ゼフィーリア、ルメリア、カスティア。
三国からの協力は、すでに取り付けていた。
特に、ゼフィーリアの騎士たちは戦闘能力が高い。
なるべく殺さず、制圧する。
それは、この国のその後を考える上でも、
遺恨を最小限に抑えるために欠かせない条件だった。
アレクシオスは、机の上に広げた名簿から視線を上げ、
静かに息を吐いた。
――ここまでは、想定内だ。
だが、成功には程遠い。
レオニダス・ヴァルク・アグライアに不満を抱きながらも、
粛清を恐れ、
表では忠誠を誓い続けている者は多い。
命令に従い、頭を垂れ、
内心では歯を食いしばっている者たち。
問題は、そこだった。
彼らを、どれだけ切り崩せるか。
恐怖から引き剝がし、
こちら側へ引き入れられるか。
半年前から現在までに、
すでに「事実上、切り捨てられた者」たちとは、
秘密裏に密約を交わしている。
粛清され、
役職を奪われ、
表舞台から追い出された者たち。
だが、彼らは生きている。
生きている限り、
選択は残る。
アレクシオスは、名簿の端に記された日付に目を落とした。
――残された時間は、少ない。
早くしなければ、かぎつけられる。
思考は、自然と過去へ滑り落ちる。
王位に就く前のレオニダスを、
アレクシオスは、嫌いではなかった。
不器用で、まっすぐで、
自分の考えを疑わないところも含めて、
そういう人物だと、思っていた。
父――カイウス・アグライアが王位にあった頃、
少なくとも、アレクシオスの目には、
レオニダスが強い劣等感を抱いているようには映らなかった。
父は、息子の自分から見ても優秀だった。
だがそれは、
比べられるものではなく、
ただ「兄は兄だ」と、
受け止められていたように見えた。
すべてが変わったのは、
カイウス・アグライアが死んでからだ。
六十歳。
病死。
あまりにも突然だった。
清廉で、判断が早く、
王としての器を疑われることのなかった男。
その死のあと、
レオニダスは王位についた。
そして、
比べられるようになった。
――前王なら、こうした。
――前王の時代なら、違った。
誰も、口にはしない。
だが、空気は、確かにそう語っていた。
自分の考えが正しい。
そう信じることは、
やがて疑念を許さなくなり、
反対意見を敵と見なすようになった。
叔父は、
壊れてしまった、
という表現の方が近かった。
粛清が始まった。
少しずつ。
だが、確実に。
反対派を排し、
独裁の色を濃くし、
小国へ圧力をかけ、
国民への税を、段階的に引き上げていく。
恐怖は、秩序を生む。
だが同時に、
修復できない歪みを、静かに蓄積させる。
どれを取っても、
国を維持するための選択とは言えなかった。
アレクシオスは、ゆっくりと目を閉じた。
粛清を選ぶ理由は、
個人的な感情ではない。
このままでは、
国がもたない。
それだけだった。
それでも――
レオニダスを、嫌いにはなれなかった。
むしろ、
王位につく前の彼を知っているからこそ、
完全な断絶だけは、選べなかった。
王位は、退いてもらう。
だが、命までは奪わない。
可能なら、
その後も、
国のために力を貸してもらいたい。
どれほど甘い考えだと、
分かっていても。
この国は、まだ壊れてはいない。
だが、放置すれば、
戻れないひびが入りつつある。
――だからこそ。
今、動かなければならない。
味方を増やす。
沈黙している者を、恐怖から解放する。
血を最小限に抑え、
それでも、王を引きずり下ろす。
その覚悟だけは、
もう揺らがなかった。
三国からの協力は、すでに取り付けていた。
特に、ゼフィーリアの騎士たちは戦闘能力が高い。
なるべく殺さず、制圧する。
それは、この国のその後を考える上でも、
遺恨を最小限に抑えるために欠かせない条件だった。
アレクシオスは、机の上に広げた名簿から視線を上げ、
静かに息を吐いた。
――ここまでは、想定内だ。
だが、成功には程遠い。
レオニダス・ヴァルク・アグライアに不満を抱きながらも、
粛清を恐れ、
表では忠誠を誓い続けている者は多い。
命令に従い、頭を垂れ、
内心では歯を食いしばっている者たち。
問題は、そこだった。
彼らを、どれだけ切り崩せるか。
恐怖から引き剝がし、
こちら側へ引き入れられるか。
半年前から現在までに、
すでに「事実上、切り捨てられた者」たちとは、
秘密裏に密約を交わしている。
粛清され、
役職を奪われ、
表舞台から追い出された者たち。
だが、彼らは生きている。
生きている限り、
選択は残る。
アレクシオスは、名簿の端に記された日付に目を落とした。
――残された時間は、少ない。
早くしなければ、かぎつけられる。
思考は、自然と過去へ滑り落ちる。
王位に就く前のレオニダスを、
アレクシオスは、嫌いではなかった。
不器用で、まっすぐで、
自分の考えを疑わないところも含めて、
そういう人物だと、思っていた。
父――カイウス・アグライアが王位にあった頃、
少なくとも、アレクシオスの目には、
レオニダスが強い劣等感を抱いているようには映らなかった。
父は、息子の自分から見ても優秀だった。
だがそれは、
比べられるものではなく、
ただ「兄は兄だ」と、
受け止められていたように見えた。
すべてが変わったのは、
カイウス・アグライアが死んでからだ。
六十歳。
病死。
あまりにも突然だった。
清廉で、判断が早く、
王としての器を疑われることのなかった男。
その死のあと、
レオニダスは王位についた。
そして、
比べられるようになった。
――前王なら、こうした。
――前王の時代なら、違った。
誰も、口にはしない。
だが、空気は、確かにそう語っていた。
自分の考えが正しい。
そう信じることは、
やがて疑念を許さなくなり、
反対意見を敵と見なすようになった。
叔父は、
壊れてしまった、
という表現の方が近かった。
粛清が始まった。
少しずつ。
だが、確実に。
反対派を排し、
独裁の色を濃くし、
小国へ圧力をかけ、
国民への税を、段階的に引き上げていく。
恐怖は、秩序を生む。
だが同時に、
修復できない歪みを、静かに蓄積させる。
どれを取っても、
国を維持するための選択とは言えなかった。
アレクシオスは、ゆっくりと目を閉じた。
粛清を選ぶ理由は、
個人的な感情ではない。
このままでは、
国がもたない。
それだけだった。
それでも――
レオニダスを、嫌いにはなれなかった。
むしろ、
王位につく前の彼を知っているからこそ、
完全な断絶だけは、選べなかった。
王位は、退いてもらう。
だが、命までは奪わない。
可能なら、
その後も、
国のために力を貸してもらいたい。
どれほど甘い考えだと、
分かっていても。
この国は、まだ壊れてはいない。
だが、放置すれば、
戻れないひびが入りつつある。
――だからこそ。
今、動かなければならない。
味方を増やす。
沈黙している者を、恐怖から解放する。
血を最小限に抑え、
それでも、王を引きずり下ろす。
その覚悟だけは、
もう揺らがなかった。
