Scene 1
廃病院で「記憶」を取り戻してから、一週間が経った。
次の満月——2024年5月22日まで、あと三週間。
その時、春野さんたちは「存在」として戻ってくる。
でも、それは約束ではない。
私たちが本物の場所を作れた時だけ。
「それ」の言葉が、頭から離れない。
『形だけの場所だったなら、記憶だけが残り、存在は消えます』
だから、準備をしなければ。
本当に、誰でも受け入れられる場所を。
私と蒼太は、放課後に図書室で作戦会議をしていた。テーブルの上には、ノートとスマホが広げられている。静かな空間に、ページをめくる音だけが響いている。
「問題は、どうやって学校全体に受け入れ体制を作るかだ」
蒼太が、ノートに書き込みながら呟いた。ペンを走らせる音が、規則正しく刻まれる。
「二年B組が戻ってきた時、また同じように『存在しないクラス』扱いされたら意味がない」
「そうだね……」
私は視線を落とし、唇を噛んだ。確かに、それが一番の問題だ。
「でも、どうすればいいんだろう。『消えたクラスが戻ってくる』なんて、誰も信じないよ」
「だから、まず信じてもらう必要はない」
蒼太は顔を上げた。眼鏡の奥の瞳が、真剣な光を宿している。
「『完璧じゃなくていい』『本当の自分を見せていい』——そういうメッセージを、学校全体に広げる。そうすれば、二年B組が戻ってきた時、自然に受け入れられる土壌ができる」
「でも、どうやって広げるの?」
「SNSだ」
蒼太はスマホを操作して、画面を私に向けた。指先が素早く動く。
「#消えない教室——このハッシュタグで、活動を発信する」
「#消えない教室……」
私はその言葉を繰り返した。言葉が、空気の中に溶けていく。良い響きだ。消えたくない。消さない。誰も消えない教室。
「最初は、僕たちから始める。僕たちの体験を、投稿する」
「私たちの……体験?」
「ああ。『二年B組が消えた』という話は伏せて、『完璧を求められて苦しんでいる生徒たちがいる』という切り口で」
蒼太は、投稿の下書きを見せた。画面の文字が、私の目に飛び込んでくる。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
完璧じゃなくていい。
私たちは、いつも完璧を求められる。
テストで100点。
部活で優勝。
友達関係も完璧に。
でも、完璧じゃない時、
私たちはどうすればいい?
失敗した時。
辛い時。
助けて欲しい時。
そんな時、「助けて」って言える場所はある?
私たちは、そういう場所を作りたい。
誰もが本当の気持ちを話せる。
完璧じゃなくても受け入れられる。
そんな教室を。
#消えない教室
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「これ……投稿するの?」
私の声は、少し震えていた。
「ああ。まず、僕たちが声を上げる。そこから、賛同してくれる人が現れるはずだ」
私は、一瞬躊躇した。心臓が、早鐘を打っている。SNSで、こんな個人的なことを発信するのは勇気がいる。でも——
「やろう」
私は深く息を吸い込んでから、力強く頷いた。
「二年B組のみんなのために。そして、同じように苦しんでいる人たちのために」
蒼太の口元が、かすかに緩んだ。
「じゃあ、投稿する」
彼は投稿ボタンを押した。指先が、画面に触れる。カチッという小さな音。
画面に、投稿が表示される。
https://kieta-kyoushitsu.com/campaign/start
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║
║ 【#消えない教室プロジェクト】
║ Project: Classroom That
║ Never Disappears
║
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【プロジェクト始動】 🚀
2024年4月30日
桜井楓・柊蒼太
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【私たちのメッセージ】 💭
完璧じゃなくていい。
私たちは、いつも完璧を求められる。
テストで100点。
部活で優勝。
友達関係も完璧に。
でも、完璧じゃない時、
私たちはどうすればいい?
失敗した時。
辛い時。
助けて欲しい時。
そんな時、「助けて」って言える場所はある?
私たちは、そういう場所を作りたい。
誰もが本当の気持ちを話せる。
完璧じゃなくても受け入れられる。
そんな教室を。
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【あなたの声を聞かせてください】 🗣️
あなたは、こんな経験はありませんか?
