カーテンが受け止めきれなかった光が、部屋中を照らす。
太陽が昇り切り、ポカポカと暖かいお昼頃。
部屋に置かれた温度計を見れば、今日が月曜日であることがわかった。
空腹に呼び起こされ、重たい瞼をこじ開けながら、スマホだけを持ち、リビングへと移動する。
お父さんもお母さんも当たり前だが、とっくに仕事へと出かけていて、燦々と輝く太陽光だけがリビングに来た俺を歓迎してくれた。
キッチンカウンターに置かれた猫の前髪クリップを着けながら、未だ覚醒することのない思考で、なんとなく冷蔵庫を開ける。
ふわっとハムの香りが鼻をくすぐり、サンドイッチがラップに包まれているのを発見した。
「うわ、サンドイッチだ」
好物でもあるサンドイッチの存在に思わず歓喜の声が漏れたと同時に、頭も食スイッチが作動したらしく、わかりやすくクリアになった。
左手にサンドイッチを持ち、もう片方の手でスマホとコップを器用に運ぶ。
我ながらこういう怠惰なことにだけは器用だなと、心のなかでツッコミをいれ、ダイニングテーブルに深く腰掛けた。
ここは俺の定位置で、テレビが一番見えやすい場所だ。
だが、最近は黒く覇気の無い姿しか見ていない。
その理由は明白で、平日の昼間には俺好みのテレビ番組はやっていないことを、最近になって知ったからだ。
ラップを解きながらそんなことを考える。
少し前の俺なら、この時間は制服を着て、友達と「だるい」なんて言いながら購買で昼飯を調達していただろう。
今になってこんな記憶は所詮、半月前の、煌びやかで美化されたものだが。
ここまで記憶を巡らせると、体がどこに行けばいいのかわからず、でも走らなければならないと言いたげな、焦燥感を訴えてくるまでがセットだ。
わかってるよ。
焦ってるんだよな。分かってる。
こうして気持ちを落ち着かせて、自分を見せかけの納得で黙らせる。
たった半月ほどで手に入れた今の自分との対話方法だ。
くわっと大きく口を開き、レタスのちぎれる音が聞こえる。
「んん!うめっ」
一人分の声が静かなリビングに響いた。
それから五分も経たずして、みるみるうちに手の中にあったサンドイッチが姿を消す。
サンドイッチが腹に収納され、幸福感に満ち溢れたため、次は私服に着替える。
うちは、何時に起きてもいいがパジャマから着替えることだけは強制されている。
どこに行くでもなく私服に着替え、提出物に向き合うよう意識を呼び起こす。
自室のデスクと向き合って、昨日友達が届けてくれたクリアファイルを開くと、担任からのメッセージ付箋と、提出期限が書かれた紙が出てきた。
「毎日マメだな、、」
わざわざ添えられた担任からのメッセージに、ほんの少しの罪悪感と尊敬を浮かべる。
デスクを軽く整え、提出物を片付けていくと、知らぬ間に外が落ち着きを取り戻していた。
昼間の燦々とした暖かさはもう薄れていて、オレンジ色の空が遠くの方まで広がっている。
ベッドに膝をついて乗り、カーテンを閉める。
ベージュのカーテンが部屋の印象を変え、より落ち着いた印象を与えた。
デスクに置いてあるスマホを手に取り、時刻が表示されると、友達がプリントを届けにくる頃だった。
ほぼ毎日届けに来てくれる友達には、コレクションとして集めていたゲームが「気になる」と言っていたので、お礼と称して毎週末にゲームをしている。
これは俺自身も楽しいからお礼になっているのかはわからないけれど。
ささっと前髪クリップをつけ直し、出迎えられる準備をする。
すると、5分経たずしてインターホンの音が来客を知らせた。
スマホをデスクに置き、聞こえもしないのに「はーい」と声に出し自室を飛び出す。
トコトコ爪先で小走りして、インターホンも見ずに玄関を開け放つと__。
「ぇ、だ、どちら様ですか...?」
友達が待っていると思ったのだが、目の前には金髪で目つきが悪い男が立っている。
でも、俺が通っている高校と同じ制服だし、指定のバッグの差し色からして、一年生だ。
頭の中で、状況を整理するも思いつくことは一つだけ。
【こいつは家を間違えている】
きっと近くに友達の家があって、その家と間違えているのだろう。
ここは、優しく教えてあげないとな。めっちゃ睨まれてるけど。
玄関を少し押して外に出ると、微かに距離を取られたように感じた。
(なんだ?)なんて思ったけれど、今はびっくりするほど睨まれている視線から逃れたい。
「あの......気づいてると思うんですけど、、家間違ってませんか?」
物腰柔らかく伝えるも、金髪の一年は不思議そうに俺の顔を見ながら、想像通りの低い声を響かせた。
「......黛紫苑さんっすよね?」
淡々と告げられた自分の名前に頭がフリーズする。
間違いじゃないんかーーーい!!!!
