役目を終えたはずの巫女でした ― 選ばれなかった時間の続き ―

ゼフィーリア行きが決まったのは、静かなやり取りのあとだった。

兄であるアレクシオスは、必要なことだけを簡潔に伝えた。滞在は一時的なものであり、王宮内に部屋が用意されていること。体調面も考慮した判断であること。それ以上の説明はなかった。

エリアナは理由を尋ねなかった。説明されていない部分があることは分かっていたが、聞くべきではないと判断した。知らないままでいるほうがよい場面があることを、彼女は理解していた。

エリアナには慢性的な喘息がある。日常生活に支障が出るほどではないが、空気や体調の影響は受けやすい。環境が安定している場所で過ごすという判断は、無理のないものだった。

これまで、エリアナは慈善事業や孤児院の整備など、表に出ない形での支援に関わってきた。皇族としてできる範囲の実務だった。だが最近、それらはすべて止められている。理由は示されなかったし、エリアナも問いただすことはしなかった。できなくなった、という事実だけを受け止めている。

随行については、兄と短く相談した。

長期滞在ではなく、外交の場に出る予定もない。

その条件であれば、自国のメイドを連れていかないほうがよい、という結論になった。

受け入れ国の体制に任せるほうが、余計な手間を増やさずに済む。

準備は簡素だった。荷物は最小限にまとめられ、移動の行程も整えられていた。警護についても、必要な配置が取られていることだけが伝えられた。エリアナはそれ以上を確認しなかった。

出発前、兄と言葉を交わした時間は短かった。

「発作は、最近起きていないんだな?」

「大丈夫ですって。お兄様、それ何回目ですか?」

エリアナがそう言うと、兄はわずかに眉をひそめた。

「念のためだ」

「分かっています」

そう答える声は、柔らかかった。

「向こうで無理をするな。静かに過ごせ」

「ええ。分かっています。大丈夫ですよ」

一拍置いて、エリアナは言葉を足した。

「お兄様こそ、無理をなさらないでください」

それを聞いて、兄は少しだけ目を伏せた。

「……お前が言うな」

そう返しながらも、声音は穏やかだった。

多くを語らなくても、互いに心配していることは分かっている。

エリアナにとっては、それで十分だった。

エリアナは自分の立場を理解している。守られる側であり、配置される側だ。そのことに違和感はない。求められているのは、静かに過ごすことと、与えられた環境に適応することだ。

馬車が動き出すと、エリアナは窓の外に視線を向けた。

ゼフィーリアでの滞在は、特別な役割を担うためのものではない。ただ、今できる範囲で、無理のない形で過ごす。それだけを考え、エリアナは移動に身を委ねた。