消えた教室

Scene 1
 昨夜、ほとんど眠れなかった。中村陽菜の声が、頭の中で何度も繰り返される。親友に嫉妬していた自分を責める声。それでも、もう一度会いたいと願う声。そして、最後に残された暗号——8, 9, 4, 4, 5, 14, 20, 18, 21, 20, 8。
 蒼太はあの暗号を解読できたのだろうか。
 朝のホームルームが終わると、蒼太が私の席にやってきた。
「昼休み、図書室で」
 その一言だけ告げて、彼は自分の席に戻った。いつもの冷静な表情だったが、その目には何か決意のようなものが浮かんでいた。
 一時間目から四時間目まで、授業の内容が全く頭に入ってこなかった。教師の声も、黒板の文字も、全てが遠くから聞こえてくるようだった。春野さんのこと、中村さんのこと、消えた教室のこと——そればかり考えていた。
 ようやく昼休みになった。私は急いで図書室へ向かった。
 図書室の奥、いつもの席に蒼太が座っていた。テーブルの上には、昨日書き出した数字の紙が置かれている。
「来たか」
 蒼太は私を見上げた。
「昨日の暗号、解読できた?」
「ああ」
 蒼太は紙を指さした。
「数字をアルファベットに変換する暗号だ。A=1, B=2, C=3……という対応で、8はH、9はIになる」
 彼は紙に、変換結果を書き足していった。
8→H
9→I
4→D
4→D
5→E
14→N
20→T
18→R
21→U
20→T
8→H
「HIDDEN TRUTH……隠された真実」
 私はその言葉を声に出して読んだ。
「隠された真実……それって、どういう意味だろう」
「考えたんだ。『隠された』という言葉から、普段は人目につかない場所。『真実』という言葉から、事実や記録が保管されている場所」
 蒼太は立ち上がり、図書室の奥を指さした。
「哲学書や心理学書のコーナー。あそこに、普段は誰も使わない下の段がある。埃を被っていて、誰も見ない棚だ」
「そこに、何かあるの?」
「わからない。でも、『隠された真実』を探すなら、そこが最も可能性が高い」
 私たちは図書室の奥へ向かった。哲学書のコーナーは、図書室の最も奥まった場所にある。窓からの光も届きにくく、薄暗い空間だった。
 棚の前に立つと、確かに下の段は埃を被っていた。古い哲学書や心理学の専門書が並んでいて、背表紙も色褪せている。こんな場所、普段は誰も見ないだろう。
 蒼太がしゃがみ込み、本を一冊ずつ確認し始めた。私も隣にしゃがんで、棚を調べる。
 そのとき、一冊の本の背表紙が目に留まった。他の本と違って、少しだけ前に出ている。まるで、最近誰かが触ったかのように。
「これ……」
 私がその本を引き抜くと、タイトルが目に入った。
『真実の心理学——隠された感情の研究』
 HIDDEN TRUTH——隠された真実。この本のタイトルと、暗号の意味が一致する。
 本を開くと、ページの間に何かが挟まっていた。茶色の封筒。表には何も書かれていないが、中に何か入っているのが分かる。
 蒼太が封筒を開けた。中には、一枚の写真と、小さな紙切れが入っていた。
 写真に写っているのは、二年B組の教室。窓際の席で、数人の生徒が笑顔で写っている。春野さん、中村さん、そして——私も写っていた。いつ撮られたものだろう。でも、確かにこの写真は存在している。二年B組が存在していた証拠。
「これ……」
 私の声が震えた。写真の中の自分を見つめる。笑顔の私。春野さんの隣で、何か話しながら笑っている私。この記憶は、確かにある。でも、世界はそれを否定している。
 蒼太が紙切れを広げた。そこには、何やら規則正しく並んだ正方形の模様が描かれていた。
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「これ、二次元コードだ」
 蒼太はスマホのカメラを起動し、コードにかざした。
 画面が光り、ブラウザが開く。表示されたURLは、また特設サイトだった。
https://kieta-kyoushitsu.com/memory/04-hidden-truth
 蒼太がリンクをタップすると、画面が切り替わった。
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║ 【記憶のカケラ #04】
║ 隠された真実

