覇王令嬢の野望


「もう来たか……さて、どうする……ん?」

 考えていると、こちらが許可を出していないのに扉が開き、メイド服を着た若い女が部屋に入ってきた。

「ッ! お、お嬢様、もう起きていらっしゃいましたか。起こそうと思って勝手に入ってしまいました。申し訳ございません」

 メイドが焦った顔で頭を下げた。
 女は黒髪を編み込んでおり、上品な顔立ちをしているが、どこか活発的に見えた。

「あ、ディアナさん……」

 ミーネがメイドの名前を呼んだ。
 しかし、メイドは頭を下げたままで反応しない。
 どうやら反応的にメイドにはミーネの姿が見えていないし、声も聞こえないようだ。
 これは良かった点だが、面倒なのは私がこのメイドを知らないことである。

「あ、この人は昔からお世話をしてくれるメイドさんだよ。ディアナさんって言うの。私がここに来てもついてきてくれたんだ。あと、執事のユルゲンさんがいる」

 悩んでいると、ミーネが教えてくれる。
 察しが良い子のようだ。

「いや、昨日からなんだけど、実はノーレの考えていることがちょっとだけ聞こえるんだよね」

 そういうことは早く言え、バカ。

「すみません……」

 ミーネがしょぼーんとなった。

「ディアナ」
「え? はい、何でしょう?」

 名を呼ぶと、ディアナが面を食らったような顔をする。
 まあ、私とミーネでは言葉遣いがあまりにも違うから仕方がない。

「朝食を」
「は、はい。ただいまお持ちします。ユルゲン、朝食を。私はお嬢様のお着替えの手伝いをします」
「わかった」

 ディアナが部屋の外に声をかけると、若い男の声が聞こえた。
 姿は見えないが、ミーネが言っていた執事だろう。

「お嬢様、まずは洗面所へ」
「ああ」

 自分でやるって言いたいが、任せようと思い、ディアナに洗面所に連れていかれると、顔を洗った。
 そして、髪の毛を櫛で解かされると、そのまま修道服に着替えさせられた。

「ふはは。修道女だな」
「修道女だもん」

 鏡にはいかにも見習いって感じの紺のローブに身を包み、ウィンプルと呼ばれる頭巾をかぶった少女が映っていた。
 髪を解く意味があるのかと思う私はもうお婆ちゃんか。

「お嬢様?」

 ディアナが首を傾げる。

「いや、なんでもない。面白かっただけだ。それよりも朝食にしよう」
「はい。こちらに」

 洗面所を出ると、テーブルの家に料理が並んでいた。
 そして、そのテーブルの横には執事服を着た若い男が立っていた。
 男は黒髪であり、少し冷ややかさを感じる。
 ただ、端正な顔つきをしているし、ミーネは良い趣味をしているなって思った。

「違うよー。そんなんじゃない」
『わかっておる。こやつがユルゲンだな?』
「うん。この人も小さい頃がお世話をしてくれている人」

 メイドに執事……どちらも腕が立ちそうだし、護衛係と見張りも兼ねているな……

「おはよう」

 ユルゲンに声をかける。

「おはようございます、お嬢様」
「今日もお綺麗ですねという言葉を付けないとモテないぞ」
「は? こ、これは失礼しました。当たり前のことと思ってしまい……申し訳ございません」

 とっさの判断力もあるっと……

「まあいいわ。食べましょう」

 席につくと、料理を食べだす。
 メニューはパンとサラダ、さらにはスープとフルーツが付いている普通の朝食だった。

「おー、美味しいねー」

 ん? ミーネは見ているだけで食べてないが……

『ミーネ、味がわかるのか?』
「うん。朝起きたらお腹が空いてたからどうしようと思ったけど、ノーレが食べだしたらこっちにも満足感が伝わっていた」

 身体がミーネのものだからだろうか?

『良かったな』
「うん」

 その後も食事を続けていき、最後にフルーツを食べる。

「ディアナ、今日の予定は?」
「午後からお祈りがあります」

 それだけか。
 暇な人生だ。

「暇は暇だね。だから本とか読んでる」

 そういえば、本棚があるな。
 量も結構ある。

「ディアナ、ユルゲン、昼までは勉強をする。集中したいから下がれ」

 フルーツを食べ終えると、2人に告げる。

「かしこまりました」
「それでは昼に昼食を持ってきますので」

 2人は素直に頭を下げると、食器類を片付け、部屋から出ていった。

「さて」

 立ち上がると、窓の方に向かい、外を見る。
 騒がしく動いていた修道女共の姿はもうない。

「あれ? 勉強は?」

 ミーネが聞いてくる。

「今日は社会科見学だ。ミーネ、一応聞くが、剣はあるか?」
「剣? あるわけないじゃないの」

 まあ、そうだろうな。

「お前、魔法は?」
「魔力は持っているけど、魔法は勉強させてもらえなかった」

 余計な力を付けさせたくないからか。

「ふーむ……」

 手をぐーぱーと開いたり、閉じたりする。

「どうしたの?」
「確認だ。とにかく、出かけるぞ」

 そう言って、鬱陶しいウィンプルを取ると、窓を開ける。

「出かけるって? 外に出たらダメだよ」
「知るか。誰が言ったが知らんが、私に命令するな」

 私はエレオノーレ・クローネンシュタールぞ?

「えー……」
「ついてこい。まずは情報を集めねばならぬと言ったであろうが」
「いや、あのさ、ここ2階だよ? それに門には人が……え?」

 私が窓枠に足をかけると、ミーネが呆ける。

「何度も言わせるな。私はエレオノーレ・クローネンシュタールぞ? 1人で1000人の敵を倒したこともあるんだ」

 1000人は盛ってるけど……

「いや、始祖様が剣と弓の天才ですごく強いのは知っているけど……あと、盛ってんじゃん」

 うるさいなー。
 多分、800人ぐらいはいたっての。

「いいから行くぞ」

 そう言うと、足に魔力を込め、ジャンプする。

「おー……」

 後ろのアホみたいな声を聞きながら高く飛び、2、3メートルはある塀を越えると、道に飛び降りた。

「すごいですね!」

 ミーネがふよふよと飛びながらついてきた。

「私は魔法が使えない。でも、これくらいはできる」

 私自身も魔力がなかったわけではないのだ。
 ただ、それを外に出す魔法が使えなかっただけ。
 これもまた、家族に見放された理由でもある。

「そういえば、始祖様は魔法が使えなかったって習いましたね。その代わりに他の分野はとても優れていたと」
「そういうことだ。では、情報集めに行くぞ」

 さっさと離れた方が良いだろうと思い、歩いていった。