┌─────────────────────────
│
│ [ ] 完璧を求められて辛かった
│ [ ] 本当の気持ちを言えなかった
│ [ ] 一人で抱え込んでいた
│ [ ] 助けてと言えなかった
│ [ ] 消えたいと思ったことがある
│
│ [投票する]
│
└─────────────────────────
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【現在の投票状況】 📊
投票数: 0票(あなたが最初の投票者です)
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【あなたのメッセージ】 ✉️
このプロジェクトへの想いを聞かせてください
┌─────────────────────────
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│ あなたの名前(任意・匿名可):
│ ┌───────────────────────┐ │
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│ └───────────────────────┘ │
│
│ メッセージ:
│ ┌───────────────────────┐ │
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│
│
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│ └───────────────────────┘ │
│
│ [送信する]
│
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このプロジェクトを広めてください
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ハッシュタグ: #消えない教室
#完璧じゃなくていい
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【次のステップ】 🎯
このプロジェクトは、3つのフェーズで進みます:
フェーズ1: メッセージの拡散(4月30日〜5月10日)
→ SNSで想いを共有
フェーズ2: 文化祭での展示(5月15日〜5月20日)
→ リアルな場所で対話
フェーズ3: 継続的な活動(5月22日〜)
→ 学校全体の取り組みへ
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[プロジェクトに参加する →]
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投稿から数分後、最初の反応があった。
クラスメイトの一人——山田くんからのコメントだった。通知音が、静かな図書室に響く。
「分かる。俺も、いつも完璧を求められてる。部活でミスしたら、すごく責められる。もう疲れた」
次に、別のクラスの女子生徒からもコメントが来た。スマホの画面が、次々と更新されていく。
「私も同じです。成績が少しでも下がると、親に怒られる。完璧じゃないとダメだって言われる。でも、完璧になんてなれない」
一つ、また一つと、コメントが増えていく。
そして、投票も始まった。
【現在の投票状況】 📊
投票数: 47票
完璧を求められて辛かった: 38票 (80.9%)
本当の気持ちを言えなかった: 42票 (89.4%)
一人で抱え込んでいた: 35票 (74.5%)
助けてと言えなかった: 40票 (85.1%)
消えたいと思ったことがある: 23票 (48.9%)
私は画面を見つめた。数字が、リアルタイムで増えていく。こんなにも、同じように苦しんでいる人がいる。
「柊くん、見て……」
私の声は、興奮と驚きで上ずっていた。
「ああ。思ったより、反応が早い」
蒼太も、眼鏡の奥の目を見開いていた。
「このままいけば、学校全体に広がるかもしれない」
Scene 2
翌日の昼休み、中庭で昼食を食べていると、何人かの生徒が私たちに話しかけてきた。
「あの、昨日のSNSの投稿……桜井さんと柊くんが書いたんですよね?」
一年生の女子生徒だった。声は小さく、おずおずとしている。
「うん。そうだけど……」
「私も、すごく共感しました。いつも完璧を求められて、辛くて」
彼女の目には、涙が滲んでいた。唇を噛みしめている。
「でも、誰にも言えなくて。親にも、友達にも」
「言っていいんだよ」
私は彼女の手を握った。その手は、冷たく震えていた。
「辛い時は、辛いって。助けて欲しい時は、助けてって」
「でも……」
「完璧じゃなくていい。ありのままのあなたでいい」
その言葉を聞いて、彼女の目から涙が溢れた。でも、それは悲しい涙じゃなかった。安心したような、解放されたような涙だった。
その日の放課後、私たちは二年B組の教室で、有志を集めて会議をした。
集まったのは、十数人。クラスメイトもいれば、他のクラスの生徒もいる。みんな、SNSの投稿を見て来てくれた人たちだ。教室には、緊張と期待が混ざった空気が漂っている。
「来てくれて、ありがとう」
私が挨拶すると、みんなが静かに頷いた。
「今日は、これからの活動について話し合いたいんです」
蒼太が、ホワイトボードに要点を書き出した。マーカーの音が、教室に響く。
【#消えない教室プロジェクト】
目標:
・完璧じゃなくていいという文化を作る
・本当の気持ちを話せる場所を作る
・誰も一人で抱え込まない環境を作る
具体的な活動:
SNSでのメッセージ発信
文化祭での展示・体験ブース
学校への提案(恒久的な取り組みへ)
「文化祭で、展示をしたいんです」
私は集まった生徒たちの顔を、一人一人見回しながら話し始めた。
「『気持ちボード』を作って、来場者が自由に書き込める場所を作る。辛いこと、嬉しいこと、悩んでること、何でも」
「それって……」
一年生の男子が、恐る恐る手を挙げた。
「誰でも書き込めるんですか?」
「うん。誰でも。匿名でもいい」
「すごい……そういう場所、欲しかった」
彼の顔が、パッと明るくなった。
「俺も、参加したいです。手伝わせてください」
「ありがとう」
次に、二年生の女子が質問した。
「気持ちボードに書き込んだ後は、どうするんですか?」
「私たちが、そこにいて話を聞きます」
蒼太が眼鏡を直しながら答えた。
「カウンセラーじゃない。ただの高校生。でも、同じように悩んできた高校生として、話を聞く」
「一人で抱え込まなくていい。ここにいるよって、伝える」
みんなが、静かに、でも真剣に聞いている。
「もちろん、無理強いはしません」
私が続けた。
「書き込むだけでもいい。それだけで、少し楽になる人もいるかもしれない」
「でも、もし話したい人がいたら、私たちが聞きます」
会議は、二時間近く続いた。
具体的な計画が、少しずつ形になっていく。ホワイトボードは、文字とアイデアで埋まっていった。
【文化祭展示の詳細】
場所: 二年B組の教室
展示内容:
気持ちボード
・壁一面に白い模造紙
・来場者が自由に書き込める
・匿名OK
パネル展示
・#消えない教室プロジェクトの説明
・これまでに寄せられたメッセージ
・統計データ(投票結果など)
対話スペース
・椅子とテーブルを配置
・プロジェクトメンバーが常駐
・気軽に話せる雰囲気作り
バーチャル文化祭
・特設サイト連動
・オンラインでも参加可能
・遠方の人もメッセージを残せる
会議が終わった後、私と蒼太は教室に残って準備を始めた。夕日が、教室を赤く染めている。
「まず、特設サイトを作らないと」