║ 【進行状況】 [●●●●○] 4/5

╚═══════════════════════════════════════╝

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【発見された写真】 📷

二年B組の教室——2024年4月18日撮影

この写真には、以下の生徒が写っています:
・春野美咲
・中村陽菜
・桜井楓(あなた)
・その他数名のクラスメイト

世界はこのクラスの存在を否定しています。
しかし、この写真は確かに存在しています。

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【記憶の探偵への挑戦】 🔍

次の記憶のカケラを見つけるための手がかり

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記憶は、音に宿る。
彼が最後に奏でた旋律を探せ。

【ヒント】 💡

🎸 楽器が眠る場所
⚡ 彼のトレードマークは稲妻
🎵 真実は、弦の間に隠されている
👤 彼の名前:田中健人

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【場所を推理する】

次の記憶のカケラはどこにある?

┌─────────────────────────

│ [ ] 音楽室
│ [ ] 視聴覚室
│ [ ] 体育館
│ [ ] 屋上

│ [投票する]

└─────────────────────────

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【他の探偵たちの推理】 💭

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👤 探偵 #1247 (2時間前)
「稲妻のステッカー...軽音部の田中くんだ!
音楽室に行けば何か見つかるはず」

♥ 共感 892 💬 返信 34

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👤 探偵 #0583 (4時間前)
「『弦の間に隠されている』ってことは
ギターケースの中? 音楽室を探そう」

♥ 共感 673 💬 返信 18

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👤 探偵 #2091 (7時間前)
「田中くん...覚えてる。いつも一人で
ギター弾いてた。音楽室の隅で」

♥ 共感 1,456 💬 返信 67

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[もっと見る (4,892件)]

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【統計情報】 📊

このページの訪問者数: 52,847人
推理投票数: 18,293票
└─ 音楽室: 16,891票 (92.3%)
└─ 視聴覚室: 892票 (4.9%)
└─ 体育館: 341票 (1.9%)
└─ 屋上: 169票 (0.9%)

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【次のステップ】 🎯

物語を読み進めて、音楽室を探索してください

[← 記憶のカケラ#03] [続きを読む →]

