「推し」の待ち受け画面をご本人に見られました

「…3丁目の、あった。」


先輩が渡してくれてた住所どおりの場所に着くと、鷲宮と書かれた立派な一軒家が建っていた。


 さすが、鷲宮先輩、家も綺麗…


ご両親の手がしっかり加えられているのか、庭の花たちも元気に咲いている。



「高校1年生の成瀬です。わし…律先輩のお荷物を届けにきました。」


インターホンを押して言う。全員鷲宮か、と思って咄嗟に下の名前で読んだが不意にも頬が熱くなった。

律先輩って呼んだらびっくりされるかな。

初めて声に出した好きな人の名前に胸がきゅっとなる。恋って、こんな感じなんだ。


「律のお友達ー?今鍵開けたからどーぞー」


間延びした声がインターホンから聞こえる。そいえば、お姉さんいるって言ってたっけ。

ガチャ、と言う音と共に開いた門から鷲宮宅に足を踏み入れる。


 17年間鷲宮先輩が育ってきた家…


小さい鷲宮先輩を想像して(ほころ)ぶ頬を引き締めようとする。







「ありがとねー律の荷物持ってきてもらっちゃって」

「いえいえ、いつもお世話になっていますので」

「あ、あた、律の姉の鷲宮鈴桜(りお)。まじで彼女じゃないからね!安心してね〜」

「…はい(?)」



先輩にお姉さんがいるのは知ってたから全然びっくりも心配もしないけど…



「もーなかなか友達とか作ったりしないのに、突然、なんか、すごい良い子がいるから水族館行ってくる!って言ってー、ほんと、突然彼氏?!友達の前に?!ってびっくりしちゃ…」


彼氏…?なんのこと?


お姉さんのマシンガントークに振り落とされなように言葉を理解しようとしていると、



「姉ちゃん、あんま遥斗に変なこと吹き込まないでもらえる?」



階段から足音が聞こえたかと思えば、黒マスクに緩い部屋着、という完全おうちモードの鷲宮先輩がリビングに来ていた。




「鷲宮先輩…」

「あ、ごめんごめん!起こしちゃった?あたし買い物行ってくる!お二人でごゆっくり」



ひとしきり話終わると、お姉さんはバタバタと家を出ていった。

なんだか元気なお姉さんだなと思いつつ鷲宮先輩の方に向き直った。


「鷲宮先輩、これ、お友達から預かってきました。」

「おう、ありがと…ごほごほ…」



目の前に推し、すなわち現在は好きな人、そしてお姉さんが出かけてからこの家には2人きり。目の前で先輩が俺だけを見ている。広い家に、2人きり。

こんな少女マンガみたいなシチュエーション、ありかよ…

俺の理性はどこまで持つのか、いや、そもそも風邪ひいてるし…



「先輩、お部屋で寝てたらどうですか…」



考え抜いて出した言葉がこれだ。なんとか思いやって言ったつもりなんだけど。


「うん。お前も来る?」

「え?」


今、なんとおっしゃいました?いやいや、普通にね、看病するからだよね?お姉さんいないしね?

煩悩をかき消して先輩の部屋へ上がった。

先輩の部屋は2階にあって、朝日がよく当たりそうな東側だった。俺の想像通り先輩の部屋はきちんと整頓されていた。(床にはバスケ部のユニフォームとか転がっていたけど。)



「じゃあ、俺、寝るから。」

「あ、はい。おやすみなさい。」



何ちょっとがっかりしてるんだよ。先輩は風邪ひいてるんだから。



「えっと…俺帰りますね。そろそろ、お姉さんも帰ってくるだろうし…」

「行くなよ」

「え?」

「だから、まだいろって…」



立ちあがろうとしたら手を掴まれた。解けないくらい、しっかり。水族館の帰り際でされたのより強い。

先輩……それはずるいです。