お父様と、お母様、そしてお兄様。
その前に、私とアリアが並んで立つ。
その左右に、
国の中枢を担う大臣たちが控えていた。
そして今回の戦いの中心を担った
師団長、副師団長たちが、
入れ替わり立ち替わり、
謁見の間へと入ってきていた。
玉座の前で、
王である父から
ねぎらいの言葉と勲章を
受け取るためだ。
そして――
バサラ第一師団師団長と、
副師団長であるアディスが入ってきた。
魔力量は並だが、
剣術ではこの国に並ぶ者がいない。
四十を過ぎた、
渋いおじさまだ。
……それにしても。
やっぱり、
目を逸らすのが惜しいくらい、
かっこいい。
久しぶりに見る
アディスの姿に、
私はただ、見惚れてしまっていた。
今回の作戦は、
アディスの魔力量がなければ、
到底成立しなかった。
それは、もっぱらの評判でもあり、
実際、
お父様とバサラ第一師団師団長も、
そのことを話しているようだった。
「よくやってくれたな、
アディス=ナファバル副師団長」
「いえ、もったいないお言葉です。」
「相変わらずだな、アディスは」
謙虚な姿勢を崩さない彼に、
お父様は少し苦笑してから続ける。
「お前が何と言おうと、
今回の功績はお前の力が大きい。
なにか報酬を、
というのが皆の一致した意見でな」
「ありがたいお言葉とは思いますが、
そのお心だけで十分です」
なおも丁重に断るアディスに、
お父様は有無を言わせぬ口調で言い切った。
「そういうわけにはいくまい。
お前がどうしても断るというなら、
これは命令だ。
報酬が何がよいか、考えておくこと」
そして――
ふと、私のほうを見る。
私が、こくりと頷くのを確認してから、
お父様は続けた。
「それから。
この間のダリアの降嫁の話は、
親ばかな父親の戯言として忘れてほしい」
一拍。
「ダリアは、
巫女へと進むことになった」
「……え」
アディスが、
はっきりと驚いた顔で、
お父様と、そして私を見る。
そう。
私は、お父様に
巫女になる決意を示した。
元々、
お父様も同じことを
考えていたようだけれど。
私は、
アディスに向けて、
もう一度こくりと頷く。
――もう、自由だよ。
そう伝えるつもりで。
「以上だ。では」
お父様が、
次の謁見に移ろうとした、
その時。
「恐れながら」
アディスが、
お父様へと視線を戻した。
「報酬の件、
やはり今、
申し上げてもよろしいでしょうか」
お父様は一瞬驚いた表情を浮かべたが、
すぐに、
どこか嬉しそうに頷く。
「……よい」
「では、恐れながら、申し上げます」
一拍の間。
「私に――
姫を、いただけませんか」
……え?
私?
心臓が、跳ね上がる。
でも、
すぐに違うと思った。
姫、って言ったよね。
私との婚約の話は、
もうなかったことになった。
なら、
順当に考えて――
アリア、だよね?
案の定、
大臣たちがざわめいた。
「いや……
そればかりは‥‥」
お父様も、
珍しく動揺を隠し切れない様子で、
アリアを見る。
私は、
決定的な失恋に、
一人、奈落の底へ突き落とされながらも、
なんとか平静を保っていた。
……そっか。
考えれば、そうだよね。
アリアは綺麗で、
性格もいい。
特に、
想っている相手もいない。
心が冷えていくのに、
頭の中だけが、
妙に冷静だった。
アリアが良いと思うなら、
私への遠慮なんてしなくていい。
そう言わなきゃ。
私が、
アリアのほうを見ようとした、
その瞬間。
「あの……王」
アディスの声が、
もう一度、響いた。
「恐れながら。
私が伴侶にと望むのは――」
一拍。
「ダリア様です」
……は?
「……はっ?」
お父様から、
かなり間の抜けた声が漏れる。
私といえば、
思わず腰が抜けてしまって――
その身体を、
慌ててアリアが支えてくれた。
私は、
その腕に捕まったまま、
ただ前を見ていた。
顔が、熱い。
心臓が、うるさい。
……え?
