王子の俺よりも、さらにイケメンな転校生がやってきました

「王子!これ運んでくれない?」
クラスの学級委員の一ノ瀬真希がそう言ってくる。俺は笑顔を作って、
「いいよ。どこまで?」
と聞く。すると、一ノ瀬は、
「職員室の隣の教材室まで!ごめんね!」
「いいよいいよ」
俺は手をぶんぶん振って荷物を受け取る。その様子を見ていた女子から鋭い視線を感じる気もするが。
俺は荷物を持って、教材室に向かう。
向かう途中、すごくイケメンな人が職員室の前に立っていた。
見たことがないくらいイケメンだ。
(…っていうか、こんな人いたっけ?)
俺がちらちらとその人のことを観察していると、
「あ、体育祭の王子」
と言われた。俺はその人のことを全く知らない。なのに、王子と呼ばれていることを相手に知られている。
(こわっ)
俺は怖くなってその場を逃げ出した。
(知らない人だよ…?!なんで知らない人が俺のあだ名を知ってるの…?!)
俺は急いで教材室に荷物を置く。そして、早足で教室に戻る。途中で一年生の子に、
「王子先輩!後でお話しできますか…?」
と聞かれるが、今の俺はそれどころじゃない。急いで教室に戻って、状況を整理したい。
「ごめんっ。後でね」
そう言って立ち去る。女子たちからは、
「王子どうした…?」
「今日ノリ悪い…?」
などと言われている。俺は心の中で何回も謝罪する。
教室に入ると、友達が俺の机を占領していた。机の上にどかっと座っている。俺は、そいつの腕を掴んで、
「邪魔だから」
と言う。すると、相手に結構響いたようで、
「はい…」
と俺をうるうるの瞳で見つめて去っていった。
俺は自席で頬杖をつきながら先ほどの出来事について考える。
(マジで誰だ…?)
問題は向こうがなんで俺のことを知っているかだ。
俺が思考を巡らせていると、
「考える王子もかっこいい…」
という一言が聞こえてきた。
俺はその一言を無視して考える。
あの人のことは本当に知らないのか?
実は結構昔に仲が良かった人とか?
でも王子と呼ばれ始めたのは中学生の時だ。中学生のとき、あんな人いたか?
俺が悩んでいると、先生が教室に入ってくる。
「みなさん、おはようございます」
先生の挨拶にみんなは声を揃えて返事する。すると、先生は、
「今日は転校生がいます。皆さんはもう知っているかもしれませんが……。入ってきてください」
先生が呼ぶと、長身の男子が入ってきた。さらさらの髪の毛が揺れている。イケメンだ。
(俺よりもイケメンじゃね…?!)
俺は驚きで固まる。女子の目はきらきらと輝いている。
「こんにちは。隣の県から引っ越してきました。七瀬怜です。二ヶ月前、この学校の体育祭を見て、転校先をこの学校にすることに決めました。よろしくお願いします」
よく見たら朝『王子』と話しかけてきた人だった。
彼は丁寧な挨拶をして、深くお辞儀した。その態度に女子の視線はとらわれている。
すると、先生が、
「うちのクラスは男子が一人多いんだよな…。今一人なのは一条か。七瀬、一条の隣でいいか?」
と言った。
(よくないしっ!!!)