蒼太がノートパソコンを開いた。起動音が静かに響く。
「バーチャル文化祭のページ。オンラインでも気持ちボードに書き込める仕組みを作る」
「私も手伝う」
私たちは、夜遅くまで作業を続けた。キーボードを叩く音だけが、暗くなった教室に響いていた。
Scene 3
一週間後、SNSの反応はさらに広がっていた。
投稿は、学校の外にも拡散され始めた。他の高校生、中学生、そして大人たちからもコメントが届く。スマホを開くたびに、新しい通知が待っている。
【統計情報】 📊
投稿リーチ数: 23,847人
投票数: 1,892票
コメント数: 456件
シェア数: 892回
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【投票結果】
完璧を求められて辛かった: 1,534票 (81.1%)
本当の気持ちを言えなかった: 1,687票 (89.2%)
一人で抱え込んでいた: 1,423票 (75.2%)
助けてと言えなかった: 1,601票 (84.6%)
消えたいと思ったことがある: 934票 (49.4%)
コメント欄には、様々な声が寄せられていた。
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👤 ユーザー #0127 (2時間前)
「私も同じでした。完璧じゃないと
認めてもらえない気がして。
でも、このメッセージを見て、
完璧じゃなくていいんだって思えた」
♥ 共感 234 💬 返信 12
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👤 ユーザー #1892 (5時間前)
「中学生です。毎日、消えたいって
思ってました。でも、一人じゃないって
分かった。ありがとうございます」
♥ 共感 456 💬 返信 34
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👤 ユーザー #0734 (8時間前)
「教師です。生徒たちが、こんなに
苦しんでいたなんて。気づけなくて
ごめんなさい。学校でも、こういう
取り組みを始めます」
♥ 共感 892 💬 返信 67
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そして、ついに文化祭の日が来た。
2024年5月18日——満月の四日前。
二年B組の教室は、朝早くから準備で賑わっていた。生徒たちの声が、廊下まで響いている。
壁一面に、真っ白な模造紙を貼る。そこに、私たちは大きく書いた。
【気持ちボード】
ここに、あなたの気持ちを書いてください。
辛いこと。
嬉しいこと。
悩んでること。
何でも。
完璧じゃなくていい。
ありのままの気持ちを。
あなたは一人じゃない。
#消えない教室
教室の隅には、パネル展示を設置した。
これまでのプロジェクトの経緯、寄せられたメッセージ、統計データ。そして、最後には二次元コードを配置した。
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https://kieta-kyoushitsu.com/festival/virtual-booth
開場時刻になると、たくさんの来場者が訪れ始めた。廊下から、ざわめきが近づいてくる。
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║
║ 【バーチャル文化祭】
║ Virtual Culture Festival
║
║ 2024年5月18日〜20日開催
║
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【ようこそ】 🎪
二年B組 #消えない教室プロジェクトへ
このブースでは、あなたの本当の気持ちを
自由に表現できます。
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【気持ちボード】 ✍️
あなたの気持ちを書き込んでください
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│
│ あなたの名前(匿名可):
│ ┌───────────────────────┐ │
│ 例: 匿名希望、A.Bなど
│ └───────────────────────┘ │
│
│ あなたのメッセージ:
│ ┌───────────────────────┐ │
│
│
│
│
│
│ └───────────────────────┘ │
│
│ カテゴリー(任意):
│ [ ] 辛いこと
│ [ ] 嬉しいこと
│ [ ] 悩んでること
│ [ ] 感謝
│ [ ] その他
│
│ [投稿する]
│
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【他の人のメッセージ】 💭
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📝 匿名 (3分前) [辛いこと]
「毎日、親の期待が重くて。
完璧じゃないとダメだって言われる。
でも、完璧になんてなれない。
疲れた」
♥ 共感 23 💬 返信 5
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
📝 R.K (7分前) [悩んでること]
「友達に嫉妬してる自分が嫌。
でも、止められない。
こんな自分、最低だと思う」
♥ 共感 34 💬 返信 8
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📝 一年生 (12分前) [感謝]
「このブース来て良かった。
一人じゃないって分かった。
ありがとう」
♥ 共感 67 💬 返信 15
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[もっと見る (234件)]
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【統計情報】 📊
訪問者数: 1,247人
メッセージ数: 234件
共感総数: 3,891回
メッセージ内訳:
辛いこと: 89件 (38.0%)
悩んでること: 76件 (32.5%)
感謝: 45件 (19.2%)
嬉しいこと: 18件 (7.7%)
その他: 6件 (2.6%)
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【リアルタイム対話】 💬
現在、教室にいるメンバー:
・桜井楓
・柊蒼太
・その他プロジェクトメンバー10名
[チャットで話しかける]
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【集合写真に参加】 📸
あなたも #消えない教室 の一員に
アバターを選んでください:
┌─────────────────────────
│
│ 👤 👤 👤 👤 👤
│ 男子 女子 中性 動物 その他
│
│ 表情を選んでください:
│ 😊 😢 😐 😤 🥺
│
│ [写真に参加する]
│
│ ※ 参加すると、集合写真に
│ あなたのアバターが追加されます
│
└─────────────────────────
現在の参加者数: 892人
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【プロジェクトについて】 ℹ️
#消えない教室プロジェクトとは?
