■出立前の祈り
「時間とらせて、ごめんなさい。
出立前の忙しいときに。これを渡したくて」
私はそう言って、
自分で縫ったお守りを差し出した。
「私のために、
わざわざ作ってくださったのですね。
ありがとうございます」
アディスは、
業務用だと分かる、
きちんとした笑みで受け取ってくれる。
その笑顔に、
胸がどくん、と鳴った。
……それでも。
私は、
決して彼の特別な存在にはなれないのだと、
分かっている。
その事実が、
じわりと胸を痛ませる。
「どうか、ご無事で」
それでも、
彼が生きてさえいてくれれば、
それでよかった。
アディスは、
膨大な魔力量をもって生まれてしまった人だ。
そのため、
魔物との戦いでも、
先の戦争でも、
常に最前線に立つ。
第一師団の副師団長という立場も、
その運命の延長にある。
「ダリア様。
くれぐれも、力は使わないでください」
不意に、
アディスの声が少しだけ低くなる。
「以前のように他人を癒して、
あなたが倒れていては本末転倒ですから」
「……分かってる。
でも、私は――」
言いかけた私の言葉を、
彼は遮った。
「私のことを気にかけてくださるなら、
姫は、もう少しご自分を大切にしてください。
よろしいですね」
有無を言わせない口調。
「……分かったわ」
しぶしぶ返事をすると、
アディスは満足したように一歩引いた。
「はい。では、失礼いたします」
膝を折って礼をし、
彼はその場を後にする。
私は、
その後ろ姿に、
小さな願掛けをした。
――彼の無事な姿を見ることができたら。
その時は、
潔く神殿に仕える身になろう。
元々、そのつもりだった。
どれほど効力のある願いかは、
分からないけれど。
――――――――
■戦闘中の祈り
アディスは、
行く手を阻む魔物を
魔力剣で切り捨てていく。
それを援護するように、
周囲で騎士たちが展開していた。
今回の作戦は、
魔力の強いアディス頼りと言っても
過言ではない。
魔力を温存するため、
無駄に力を削ぐ魔力弾は使わない。
最小限の結界すら張らず、
位置取りと速度で対応する。
その結果、
周囲の援護があっても、
彼の体には少しずつ、
魔物の爪や牙が傷を刻んでいく。
戦闘特有の高揚状態の中では、
その痛みをほとんど感じない。
それでも――
ふと、頭をよぎる。
あの姫は、
おとなしくしていてくれているだろうか。
結界の切れ目へと
最短ルートで駆け抜けながら、
思わず、そんなことを考えてしまう。
あれだけ釘を刺した。
大丈夫だとは思う。
……思うが。
あの時のような想いは、
もう二度とごめんだった。
この国を守れたのに、
一番守りたいと願った人が、
いなくなるかもしれないと知った、
あの3日間。
生きた心地がしなかった。
姫を妻にできる機会が、
幸運にも得られたというのに。
その姫がいなくなってしまっては、
それは、
生きている意味を失うことと同じだった。
そして、
もう一つの考えが、胸をよぎる。
――もし、姫が巫女を選んだら。
その時、
俺は、冷静でいられるだろうか。
何度も、
想いを伝えそうになった。
だが、
それはできるはずもなかった。
騎士という、
姫とはあまりにもかけ離れた存在である
俺には。
「時間とらせて、ごめんなさい。
出立前の忙しいときに。これを渡したくて」
私はそう言って、
自分で縫ったお守りを差し出した。
「私のために、
わざわざ作ってくださったのですね。
ありがとうございます」
アディスは、
業務用だと分かる、
きちんとした笑みで受け取ってくれる。
その笑顔に、
胸がどくん、と鳴った。
……それでも。
私は、
決して彼の特別な存在にはなれないのだと、
分かっている。
その事実が、
じわりと胸を痛ませる。
「どうか、ご無事で」
それでも、
彼が生きてさえいてくれれば、
それでよかった。
アディスは、
膨大な魔力量をもって生まれてしまった人だ。
そのため、
魔物との戦いでも、
先の戦争でも、
常に最前線に立つ。
第一師団の副師団長という立場も、
その運命の延長にある。
「ダリア様。
くれぐれも、力は使わないでください」
不意に、
アディスの声が少しだけ低くなる。
「以前のように他人を癒して、
あなたが倒れていては本末転倒ですから」
「……分かってる。
でも、私は――」
言いかけた私の言葉を、
彼は遮った。
「私のことを気にかけてくださるなら、
姫は、もう少しご自分を大切にしてください。
よろしいですね」
有無を言わせない口調。
「……分かったわ」
しぶしぶ返事をすると、
アディスは満足したように一歩引いた。
「はい。では、失礼いたします」
膝を折って礼をし、
彼はその場を後にする。
私は、
その後ろ姿に、
小さな願掛けをした。
――彼の無事な姿を見ることができたら。
その時は、
潔く神殿に仕える身になろう。
元々、そのつもりだった。
どれほど効力のある願いかは、
分からないけれど。
――――――――
■戦闘中の祈り
アディスは、
行く手を阻む魔物を
魔力剣で切り捨てていく。
それを援護するように、
周囲で騎士たちが展開していた。
今回の作戦は、
魔力の強いアディス頼りと言っても
過言ではない。
魔力を温存するため、
無駄に力を削ぐ魔力弾は使わない。
最小限の結界すら張らず、
位置取りと速度で対応する。
その結果、
周囲の援護があっても、
彼の体には少しずつ、
魔物の爪や牙が傷を刻んでいく。
戦闘特有の高揚状態の中では、
その痛みをほとんど感じない。
それでも――
ふと、頭をよぎる。
あの姫は、
おとなしくしていてくれているだろうか。
結界の切れ目へと
最短ルートで駆け抜けながら、
思わず、そんなことを考えてしまう。
あれだけ釘を刺した。
大丈夫だとは思う。
……思うが。
あの時のような想いは、
もう二度とごめんだった。
この国を守れたのに、
一番守りたいと願った人が、
いなくなるかもしれないと知った、
あの3日間。
生きた心地がしなかった。
姫を妻にできる機会が、
幸運にも得られたというのに。
その姫がいなくなってしまっては、
それは、
生きている意味を失うことと同じだった。
そして、
もう一つの考えが、胸をよぎる。
――もし、姫が巫女を選んだら。
その時、
俺は、冷静でいられるだろうか。
何度も、
想いを伝えそうになった。
だが、
それはできるはずもなかった。
騎士という、
姫とはあまりにもかけ離れた存在である
俺には。

