が来た!

「みのり····いいかげんに、」

「ねえ、さっくん。最初は私の話、真剣に聞いてくれたよね? でもいつからか、頑なにそんなの作り話だ、とか、ただの噂だろ、とか急に態度変えたよね? なんで?」

 オカルト好きを明かしたのは、小学五年生のある日。その時は今ほど拒否反応は示さなかった気がする。むしろ、自分からすすんで色々と訊いてきたくらいだ。それが今はこれ(・・)である。

「そ、それは、ほら、俺も子どもだったからさ」

 目がわかやすく泳いでいる。

「ああ、そっか。ふーん、そういうこと?」

 みのりは腕を自分の正面で組み、そそくさと学生鞄を手にとり、椅子から立ち上がろうとしている朔夜に対して、ジト目で見下ろす。

「さっくん、今も怖いんだ? お化け」

「べ、べ、べ、別に、怖くなんてないし! そもそもお化けなんて見たこともないし! 存在しないモノを怖いなんて、あり得ないだろっ」

「じゃあいいじゃん。さっくんがいう、存在しないモノやあり得ない現象を一緒に証明しようよ」

 いないなんて決めつけないで、いるかもしれないって考えた方が絶対に楽しいよね?

「じゃあ逆の発想で考えてみてよ。町の色んな噂を解明して、さっくんがいうようにぜんぶデタラメだって証明すれば安心できるでしょ?」

 お化けなんていないって思いたいんでしょ?
 理屈だけでは説明がつかない不思議な現象や、昔からある都市伝説も、ぜんぶ。勘違いや見間違い、ただの作り話だってそう言いたいんでしょ?

「動揺しちゃって〜。実はさっくんの方が、めちゃくちゃオカルト話信じてるんじゃないの?」

 朔夜は引きっつた顔でみのりの挑発に耐えていたが、どうやらそろそろ限界に達したようだ。 

「じゃあ俺が証明してやるよ。そんなもの、絶対に存在しないってこと」

 鞄を机に置き、朔夜はすっとこちらに手を差し出すように伸ばしてきた。

「名前、書いてやる。さっきの用紙は?」
「やった〜。はい、どうぞ」

 みのりは自分と弟の名前が書かれた、クラブの申請用紙を手渡す。朔夜はその下に自分の名前を殴り書いた。気のせいだろうか。文字が微妙に震えているような····。

(兎にも角にも、作戦大成功!)

 みのりは満面の笑みを浮かべ、用紙を胸にスキップしながら教室を出て行く。その後ろ姿を見送り、足音が聞こえなくなった頃。朔夜はその場に無言でしゃがみ込んだ。教室に残っていた生徒たちはこのやり取りを見守った後、各々帰って行く。

(····ど、ど、ど、どうする!? 俺の馬鹿! なにが"俺が証明してやるよ" だ! みのりのやつ····、まさか知ってて誘ったんじゃ……いや、そんなわけ、)

 それは、誰にも言っていない秘密。
 今までずっと知らないフリをしてきたというのに。完全に墓穴を掘ったとしかいえない。

 朔夜がオカルト話を信じない、絶対に信じたくないその理由とは?