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「音楽室だ」
 蒼太の声には、確信があった。
「『彼が最後に奏でた旋律』——これは、田中健人のことを指している。『トレードマークは稲妻』……彼、稲妻のステッカーをよく持ち歩いてた」
「田中くん……」
 私もその記憶がある。田中くんは、いつもギターケースに稲妻のステッカーを貼っていた。軽音部に入っていて、文化祭でバンドをやると言っていた。
「行こう」
 私たちは図書室を出た。
Scene 2
 音楽室は四階にある。階段を上がり、廊下を進む。音楽室の前まで来ると、中から誰かがピアノを弾く音が聞こえてきた。
 ドアを開けると、一人の女子生徒がピアノの前に座っていた。彼女は私たちに気づくと、手を止めた。
「あ、ごめんなさい。練習してたんです」
「いえ、大丈夫です」
 蒼太が答える。
「失礼します」
 私たちは音楽室に入った。女子生徒は、荷物をまとめて出て行った。
 音楽室には、たくさんの楽器が置かれている。ピアノ、木琴、鉄琴、太鼓——様々な楽器が、整然と並んでいた。窓際には、楽譜棚がある。そして、部屋の隅には、いくつかのギターケースが立てかけられていた。
「田中のギターケースを探そう」
 私たちはギターケースを一つずつ確認し始めた。黒いケース、茶色いケース、赤いケース——どれも似たような形をしている。
 そのとき、一つのケースに小さなステッカーが貼られているのが見えた。稲妻のマーク——田中くんのトレードマークだ。
「これだ」
 蒼太がケースを手に取った。ケースには鍵がかかっていなかった。開けると、中にはアコースティックギターが入っていた。
 よく見ると、ギターの弦の間に、何か小さな紙が挟まっている。
「『真実は、弦の間に隠されている』……」
 蒼太は慎重に紙を取り出した。それは、折りたたまれた手紙だった。
 手紙を広げると、田中くんの字で文章が書かれていた。
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みんなへ
俺、田中健人。
もしこの手紙を読んでるってことは、
俺たちのクラスが消えちゃったってことだよな。
正直、信じられない。
でも、もしそうなったら、これを残しておこうと思った。
俺、ずっと隠してたことがある。
みんなの前では明るく振る舞ってたけど、
本当は、音楽の才能がないことに悩んでた。
文化祭でバンドやるって言ったけど、
実は、全然うまく弾けなかった。
練習しても、練習しても、
うまくならない。
他のバンドメンバーは、みんな上手い。
俺だけ、足を引っ張ってた。
でも、それを言えなかった。
「田中はギターうまいよな」って言われて、
嘘をついてた。
本当は、全然うまくない。
本当は、もうやめたかった。
でも、期待されると、やめられなかった。
みんなも、同じだったのかな。
何か、隠してたことがあったのかな。
もし、もう一度会えたら。
今度は、本当のことを言い合える仲間になりたい。
下手でも、ダメでも、
それを笑い合える仲間に。
次の記憶のカケラを見つけるには、
俺が最後に録音した音楽を聴いてほしい。
その中に、ヒントがある。
田中健人
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 手紙を読み終えると、胸が詰まった。田中くんも、苦しんでいたのだ。期待に応えようとして、本当の自分を隠して。できないことを、できるふりをして。
「音楽……どこにあるんだろう」
 私がギターケースの中を確認すると、底に小さなUSBメモリが入っていた。
「これだ」
 私たちは音楽室のパソコンを起動した。USBメモリを差し込むと、一つの音声ファイルが表示された。
 ファイル名は「本当の僕.mp3」。
 再生ボタンを押すと、ギターの音が流れ始めた。
 最初は、たどたどしい音だった。コードも少しずれていて、リズムも不安定。でも、そこには確かに、何かを伝えようとする気持ちが込められていた。
 そして、田中くんの声が入ってきた。歌というよりも、語りかけるような声。
「下手くそでごめん。
 でも、これが本当の僕だ。
 うまく弾けないけど、
 それでも、音楽が好きなんだ。
 みんなに、嘘ついてた。
 できるふりをしてた。
 でも、本当は、
 助けてほしかった。
 『下手でもいいよ』って、
 言ってほしかった。
 もし、もう一度会えたら。
 今度は、本当の僕を見せるよ。
 下手くそな、でも、一生懸命な僕を。
 次のヒントは——」
 音楽が一瞬途切れた。そして、田中くんの声が続く。
「俺が、いつも一人で昼飯を食べてた場所。
 みんなが集まるのに、俺は一人だった場所。
 そこに、次の記憶がある」
 音楽が終わった。
 静寂が戻る。
 私は、涙が止まらなかった。田中くんの声が、心に響く。彼も、春野さんや中村さんと同じように、苦しんでいた。期待に応えようとして、本当の自分を見せられなくて。
「田中も……みんな、同じだったんだな」
 蒼太の声にも、感情が滲んでいた。
「春野さんも、中村さんも、田中も。みんな、何かを隠していた。本当の自分を見せることが、怖かった」
「『みんなが集まるのに、一人だった場所』……」
 私は考えた。田中くんが、いつも一人で昼食を食べていた場所。
「食堂だ」
「ああ。でも、もう放課後も遅い時間だ」
 蒼太は時計を確認した。
「明日、昼休みに食堂を調べよう」
 私たちは、明日への決意を胸に、それぞれの帰り道へと向かった。
Scene 3
 翌日——木曜日の昼休み、私たちは食堂へ向かった。昼食の時間は過ぎていて、もう誰もいなかった。広いホールには、テーブルと椅子が整然と並んでいる。
「田中は、いつもどこで食べてたんだろう」
 蒼太が食堂の中を見回す。
「確か……窓際の、一番奥の席」
 私はその場所を覚えていた。田中くんは、いつも一人で窓際に座っていた。みんなが楽しそうに食事をしている中、彼だけは静かに、外を眺めながら食べていた。
 その席に近づくと、テーブルの下に何かが貼り付けられているのが見えた。
 しゃがみ込んで確認すると、それは小さな封筒だった。テープで、テーブルの裏に貼り付けられている。
 蒼太が封筒を剥がし、開けた。中には、一枚の紙が入っていた。
 紙には、また二次元コードが描かれていた。
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 蒼太はスマホでコードを読み取った。画面に、特設サイトが表示される。
https://kieta-kyoushitsu.com/cipher/final-place
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╔═══════════════════════════════════════╗