俺は心の中で叫ぶ。しかし、俺の願いは届かない。七瀬はすでに俺の隣に座っている。
「よろしくね、王子さん」
七瀬は俺のことを見て、そう言う。俺はそっぽを向いて、
「おうよ…」
と返す。
(こいつとは絶対仲良くなれねー)
俺は心の中でそう愚痴を吐いた。

気づくと、朝のホームルームは終わっていた。
俺は先生の話を一切聞いていなかった。
というか、聞いていられるほどの余裕がなかったのだ。ホームルームが終わると、案の定、女子が群がってくる。
「七瀬さん、好きな食べ物とかは?」
「なんかアイドルとかやってた?」
女子の質問に七瀬は軽々と答えている。すると、俺の友達が、
「七瀬さんってイケメンだよな。一条にも匹敵するんじゃね?」
と余計なことをいった。
「じゃあ、一条は王子だから…、キング!」
女子が言った。
「あー確かに。一条より色気増し増しだしね笑」
と女子たちは乗り気だ。次第に男子も乗り気になってきている。
「じゃあ、王子とキングだな!」
俺たちはコンビを組まされている。勝手に。俺は好きじゃないのに。
「そういうの、無理だから」
俺は冷たく言ってその場をさる。女子たちからは批判の声が聞こえてきているが、全部無視だ。
俺は俺の隠れ家へと向かう。俺だけが使用を許可されている場所。そこは…、
「ふぅ」
屋上だ。
風がふわっと吹く。俺はその流れに体を任せる。髪の毛がふわふわと広がる。
太陽が柔らかく照らしてくる。
(気持ちいなぁ…)
俺がその気持ちよさに埋まっていると、睡魔がどっと押し寄せてくる。
俺はそれに抗えなかった。
(王子は俺だけでいいのに…。キングなんて…)
いらないと呟こうとしたが、呟く前に意識が途切れてしまった。

起きると、さっきまで東側にあった太陽が南川に移動している。
「俺は何時間寝ていたんだ?」
「三時間くらいかな」
ここには俺しかいないはずなのになぜ返事が返ってくる?
俺がぱっと起き上がると、そこには七瀬怜がいた。
「七瀬!」
「やあ、累、おはよう。俺の膝枕気持ちよかった?」
そう言われて、俺はさっきまで自分が寝ていたところを見つめなおす。そこには胡座をかいた七瀬の足があった。
「っ!」
俺は吐き気がしてきた。こうも嫌いな奴にここまでされるなんて…。
俺が悶えていると、
「嬉しかった?累、すやすや寝ているからさー」
そう言われて、俺の嫌悪感は頂点へ達する。
「累って呼ぶな、気持ち悪い。膝枕もやめろ」
俺の口から出たのは想像以上に低かった。今まで誰にも出してこなかったような低い声。
七瀬はへらへらとしている。
「どうして…?」
七瀬は瞳をうるうるさせて尋ねてくる。
(お前のことが嫌いだからだよ!)
俺は心の中で言う。それはもちろん七瀬に届かない。届けるつもりもないが。俺はそこまで意地悪じゃない。
「あ…もしかして!」
「なんだよ」
七瀬が両手をパチンと叩いてそう言ったもんだから、俺はどんな言葉が放たれるのか知りたくなる。
「俺が累よりかっこいいから?!そういうこと?!王子がいるからキングはいらないって感じかな!」
七瀬がそういう。
確かにそう思っていた部分もあるが、七瀬のことを俺よりもかっこいいとは一度も思っていない。
ていうか、思いたくもない。
「そんなこと、思っていない…」
俺の口から出た言葉はあまりにも弱々しかった。
「じゃあ、こうしよっか!毎日かっこいいと言われたポイントをノートに書いて交換して読み合う!交換日記みたいなのやろう!そしたらどっちがかっこいいのかわかるよ!」
七瀬がそう笑顔で言った。
俺の七瀬に対する嫌悪感はさらにます。
「なんでそんなことしなきゃいけないんだよ…」
俺がそう呟くと、七瀬はずいっと顔を近づけてきて、
「じゃあ、俺のほうがかっこいいってことでいいのかな?」
その一言を聞いて、俺は瞬時に良くないと思う。
「よくない」
そういうと、七瀬はニコッと笑って、
「じゃあ、交換日記しよう」
と言った。正直、やりたくない気持ちでいっぱいだったが、仕方ない。
(なんとしてでも俺がかっこいいって証明しなきゃ)
「そろそろ教室戻ろう」
七瀬にそう言われて俺は立ち上がる。俺は一人で教室に戻るつもりだった。なのに、
「累、一緒に戻ろう!」
と腕を掴んでくる。俺は嫌だという表情を全力で出す。それは七瀬に効かない。かすりもしない。
