役目を終えたはずの巫女でした

一週間が過ぎた。
タンバは木製の歩行器を使い、
病室の外まで移動できるようになった。

歩く、というより、
体重を移す練習に近い。
左脚は、遅れてついてくる。
常に意識が必要だった。

二週目に入ると、
歩行距離は少しずつ伸びた。

――そして、停滞した。

進まない日が続く。
腰の痛みが、夜に残った。

翌朝。
日勤の看護師は、迷わず負荷を落とした。

「今日は、戻します」

タンバが苛立つ。
「せっかくやったのに」

桜は、短く答えた。
「今日は、我慢の日です」
「無理をしない日ですね」

三日後。
痛みは落ち着き、
歩行距離は元に戻った。

停滞は、失敗ではなかった。
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三週目に入ると、
タンバは、
杖を使わず、短距離を歩けるようになっていた。

歩幅は小さい。
足取りは、まだぎこちない。
だが、転倒の危険は高くない。
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退院前カンファレンス。

桜は、医師が作成した指示書に基づき、
看護師と介護人に向けて、
事実だけを並べた。

「杖なし歩行は可能」
「歩容はまだ不安定」
「軽作業のみ許可」
「重作業、脚立、不整地は不可となります」

必要な確認が終わり、
カンファレンスは短く締められた。
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人がはけたあと、
桜は、タンバのもとへ向かった。

タンバは、
もう少し良くなるかもしれないという思いを抱えたまま、
悔しそうに黙っていた。
だが、三週間前のような絶望はなかった。

「家でも、動作訓練は続けてください」

桜は、淡々と続ける。

「毎日でなくていいです」
「でも、やめないでください」
「立ち仕事は、短時間から」
「無理をした日は、必ず休む」
「痛みやしびれが強くなったら、その日は止めてくださいね」

タンバは、少し考えるようにしてから、口を開いた。
「……まだ、良くなりますか」

桜は、すぐには答えなかった。

「言い切ることはできません」
「でも」
「続ければ、今より動く可能性は残りますから」

退院は決まった。
歩きは、まだぎこちない。
それでも、杖はいらない。

回復期は、
ここで終わりではない。

“続ける”という選択だけが、
次の回復をつくっていく。