いやいやいや、
嘘だよね。
だって。
そんなそぶり、
今まで一度もなかった。
昼食を共にしても、
視線を合わせても、
言葉を交わしても。
いつだって、
騎士として、
きちんと距離を取っていた。
それなのに。
そもそも、
私の一体どこがいいの?
その疑問だけが、
頭の中をぐるぐると回る。
ただただ、
思考が止まっていた。
謁見の間に、
ざわめきが広がる。
だが、
それすら、
遠く聞こえた。
その様子を、
王である父は、
すぐに動揺をおさめ、
静かに見ていた。
ほんの一瞬だけ。
どこか可笑しそうな色が、
その表情に浮かぶ。
(……なるほど)
お父様は、
軽く咳払いをしてから
口を開く。
「想定外ではあるが」
謁見の間のざわめきを
おさめるような、
低く、落ち着いた声。
「それほどの覚悟で望んだ、
ということは理解した」
ざわめきが、
少しずつ収まっていく。
「だが」
声に、
王としての重みが宿る。
「戦果の“報酬”として、
姫を渡すことはできん」
アディスの肩が、
わずかに揺れた。
「しかし」
お父様は続ける。
「正式な手続きを踏み、
ダリア本人の意思があるのであれば、
その申し出を退ける理由もない」
私は、
その言葉を聞いても、
まだ反応できずにいた。
顔が熱い。
たぶん、真っ赤だ。
声も、
言葉も、
出てこない。
「アディス=ナファバル」
お父様は、
柔らかな声質で、
彼の名を呼ぶ。
「続きを望むなら」
視線を、
アディスに向ける。
「この場ではなく、
きちんとした形で
言い直すことだ」
「以上だ」
そう言って、
お父様は
次の謁見に移る合図を出した。
謁見の間が、
何事もなかったかのように
動き出す。
私は、
まだアリアに支えられたまま、
その場に立ち尽くしていた。
ただ、
心臓だけが、
早鐘のように
鳴り続けていた。
その前に、私とアリアが並んで立つ。
その左右に、
国の中枢を担う大臣たちが控えていた。
そして今回の戦いの中心を担った
師団長、副師団長たちが、
入れ替わり立ち替わり、
謁見の間へと入ってきていた。
玉座の前で、
王である父から
ねぎらいの言葉と勲章を
受け取るためだ。
そして――
バサラ第一師団師団長と、
副師団長であるアディスが入ってきた。
魔力量は並だが、
剣術ではこの国に並ぶ者がいない。
四十を過ぎた、
渋いおじさまだ。
……それにしても。
やっぱり、
目を逸らすのが惜しいくらい、
かっこいい。
久しぶりに見る
アディスの姿に、
私はただ、見惚れてしまっていた。
今回の作戦は、
アディスの魔力量がなければ、
到底成立しなかった。
それは、もっぱらの評判でもあり、
実際、
お父様とバサラ第一師団師団長も、
そのことを話しているようだった。
「よくやってくれたな、
アディス=ナファバル副師団長」
「いえ、もったいないお言葉です。」
「相変わらずだな、アディスは」
謙虚な姿勢を崩さない彼に、
お父様は少し苦笑してから続ける。
「お前が何と言おうと、
今回の功績はお前の力が大きい。
なにか報酬を、
というのが皆の一致した意見でな」
「ありがたいお言葉とは思いますが、
そのお心だけで十分です」
なおも丁重に断るアディスに、
お父様は有無を言わせぬ口調で言い切った。
「そういうわけにはいくまい。
お前がどうしても断るというなら、
これは命令だ。
報酬が何がよいか、考えておくこと」
そして――
ふと、私のほうを見る。
私が、こくりと頷くのを確認してから、
お父様は続けた。
「それから。
この間のダリアの降嫁の話は、
親ばかな父親の戯言として忘れてほしい」
一拍。
「ダリアは、
巫女へと進むことになった」
「……え」
アディスが、
はっきりと驚いた顔で、
お父様と、そして私を見る。
そう。
私は、お父様に
巫女になる決意を示した。
元々、
お父様も同じことを
考えていたようだけれど。
私は、
アディスに向けて、
もう一度こくりと頷く。
――もう、自由だよ。
そう伝えるつもりで。
「以上だ。では」
お父様が、
次の謁見に移ろうとした、
その時。
「恐れながら」
アディスが、
お父様へと視線を戻した。
「報酬の件、
やはり今、
申し上げてもよろしいでしょうか」
お父様は一瞬驚いた表情を浮かべたが、
すぐに、
どこか嬉しそうに頷く。
「……よい」
「では、恐れながら、申し上げます」
一拍の間。
「私に――
姫を、いただけませんか」
……え?