俺は諦めて一緒に戻ることを決める。教室ではすでに授業が始まっていた。
教室の扉を開けて、入ると、
「王子×キングコンビで登場?!」
「嘘っ!やばすぎ!」
女子がキャアキャアと騒ぎ出す。俺は苦笑いを浮かべながら席につく。すると、先生がズカズカと近づいてきて、
「何しているんですか!」
俺はしまったと思う。この先生は女の人だけど、一番怖いのだ。すると、七瀬がすっと立ち上がる。
「先生、すみませんね」
と色気を爆発させて言う。クラスの女子も先生も失神しそうだ。
すると、七瀬はこちらをチラッと見て、ニヤッと笑ってくる。どうやら先を越されたようだ。
俺も負けたくないという気持ちが溢れてきて、本気を出す。
「先生、俺からも…。ごめんなさい」
自分の持てる色気を全面に溢れ出させてそう言う。すると、女子は七瀬のときよりも失神しそうだ。
「王子…!」
「王子の色気…えぐい…」
俺の言葉は女子や先生にグサグサと突き刺さったらしい。
(うまくいった…)
俺はほっとすると同時に、席につく。
すると、七瀬が、
「これ、交換日記のノート。こっちが俺用でこっちが累用」
と言ってノートを渡してきた。授業中なのに堂々とした行動だ。
俺は嫌々ノートを受け取る。
すると、七瀬がずいっと顔を近づけてきて、
「明日、ファミレスで一日の成果を話そ?」
と言ってきた。俺はこんなやつとファミレスに行くのが嫌だったので、
「学校で渡し合えばいいだろ」
とぶっきらぼうに返事をする。
わざわざファミレスに行かなければいけない理由はなんなんだ?
「学校じゃ、人いるしさ…。気まずいから、ね?ね?」
七瀬は何度もそう言ってくる。そして、上目遣い。あえてそうしているのかもしれないが、俺にはそんなの通用しない。
しかし、俺は七瀬と会って一日目にして、この男は粘着質だと分かったのだ。
「…わぁったよ」
俺はイラッとしつつもそう返事をした。七瀬はやったーとか言っているが、俺は全然嬉しくない。
(こいつとやっていけるのか…?)
俺の中には疑問が渦巻いている。

次の日、俺は行きたくもないファミレスに連れて行かれて、ノートを見せろとせがまれていた。
俺は嫌だと断っている。
どんなことを書けばいいのかわからず、内容が本当にゴミなのだ。
「見せてよ〜」
七瀬の粘着質が発動している。俺は背中がゾワっとする感覚を覚える。頭の中でこれ以上見せないのは危険だと警鐘が鳴っている。
俺はカバンの中からノートを取り出し、ポイっと投げ渡す。
すると、七瀬も俺に渡してきた。
俺がノートに書いた内容は、
『黒板を消している女子を助けた。体育の用具の片付け、100メートル走。』
だ。だいぶ適当だが、これで許されるのだろうか。
七瀬は俺の書いたことを見て、ニヤニヤと笑っている。
(キッショ…)
思わず口から出そうになった言葉を、俺はグッと飲み込む。
「累って、足速いの?」
唐突に投げかけられた質問に俺は、
「なんでそんなこと聞くんだよ」
と言う。俺は確かに足が速い方だとは思うけど…。
「だって、このノートに『100メートル走』って書いてあるもん」
「俺、陸上部のエースだからね」
俺がドヤ顔でそう言うと、七瀬は顔を輝かせて、
「すごい!すごい!100メートル何秒なの?」
と聞いてきた。たくさん褒めてくれるところはすごくいいと思う。
「タイムは言えない」
そう言うと、七瀬はしゅんとしてしまった。俺的には別にいいけど。
俺は七瀬のノートを開く。そこには三つのことが書いてあった。
『先生や女子たちに鼻血を吹かせた。勉強できるとこ、家まで送ったとき』
と。俺はそれを見て、
「おい、家まで送ったときってどういうことだよ…?」
と聞くと、七瀬は、
「歓迎会を開いてもらってね。それで遅くなったから送った!」
と笑顔で言った。
(初日でそこまで仲良くなるなんて、ちょっと…)
また良くない言葉が出かけたので、グッと飲み込む。俺がこの学年になったとき、親睦会をみんなで開いたが、女子を送ることなんて一切しなかった。
俺は下にある自分の足を見つめる。わけもなく。すると、
「累、一緒にゲーセン行こ〜」
と誘ってきた。俺がゲーセンを好きなのをなぜ知っているのだろうか。
そして、こいつとゲーセンなんて行きたくないという嫌悪感が迫ってくる。
「俺、予定あるんだけど…」
(嘘だけど、仕方ない!)
