春。進級し高校二年生になってはじめての登校日。皆藤朔夜は机に頬杖を付いてうんざりとした表情を浮かべていた。
「さっくん、お願い! 一生のお願い! なんでも好きなお菓子買ってあげるから! なんならアイスも奢ってあげる! だからお願い!」
「無理だって何回も言ってるだろ? 俺がそういうのまったく興味ないって知ってるくせに」
「そこをなんとか! ちょっとここに名前を書いて、たまに私と散歩がてら調査してくれたらいいんだってばっ」
ばん、と机に紙を叩きつけ、同級生で幼馴染の三枝みのりが新手の押し売り販売でもする勢いで、ぐいと顔を寄せて迫ってくる。だいたい高校生にもなって、お菓子やアイスでほいほいと釣られると思っているのが間違いだ。
目の前の幼馴染は、肩くらいまでの長さのナチュラルボブで、昔から成績も良く明るく活発な女の子。学年の中でも可愛いと評判らしいが、朔夜にとってはただの迷惑な隣人と言っても過言ではない。
「そもそも、なんで俺なんだよ。お前の趣味に付き合ってくれる奴を探せばいいだろ?」
先程机の上に叩きつけられた紙に視線だけ向けて、朔夜はおおきく嘆息する。みのりは確かに黙っていればそこそこ可愛い。が、決定的なマイナスポイントが、朔夜の中で(おそらくクラスの中でも)彼女を"色々と残念な女子"という固定ポジションに置かざるを得ない現状だ。
「いないからさっくんに頼んでるんじゃない!」
「逆ギレするなよ····」
「だって、さっくん部活してないじゃん。放課後ヒマでしょ? だったら少しくらい付き合ってくれたっていいじゃん! デートだと思って!」
「なにがデートだよ····ってか、大声でそういうこと言うとみんなに誤解されるだろ!」
付き合うとか、デートとか。
ただでさえ、幼馴染で仲良いよな〜、とか言われて勘違いされることが多いんだから····と、休み時間で賑わう教室の反応を覗ってしまう。案の定、周りの視線がちらほらとこちらを気にして見ているのがわかる。頼むから誤解しないで欲しいという気持ちでいっぱいだった。
「優羽くんは名前貸してくれたもん。さっくんも名前書くくらいけちけちしないでよ」
「お前、自分の弟になにやらせてんだよ。あいつバスケ部入るって言ってたじゃん。兼任なんて無理だろ。いつ活動するんだよ」
「いいの! とにかく三人集めたら活動していいことになったから!」
じゃあ実質ひとりな。
「だれが好き好んでオカルト探求部なんてわけわからんクラブに入るんだよ。名前貸したら同類だと思われるじゃん」
「オカルト探求部なんてダサいネーミングじゃないもん。夜鳴町探索クラブだもん」
だもん、じゃないんだよ。
朔夜は何回目かわからないため息を吐き出す。
「オカルトマニア研究会の間違いだろ?」
「それはほぼ正解」
そう。なにを隠そう彼女、三枝みのりはオカルトマニアで、都市伝説やら怪奇現象やら七不思議やら····とにかくそっち系の全ジャンルを網羅している。
残念とはつまり、そういうことである。
それなりに可愛いけど残念な幼馴染の彼女は、親しい友だちにさえ話し出したらドン引きされるくらいの、オカルトマニアなのだ。