[詳細を見る]
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【ソーシャルシェア】 📱
この活動を広めてください
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ハッシュタグ: #消えない教室
#文化祭2024
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教室には、次々と来場者が訪れた。
最初は遠慮がちに、でもだんだんと堂々と、壁のボードに言葉を書き込んでいく。ペンを走らせる音が、教室に響く。
「テストで失敗して、親に怒られた。もう嫌だ」
「友達といても、本当の自分を出せない」
「毎日、消えたいって思ってる」
「でも、このボードを見て、一人じゃないって分かった」
「ありがとう」
様々な言葉が、ボードを埋めていく。白い模造紙は、次第に色とりどりの文字で満たされていった。
私は、その一つ一つを読みながら、涙が止まらなかった。視界が滲む。みんな、同じように苦しんでいる。みんな、一人で抱え込んでいる。
「桜井さん」
一人の女子生徒が、私に話しかけてきた。三年生のようだった。制服の襟に、生徒会のバッジが光っている。
「あの……少し、話してもいいですか?」
彼女の声は、かすかに震えていた。
「もちろんです」
私は彼女を、教室の隅の対話スペースに案内した。椅子に座り、向かい合う。二人の間に、静かな空気が流れる。
「私……ずっと一人で抱え込んでました」
彼女は、ゆっくりと話し始めた。手を膝の上で握りしめている。
「生徒会長をしてて、みんなから『しっかりしてる』って言われる。でも、本当は違う。本当は、毎日不安で」
彼女の目に、涙が滲んだ。
「一人で大丈夫? って、誰も聞いてくれない。だって、私は生徒会長だから。しっかりしてるって思われてるから」
「でも、本当は……助けてほしかった」
彼女の目から、涙がこぼれた。頬を伝って、膝に落ちる。
「このブースに来て、やっと言えた。本当の気持ちを」
「一人で抱え込まなくていいんですよ」
私は、彼女の手を握った。その手は、冷たく震えていた。
「生徒会長でも、しっかりしてなくてもいい。辛い時は、辛いって言っていいんです」
「ありがとう……」
彼女は、声を上げて泣いた。その声は、教室の喧騒の中に溶けていった。
その日、私たちは何十人もの生徒と話をした。
みんな、何かを抱えていた。みんな、誰かに聞いてほしかった。そして、この場所で、やっと声にできた。
そして、文化祭の最終日——5月20日。
私たちは、気持ちボードの前で集合写真を撮った。
プロジェクトメンバー、ボランティア、そして来場してくれた生徒たち。総勢で五十人以上。みんなの顔が、希望の光を宿している。
みんなでスマホを構え、タイマーをセットする。
「せーの!」
シャッターが切られる瞬間、みんなで叫んだ。声が一つになる。
「消えない!」
Scene 4
文化祭が終わった翌日——5月21日。
満月の前日だった。
私は、朝早く目が覚めた。窓の外を見ると、東の空が白み始めている。薄い光が、カーテンの隙間から差し込んでくる。
明日——2024年5月22日。
二年B組が、戻ってくる日。
本当に、戻ってくるのだろうか。それとも、あれは全て夢だったのだろうか。
スマホを確認すると、蒼太からメッセージが来ていた。画面が、静かに光っている。
「今日の放課後、屋上で。二人で話したい」
私は、すぐに返信した。指先が、素早く動く。
「わかった」
学校に着くと、いつもと変わらない風景が広がっていた。生徒たちが登校し、教室で談笑している。
でも、何かが違う気がした。空気が、少し軽くなった気がする。笑い声が、以前より明るい。
文化祭での活動が、学校全体に影響を与えているのかもしれない。
放課後、私は屋上へ向かった。階段を上る足音が、静かに響く。
そこには、蒼太が一人で待っていた。フェンスに寄りかかり、空を見上げている。
「来たか」
蒼太は私を見た。眼鏡の奥の瞳が、真剣な光を宿している。
「明日だな」
「うん……」
私たちは、屋上のフェンスの前に立った。夕日が、西の空を染め始めている。オレンジ色の光が、私たちを包む。
「本当に、戻ってくるのかな」
私の声は、不安で震えていた。
「戻ってくる。僕たちは、約束したんだ。二年B組を取り戻すって」
蒼太の声には、確信があった。
「でも……」
「学校は、変わり始めてる」
蒼太は、校庭を見下ろした。生徒たちの姿が、小さく見える。
「#消えない教室の活動で、たくさんの生徒が自分の気持ちを話し始めた。完璧じゃなくていい。ありのままでいい。そういう空気が、できつつある」
「だから、大丈夫だ。春野さんたちが戻ってきても、今度は受け入れられる」
私は、蒼太の横顔を見た。その表情は、いつもより柔らかい。彼も、不安なのだろう。でも、それを見せないように、強がっているのだろう。
「ありがとう、柊くん」
私の声は、ほとんど囁くような大きさだった。
「一緒に、ここまで来てくれて」
「当たり前だ」
蒼太の表情が、ほんの少しだけ柔らかくなった。
「僕たちは、記憶の探偵だろ。最後まで、やり遂げる」
私たちは、しばらく夕日を見つめていた。オレンジ色の光が、ゆっくりと沈んでいく。
明日——満月の夜。
二年B組が、戻ってくる。
その夜、私は特設サイトを確認した。ベッドに横になり、スマホの画面を見つめる。
https://kieta-kyoushitsu.com/countdown/full-moon
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
╔═══════════════════════════════════════╗
║
║ 【満月まで】
║ Countdown to Full Moon
║
╚═══════════════════════════════════════╝
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【カウントダウン】 ⏰
満月まで: 12時間34分56秒
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【2024年5月22日 午後8時34分】
その時、二年B組が戻ってきます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【これまでの活動】 📊
プロジェクト開始: 2024年4月30日
経過日数: 22日
投稿リーチ数: 127,892人
メッセージ数: 3,456件
共感総数: 23,891回
プロジェクト参加者: 234人
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【文化祭の成果】 🎪
来場者数: 2,891人
気持ちボード投稿数: 892件
対話セッション数: 156回
集合写真参加者数: 1,247人
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【あなたのメッセージ】 ✉️
二年B組を迎える言葉を残してください
┌─────────────────────────
