覇王令嬢の野望


「確かにお前に似ているな……いや、同じか。お前の言っている意味がわかった」

 この部屋には同じ顔をした少女が2人いるのだ。
 もっとも、もう1人は鏡にも映らない幽霊だが。

「なんでなんですかね?」
「普通に考えれば、お前は死んだ。だからその姿なのだろう。そして、死んだお前の身体に私が乗り移っているってところだろうな」

 理由がわからないが。

「私もそんな感じがします……」

 少女がちょっとへこんだ。
 まあ、死んだわけだしな。

「お前、名前は?」
「ヘルミーネです。ヘルミーネ・クローネンシュタールです……」

 クローネンシュタール……
 同じ苗字だ。
 この名字は私と弟、それと弟の子達しかない。
 もちろん、ヘルミーネは弟の名前ではないし、甥っ子、姪っ子の名前でもない。

「隠し子……いや、301年か……」

 私の子はいないから弟の子孫ってところか……

「あのー、本当にエレオノーレ・クローネンシュタール様なんですか?」
「ああ……少なくとも、私はそう認識している。さっきまで城の寝室におり、死んだはずだ……おい、エレオノーレは何歳で死んだと聞いておる?」
「65歳で病死したと聞いています」

 合ってるな……

「そうか……ヘルミーネ、お前は皇族か?」
「一応は……陛下の姪に当たります。父は公爵です」

 爵位は貴族か。
 しかし、皇帝とかなり近いな。
 となると、こいつが死に、口元に血が付いていた理由は……

「ヘルミーネはなんで教会にいるんだ?」
「修道女なんで……」

 は?

「お前、何かしたのか? それともこの年で夫に死別されたか?」

 というか、結婚できるのか?
 どう見ても10歳くらいに見えるが……

「それは……」

 言いたくないことか……

「言え。状況がわからないんだ。何でもいいから話してくれ。このままでは何もならんぞ」
「はい……私は『厄災の子』なんです」

 厄災の子……私と同じだ。

「生まれた時に占い師に見てもらったのか?」

 昔からある風習で子供が生まれた時に占い師にどういう人間になるかを占ってもらう儀式がある。
 私が廃止したんだがな。
 誰かが復活させたか。

「はい。国に厄災を招く子と占われました。それからは別邸で……」
「もう言わなくてよい」

 迫害されたな。
 家族にも見捨てられ、いない者とされた。
 私と同じだ。
 私も元は小さな国の貴族の子だったが、厄災の子と占われ、親に子として見てもらえなかった。
 そして、ついには家を追い出され、庶民に落とされた。

「大丈夫です。別邸で暮らし、ロクに家族とも話していない生活を送っていましたが、ひと月前に父から修道女になるように言われ、ここに移り住んでいます」

 まだ修道女なだけマシか。

「洗礼は?」

 洗礼は正式に教会の人間になるという意味である。
 これをすると、身分がなくなり、家には戻れない。

「まだです。洗礼を受けられる年齢は15歳からと決まっていますので。私は10歳です」

 そこも変わっているな。
 私の時は年齢の制限はなかった。
 ただ、その5年を待てなかったんだろうな。

「そうか……ヘルミーネ、お前が知っている帝国の歴史を話せ。私が死んだ後だ」
「はい。エレオノーレ様が亡くなった後、二代目皇帝として、アルフールト様が帝位に就かれました」

 弟だ。
 ちゃんと遺言は守られたらしい。

「ヘルミーネ、敬称はいらぬ。歴史の勉強だ」
「わかりました。アルフールトが帝位に就いたのですが、ここで内乱が起きます」

 は?

「内乱?」
「ええ。各地で反乱が起きたんです。その……」
「よい。歴史の勉強だと言ったであろう」
「はい……初代皇帝であるエレオノーレは圧倒的な武力を持って、国を興しましたが、恨みも多く買っていました。さらには不満も各地であったようでエレオノーレという覇王が死んだことで一気にそれが噴出したのです」

 私の不徳の致すところか……

「それをアルフールトはどうした?」
「対話と武力の両方でこれを収めました」

 為政者としては弟の方が優秀だったかもしれんな。

「それで平和か?」
「いえ、今度は後継者争いです」
「私は太子を立てるように言ったんだがな……」

 何をしておる?

「その太子が内乱で亡くなってしまったのです」

 すまぬ、甥っ子……
 私のせいだ。

「後継者争いはどうなった?」
「政争があり、国が荒れましたが、フィランダーが三代目皇帝になりました。フィランダーは対話を重視し、内乱が終わりました」

 そうか。

「それで300年か?」
「はい。それからも内乱であったり、外国との戦争なんかがありましたが、アイゼンライヒ帝国は今日まで他国に侵されることもなく、クローネンシュタールの血筋のままです」

 ふむ……

「現皇帝は?」
「ジェローム皇帝陛下です。私の伯父に当たりますね」
「年は?」
「68歳です」

 かなりのジジイだ。

「お前の父は?」
「レナード公爵です。58歳になります」
「皇帝とレナード公爵の子の数は?」
「陛下は8人です。父は私を含め、5人」

 なるほど……

「お前、帝位継承権を持っているな?」
「一応は……ただ、私は若く、さらには女なので序列は一番下です。もっと言えば、厄災の子なので……」

 厄災の子はともかく、女の方が序列が低いわけか。
 私が始帝なのに?
 不敬と思わないのか?
 歴代皇帝より私が劣っていると?
 まあよい。

「ヘルミーネ、辛いことを言わないといけない」
「お願いします。私もこの状況を理解できていません」

 だろうな……
 ロクな教育も受けていまい。

「お前は帝位継承権を持っている。これがマズいのだ」
「どうしてでしょう? 序列は一番下ですし、誰も私が皇帝になると思っていないです」

 それはそう。

「序列は関係ない。帝位継承権を持っていることが問題なのだ。お前の父はお前を助けたったのか、邪魔に思ったのかはわからんが、その政争から外すために修道院送りにした。洗礼を受けたら帝位継承権がなくなるからな」
「それはなんとなくわかります」

 なんとなくじゃなくて、はっきりわかってほしかったな。

「私は起きた時、口から血が出ていた。そして、お前は幽霊になってる。お前、暗殺されたな」

 その言葉にヘルミーネがゆっくりと目を閉じた。