え?俺の家に用事があって来たの???
じゃあ、なんでこんな睨まれてんの???!!!
脳内の俺がどんなに騒ぎ散らかしても、目の前の金髪は特に何を言うわけでもなく、後頭部を気まずそうに摩りながら表札を見ている。
俺も気まずいけれど、ここで同じように黙ってしまったら、この地獄が永遠に続く気がするから、さっさと要件聞いて終わろう。
「えーっと、はい。じゃあ、俺に用事がある感じですかね...?」
質問をして相手の様子を伺っていると、さっきまで気まずそうだったのに、俺の質問を認識して答えようと動き出した途端、再び鋭い目付きに狙われる。
ねぇ。なんで???
「......そうっす。プリント届けに来たんすけど」
クリアファイルをこちらに向けて、見せるようにひらひらと宙を仰ぐ金髪。
ぶっきらぼうに吐き捨てられた言葉と、左手をポケットに入れ、重心が定まっていない態度に、俺の脳内は見事に荒れまくった。
なんだこの態度は!!!
プリント届けてくれてどうも!!!それはありがとう!!!
でもなんだその態度!!!!!
一応先輩な????
後輩の手を煩わせてしまってるけど先輩な?????
てか、祐希はどうした!!!!?????
暴れ回っている脳内の俺とは裏腹に、ただ金髪とふよふよ動くクリアファイルを微笑みながら見つめ続けている現実世界の俺。
「......ありがとう。わざわざごめんな。その、、いつも届けてくれる俺の友達はどうしたか知ってるか?」
受け取ろうと手を伸ばして近寄ると、サッと顔を背けながら半分投げるように手渡し距離を取ってくる金髪。
ブチっ。
こいつの態度、いちいちムカつく。
「さ、佐須見先輩っすよね。今日体調不良で休みらしいっす」
祐希休みだったのか。
てっきり届けるのがもう嫌になったのかと思った、、。
こっそり胸を撫で下ろし、再びお礼を言って家に入ろうと、口を開く。
「わざわざ代わりにありがとな。助かったよ」
「いえ。全然大したことしてないっす」
「え......」
何?こいつ案外いいやつなわけ......?
「めんどくさかったですけど、俺しかいなかったんで」
「............」
一瞬でも期待した俺がバカだったわ。
体がじわっと熱くなるのを感じる。
こいつなんでこんな一々ムカつくわけ?!
笑顔を崩さず、最後まで感謝の言葉を述べ、玄関がしっかりと閉まったことを確認する。
「......何あいつ???」
ついに声に出してしまった言葉を、しっかりと耳で聞き取った。
届けてくれてありがたいのに、感謝よりも態度の悪さが俺の思考を埋め尽くしている。
自室まで無駄に足音を立てて戻り、苛立ちのままクリアファイルをデスクに叩きつけようとすると、スマホの画面がぴかりと光った。
【今日腹下して学校いけなかったー】
【午後はサボりだけど☆】
【今日分は明日届けるー】
祐希からのメッセージが次々入り、後輩が届けてくれたことを伝える。
明日は祐希が来てくれるのか。
胸になんとなくの温かさを感じながら、落ち着いた思考で散らかったデスクを片付けた。
はずだったのに......
「っす」
「ん?」
一日経ったはずだが、眩しい金髪が鋭い目つきで立っている。
身を乗り出してキョロキョロ辺りを見るけれど、祐希の姿はどこにもない。
「祐希をどこにやった、、」
「佐須見先輩は今日デートらしいっす」
「は?!」
は????
デート????
祐希は俺よりも......大事な人が、、、俺には祐希しかいないのに!!!
