あの日、君は黄昏空の下で微笑んだ。



「うーん? なんか電源が〜とか電波の届かない〜ってなる」

 みのりはスマホを耳から離して首を傾げる。

「朔くんのスマホ電源切れてるのかな? 電波ないわけないし」

 優羽も同じく、スマホを手にメッセージを送ってみるが返ってくることはなかった。

「既読マークつかない……めっちゃ心配」

「日上先輩も一緒だと思うんだけど、あのひとの連絡先聞いてないのよね」

「誰それ?」

 みのりは今日の出来事を簡単に説明する。朔夜がその先輩を誘った結果、体験入部として期間限定で活動することになったことや、この町の伝承に興味があること。神隠しを調べているっぽいということ。それに対して、優羽は分かりやすく面白くなさそうな顔をしている。

「朔くんが誘ったってなんで? 姉ちゃんと俺と三人で良くない?」

 三人いればクラブとして成り立つと聞いていたので、まさかの四人目が入るとは思っていなかったようだ。この場に友だちがいないからか、いつものように「姉ちゃん」と呼ぶ弟に、みのりは特に突っ込まない。そしてこの弟がやけに自分に協力的な理由も、もちろん知っている。お姉ちゃんが大好きなシスコン? それは大きな間違いである。

「あのね〜。別にいいでしょ? さっくんが私たち以外の友だちつくったって。というか、優羽くんは幽霊部員なんだし、関係ないでしょうに」

 昔から朔夜にべったりだった弟は、色々と拗らせた結果、今は少し距離を置いているらしい。登校はだいたい三人一緒だが、下校は部活を理由にしてわざと一緒に帰らない。

 中学に入る前までは、どこに行くにしても朔夜の後ろについて回っていた。朔夜はそんな弟のことを「でっかいわんこ」と言っていたわけだが、優羽は小学五年生の時には朔夜の身長を抜いていたので、"でっかい"という表現は当たっている。

「関係あるよ。少なくとも俺には大問題」

 弟が朔夜に対してどういう感情を持っているかはさておき、みのりは今の状況があまり良くない気がしてならない。

 今、自分たちが調べているもの。神隠し。しかしあの依頼主の言うように、誰も憶えていないという現象は起きていない。考えすぎだろうか。

「さっくんが昔、私たちに話してくれたことあったでしょ? あれって絶対嘘なんかじゃなかったよね? 踏切のとこに血だらけの女の人が立ってたとか、公園で一緒に遊んでた子の足が透けてたとか、亡くなったはずのおじいちゃんが、迷子になってたさっくんを家まで送ってくれたとか」

「俺たちに見えてなかっただけじゃん? 朔くんは嘘つかないしね。でも途中からあれはぜんぶ勘違いで、ぜんぶ嘘だって言い張ってたね。今じゃ、絶対にオカルトなんて信じないマンになってるけど」

 そうなのだ。朔夜は昔からそういう子だった。大人たちは虚言癖があるだの、子ども特有の妄想だの、寂しさからかまって欲しくて嘘をついてるだの、散々言われていた。みのりはそんな朔夜の話に惹かれオカルトに目覚めたわけだが、その頃には朔夜は今のようになってしまっていた。

「それと今のこととなにか関係あるわけ? 電波の繋がらないようなどこかに行っちゃったとか? それこそ、」

「神隠しみたい、でしょ?」

 忽然と消えてしまったふたり。

 けれども自分たちはふたりのことを忘れていない。あの依頼主に起こった現象とは少し違うようだ。とにかくこれは憶測でしかない。単純に電源を切っているだけの可能性だってある。誘拐の線は……おそらく薄いだろう。

「とりあえず、一旦おばさんに電話して帰って来たら連絡してもらう。俺たちは手分けして校舎を捜してみよう!」

「わかった。見つけたら連絡して!」

 なにもなければそれでいい。
 なにかあってからでは遅いのだ。
 胸騒ぎがした。
 あの時みたいに、ふらっと帰って来てくれたらそれでいい。

 みのりはスマホを握りしめ、駆け出した。