俺がそう言うと、七瀬は俺の顔をじっと見つめて、
「嘘ついているでしょ」
と言った。俺はぎくっとして固まる。
「俺、嘘を見極めるのがめちゃくちゃ得意で、小さい頃から結構当てていたんだよね」
と言った。七瀬の目は本気なので、俺は諦める。
俺は仕方なく、七瀬と一緒にゲーセンに行くことになった。
(こいつと二人とかつれぇ……)
そして、こんな性格なのに、どうしてイケメンなんだろうという疑問も出てくる。
女子の目は輝いていたし、先生までも……。
そして、そいつが今、俺の手を引っ張ってゲーセンに連れていっている。二日目ですることじゃない。
嫌だなという感情がそこはかとなく溢れてくる。でも、その感情の裏に何かがある気がする。
それはなんなんだろう…。
「あっ!俺の行きつけのゲーセン!」
七瀬が俺の手を引っ張って、指差す。
そこには、最近できたばかりなのか、綺麗なゲーセンがあった。設備や建物、すべてが新しい。
そして、至る所にクレーンゲームがある。俺の目はそれらに吸い込まれてゆく。
「…やっぱり、累は好きなんだ」
七瀬が何かを呟いた。
「どうかしたか?」
俺がそう聞くと、七瀬は体の前で手を振って、
「なんでもないなんでもない」
と言った。俺はそれ以上気にすることなく、ゲーセンに入った。一番最初に入って、目に止まったのは、妹が好きなキャラクターのぬいぐるみだ。
(これ、取ったら喜ぶだろうなぁ…)
そう思って、俺は100円玉を投入する。
「ぴこん」
いつもの音と共にクレーンゲームがスタートする。いい感じの位置にアームを動かして…
「きたっ」
俺がそう言った瞬間、景品取り出し口にぬいぐるみが落ちてきた。
「よし!」
俺が喜んでいるところを七瀬が横でにこにこと見つめている。
俺はすぐさまバッとその場を離れる。にこにこと笑みを浮かべた七瀬が気持ち悪いのだ。背中がゾワゾワする。
「なんでこんなに可愛いの取ったの?」
七瀬はそう言った。単純に不思議に思っているぽかった。
「妹がこのキャラクター好きだから」
俺がそう言うと、七瀬は驚いた顔をした。
「累って、他人にあまり興味なさそうなのに、優しいんだね」
と言った。
(興味ないって失礼だぞ)
俺は心の中でツッコむ。でも、優しいと言われて、少し嬉しい気持ちがある。こんなに純粋な"優しい"を聞いたのは久しぶりだからだ。
今まで聞いてきた"優しい"は俺を揶揄うものばかりだった。少しもそう思っていないような、そんな感じ。
「ありがとな…」
俺はプイッとそっぽを向いて、お礼を伝える。
「じゃあ、こっちもやろ!」
七瀬が手を引いて別の台に連れて行く。俺は呆れながらもついて行く。
俺は初めて七瀬に嫌悪感を抱かなかった。