「昨日俺が行ったって担任から聞いたらしくて、予定ないなら代わってくれって言われました」
「あーそう。ありがとうな」
「あの、、具合悪いんすか?」
「いや、俺は今捨てられた痛みを味わってるから」
「は?」
今日はこいつじゃないと思ったのに。
プリントを受け取って、トボトボ帰ると、金髪もしれっと家の方向へと歩いていった。
晩御飯を食べて、風呂に入って、自室でゴロゴロしていると、祐希から数件メッセージが来た後、デート中に撮れた可愛い彼女集が送られてきた。
............なんとなく嫌な予感がする。
そう思いながら眠りについたが、嫌な予感の大半は当たらないと言うしな。
インターホンが鳴り、俺は恐る恐る玄関を開ける。
「ちわ」
「ねぇ、なんで今日も君なの?」
「ありがとうな......」と伝えると、睨みながら「知らないっす」と返された。
そりゃそうか。
わざわざ寄り道して来てくれてるんだもんな。
そもそもの前提を失礼なまでに忘れてしまっていることに気がつき、頭を下げてもう一度お礼を言う。
目線を下げたことで、金髪の右手が紙で切れてしまっているのが目に入った。
頭を上げるのと同時に近づき、手を取ると、びっくりするほど冷たい。
「え、今寒いか?四月下旬だよ」
「い、いや、寒くはないっす」
「そう」
確かに顔の血色はいいし、寒いわけではないのだろう。
再び手を見つめ、「絆創膏持ってくるから待ってな」と家の中に入る。
特に返事が返ってこないことに苛立ちを感んじることもなくなってきた。
人間とは三日も続けば適応していくのかもしれない。
相変わらず掴みどころがわからねぇ。
俺のこと嫌いなのかと何度も過ってしまう態度だが、毎日届けに来てはくれるし。
頭の中がぐるぐるとこんがらがってきた所で、金髪の元に戻る。
「お待たせ。家帰ったらちゃんと消毒か、手洗うかしろよぉ?」
絆創膏を巻きつけ、金髪の顔を見ると、感謝という顔ではなく死ぬほど攻撃的な顔をされていた。
なんだこの野良猫は。
そっと離れ、考える。
三日連続で来てくれてるんだから、祐希みたいにお礼が必要だよな。
なんでか俺の頭上辺りを睨みつけている金髪に、いざという時には断れる余白を作るよう、口角をあげ明るく提案をしてみる。
「あのさっ!祐希にはプリント届けてくれてるお礼で新作のゲーム貸してるんだけど、お前はなっ......」
「猫カフェ行きたいっす」
言い切るよりも先に伝えられた言葉に脳の処理が追いつかない。
ただ、金髪を見つめることしかできずにいると、金髪はもじもじ気まずそうに頬を掻いた後、「じゃしす......」とよく分からない挨拶をしてそそくさ帰っていった。
「なにあいつ」
あんなに掴みどころのないやつと一日外出とか、俺にできるのか!?
太陽が昇り切り、ポカポカと暖かいお昼頃。
部屋に置かれた温度計を見れば、今日が月曜日であることがわかった。
空腹に呼び起こされ、重たい瞼をこじ開けながら、スマホだけを持ち、リビングへと移動する。
お父さんもお母さんも当たり前だが、とっくに仕事へと出かけていて、燦々と輝く太陽光だけがリビングに来た俺を歓迎してくれた。
キッチンカウンターに置かれた猫の前髪クリップを着けながら、未だ覚醒することのない思考で、なんとなく冷蔵庫を開ける。
ふわっとハムの香りが鼻をくすぐり、サンドイッチがラップに包まれているのを発見した。
「うわ、サンドイッチだ」
好物でもあるサンドイッチの存在に思わず歓喜の声が漏れたと同時に、頭も食スイッチが作動したらしく、わかりやすくクリアになった。
左手にサンドイッチを持ち、もう片方の手でスマホとコップを器用に運ぶ。
我ながらこういう怠惰なことにだけは器用だなと、心のなかでツッコミをいれ、ダイニングテーブルに深く腰掛けた。
ここは俺の定位置で、テレビが一番見えやすい場所だ。
だが、最近は黒く覇気の無い姿しか見ていない。
その理由は明白で、平日の昼間には俺好みのテレビ番組はやっていないことを、最近になって知ったからだ。
ラップを解きながらそんなことを考える。
少し前の俺なら、この時間は制服を着て、友達と「だるい」なんて言いながら購買で昼飯を調達していただろう。
今になってこんな記憶は所詮、半月前の、煌びやかで美化されたものだが。
ここまで記憶を巡らせると、体がどこに行けばいいのかわからず、でも走らなければならないと言いたげな、焦燥感を訴えてくるまでがセットだ。
わかってるよ。
焦ってるんだよな。分かってる。
こうして気持ちを落ち着かせて、自分を見せかけの納得で黙らせる。
たった半月ほどで手に入れた今の自分との対話方法だ。
くわっと大きく口を開き、レタスのちぎれる音が聞こえる。
「んん!うめっ」