║ 【記憶の探偵への挑戦】
║ 最後の場所を見つけよ

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【場所を示す暗号】 🔐

次の記憶のカケラは、彼女が涙を隠した場所にある

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【暗号】
W-5-R
E-3-F
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【ヒント】 💡

🔤 アルファベットは何を表す?
🔢 数字は何を表す?
🏫 学校内のある場所を指しています

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【場所の条件】 📝

✓ 誰も見ていない場所
✓ 水の音が聞こえる場所
✓ 鏡がある場所
✓ 涙を隠せる場所

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【暗号解読フォーム】

あなたの答え(場所を入力):

┌─────────────────────────

│ 例: 図書室、音楽室など
│ ┌───────────────────────┐ │

│ └───────────────────────┘ │

│ [解読する]

│ ※ 学校内の場所を入力してください
│ ※ 間違えても何度でも挑戦できます

└─────────────────────────

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【探偵ランキング】 🏆

🥇 ランク S: 1分以内 (18人)
🥈 ランク A: 1-5分 (247人)
🥉 ランク B: 5-15分 (1,892人)
📖 ランク C: 15分以上 (5,634人)

現在の挑戦者数: 12,891人
正解者数: 7,791人 (60.4%)

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【他の探偵たちのヒント】 💭

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👤 探偵 #0892 (2時間前) ⭐️ランクA
「暗号の文字...何かの頭文字?
でも何を表してるんだろう」

♥ 共感 1,456 💬 返信 67

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👤 探偵 #1734 (4時間前) ⭐️ランクS
「数字の意味を考えれば...
場所が絞られてくる!」

♥ 共感 2,134 💬 返信 89

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👤 探偵 #2401 (7時間前) ⭐️ランクB
「涙を隠す場所って...
学校で一番プライベートな空間」

♥ 共感 3,892 💬 返信 142

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[もっと見る (2,891件)]

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【正解すると...】 ✨

記憶のカケラ #05 へのアクセス権が解放されます

┌─────────────────────────

│ ???????
│ 場所: ████████

│ ※ 暗号を解読すると表示されます

└─────────────────────────

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[← 田中健人の旋律] [暗号を解く]

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「暗号……」
 私は画面を見つめた。
 W-5-R
 E-3-F
「これ、何を意味してるんだろう」
 蒼太は紙に暗号を書き写した。そして、しばらく考え込んでいる。眉間に皺を寄せて、何かを思い出そうとしているようだった。
「『誰も見ていない場所』『水の音が聞こえる場所』『鏡がある場所』……」
 私も考えた。学校の中で、そんな場所はどこだろう。
「トイレ……?」
「可能性はある。でも、暗号を解かないと確信が持てない」
 蒼太は暗号を見つめたまま、何も言わなかった。彼の表情から、何か分かりかけているような気がしたが、まだ答えには辿り着いていないようだった。
「昼休みが終わる。午後の授業が終わったら、もう一度考えよう」
 私たちは食堂を出た。

