覇王令嬢の野望


「こんな感じで外を歩くなんて初めてだよ。移動することがあってもずっと馬車だったし」

 まあ、こいつの待遇は置いておいても貴族令嬢はそんなものだろう。

「ミーネ、確認だが、ここは帝都ヴァルシュタインだな?」
「うん。そうだね。情報集めって帝都を見て回るの?」
「城と住宅街だけでいい」
「じゃあ、案内するよ。私、地図を見るのが好きだから結構詳しい」

 ロクに外に出られないからか。
 言葉の節々からこやつの哀れさが出ている。

「頼む。まずは城だ」
「こっち、こっち。教会は帝都のはずれにあるからちょっと歩くよ」
「ああ。構わん」

 ミーネの案内で帝都を歩いていく。
 ミーネの言う通りで教会は町のはずれのようで人通りが少なかった。
 しかし、帝都の中央に向かうにつれて、徐々に人が増えだす。
 どうやら私が生きた時代よりもかなり人口が増えているようだった。

『街並みもかなり変わっているな』

 さすがに人が増えてきたので口には出さない。

「ノーレがいたのは300年前だもんね。さすがに変わるでしょ」
『人も増え、活気がある。喜ばしいことだ』

 300年で衰退してなくて良かった。

「うん。でも、色々と問題はあるみたいだよ。最近は税金も高くなったみたいだし、雇用が減ったりしているんだって。地方ではもっとひどいところもあるらしい」

 ほー……

『貴族令嬢のくせに詳しいな』
「勉強だよ。それに私だって皇族。人々の生活を守りたいし、どうにかしないといけないって思ってる」

 立派、立派。

「バカにしてる?」
『してるな。でも、そう思えない貴族連中の方が多かろう? そいつらよりはマシだ』

 何故、人の上に立てるのか。
 それを考えない者が多い。
 権力者にはそれなりの義務というのがあるのだ。

 私達が歩いていくと、前方に城が見えてきた。
 私が建てた白を基調とした威厳ある城だ。
 とはいえ、さすがに300年以上も経っているのでちょっと古い。

「あれがヴァルシュタイン城。始祖様が建国した際に建てたとされる由緒あるお城」
『知ってる。私だ』

 昨日のことのように覚えている。

「ちなみになんだけど、城には秘密の地下迷宮があり、そこの奥に始祖様のご遺体が眠っているらしいよ」
『あるかもな。その地下迷宮を作らせ、私の大事なお宝をそこに置いたから』

 ついでに私自身もそこに置かれたかもしれん。

「え? 本当だったの? お宝ってとんでもない秘宝?」
『一時期、ハマっていた絵、曲、詩なんかの作品集だ。王者たる者、芸術も学ぶべきと弟に言われたので始めたのだが、才能が皆無だったし、1年でやめた』

 皆、『常識に捉われない』とか『先鋭的』としか言わなかったし。
 素直に下手くそって言え。

「いらなーい……」

 やらんわ。
 下手くそでも私の宝物だ。

『ここはもういい。住宅街を見せてくれ』
「貴族? 庶民?」
『貴族はいつの時代も変わらんだろう。平民の生活だ』
「うん。じゃあ、こっち」

 ミーネが右の方に飛んでいったのでついていく。
 すると、住宅街に変わったのだが、特におかしいところはない普通の住宅街だ。
 子供が走っているし、おばさん達が井戸端会議をしている。
 男の姿が見えないのは働きにいっているからだろう。

『悪くないな』
「うん。平和そう」

 私達がそのまま歩いていくと、徐々にだが、雰囲気が変わり始める。
 家がぼろくなり始めたし、何よりも匂いが……

『ミーネ、まさかと思うが、帝都にスラムがあるのか?』
「うん。あるって聞いたことがある……」

 スラム……帝都に?
 確かに人が増えれば貧富の格差が出るし、犯罪も増えるが……

『皇帝は何をしている?』
「わかんない……」

 ミーネにそこまでを求めるのは酷か。

『そうか……』
「ノーレ、この辺りにして帰らない? 危険だよ」

 確かに危険かもしれない。
 徐々にだが、その辺で座り込んでいる人が増えだしたし、そいつらはじーっとこちらを見ているのだ。
 まあ、修道服を着た少女がこんなところを歩いていれば注目もすると思うがな。

『ミーネ、さっき人々の生活を守りたいし、どうにかしないといけないと言ったな? ならば目を逸らさずに見よ。これが帝都の……アイゼンライヒ帝国の現状だ』
「う、うん……でも、さすがに危なくない? なんか目が怖いよ」

 ミーネはかなりビビっている。
 まあ、なんだかんだで箱入りだからな。

『わかった。帰ろう』

 私はこの場で引き返すことにし、踵を返すと、そのまま歩いていく。

「ノ、ノーレ、なんかついてきてるよ?」

 知ってる。
 踵を返した途端に座っていた男が立ち上がったのだ。

『ミーネ、殺すか、逃げるかをお前が決めてみろ』
「え?」
『あと5秒だ』

 じゃないと向こうが襲ってくる。

「に、逃げるで」
『じゃあ、ついてこい』

 そう言い、一気に駆け出した。

「待ちやがれ!」

 後ろから男の怒鳴り声が聞こえてきたが、無視して、走っていく。
 当然、私のスピードにはついてこれないのであっという間に置いてきぼりにした。

「ノーレ、もう大丈夫みたい」
『もう一度、確認する。殺さなくて良かったか?』

 とっさの判断と冷静に考えた答えは違うことが多い。

「逆になんで殺すの?」
『私を狙ったからだ』

 あのまま捕まっていたらどうなっていたかがわからないわけでもあるまい。

「避けられるなら無理に殺さなくてもいいでしょ」

 ふむ……やはりこいつはこういう人間か。
 それがわかっただけでも収穫だったな。

『わかった。もう教会に戻ろう』
「う、うん」

 私達は来た道を引き返すと、教会まで戻り、一気にジャンプし、2階の自室に帰った。