│
│ ┌───────────────────────┐ │
│ 「おかえり」
│ 「待ってたよ」
│ 「一緒に頑張ろう」
│ └───────────────────────┘ │
│
│ [送信する]
│
└─────────────────────────
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【みんなのメッセージ】 💬
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
👤 探偵 #0127 (2時間前)
「おかえりなさい。
あなたたちの場所は、ここにある」
♥ 共感 456 💬 返信 23
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
👤 探偵 #1892 (4時間前)
「完璧じゃなくていい。
ありのままのあなたたちを、待ってる」
♥ 共感 892 💬 返信 45
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
👤 探偵 #0734 (7時間前)
「消えないで。
私たちには、あなたたちが必要だから」
♥ 共感 1,247 💬 返信 78
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
[もっと見る (2,891件)]
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【明日への準備】 🌕
二年B組を迎える準備をしています
✓ 教室の清掃完了
✓ 歓迎メッセージ作成
✓ #消えない教室 継続体制構築
✓ 学校への提案書提出
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
明日、新しい物語が始まります。
[第6章へ →]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
私は、画面を見つめながら祈った。心の中で、何度も繰り返す。
明日、本当に二年B組が戻ってきますように。
そして、誰も消えない世界になりますように。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【第5章 完】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
廃病院で「記憶」を取り戻してから、一週間が経った。
次の満月——2024年5月22日まで、あと三週間。
その時、春野さんたちは「存在」として戻ってくる。
でも、それは約束ではない。
私たちが本物の場所を作れた時だけ。
「それ」の言葉が、頭から離れない。
『形だけの場所だったなら、記憶だけが残り、存在は消えます』
だから、準備をしなければ。
本当に、誰でも受け入れられる場所を。
私と蒼太は、放課後に図書室で作戦会議をしていた。テーブルの上には、ノートとスマホが広げられている。静かな空間に、ページをめくる音だけが響いている。
「問題は、どうやって学校全体に受け入れ体制を作るかだ」
蒼太が、ノートに書き込みながら呟いた。ペンを走らせる音が、規則正しく刻まれる。
「二年B組が戻ってきた時、また同じように『存在しないクラス』扱いされたら意味がない」
「そうだね……」
私は視線を落とし、唇を噛んだ。確かに、それが一番の問題だ。
「でも、どうすればいいんだろう。『消えたクラスが戻ってくる』なんて、誰も信じないよ」
「だから、まず信じてもらう必要はない」
蒼太は顔を上げた。眼鏡の奥の瞳が、真剣な光を宿している。
「『完璧じゃなくていい』『本当の自分を見せていい』——そういうメッセージを、学校全体に広げる。そうすれば、二年B組が戻ってきた時、自然に受け入れられる土壌ができる」
「でも、どうやって広げるの?」
「SNSだ」
蒼太はスマホを操作して、画面を私に向けた。指先が素早く動く。
「#消えない教室——このハッシュタグで、活動を発信する」
「#消えない教室……」
私はその言葉を繰り返した。言葉が、空気の中に溶けていく。良い響きだ。消えたくない。消さない。誰も消えない教室。
「最初は、僕たちから始める。僕たちの体験を、投稿する」
「私たちの……体験?」
「ああ。『二年B組が消えた』という話は伏せて、『完璧を求められて苦しんでいる生徒たちがいる』という切り口で」
蒼太は、投稿の下書きを見せた。画面の文字が、私の目に飛び込んでくる。
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完璧じゃなくていい。
私たちは、いつも完璧を求められる。
テストで100点。
部活で優勝。
友達関係も完璧に。
でも、完璧じゃない時、
私たちはどうすればいい?
失敗した時。
辛い時。
助けて欲しい時。
そんな時、「助けて」って言える場所はある?
私たちは、そういう場所を作りたい。
誰もが本当の気持ちを話せる。
完璧じゃなくても受け入れられる。
そんな教室を。
#消えない教室
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「これ……投稿するの?」
私の声は、少し震えていた。
「ああ。まず、僕たちが声を上げる。そこから、賛同してくれる人が現れるはずだ」
私は、一瞬躊躇した。心臓が、早鐘を打っている。SNSで、こんな個人的なことを発信するのは勇気がいる。でも——
「やろう」
私は深く息を吸い込んでから、力強く頷いた。
「二年B組のみんなのために。そして、同じように苦しんでいる人たちのために」
蒼太の口元が、かすかに緩んだ。
「じゃあ、投稿する」
彼は投稿ボタンを押した。指先が、画面に触れる。カチッという小さな音。
画面に、投稿が表示される。
https://kieta-kyoushitsu.com/campaign/start
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║ 【#消えない教室プロジェクト】
║ Project: Classroom That
║ Never Disappears
║
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【プロジェクト始動】 🚀
2024年4月30日
桜井楓・柊蒼太
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【私たちのメッセージ】 💭
完璧じゃなくていい。
私たちは、いつも完璧を求められる。
テストで100点。
部活で優勝。
友達関係も完璧に。
でも、完璧じゃない時、
私たちはどうすればいい?
失敗した時。
辛い時。
助けて欲しい時。
そんな時、「助けて」って言える場所はある?
私たちは、そういう場所を作りたい。
誰もが本当の気持ちを話せる。
完璧じゃなくても受け入れられる。
そんな教室を。
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【あなたの声を聞かせてください】 🗣️
あなたは、こんな経験はありませんか?
