「こっくりさん、ね。確かに降霊術のひとつとして有名だな。狐や狸などの動物の霊を呼ぶことから狐狗狸と書くように、行った者が取り憑かれて動物のような奇声を発したとかなんとか。だが、どれも本当か嘘かは定かではないな」
こっくりさんの話で盛り上がっている中、久保田が口を開く。科学部の顧問である彼にとっては、こっくりさんなどくだらない遊びのひとつなのだろう。二十代後半である久保田は背が高くスラっとしており、目が隠れ気味の前髪、寝癖だらけの髪型や白衣の下のヨレヨレのシャツをもう少し整えたら、そこそこかっこいいのではないかとみのりはいつも思う。
「こっくりさんは科学で証明できると?」
「まあ、大概のことは」
気怠そうに久保田は白衣を椅子に掛けて鞄を手に取るところで、帰る気満々だったようだが仕方ないと話を続ける。低い声は説得力があり、宮城を含め他の教師たちも久保田の方に注目する。
「よく言われているのは、予期意向。こっくりさんでいえば、口にした質問に対して無意識に思い込んだ答えや願い。やっている側が複数人いるならば、その内の誰かがそう思い込んで動かしてしまうこともあるだろう」
「つまり、無意識に自分たちの欲しい答えに動いちゃうと?」
女性教師が納得したように頷く。若い男性教師も「確かにありえるかも」と同意する。宮城は宮城で「だとしても、すべてがそうとは限らないんじゃ?」と話を蒸し返す。みのりはこっくりさんの知識はあれど実際にやったことはないので、どういうものか逆に興味がわいてくる。
「まあ他には不覚筋動といって、無意識に筋肉が動くとかな。これは同じ態勢でやり続けたり、こっくりさんという架空の存在に緊張して、必要以上に筋肉が疲労することで不随意に動いてしまうなど、科学的に説明はつくと言われている」
動物霊が降霊して、質問に答えてくれる方がなんだか夢がある気がする。しかしそんな風に言われてしまえば、その可能性もあるかも? と思ってしまう。オカルト好きとしては非常につまらない結果である。
久保田は鞄を持ち、言いたいことだけ言って去ろうとしたようだが、ぴたりとその足が止まった。
「ま、あくまでも科学的に説明できた場合の話だ。世の中には未だ説明のつかない現象もある。数パーセントの奇跡があった方が、ロマンがあっていいんじゃないか」
と言い残して、今度は振り返ることもなくそのまま職員室を出て行った。
(数パーセントの奇跡、かぁ。なんかいいなぁ)
みのりとしては、不思議な現象や奇妙な噂はぜんぶ本当であって欲しい。幽霊も宇宙人もいると信じているし、自分の目で見てみたい。そう思うようになったきっかけは朔夜なのだが、今更なのに本人が全然認めないのでどうしたものかと思っている。
職員室を出て、ふたりが待っているだろう正面玄関の方へと向かう。さっき別れた階段を通り過ぎ、下駄箱が並ぶ正面玄関にやって来た。少し話を聞いていたせいもあって、待ちくたびれていることだろうと思いつつも、みのりはふたりの姿を捜す。
「あれ? いない。もしかして、私を置いて帰っちゃったの⁉」
朔夜なら有り得なくもないが、あの真面目そうな先輩もいないとは。
そんな中、部活動を終えた生徒たちがわらわらと集まってくる。連休中は自主練の部が多いようだが、弟の優羽が所属するバスケ部は今日だけ全体練習で明日からは希望者のみらしい。
「姉貴? 今から帰るの?」
「あ、優羽くん。ね、さっくん見なかった?」
「朔くん? 見てないけど。もしかして置いてかれたん?」
優羽は半笑いをしながらそう言って見下ろしてきた。周りの一年生たちが物珍し気にみのりを見ている。みのりの頭ひとつ分以上は背の高い弟に加え、バスケ部の長身組に見下ろされるこの状態は、あまり気分の良いものではなかった。
「俺、姉貴と一緒に帰るからここで解散な」
マジか、仲良すぎだろ! と同級生たちは騒いでいたが、これは優羽の通常運転なのでみのりはなんとも思わない。やっと静かになったところで、さっきの続きだ。
「で、朔くん捜すんでしょ? 俺も一緒に捜すよ」
「ホント? 助かるよ。とりあえずどこにいるか連絡して聞いてみる」
みのりはスマホを手に、朔夜に電話をかけた。