一人分の声が静かなリビングに響いた。
それから五分も経たずして、みるみるうちに手の中にあったサンドイッチが姿を消す。
サンドイッチが腹に収納され、幸福感に満ち溢れたため、次は私服に着替える。
うちは、何時に起きてもいいがパジャマから着替えることだけは強制されている。
どこに行くでもなく私服に着替え、提出物に向き合うよう意識を呼び起こす。
自室のデスクと向き合って、昨日友達が届けてくれたクリアファイルを開くと、担任からのメッセージ付箋と、提出期限が書かれた紙が出てきた。
「毎日マメだな、、」
わざわざ添えられた担任からのメッセージに、ほんの少しの罪悪感と尊敬を浮かべる。
デスクを軽く整え、提出物を片付けていくと、知らぬ間に外が落ち着きを取り戻していた。
昼間の燦々とした暖かさはもう薄れていて、オレンジ色の空が遠くの方まで広がっている。
ベッドに膝をついて乗り、カーテンを閉める。
ベージュのカーテンが部屋の印象を変え、より落ち着いた印象を与えた。
デスクに置いてあるスマホを手に取り、時刻が表示されると、友達がプリントを届けにくる頃だった。
ほぼ毎日届けに来てくれる友達には、コレクションとして集めていたゲームが「気になる」と言っていたので、お礼と称して毎週末にゲームをしている。
これは俺自身も楽しいからお礼になっているのかはわからないけれど。
ささっと前髪クリップをつけ直し、出迎えられる準備をする。
すると、5分経たずしてインターホンの音が来客を知らせた。
スマホをデスクに置き、聞こえもしないのに「はーい」と声に出し自室を飛び出す。
トコトコ爪先で小走りして、インターホンも見ずに玄関を開け放つと__。
「ぇ、だ、どちら様ですか...?」
友達が待っていると思ったのだが、目の前には金髪で目つきが悪い男が立っている。
でも、俺が通っている高校と同じ制服だし、指定のバッグの差し色からして、一年生だ。
頭の中で、状況を整理するも思いつくことは一つだけ。
【こいつは家を間違えている】
きっと近くに友達の家があって、その家と間違えているのだろう。
ここは、優しく教えてあげないとな。めっちゃ睨まれてるけど。
玄関を少し押して外に出ると、微かに距離を取られたように感じた。
(なんだ?)なんて思ったけれど、今はびっくりするほど睨まれている視線から逃れたい。
「あの......気づいてると思うんですけど、、家間違ってませんか?」
物腰柔らかく伝えるも、金髪の一年は不思議そうに俺の顔を見ながら、想像通りの低い声を響かせた。
「......黛紫苑さんっすよね?」
淡々と告げられた自分の名前に頭がフリーズする。
間違いじゃないんかーーーい!!!!
え?俺の家に用事があって来たの???
じゃあ、なんでこんな睨まれてんの???!!!
脳内の俺がどんなに騒ぎ散らかしても、目の前の金髪は特に何を言うわけでもなく、後頭部を気まずそうに摩りながら表札を見ている。
俺も気まずいけれど、ここで同じように黙ってしまったら、この地獄が永遠に続く気がするから、さっさと要件聞いて終わろう。
「えーっと、はい。じゃあ、俺に用事がある感じですかね...?」
質問をして相手の様子を伺っていると、さっきまで気まずそうだったのに、俺の質問を認識して答えようと動き出した途端、再び鋭い目付きに狙われる。
ねぇ。なんで???
「......そうっす。プリント届けに来たんすけど」
クリアファイルをこちらに向けて、見せるようにひらひらと宙を仰ぐ金髪。
ぶっきらぼうに吐き捨てられた言葉と、左手をポケットに入れ、重心が定まっていない態度に、俺の脳内は見事に荒れまくった。
なんだこの態度は!!!
プリント届けてくれてどうも!!!それはありがとう!!!
でもなんだその態度!!!!!
一応先輩な????
後輩の手を煩わせてしまってるけど先輩な?????
てか、祐希はどうした!!!!?????
暴れ回っている脳内の俺とは裏腹に、ただ金髪とふよふよ動くクリアファイルを微笑みながら見つめ続けている現実世界の俺。
「......ありがとう。わざわざごめんな。その、、いつも届けてくれる俺の友達はどうしたか知ってるか?」
受け取ろうと手を伸ばして近寄ると、サッと顔を背けながら半分投げるように手渡し距離を取ってくる金髪。
ブチっ。
こいつの態度、いちいちムカつく。
「さ、佐須見先輩っすよね。今日体調不良で休みらしいっす」
祐希休みだったのか。
てっきり届けるのがもう嫌になったのかと思った、、。
こっそり胸を撫で下ろし、再びお礼を言って家に入ろうと、口を開く。
「わざわざ代わりにありがとな。助かったよ」
「いえ。全然大したことしてないっす」
「え......」
何?こいつ案外いいやつなわけ......?
