「推し」の待ち受け画面をご本人に見られました

「行くなよ」



思い切って発した言葉に自分でも驚いている。

夏なのに風邪をひいて熱まで出したから、頭がぼんやりしているせいか。



「先輩……?」



遥斗の声に意識を向けようとするが、熱で疲弊した体に睡魔が襲ってくる。

抗えずにそのまま眠りについた。







中学3年生の12月。クリスマスが近くなって、校内のカップルが予定を立て始めている頃。

俺は1人で図書館にいた。

今の俺とは真逆で、誰からも注目されることもなく、いつも長い前髪で顔を隠していた。

誰かと目を合わせずに済むように。

別に、何かトラウマがあるとかいうことではないけれど、単純に人と話すのが苦手だった。

静かな図書館で1人本を読む時間は俺にとって1日の中で1番好きな時間だ。

でも、今日は違った。1個下の後輩が何かとこちらを伺っている。

後輩…?知り合い…?あんな子、部活にいたか?

身長は小さめ、顔だけ見たら女子かと見間違えるくらいぱっちり二重の目。第一印象は、可愛い、だ。

人を探しているふうにキョロキョロしていたから、目が合い、駆け寄ってきた。



「あの…理科室ってどこですか」



迷ったのか。ここの中学は市内でも大きな敷地を持つことで有名で、3年生になった俺でもいまだに迷うことがある。

わあ…可愛い。じゃなくて、健気に聞いてくれた後輩に何を思っているんだ俺は。

でも、ほんとうに近くで見るとより目が大きく見えるし、肌も綺麗だし…



「あの、先輩…」

「あ、ごめん。理科室…だよね。2階の調理室の奥だよ。」



見とれていたのにはバレてないはず。前髪あったし。

その瞬間、相手いた窓から12月の冷たい風が吹き込んできた。

長い前髪がふわっと顔から離れる。咄嗟に手で押さえようとしたが間に合わなかった。



「先輩…」

「ごめん、前髪、こんな長いの変だよね…」



絶対に変な先輩だと思われた。

落ち込みそうになりながら前髪を戻していると、突然手首を掴まれた。



「え」

「あ!ごめんなさい!」



無意識?混乱で驚きながらフリーズしていたら、後輩が慌てて手を離した。



「ありがとうございました!」



勢いよくお辞儀をして出口へつまさきを向けた。

もう一度本に集中しようとしたら、後輩が戻ってきた。

何か忘れ物か?



「あの…初対面の先輩にこんなこと言うのもあれなんですけど…前髪、ないほうがいいと思います。先輩、お顔かっこいいですから。」



今までずっと話してているときに目が合わないと言われてきた俺にとって、この一言は衝撃だった。



「あ…うん。」

「では!」



もう一度ぺこっとお辞儀をして今度こそ図書館から出て行った。

『一目惚れ』俺にそんなことが許されるのだろうか。

でも、俺の心臓はこの可愛い後輩によって確実に射抜かれてしまった。







友達の情報によると、あの後輩は成瀬遥斗という一個下らしい。

おおらかな印象は『遥』という漢字の通りだ。

俺の初恋、俺に似合わないこんな甘酸っぱい言葉で形容していいのか。でも確かに、俺はこのとき初恋をした。

初恋の相手が男だったというのは自分でも衝撃を受けたけど、男だったからではなく、初めて俺のことをまっすぐ見つめてくれた成瀬くんだったから好きになったんだ。

クリスマスも過ぎ、寒い冬も過ぎ、高校入学の日がやってくる。

成瀬くんに言われた通り、ずっと長かった前髪を切った。

家族には急にどうしたって心配されたけど、高校デビューだよ、とか適当に誤魔化した。

あと一年もすれば、成瀬くんも入学してくる。

そのとき、俺だって気づいてくれるかな。







高校に入学してからはや2年。俺は順調に高校生活をしていた。

前髪がなくても相手の目を見て話せるようになったし、バスケ部に入部したから身長も伸びた。

なぜか、女子にも人気(?)が出てきたらしい。でも俺にはそんなもの必要ない。

俺の初恋はあの日から進んでいない。成瀬くん、俺の人生に明かりを灯してくれた人。

あの人に俺の気持ちを伝えたい。振られてもいい、恋人になれなくてもいい、感謝と、この行き場のない気持ちを伝えたい。

初めてあってからずいぶん時間も経っているし、第一、俺は外見が変わり過ぎていて気づいてもらえないかもしれない。

でも、そうでも、絶対にこの感謝を伝える。








そしてある日、奇跡なるものは起きた。

直近の試験が悪く、落ち込んでいた俺は、四限をサボって昼休みまで屋上で過ごした。

時折吹く春のかぜが心地よくてまどろみながら横になっていると、

 ガチャ

昼休みのはじめ、屋上に誰かが入ってくる音がした。

屋上は常に開放されているから、よく昼食を食べにくる生徒で賑わう。

今日はあんまり来てほしくないんだけど。何かと会うと騒がれる俺は、俺だと気づかれないようにハンカチで顔を隠した。

足音からすると、屋上に来たのは1人か。



ん?こっちに向かってくる?



寝ている俺に気づいたのか、足音はこっちに向かってきていた。

お願いだから話しかけないで今は。

その瞬間、俺の意思に反して温かい春の風が吹いてきて、俺のハンカチが飛んだ。



一瞬、何が起こったのかわからなかった。

『感動の再会』という言葉が正しいのかわからないけれど、目の前に成瀬遥斗がいた。

身長は伸びて(小さいほうだけど)、髪型も少し変わっていたけれど、確かに、確実に、あの成瀬遥斗。成瀬くんだった。

中学生の頃の初恋、俺の人生を変えてくれた人、ずっと、ずっと話したかった、気持ちを伝えたかった人。



「せっ、先輩?!わ、鷲宮先輩?!どうしてここに、、、、」


なんで名前知ってるんだ?あの時、俺は名前を言わなかった。

言えなかったんだ。



「ん?お前、誰だ?」


混乱し過ぎて咄嗟に口から出た言葉は自分でもびっくりするくらいそっけなかった。



「わ!ごめんなさい!突然目の前にいてびっくりしましたよね!!すみません、お邪魔しました!!」



成瀬くんはそう言って落とした弁当とスマホを拾い上げ、駆け足で屋上から出て行ってしまった。


「何やってんだよ…俺…」


中学生ぶりの再会、話す隙はあった。

でも、想い続けt人を目の前にして冷静にものを考えられるほど、俺は理性的じゃなかったみたいだ。

終わった。そう思った。

初恋は実らないのがいいんだよ、って姉ちゃんも言ってたっけ。

ごちゃごちゃな理由をつけて屋上に1人、俺は俺を説得した。