覇王令嬢の野望


「ユ、ユルゲン!」

 ディアナがあっさり話したユルゲンを睨む。

「隠すことでもないだろう」

 その通りだ。

「ケンカをするな。誰の前だと思っているのだ?」
「も、申し訳ございません」

 まったく。
 ディアナは謝ってばかりだな。

「その晩餐会に私に来てほしくないわけだ。この厄災の子を」

 落ち込むな、ミーネ。

「おそらくは……」

 ハァ……

 私はお茶を飲み干すと、ナイフを手に取る。

「お前達、今の世をどう思う?」
「どう思うと言われましても……」
「漠然としすぎます」

 なら漠然と答えればいいのだ。

「私は今日、ここを出て、帝都を見てきた」
「え?」
「いつの間に……」

 ダメだ、こいつら。
 本当に私の見張りか?

「私がここを出た方法などどうでもよい。問題は町が荒れていたことだ。スラムなんかあったぞ」
「それは……」
「近頃は政治が不安定なのです」

 そうそう。
 そういうのを聞きたかった。

「お前達は何故、そうなっているのかわかるか?」
「政治が良くない方向に行っているからかと……」
「やはり税金では? 近年は上昇傾向にありましたが、今年は特に上がりました」

 ふむふむ……

「お前達は忠義者だな。はっきり言え。上が不安定だから下が不安定になるのだと」
「そ、それは……」
「そ、そんなことは……」

 ビビり共が。
 この私に刃を向ける度胸があるのに上の愚痴を言う度胸はないのか?

「皇帝陛下は高齢。それなのに次の太子を決めていない」
「太子は長子のヴォルフラム殿下では?」

 知らん。
 誰だ?

「ユルゲン、太子の発表はしているのか?」
「いえ、正式にはしていません」

 バーカ。

「では、そのヴォルフラムは太子ではない。太子を決めていないのに明日、帝位継承権を持っている者を呼んで晩餐会? アホか」
「お嬢様、さすがにお言葉が過ぎます」
「皇帝陛下ですよ?」
「お前達が密告でもするのか?」

 そう言うと、2人が黙った。

「アホなんだよ。もし、明日、太子を決めるなら全員は呼ばない。太子になる者だけを呼ぶ。全員を呼ぶというは全員に可能性があるのだ。だから父は私を殺すように命じたのだ」

 それくらいわかれ。
 いや、考えないようにしているだけか。

「お嬢様も可能性があると?」
「ゼロではない。明日の晩餐会に行けばだがな」
「行かれるので?」
「それは明日決める」

 別にどっちでもいいからな。

「お嬢様は太子を決めてないことが政治の不安定に繋がっていると?」

 ユルゲンが聞いてくる。

「他にあるのか? もし、今、陛下が死ねば残った14人の帝位継承権を持っている者達が争いを始めるぞ。それは帝国中に広がり、下手をすると、国が14に分かれる。アイゼンライヒ帝国の終わりだ。それを貴族、商人はわかっているから経済が滞り、こんな感じになるのだ」

 使えぬ皇帝だ。
 68歳で何を遊んでいるのだ?