「めんどくさかったですけど、俺しかいなかったんで」
「............」
一瞬でも期待した俺がバカだったわ。
体がじわっと熱くなるのを感じる。
こいつなんでこんな一々ムカつくわけ?!
笑顔を崩さず、最後まで感謝の言葉を述べ、玄関がしっかりと閉まったことを確認する。
「......何あいつ???」
ついに声に出してしまった言葉を、しっかりと耳で聞き取った。
届けてくれてありがたいのに、感謝よりも態度の悪さが俺の思考を埋め尽くしている。
自室まで無駄に足音を立てて戻り、苛立ちのままクリアファイルをデスクに叩きつけようとすると、スマホの画面がぴかりと光った。
【今日腹下して学校いけなかったー】
【午後はサボりだけど☆】
【今日分は明日届けるー】
祐希からのメッセージが次々入り、後輩が届けてくれたことを伝える。
明日は祐希が来てくれるのか。
胸になんとなくの温かさを感じながら、落ち着いた思考で散らかったデスクを片付けた。
はずだったのに......
「っす」
「ん?」
一日経ったはずだが、眩しい金髪が鋭い目つきで立っている。
身を乗り出してキョロキョロ辺りを見るけれど、祐希の姿はどこにもない。
「祐希をどこにやった、、」
「佐須見先輩は今日デートらしいっす」
「は?!」
は????
デート????
祐希は俺よりも......大事な人が、、、俺には祐希しかいないのに!!!
「昨日俺が行ったって担任から聞いたらしくて、予定ないなら代わってくれって言われました」
「あーそう。ありがとうな」
「あの、、具合悪いんすか?」
「いや、俺は今捨てられた痛みを味わってるから」
「は?」
今日はこいつじゃないと思ったのに。
プリントを受け取って、トボトボ帰ると、金髪もしれっと家の方向へと歩いていった。
晩御飯を食べて、風呂に入って、自室でゴロゴロしていると、祐希から数件メッセージが来た後、デート中に撮れた可愛い彼女集が送られてきた。
............なんとなく嫌な予感がする。
そう思いながら眠りについたが、嫌な予感の大半は当たらないと言うしな。
インターホンが鳴り、俺は恐る恐る玄関を開ける。
「ちわ」
「ねぇ、なんで今日も君なの?」
「ありがとうな......」と伝えると、睨みながら「知らないっす」と返された。
そりゃそうか。
わざわざ寄り道して来てくれてるんだもんな。
そもそもの前提を失礼なまでに忘れてしまっていることに気がつき、頭を下げてもう一度お礼を言う。
目線を下げたことで、金髪の右手が紙で切れてしまっているのが目に入った。
頭を上げるのと同時に近づき、手を取ると、びっくりするほど冷たい。
「え、今寒いか?四月下旬だよ」
「い、いや、寒くはないっす」
「そう」
確かに顔の血色はいいし、寒いわけではないのだろう。
再び手を見つめ、「絆創膏持ってくるから待ってな」と家の中に入る。
特に返事が返ってこないことに苛立ちを感んじることもなくなってきた。
人間とは三日も続けば適応していくのかもしれない。
相変わらず掴みどころがわからねぇ。
俺のこと嫌いなのかと何度も過ってしまう態度だが、毎日届けに来てはくれるし。
頭の中がぐるぐるとこんがらがってきた所で、金髪の元に戻る。
「お待たせ。家帰ったらちゃんと消毒か、手洗うかしろよぉ?」
絆創膏を巻きつけ、金髪の顔を見ると、感謝という顔ではなく死ぬほど攻撃的な顔をされていた。
なんだこの野良猫は。
そっと離れ、考える。
三日連続で来てくれてるんだから、祐希みたいにお礼が必要だよな。
なんでか俺の頭上辺りを睨みつけている金髪に、いざという時には断れる余白を作るよう、口角をあげ明るく提案をしてみる。
「あのさっ!祐希にはプリント届けてくれてるお礼で新作のゲーム貸してるんだけど、お前はなっ......」
「猫カフェ行きたいっす」
言い切るよりも先に伝えられた言葉に脳の処理が追いつかない。
ただ、金髪を見つめることしかできずにいると、金髪はもじもじ気まずそうに頬を掻いた後、「じゃしす......」とよく分からない挨拶をしてそそくさ帰っていった。
「なにあいつ」
あんなに掴みどころのないやつと一日外出とか、俺にできるのか!?

