翌日、朝起きると、この日も快晴だった。
良い朝だなと思っていると、ノックの音が部屋に響く。
『お嬢様、朝でございます』
ディアナだ。
「もう起きてる」
そう言うと、ベッドにいたミーネが起き上がり、目をこする。
そして、ディアナが部屋に入ってきた。
「おはようございます」
ディアナが一礼する。
「おはよー……」
「ああ。おはよう」
ディアナとミーネの両方に答える。
「お嬢様、朝食の準備を致しますので着替えましょう」
「ああ」
私達は洗面所に行くと、顔を洗う。
そして、櫛で髪を解いてもらうと、修道服に着替えて、部屋に戻った。
すると、ユルゲンが朝食の準備をし終えていたので席につく。
「わー……なんか今日は違うね」
今日の朝食はいつものパン、サラダ、スープ、フルーツに加えて、オムレツが追加されていた。
「ふむ……美味いのう」
やっぱり違うものが良いな。
「お嬢様、これからはしっかりとした食事を作ります」
「そうせよ。あと、私は甘いものが好きだぞ」
「15時頃にケーキをお持ちします」
良いな。
「うむ」
朝食を食べると、食後の砂糖たっぷりのコーヒーを楽しむ。
ようやく忠義というものをわかってくれたようだ。
「お嬢様、剣と弓を調達しました」
片付けを終えたユルゲンが剣と弓をテーブルに置く。
弓は普通だが、剣は豪華な装飾が施されたショートソードだ。
「早いのう……」
「昨夜、あれからすぐに動きましたので」
今日でいいのに。
「馬車は?」
「申し訳ございません。頼みこみましたが、どうしても今日の夜になるそうです。20時までには来る予定です」
まあ、仕方がないか。
「わかった。しかし、豪華な剣だな。こんな装飾はいらんぞ」
邪魔なだけ。
「いえ、お嬢様は聖女です。少なくとも、周りにそう示す必要があります」
んー?
「理由を言うてみい」
「お嬢様の帝位継承権は序列で14位。一番下です。さらには厄災の子ということをすでに世間が知っております。これから上がっていくためにはそれ以上のインパクトが必要になります」
ふむ……
「それが聖女か?」
「はい。主の声を聞いた聖女。これ以上のインパクトはないでしょう」
聖女ねぇ……
ガラになさ過ぎて、笑えるな。
私に聖女の要素なんてないのに。
「お嬢様、ユルゲンの宣伝戦略も一理あります。しかしながらまずはお嬢様の方針をお聞かせ願いたいです」
今度はディアナだ。
「方針とは?」
「お嬢様には帝位に就いていただけなければなりません。そうしないと、この国は滅びます」
滅びはせんがな。
ただ、今の国力は維持できないし、周辺国から侵略は受ける。
「私は帝位に就く。これは決定事項だ」
「もちろんです。そこでですが、お嬢様が帝位に就く方法は2つあるかと思います。1つは現皇帝ジェロームを倒し、帝位に就くことです」
不敬どころか、反逆罪になってもおかしくない発言を平気でしたな……
「まあ、それが一番手っ取り早いな」
もっとも厳しいがな。
どう殺しても反発が避けられないからだ。
間違いなく、国が割れる。
もちろん、それらも倒していくが、いったいどれだけの犠牲が出るか……
そして、その国力を戻すのに一体どれだけの時間がかかるか……
「もう1つは単純に帝位継承権を1位にし、太子となることです」
それが一番、周囲が納得する。
だが、その道は険しい。
「まあ、そんなところかのう……」
「いかがなさいます?」
いかがって言われてもね。
「急くな、ディアナ。私はまだ親に捨てられ、修道院で暮らす小娘に過ぎぬ」
「しかし……!」
「落ち着け。急いでも良いことなんかない。動かなくてもよい時は静。動く時に迅速にすれば良いのだ。今は静だ」
「かしこまりました」
ディアナが一礼する。
「お嬢様、今後はどうされるのですか?」
またユルゲンに戻った。
「まあ、待て。お前達、父に会ったか?」
「いえ」
「もう会う気もないですね」
父から給料をもらっている分際で薄情だな。
まあ、私はもっと重い血を与えたが。
「父に余計なことは言うなよ」
「わかっています」
「あの者は自分が次の帝位に就くんだという野心を抱いております」
うーん、私の一族だなぁ……
実に素晴らしい。
「そやつは無視せい。皇帝に子がおる時点で芽はない」
「しかし、そうなると、お嬢様にも芽が……」
その子だからな。
私のように子がいなかったらあり得るが、普通は自分の子を跡継ぎにする。
「それはなりません」
わかっておるわ。
「今日の晩餐会に出席するか……」
まあ、それで話を聞こう。
現皇帝や帝位継承権を持つ一族の人となりを知らぬ。
「やはりご出席されるのですね。しかし、問題が一つあります。招待状を持っていません」
招待状?
「持っておるのは父か?」
「はい。お嬢様は死ぬはずですので渡しておりません」
はっはっは。
この2人を生かしておいて正解だったかもしれん。
狙っていたのは自分達のくせに平気で棚に上げた。
実に面白い。
「お嬢様、私が取りに行きましょうか? 向こうは油断しているので忍び込んで盗むのは造作もありません」
ディアナが提案する。
「招待状などいらぬ。私が行くことに意味があるのだ。そこは問題ない。それよりもこの地を離れることも検討せねばならぬ。その準備をせい」
「帝都から離れるのですか?」
「おっても何もできぬ。何よりも私が生きていることを知れば、これから毎日のように刺客が来るぞ。教会の人間の迷惑になろう」
撃退するのも面倒だ。
夜は寝たい。
「かしこまりました。すぐに準備を致します」
ディアナが頷いた。
「ユルゲン、父のところに行き、私が危篤だと伝えよ」
「かしこまりました。しかし、何故?」
うんうん。
まずは頷く。
疑問はその次だ。
「今日一日……晩餐会の時まではお前達が暗殺に成功したと思わせればよいのだ。毒を飲んだが、意外にも抵抗している。ただ、今夜が山である。そう伝えよ」
「かしこまりました」
ユルゲンが一礼する。
「よろしい。すぐに動け。今夜の晩餐会次第では一刻を争うことになる」
「「はっ!」」
2人は頷き、部屋を出ていった。