「では、どうすれば?」

 おー、ディアナが良い質問をしたぞ。

「簡単だ。実に簡単だ。才ある者が上に立てば良いだけだ。それが節理」
「才ある者……」
「それは……」

 2人がじーっと見てくる。

「私だ。このヘルミーネ・クローネンシュタールが次の皇帝となる」
「お、お嬢様が……」
「いったい何故? お嬢様はそういうことに興味を示されない方でした」

 人が代わっているからのう……
 まあ、そこを言う必要はないか。

「昨日、どこぞのメイドに毒を盛られ、生死をさまよっていると、天使の声が聞こえた」
「天使……」
「そういえば、先程も天使と……」

 うん。
 この方向は悪くないな。

「このままではアイゼンライヒ帝国は終わる。立って国を正せと言われたのだ。争いのない平和な国を築けとな」
「おー……主の言葉を聞いたのですか!」

 え?
 天使だってば

「それで人が代わられたように感じられるわけですか!」

 代わってるんだよ。
 まあ、いいか。

「ディアナ、ユルゲン、私は立つ。たとえ、この身が滅びようとも、国のために、民のために戦う」
「「ま、まことですか?」」

 そう言ってるだろうに。

「ああ。そして、先程、天使がお前達を許せと言った。だからお前達の罪は見なかったことにする」

 私は殺すべきって思うんだけどなぁ……

「主に感謝します……」
「聖女様……」

 2人が床にひれ伏した。

『え? 本当にこの方向で合ってる?』
「え? さあ?」

 予想外の反応だったので隣を見たが、ミーネも首を傾げていた。

「ディアナ、ユルゲン、立て」

 まあいい。
 当初の予定通りに進めよう。

「はい」
「はっ」

 2人が立ち上がる。

「ディアナ、ユルゲン、お前達に国を想う気持ちがあるか? 人々の平和を守る気概があるか?」
「「あります!」」

 ふむ……雰囲気っていうのは怖いものだのう……絶対にないだろ。

「そうか……では、それを証明せよ」

 そう言うと、ナイフを手に取り、左腕に当てる。

「お嬢様!」
「何を!?」
「ノーレ!?」

 3人が驚くが、関係ない。
 私は腕を切り、2つのグラスに押し当てる。
 すると、血が滴り落ち、グラスを真っ赤に染めた。
 そして、血をグラスに注いでいくと、半分くらいになったところで腕をどける。

「お嬢様、回復を!」
「後だ。それよりもディアナ、ユルゲン、お前達が本当に国を憂い、民を救わんとするならば私に忠誠を誓え。私のために生き、私のために死ぬという絶対の忠誠を誓うのだ」

 生きることどころか、死ぬことすら自由にさせない。

「血、血の誓い……」
「それをせよと?」

 何を言っている?

「天使はお前達を許した。私に忠誠を誓い、死ぬのならばそれを飲め。己が可愛いのなら出て行け。そして、二度と私の前に姿を現すな」

 そう言うと、2人がじーっとグラスを見て、息を飲んだ。

「「………………」」

 2人の沈黙が重い。
 ミーネも固唾を飲んで見守っている。

「クローネンシュタールの血は……厄災の子の血は重いぞ? 確実に毒だ。だから飲んで死ね。もしくは、去って堕落して生きよ」

 そう言うと、2人がグラスを手に取った。

「聖女の血は毒ではありません」
「主はお嬢様を選んだのです」

 ほう?

「ディアナ、ユルゲン、私のために死ね」

 それがお前達にはふさわしい。

「「アイゼンライヒ帝国に栄光あれ!」」

 2人はグラスに入った血を一気に飲み干す。
 そして、その場に跪いた。

「ヘルミーネ様に絶対の忠誠を誓います」
「ヘルミーネ様のために死にます」

 そうだ。
 それが正解だ。
 国家のため、民草のため、そして、私のために死ね。

「ディアナ、腕」
「はっ」

 ディアナが切った腕を回復魔法で治してくれる。

「ユルゲン、明日、剣と弓、それと馬車を調達せよ」
「かしこまりました」

 ユルゲンが頷く。

「ふむ。では、下がってよい。私はもう寝る」
「「かしこまりました」」

 2人は片付けをすると、一礼し、部屋から出ていった。

「ミーネ、聖女って何だと思う?」
「わかんない……」

 わかんないよな……
 さすがに聖女と呼ばれたことはない。
 まあ、あいつらが納得しているならそれでよいか……

「寝るか」
「うん」

 よくわからないが、ミーネの意見を採用したからこうなった。
 私は絶対に殺しているし、生かすという選択はしない。
 これが今後、どういうことになるかはわからないが、この方向で行くしかない。