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│ [ ] 完璧を求められて辛かった
│ [ ] 本当の気持ちを言えなかった
│ [ ] 一人で抱え込んでいた
│ [ ] 助けてと言えなかった
│ [ ] 消えたいと思ったことがある
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│ [投票する]
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【現在の投票状況】 📊
投票数: 0票(あなたが最初の投票者です)
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【あなたのメッセージ】 ✉️
このプロジェクトへの想いを聞かせてください
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│ あなたの名前(任意・匿名可):
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│ メッセージ:
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│ [送信する]
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ハッシュタグ: #消えない教室
#完璧じゃなくていい
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【次のステップ】 🎯
このプロジェクトは、3つのフェーズで進みます:
フェーズ1: メッセージの拡散(4月30日〜5月10日)
→ SNSで想いを共有
フェーズ2: 文化祭での展示(5月15日〜5月20日)
→ リアルな場所で対話
フェーズ3: 継続的な活動(5月22日〜)
→ 学校全体の取り組みへ
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[プロジェクトに参加する →]
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投稿から数分後、最初の反応があった。
クラスメイトの一人——山田くんからのコメントだった。通知音が、静かな図書室に響く。
「分かる。俺も、いつも完璧を求められてる。部活でミスしたら、すごく責められる。もう疲れた」
次に、別のクラスの女子生徒からもコメントが来た。スマホの画面が、次々と更新されていく。
「私も同じです。成績が少しでも下がると、親に怒られる。完璧じゃないとダメだって言われる。でも、完璧になんてなれない」
一つ、また一つと、コメントが増えていく。
そして、投票も始まった。
【現在の投票状況】 📊
投票数: 47票
完璧を求められて辛かった: 38票 (80.9%)
本当の気持ちを言えなかった: 42票 (89.4%)
一人で抱え込んでいた: 35票 (74.5%)
助けてと言えなかった: 40票 (85.1%)
消えたいと思ったことがある: 23票 (48.9%)
私は画面を見つめた。数字が、リアルタイムで増えていく。こんなにも、同じように苦しんでいる人がいる。
「柊くん、見て……」
私の声は、興奮と驚きで上ずっていた。
「ああ。思ったより、反応が早い」
蒼太も、眼鏡の奥の目を見開いていた。
「このままいけば、学校全体に広がるかもしれない」
Scene 2
翌日の昼休み、中庭で昼食を食べていると、何人かの生徒が私たちに話しかけてきた。
「あの、昨日のSNSの投稿……桜井さんと柊くんが書いたんですよね?」
一年生の女子生徒だった。声は小さく、おずおずとしている。
「うん。そうだけど……」
「私も、すごく共感しました。いつも完璧を求められて、辛くて」
彼女の目には、涙が滲んでいた。唇を噛みしめている。
「でも、誰にも言えなくて。親にも、友達にも」
「言っていいんだよ」
私は彼女の手を握った。その手は、冷たく震えていた。
「辛い時は、辛いって。助けて欲しい時は、助けてって」
「でも……」
「完璧じゃなくていい。ありのままのあなたでいい」
その言葉を聞いて、彼女の目から涙が溢れた。でも、それは悲しい涙じゃなかった。安心したような、解放されたような涙だった。
その日の放課後、私たちは二年B組の教室で、有志を集めて会議をした。
集まったのは、十数人。クラスメイトもいれば、他のクラスの生徒もいる。みんな、SNSの投稿を見て来てくれた人たちだ。教室には、緊張と期待が混ざった空気が漂っている。
「来てくれて、ありがとう」
私が挨拶すると、みんなが静かに頷いた。
「今日は、これからの活動について話し合いたいんです」
蒼太が、ホワイトボードに要点を書き出した。マーカーの音が、教室に響く。
【#消えない教室プロジェクト】
目標:
・完璧じゃなくていいという文化を作る
・本当の気持ちを話せる場所を作る
・誰も一人で抱え込まない環境を作る
具体的な活動:
SNSでのメッセージ発信
文化祭での展示・体験ブース
学校への提案(恒久的な取り組みへ)
「文化祭で、展示をしたいんです」
私は集まった生徒たちの顔を、一人一人見回しながら話し始めた。
「『気持ちボード』を作って、来場者が自由に書き込める場所を作る。辛いこと、嬉しいこと、悩んでること、何でも」
「それって……」
一年生の男子が、恐る恐る手を挙げた。
「誰でも書き込めるんですか?」
「うん。誰でも。匿名でもいい」
「すごい……そういう場所、欲しかった」
彼の顔が、パッと明るくなった。
「俺も、参加したいです。手伝わせてください」
「ありがとう」
次に、二年生の女子が質問した。
「気持ちボードに書き込んだ後は、どうするんですか?」
「私たちが、そこにいて話を聞きます」
蒼太が眼鏡を直しながら答えた。
「カウンセラーじゃない。ただの高校生。でも、同じように悩んできた高校生として、話を聞く」
「一人で抱え込まなくていい。ここにいるよって、伝える」
みんなが、静かに、でも真剣に聞いている。
「もちろん、無理強いはしません」
私が続けた。
「書き込むだけでもいい。それだけで、少し楽になる人もいるかもしれない」
「でも、もし話したい人がいたら、私たちが聞きます」
会議は、二時間近く続いた。
具体的な計画が、少しずつ形になっていく。ホワイトボードは、文字とアイデアで埋まっていった。
【文化祭展示の詳細】
場所: 二年B組の教室
展示内容:
気持ちボード
・壁一面に白い模造紙
・来場者が自由に書き込める
・匿名OK
パネル展示
・#消えない教室プロジェクトの説明
・これまでに寄せられたメッセージ
・統計データ(投票結果など)
対話スペース
・椅子とテーブルを配置
・プロジェクトメンバーが常駐
・気軽に話せる雰囲気作り
バーチャル文化祭
・特設サイト連動
・オンラインでも参加可能
・遠方の人もメッセージを残せる
会議が終わった後、私と蒼太は教室に残って準備を始めた。夕日が、教室を赤く染めている。
「まず、特設サイトを作らないと」
蒼太がノートパソコンを開いた。起動音が静かに響く。
「バーチャル文化祭のページ。オンラインでも気持ちボードに書き込める仕組みを作る」
「私も手伝う」
私たちは、夜遅くまで作業を続けた。キーボードを叩く音だけが、暗くなった教室に響いていた。
Scene 3
一週間後、SNSの反応はさらに広がっていた。
投稿は、学校の外にも拡散され始めた。他の高校生、中学生、そして大人たちからもコメントが届く。スマホを開くたびに、新しい通知が待っている。
