役目を終えたはずの巫女でした ― 選ばれなかった時間の続き ―

報告は、短かった。

生存。
拘束。
処遇は、未定。

前宰相は、まだ生きている。
生存の確認が取れる可能性は、高くはなかった。
それを承知のうえで、送り込んでいる。

本件の密偵は、優秀だ。
必要な情報を持ち帰ることに、成功している。
発見されたことは、想定の範囲内。
それでも、生存を確認できた――それで十分だ。

糸を引いている者までは、割れていない。
誰の命令なのか。
そこまでは、掴ませていない。

――――――――――

アレクシオスは、書面から視線を上げた。

机の上には、王都とその周辺を示した地図が広げられている。
主要な行政の位置。
軍の配置。
その間に、主要な人物の名前が書き込まれていた。

「……やはり、時間は残されていないな」

前宰相が生きているという事実は、
現体制への完全な服従を、許さない。

内心では反発しながらも、
粛清を恐れ、しぶしぶ従っている者たち。
彼らにとって、
前宰相の生存は、
「戻る先が、まだ消えていない」という合図になる。

皇帝も、密偵の存在は把握している。
だが、疑っているのは外だ。
圧力をかけている小国。
あるいは、別の勢力。

よもや、国内から崩されようとしているとは、考えていない。

――――――――――

だが、それだけでは足りない。

沈黙を続けている者たちは、確かに揺れている。
接触は、少しずつ増えている。
話を、最後まで聞く者も出てきた。

それでも、決定打にはならない。
粛清の危険を冒してまで、動く理由が、まだ足りない。

アレクシオスは、別の書面に目を落とす。

粛清を受けた者たちの名が、並んでいた。
すでに職を追われ、
あるいは、監視下に置かれている者たち。

彼らとは、すでに協力体制にある。
戻る場所がない以上、迷いはない。
必要なのは、身の安全だけだ。

クーデターの瞬間、
彼らの身柄を確実に確保する。
それが、最優先事項だった。

――――――――――

ゼフィーリア、
カスティア王国、
ルメリア公国には、

密偵の派遣と同時に、
身柄の安全確保に関わる役割を依頼してある。

表立っては動かない。
だが、退路は用意する。

一時的な保護。
情報の遮断。
追跡を断つための手配。

目的は、政権を奪うことではない。
その後の国を、壊さないことだ。

アレクシオスは、静かに息を吐いた。

――――――――――

口が堅く、
粛清に飲み込まれず、
成功したあとも、欲を出さない。

そういう者にだけ、
計画の骨子を伝えてきた。

そして、選ばせている。
どちらにつくのかを。

準備は、進んでいる。
だが、まだ終わらない。

沈黙している者たちを、切り崩す。
一気には、いかない。
少しずつだ。

それでも、ここを越えなければ、次はない。

アレクシオスは、地図を閉じた。