 放課後、私たちは再び図書室に集まった。蒼太は暗号の紙を広げ、何やら書き込みをしている。私も隣に座って、一緒に考えた。
 でも、答えは出なかった。
「W-5-R……Woman? West? Water?」
「E-3-F……East? Elementary? English?」
 色々な可能性を考えてみたが、どれもしっくりこない。蒼太も、珍しく苦戦している様子だった。
「今日はここまでにしよう」
 蒼太は時計を確認した。もう午後五時を過ぎている。
「家でもう一度、じっくり考えてみる。明日、答えを持ってくるよ」
「うん。私も考えてみる」
 私たちは図書室を出た。帰り道、私は暗号のことばかり考えていた。でも、どうしても答えが見つからなかった。
Scene 4
 翌日——金曜日の朝、私は昨日の暗号のことを考えながら学校に向かった。
 W-5-R
 E-3-F
 何度見ても、意味が分からない。でも、蒼太なら何か分かるかもしれない。
 教室に入ると、蒼太がすでに自分の席に座っていた。彼も、昨夜考え続けたのだろう。机の上には、何やら書き込まれた紙が置かれている。
「おはよう」
 私が声をかけると、蒼太は顔を上げた。
「おはよう。暗号の答え、わかったよ」
「本当?」
「ああ。実際に行って確かめてみよう。昼休み、一緒に来てくれ」
 その声には、いつもの冷静さに加えて、少しの緊張が混じっていた。
 午前の授業が終わり、昼休みになった。私たちは校舎の三階へ向かった。
「どこに行くの?」
「女子トイレだ」
 蒼太は三階の廊下で足を止めた。女子トイレの前。
「暗号を解いたんだ。W-5-RとE-3-F……最初、建物と階数と場所を示していると思った。でも、違った」
「じゃあ、何を意味してるの?」
「W は Woman——女性。5 は個室の数。R は Restroom——トイレ。つまり、『個室が五つある女子トイレ』を意味している」
「五つの個室……」
 私は考えた。学校の中で、個室が五つある女子トイレ。
「三階の女子トイレは、確か個室が五つあったはず」
「そして、E-3-F。E は East——東側。3 は三階。F は Female——女性。つまり、『三階東側の女子トイレ』」
 蒼太の説明を聞いて、私は納得した。暗号は、この場所を指していたのだ。
「でも、私しか入れないね」
「ああ。頼む」
 私は女子トイレに入った。中には誰もいなかった。個室は、確かに五つある。
 蒼太が言っていた「東側」——それは、窓に近い方の個室だろう。
 一番奥の個室に入ると、壁に小さな紙が貼られているのが見えた。目立たない場所、手洗い場の裏側。普通なら気づかない場所だ。
 紙を剥がして確認すると、また二次元コードが描かれていた。
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■■■■■■■□□□■■■□■
 私はスマホでコードを読み取った。画面に、特設サイトが表示される。
https://kieta-kyoushitsu.com/memory/05-final-message
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╔═══════════════════════════════════════╗

║ 【記憶のカケラ #05】
║ 最後のメッセージ

║ 【進行状況】 [●●●●●] 5/5 完了

╚═══════════════════════════════════════╝

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【発見された投稿】 📱

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投稿者:匿名
日時:2024年4月20日 12:47
場所:学校

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もう、疲れた。
笑顔を作るのに疲れた。
誰かの期待に応えるのに疲れた。