【統計情報】 📊
投稿リーチ数: 23,847人
投票数: 1,892票
コメント数: 456件
シェア数: 892回
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【投票結果】
完璧を求められて辛かった: 1,534票 (81.1%)
本当の気持ちを言えなかった: 1,687票 (89.2%)
一人で抱え込んでいた: 1,423票 (75.2%)
助けてと言えなかった: 1,601票 (84.6%)
消えたいと思ったことがある: 934票 (49.4%)
コメント欄には、様々な声が寄せられていた。
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👤 ユーザー #0127 (2時間前)
「私も同じでした。完璧じゃないと
認めてもらえない気がして。
でも、このメッセージを見て、
完璧じゃなくていいんだって思えた」
♥ 共感 234 💬 返信 12
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👤 ユーザー #1892 (5時間前)
「中学生です。毎日、消えたいって
思ってました。でも、一人じゃないって
分かった。ありがとうございます」
♥ 共感 456 💬 返信 34
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👤 ユーザー #0734 (8時間前)
「教師です。生徒たちが、こんなに
苦しんでいたなんて。気づけなくて
ごめんなさい。学校でも、こういう
取り組みを始めます」
♥ 共感 892 💬 返信 67
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そして、ついに文化祭の日が来た。
2024年5月18日——満月の四日前。
二年B組の教室は、朝早くから準備で賑わっていた。生徒たちの声が、廊下まで響いている。
壁一面に、真っ白な模造紙を貼る。そこに、私たちは大きく書いた。
【気持ちボード】
ここに、あなたの気持ちを書いてください。
辛いこと。
嬉しいこと。
悩んでること。
何でも。
完璧じゃなくていい。
ありのままの気持ちを。
あなたは一人じゃない。
#消えない教室
教室の隅には、パネル展示を設置した。
これまでのプロジェクトの経緯、寄せられたメッセージ、統計データ。そして、最後には二次元コードを配置した。
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https://kieta-kyoushitsu.com/festival/virtual-booth
開場時刻になると、たくさんの来場者が訪れ始めた。廊下から、ざわめきが近づいてくる。
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╔═══════════════════════════════════════╗
║
║ 【バーチャル文化祭】
║ Virtual Culture Festival
║
║ 2024年5月18日〜20日開催
║
╚═══════════════════════════════════════╝
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【ようこそ】 🎪
二年B組 #消えない教室プロジェクトへ
このブースでは、あなたの本当の気持ちを
自由に表現できます。
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【気持ちボード】 ✍️
あなたの気持ちを書き込んでください
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│ あなたの名前(匿名可):
│ ┌───────────────────────┐ │
│ 例: 匿名希望、A.Bなど
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│ あなたのメッセージ:
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│ └───────────────────────┘ │
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│ カテゴリー(任意):
│ [ ] 辛いこと
│ [ ] 嬉しいこと
│ [ ] 悩んでること
│ [ ] 感謝
│ [ ] その他
│
│ [投稿する]
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【他の人のメッセージ】 💭
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📝 匿名 (3分前) [辛いこと]
「毎日、親の期待が重くて。
完璧じゃないとダメだって言われる。
でも、完璧になんてなれない。
疲れた」
♥ 共感 23 💬 返信 5
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📝 R.K (7分前) [悩んでること]
「友達に嫉妬してる自分が嫌。
でも、止められない。
こんな自分、最低だと思う」
♥ 共感 34 💬 返信 8
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📝 一年生 (12分前) [感謝]
「このブース来て良かった。
一人じゃないって分かった。
ありがとう」
♥ 共感 67 💬 返信 15
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[もっと見る (234件)]
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【統計情報】 📊
訪問者数: 1,247人
メッセージ数: 234件
共感総数: 3,891回
メッセージ内訳:
辛いこと: 89件 (38.0%)
悩んでること: 76件 (32.5%)
感謝: 45件 (19.2%)
嬉しいこと: 18件 (7.7%)
その他: 6件 (2.6%)
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【リアルタイム対話】 💬
現在、教室にいるメンバー:
・桜井楓
・柊蒼太
・その他プロジェクトメンバー10名
[チャットで話しかける]
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【集合写真に参加】 📸
あなたも #消えない教室 の一員に
アバターを選んでください:
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│
│ 👤 👤 👤 👤 👤
│ 男子 女子 中性 動物 その他
│
│ 表情を選んでください:
│ 😊 😢 😐 😤 🥺
│
│ [写真に参加する]
│
│ ※ 参加すると、集合写真に
│ あなたのアバターが追加されます
│
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現在の参加者数: 892人
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【プロジェクトについて】 ℹ️
#消えない教室プロジェクトとは?
