覇王令嬢の野望 ~絶対平和主義の少女に転生した最強女帝の帝国再建譚~


「ほー……」
「なんか温かいね!」

 自分の腕に教えてもらった回復魔法を使ってみるが、ミーネの言う通り、ぼんやりと温かい感じがする。
 これまで回復魔法を使ったことはないが、使われたことは何度もあるのでわかる。
 これは回復魔法だ。

「お嬢様、それでは実践です」

 ディアナはそう言うと、ナイフを取り出し、自分の指を切った。

「痛そー……」

 ミーネが引いている。
 昨日の私の方が痛かったがな。

「やってみよう」

 ディアナが指を差しだしてきたので教えてもらった回復魔法をかける。
 すると、ぼんやりと光り、ディアナの指の傷が消えた。

「お見事です」

 おー……
 これが魔法か。

「魔法を覚えた! すごい!」

 ミーネがはしゃいでいる。
 でも、私も同じくらい嬉しかった。
 ずっと魔法が使えなかったし、それでバカにされたこともある。

「すごいな」
「はい。しかし、お嬢様、魔法はここまでです」
「聖女は回復魔法だけか?」
「はい。教会の人間は回復魔法以外の魔法を覚えてはいけないという教えがあります」

 まあ、仕方がないか。
 回復魔法を使えるようになっただけありがたいと思おう。

「わかった。まあ、私には剣と弓がある」

 そう答えると、ユルゲンが戻ってきた。

「お嬢様、シスター・アルビーナがいつでも来てくれていいとのことです」

 ちらっとミーネを見る。

「昨日のシスターさんがアルビーナさんだよ」

 おばちゃんシスターね。

「わかった。ユルゲン、ディアナ、馬車が来るまで待機せよ……あ、ケーキは忘れるな」

 とても大事。

「「はっ!」」

 2人が頷いたので部屋で休むことにした。

「ねえねえ、もうここを出るの?」

 歴史の本を読んでいると、ミーネが聞いてくる。

「おそらくな。ここにいてもメリットがなく、デメリットが多い。現状、味方が2人しかおらんのだ」

 なんかそこで編み物をしているメイドと部屋の外で立っている執事。

「じゃあさ、本を持っていってもいい?」

 ミーネが本棚を指差す。
 正直、後でまた買えばいいと思う。
 しかし、ミーネには宝物なんだろう。

「ディアナ、天使が本棚の本を持っていくように言っている。そのようにせい」
「かしこまりました」

 ディアナが編み物を置き、本棚の方に向かうと、カバンに本を入れていく。
 どんどんと入れていき、明らかにカバンの容量を超えているが、あれはそういう魔法のカバンだ。
 そして、すべての本を入れ終えると、席に戻り、編み物を再開した。

「今夜の晩餐会、大丈夫かなー?」
「安心せい。万の兵士に囲まれても切り崩してやる」
「800でしょー」

 こいつ、段々と敬意がなくなっているんだよな……
 私はお前の大大大大大大大大大大大大大大伯母だぞ。

「大が多すぎー」

 ミーネがけらけらと笑った。

 その後も暇そうにしているミーネの相手をしてやりながら歴史の本を読んでいく。
 すると、ディアナが編み物を置き、部屋から出ていった。
 しばらくすると、ディアナがケーキを持ってきてくれたので食べる。

「これだ、これ。人生にはこれが必要なんだ」

 美味い。
 甘い。
 これこそが人生の幸福だな。
 ほっほっほ。

「美味しいねー。ケーキなんていつ以来だろう?」

 可哀想な奴。
 優しい私がお前の代わりにいっぱい食べてやるからな。

『お嬢様、よろしいでしょうか?』

 ノックの音と共にユルゲンの声が聞こえてくる。

「勝手に入れ。私は忙しい。もぐもぐ……」

 扉が開き、ユルゲンが入ってきた。

「お嬢様、馬車ですが、やはり20時になるようです」
「そうかい。予定通りじゃないか」
「晩餐会は19時からなのですが……」

 ふーん……まあ、夕食だからな。

「別に遅れればよい。私は夕食と親族達の語らいを楽しむために行くんじゃないんだ」
「しかし、陛下主催の晩餐会に遅れるのは……」
「そんなもんはどうとでもなる。それよりも大事なのは晩餐会後、迅速に動けることだ。内容次第では1時間で刺客が来るぞ。私は別に問題ないが、お前らは死ぬな」

 刺客は1人ではない。
 最大で13人来る。

「お嬢様のためなら……」
「あーん? お前、血の誓いをもう忘れたのか? お前の生死はお前が決めることじゃない」

 天と私が決めるのだ。

「申し訳ございません」

 ふん。
 1人で歩けって言うのか。
 馬術は得意だが、馬車の操縦なんかしたことないんだぞ。

「ディアナ、ユルゲン。勝手に死んでくれるな。お前達の死は無駄死にではなく、もっと崇高でなければならない。お前達はそこら辺の兵士ではないのだ。死ぬのは誰でもできる。どう生き、どう尽くすかを考えよ。主はいつでもお前らを見てくださっているのだ」
「「はっ!」」

 まったく……宰相と参謀と元帥と弟がいてくれれば楽なのになぁ……

「ディアナ、ユルゲン、もう護衛はいい。20時まで寝よ」
「今からですか?」
「さすがに早いのですが……」

 まだ15時を過ぎたところだしな。
 10歳の私はともかく、こいつらは寝られないかもしれない。

「今夜は勝負の時だ。寝られると思うな。とにかく、身体を休めて備えよ。私も寝る」

 ケーキも食べたし、満足だ。

「わかりました」
「それでは20時前にこちらに来ます」
「うむ。では、それで」

 2人が食器類を片付け、部屋から出ていったので私とミーネもベッドに行き、寝ることにした。