今日も、トイレで泣いた。
誰にも見られないように。

みんなは、私のことを
「しっかりしてる」って言う。

でも、本当は違う。
本当は、泣きたい。
本当は、助けてほしい。

でも、それを言えない。
だって、みんな期待してるから。
「あなたならできる」って。

できないのに。
本当は、できないのに。

#消えたい #疲れた #誰か助けて

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【この投稿について】

この投稿は、二年B組の誰かが書いたものです。
春野美咲か、中村陽菜か、それとも別の誰かか。

涙は、誰にも見せたくない。
だから、一人で泣く場所が必要だった。

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【二年B組からの最後のメッセージ】 ✉️

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もし、ここまで辿り着いてくれたなら。
ありがとう。

私たちの声を、聞いてくれて。
私たちの本当の姿を、見てくれて。

私たちは、「消えたい人のための場所」で、
最後の選択を迫られました。

「このまま消えるか」
「それとも、もう一度戻るか」

でも、戻るには条件がありました。

「誰かが、あなたたちの本当の姿を見つけること」
「誰かが、あなたたちの声を聞くこと」
「誰かが、あなたたちを必要だと思うこと」

もし、それができたなら。
私たちは、戻ることができます。

でも、もし誰も見つけてくれなかったら。
私たちは、本当に消えてしまいます。

だから、お願い。
最後の場所を、見つけて。

それは、「私たちが最も恐れていた場所」です。

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【最後の暗号】 🔐

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M-I-R-R-O-R
R-E-F-L-E-C-T
T-R-U-T-H
この三つの言葉が示す場所。
そこに、全ての答えがあります。

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【ヒント】 💡

🪞 Mirror = 鏡
✨ Reflect = 映す
📖 Truth = 真実

🏫 学校で一番大きな鏡がある場所
👀 自分の全身が映る場所
😨 本当の自分と向き合う場所

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【暗号解読フォーム】

最後の場所を推理してください:

┌─────────────────────────

│ 例: 教室、廊下など
│ ┌───────────────────────┐ │

│ └───────────────────────┘ │

│ [解読する]

│ ※ 学校内の場所を入力してください

└─────────────────────────

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【探偵たちの推理】 💭

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👤 探偵 #1892 (1時間前)
「鏡...映す...真実...
自分の全身が映る場所って...」

♥ 共感 2,456 💬 返信 98

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👤 探偵 #0734 (3時間前)
「『最も恐れていた場所』
自分の本当の姿を見る場所...」

♥ 共感 3,891 💬 返信 142

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👤 探偵 #2401 (6時間前)
「わかった!学校で一番大きな鏡がある
あの場所だ!」

♥ 共感 6,234 💬 返信 267

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[もっと見る (9,127件)]

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【統計情報】 📊

このページの訪問者数: 78,234人
暗号挑戦者数: 34,892人
正解者数: 28,467人 (81.6%)
平均解答時間: 8分42秒

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【正解すると...】 ✨

二年B組の真実が明かされます

[最終章へ進む →]

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二年B組一同より

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 私は画面を見つめた。
 M-I-R-R-O-R
 R-E-F-L-E-C-T
 T-R-U-T-H
 鏡。映す。真実。
 私は個室を出て、蒼太に画面を見せた。
「M-I-R-R-O-R、R-E-F-L-E-C-T、T-R-U-T-H……」
 蒼太は三つの単語を紙に書き出した。
「Mirror——鏡。Reflect——映す。Truth——真実」
 彼は少し考えてから、顔を上げた。
「わかった」
「どこ?」
「『鏡』『映す』『真実』——これらが示す場所。『私たちが最も恐れていた場所』。それは、自分の本当の姿が映る場所だ」
「自分の本当の姿……」
「学校で、一番大きな鏡がある場所。そこには、自分の全身が映る。逃げることができない場所」
 私たちは同時に答えを口にした。
「体育館」
 体育館には、壁一面に大きな鏡が設置されている。ダンス部や体操部が練習で使う、全身を映す鏡。
 そこに、最後の答えがある。
「明日、放課後に行こう」
 蒼太が言った。もう下校時刻が近い。
「うん。明日、体育館で」
 私たちは、明日への決意を胸に、それぞれの帰り道へと向かった。
 これで、全ての記憶のカケラを見つけた。
 明日、体育館に全ての真実がある。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【第3章 完】
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