覇王令嬢の野望


「邪魔だのう……」

 せっかくミーネとの会話を楽しんでいたというのに……

「これは何だ?」

 おやー?

「何だ、お前は刺客じゃないのか。つまらん」

 とはいえ、騒ぎ立てないところを見るに知ってはいたな。

「ヘルミーネ様、私が単独でやったことです……」

 おやおや?
 仲間想いだこと……

「こう言っているが?」

 ユルゲンを見る。

「確かに私には命令が来てない。しかし、旦那様がそう命じたことは知っていた」

 あー、父親か。
 つまらん。

「そうか、そうか。では、お前も同罪だな。もっとも、こんな時間に乙女の部屋に入ってきた時点で死罪だがな」
「ヘルミーネ様!」
「ノーレ!」

 あー、うるさい、うるさい。
 今はユルゲンの見せ場ぞ?

「ヘルミーネ様、死んでください」

 ユルゲンが背中から仕込み剣を抜いた。

「いいねー! でも、お前に1つ、苦言を呈しよう」
「何ですか?」
「殺気はちゃんと隠せ。入った時から私を殺す気満々なことがわかったぞ」
「そうですか……」

 まだ挑んでくる気か……この部屋に愚か者が3人もいるぞ……

「ヘルミーネ様! おやめを! ユルゲン、逃げろ! こいつ、ヘルミーネ様じゃない!」

 おやー?
 面白いことを言う。

「何を……」
「ユルゲン、ちょっとそこから動くなよ。動いたら容赦なく殺す」
「ッ!」

 ふん。
 この程度の殺気を当てただけで臆するなら最初から挑むな。

「邪魔者は静かになった。さて、どうするべきだ?」

 ベッドの上にいるミーネを見る。

「ゆ、許してあげよう……」

 こいつ、すごいな……
 震えながらもまだその言葉が出るか。

「ユルゲンも?」
「も、もちろん……」

 ふむ……1人では何もできぬし、ミーネの言葉を尊重してもよい……しかし、この雑魚2人が何かの役に立つんだろうか?

「な、何を一人で……」

 うるさいなー……
 私の大事な相談を邪魔するなよ。

「今、天使と話をしているんだ。少し黙っておけ」
「は?」
「て、天使……?」

 うるさい。

「ミーネ、本当に許すか?」
「う、うん」
「次も来たらどうする?」
「逃げよっか」

 ハァァ……

「私は逃げない」
「じゃあ、頑張って! 殺さない方向で!」

 良い答えだ。
 実に可愛い子だ。

「はっはっは……よかろう。ただし、条件があるぞ?」
「じょ、条件?」
「こいつら次第だな」

 そう言うと、ナイフを落とし、テーブルの方に行く。

「回復魔法くらい使えるだろう。治してよいぞ」

 そう言うと、ディアナが上半身を起こし、右腕と左足を治していく。

「ディアナ、治ったらお茶を淹れよ」
「は?」
「最近、私の周りは耳が遠い人間が多いな。やはり耳を切ってやるべきか……お茶だ。喉が渇いたからお茶を淹れてこいと言ったのだ。お前、命を助けてやった恩人の言葉が聞けんのか?」
「か、かしこまりました」

 うんうん。

「ユルゲン、お前はグラスを2つ持ってこい」
「何故?」
「ハァァ……今のはイラっとした。殺してよいか?」

 ミーネを見る。
 すると、ミーネが腕でバツ印を作った。

「ユルゲン、二度は言わない。私の堪忍袋の緒が切れる前に行け……!」
「わ、わかりました」

 腕と足を治したディアナとユルゲンが部屋から出ていった。

「ミーネ、父親だそうだ」
「うん……」
「悲しいか?」
「そんなに……何回かしか会った記憶がないし」

 でも、悲しい。
 それは親に捨てられたからじゃない。
 悲しいと思える関係性の人間がいないことが悲しいのだ。

「ディアナとユルゲンが大事か? 奴らは敵ぞ?」
「敵じゃない……」

 これが我が一族の子か?
 共に手を取り合い、背中を預けてきた弟の子孫か?
 許せぬ。
 野心を持ち、野心に飲まれて死ぬならそれは我が一族の死にふさわしい。
 だが、こんな空っぽのまま死なせてなるものか。

「わかった。後は私に任せよ」
「でも……」
「安心せい。殺しはしない」

 今大事なのはあの2人の生死じゃない。
 ミーネの心を救うことだ。

 そのまま待っていると、2人が戻ってきた。
 ユルゲンはワイングラスを2つ持っており、テーブルの上に置く。
 ディアナはお茶の用意をし出した。

「ユルゲン、ナイフを持ってこい」
「はい」

 ユルゲンはベッドのそばに落ちているナイフを拾うと、そのままこちらに戻ってきて、テーブルの上に置いた。

「ふむ……毒は塗ってないか」

 心臓を一突きする予定だったわけだし、塗る意味はないか。

「どうぞ」

 お茶を淹れ終わったディアナが私の前にカップを置いた。

「教育がいるか?」

 次は左腕と右足かな?

「失礼しました」

 ディアナは一礼すると、カップを取り、口をつけた。

「毒はありません」
「よろしい」

 カップをもらうと、お茶を飲む。
 良い香りがするし、心が落ち着いてくる。
 ちょっと戦闘になったから心が荒れていたようだ。

「ノーレ、この時間は何?」

 隣に座っているミーネが聞いてくる。

「お茶の時間だ。寝ていたのに起こされたからな」

 まあ、起きてたけど。

「申し訳ございません」

 ディアナが頭を下げた。

「さて、お前達に質問だ。名前は?」
「え? あ、ディ、ディアナです」
「ユ、ユルゲンです」

 うんうん。
 学習できるのは賢いぞ。
 もし、聞き返したらカップを投げつけるところだった。

「歳は?」
「15歳です」
「18歳です」

 ディアナ、かなり若いな……

「父に仕えているな? いつからだ?」
「私は12歳からお世話になっております」
「私は15歳です」

 となると、同じ時くらいに来たのか。

「ノーレ、ディアナさんとユルゲンさんは私のお世話係として雇われたんだよ」

 ミーネが教えてくれる。

「なるほどな。父が私を殺せと命じたか?」
「それは……」
「さっきユルゲンがそう言っていただろう? 隠すことではない。そもそも興味もないのだ」

 私はな……

「はい……旦那様の命で」
「何故?」
「それは…………」

 言えぬか……

「ユルゲン、答えよ」
「明日の夜、皇帝陛下が帝位継承権を持っている者を全員呼び出し、晩餐会を開くからです」

 ほう?