[詳細を見る]
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ハッシュタグ: #消えない教室
#文化祭2024
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教室には、次々と来場者が訪れた。
最初は遠慮がちに、でもだんだんと堂々と、壁のボードに言葉を書き込んでいく。ペンを走らせる音が、教室に響く。
「テストで失敗して、親に怒られた。もう嫌だ」
「友達といても、本当の自分を出せない」
「毎日、消えたいって思ってる」
「でも、このボードを見て、一人じゃないって分かった」
「ありがとう」
様々な言葉が、ボードを埋めていく。白い模造紙は、次第に色とりどりの文字で満たされていった。
私は、その一つ一つを読みながら、涙が止まらなかった。視界が滲む。みんな、同じように苦しんでいる。みんな、一人で抱え込んでいる。
「桜井さん」
一人の女子生徒が、私に話しかけてきた。三年生のようだった。制服の襟に、生徒会のバッジが光っている。
「あの……少し、話してもいいですか?」
彼女の声は、かすかに震えていた。
「もちろんです」
私は彼女を、教室の隅の対話スペースに案内した。椅子に座り、向かい合う。二人の間に、静かな空気が流れる。
「私……ずっと一人で抱え込んでました」
彼女は、ゆっくりと話し始めた。手を膝の上で握りしめている。
「生徒会長をしてて、みんなから『しっかりしてる』って言われる。でも、本当は違う。本当は、毎日不安で」
彼女の目に、涙が滲んだ。
「一人で大丈夫? って、誰も聞いてくれない。だって、私は生徒会長だから。しっかりしてるって思われてるから」
「でも、本当は……助けてほしかった」
彼女の目から、涙がこぼれた。頬を伝って、膝に落ちる。
「このブースに来て、やっと言えた。本当の気持ちを」
「一人で抱え込まなくていいんですよ」
私は、彼女の手を握った。その手は、冷たく震えていた。
「生徒会長でも、しっかりしてなくてもいい。辛い時は、辛いって言っていいんです」
「ありがとう……」
彼女は、声を上げて泣いた。その声は、教室の喧騒の中に溶けていった。
その日、私たちは何十人もの生徒と話をした。
みんな、何かを抱えていた。みんな、誰かに聞いてほしかった。そして、この場所で、やっと声にできた。
そして、文化祭の最終日——5月20日。
私たちは、気持ちボードの前で集合写真を撮った。
プロジェクトメンバー、ボランティア、そして来場してくれた生徒たち。総勢で五十人以上。みんなの顔が、希望の光を宿している。
みんなでスマホを構え、タイマーをセットする。
「せーの!」
シャッターが切られる瞬間、みんなで叫んだ。声が一つになる。
「消えない!」
Scene 4
文化祭が終わった翌日——5月21日。
満月の前日だった。
私は、朝早く目が覚めた。窓の外を見ると、東の空が白み始めている。薄い光が、カーテンの隙間から差し込んでくる。
明日——2024年5月22日。
二年B組が、戻ってくる日。
本当に、戻ってくるのだろうか。それとも、あれは全て夢だったのだろうか。
スマホを確認すると、蒼太からメッセージが来ていた。画面が、静かに光っている。
「今日の放課後、屋上で。二人で話したい」
私は、すぐに返信した。指先が、素早く動く。
「わかった」
学校に着くと、いつもと変わらない風景が広がっていた。生徒たちが登校し、教室で談笑している。
でも、何かが違う気がした。空気が、少し軽くなった気がする。笑い声が、以前より明るい。
文化祭での活動が、学校全体に影響を与えているのかもしれない。
放課後、私は屋上へ向かった。階段を上る足音が、静かに響く。
そこには、蒼太が一人で待っていた。フェンスに寄りかかり、空を見上げている。
「来たか」
蒼太は私を見た。眼鏡の奥の瞳が、真剣な光を宿している。
「明日だな」
「うん……」
私たちは、屋上のフェンスの前に立った。夕日が、西の空を染め始めている。オレンジ色の光が、私たちを包む。
「本当に、戻ってくるのかな」
私の声は、不安で震えていた。
「戻ってくる。僕たちは、約束したんだ。二年B組を取り戻すって」
蒼太の声には、確信があった。
「でも……」
「学校は、変わり始めてる」
蒼太は、校庭を見下ろした。生徒たちの姿が、小さく見える。
「#消えない教室の活動で、たくさんの生徒が自分の気持ちを話し始めた。完璧じゃなくていい。ありのままでいい。そういう空気が、できつつある」
「だから、大丈夫だ。春野さんたちが戻ってきても、今度は受け入れられる」
私は、蒼太の横顔を見た。その表情は、いつもより柔らかい。彼も、不安なのだろう。でも、それを見せないように、強がっているのだろう。
「ありがとう、柊くん」
私の声は、ほとんど囁くような大きさだった。
「一緒に、ここまで来てくれて」
「当たり前だ」
蒼太の表情が、ほんの少しだけ柔らかくなった。
「僕たちは、記憶の探偵だろ。最後まで、やり遂げる」
私たちは、しばらく夕日を見つめていた。オレンジ色の光が、ゆっくりと沈んでいく。
明日——満月の夜。
二年B組が、戻ってくる。
その夜、私は特設サイトを確認した。ベッドに横になり、スマホの画面を見つめる。
https://kieta-kyoushitsu.com/countdown/full-moon
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╔═══════════════════════════════════════╗
║
║ 【満月まで】
║ Countdown to Full Moon
║
╚═══════════════════════════════════════╝
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【カウントダウン】 ⏰
満月まで: 12時間34分56秒
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【2024年5月22日 午後8時34分】
その時、二年B組が戻ってきます。
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【これまでの活動】 📊
プロジェクト開始: 2024年4月30日
経過日数: 22日
投稿リーチ数: 127,892人
メッセージ数: 3,456件
共感総数: 23,891回
プロジェクト参加者: 234人
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【文化祭の成果】 🎪
来場者数: 2,891人
気持ちボード投稿数: 892件
対話セッション数: 156回
集合写真参加者数: 1,247人
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【あなたのメッセージ】 ✉️
二年B組を迎える言葉を残してください
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│ ┌───────────────────────┐ │
│ 「おかえり」
│ 「待ってたよ」
│ 「一緒に頑張ろう」
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│
│ [送信する]
│
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【みんなのメッセージ】 💬
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👤 探偵 #0127 (2時間前)
「おかえりなさい。
あなたたちの場所は、ここにある」
♥ 共感 456 💬 返信 23
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👤 探偵 #1892 (4時間前)
「完璧じゃなくていい。
ありのままのあなたたちを、待ってる」
♥ 共感 892 💬 返信 45
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👤 探偵 #0734 (7時間前)
「消えないで。
私たちには、あなたたちが必要だから」
♥ 共感 1,247 💬 返信 78
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[もっと見る (2,891件)]
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【明日への準備】 🌕
二年B組を迎える準備をしています
✓ 教室の清掃完了
✓ 歓迎メッセージ作成
✓ #消えない教室 継続体制構築
✓ 学校への提案書提出
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明日、新しい物語が始まります。
[第6章へ →]
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私は、画面を見つめながら祈った。心の中で、何度も繰り返す。
明日、本当に二年B組が戻ってきますように。
そして、誰も消えない世界になりますように。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【第5章 完】
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