私?
心臓が、跳ね上がる。
でも、
すぐに違うと思った。
姫、って言ったよね。
私との婚約の話は、
もうなかったことになった。
なら、
順当に考えて――
アリア、だよね?
案の定、
大臣たちがざわめいた。
「いや……
そればかりは‥‥」
お父様も、
珍しく動揺を隠し切れない様子で、
アリアを見る。
私は、
決定的な失恋に、
一人、奈落の底へ突き落とされながらも、
なんとか平静を保っていた。
……そっか。
考えれば、そうだよね。
アリアは綺麗で、
性格もいい。
特に、
想っている相手もいない。
心が冷えていくのに、
頭の中だけが、
妙に冷静だった。
アリアが良いと思うなら、
私への遠慮なんてしなくていい。
そう言わなきゃ。
私が、
アリアのほうを見ようとした、
その瞬間。
「あの……王」
アディスの声が、
もう一度、響いた。
「恐れながら。
私が伴侶にと望むのは――」
一拍。
「ダリア様です」
……は?
「……はっ?」
お父様から、
かなり間の抜けた声が漏れる。
私といえば、
思わず腰が抜けてしまって――
その身体を、
慌ててアリアが支えてくれた。
私は、
その腕に捕まったまま、
ただ前を見ていた。
顔が、熱い。
心臓が、うるさい。
……え?
いやいやいや、
嘘だよね。
だって。
そんなそぶり、
今まで一度もなかった。
昼食を共にしても、
視線を合わせても、
言葉を交わしても。
いつだって、
騎士として、
きちんと距離を取っていた。
それなのに。
そもそも、
私の一体どこがいいの?
その疑問だけが、
頭の中をぐるぐると回る。
ただただ、
思考が止まっていた。
謁見の間に、
ざわめきが広がる。
だが、
それすら、
遠く聞こえた。
その様子を、
王である父は、
すぐに動揺をおさめ、
静かに見ていた。
ほんの一瞬だけ。
どこか可笑しそうな色が、
その表情に浮かぶ。
(……なるほど)
お父様は、
軽く咳払いをしてから
口を開く。
「想定外ではあるが」
謁見の間のざわめきを
おさめるような、
低く、落ち着いた声。
「それほどの覚悟で望んだ、
ということは理解した」
ざわめきが、
少しずつ収まっていく。
「だが」
声に、
王としての重みが宿る。
「戦果の“報酬”として、
姫を渡すことはできん」
アディスの肩が、
わずかに揺れた。
「しかし」
お父様は続ける。
「正式な手続きを踏み、
ダリア本人の意思があるのであれば、
その申し出を退ける理由もない」
私は、
その言葉を聞いても、
まだ反応できずにいた。
顔が熱い。
たぶん、真っ赤だ。
声も、
言葉も、
出てこない。
「アディス=ナファバル」
お父様は、
柔らかな声質で、
彼の名を呼ぶ。
「続きを望むなら」
視線を、
アディスに向ける。
「この場ではなく、
きちんとした形で
言い直すことだ」
「以上だ」
そう言って、
お父様は
次の謁見に移る合図を出した。
謁見の間が、
何事もなかったかのように
動き出す。
私は、
まだアリアに支えられたまま、
その場に立ち尽くしていた。
ただ、
心臓だけが、
早鐘のように
鳴り続けていた。

