「こ、古参ファン?」
想定外の答えにディオンは豆鉄砲を
喰らったかのような顔になる。
「ええ!幼い時、偶然図書館で見かけた
『魔王ディオン』を読んでから、わたくしは
ずっと貴方のことをお慕いしていますわ。
ですからディオン様、わたくしと」
「ち、ちょっと待て。今偶然と言ったか?
魔国で出版された本は国外秘となっている。
そんな本が何故アルフィリアにある!?」
魔国は秘密主義である。
魔族の弱みが握られないよう、
情報は最低限しか開示していない。
それなのに何故。
「さあ。わたくしにもわかりません」
本当に何も知らないようなミレイユの口ぶりに
ディオンは深いため息をついた。
また一つ仕事が増えた。
「ディオン様は、強くて、気高く、美しい。
まるで、道端に咲く花のよう。
だから、わたくしは貴方と結ばれたいのです」
ディオンの抱える闇を知らない
無垢で真っ直ぐな瞳。
ディオンはその瞳から目を逸らし、呟いた。
「わたしはそんなに綺麗なものじゃない」
「いいえ、とても綺麗ですわ」
ハッキリと断言するミレイユに
ディオンは片眉を上げる。
「何故そのようなことを言える。
わたしは幾つもの国を滅ぼした邪悪な魔王なのだぞ」
「確かにディオン様は邪悪なのかもしれません。
けれど、わたくしは悪だとか
そんなものに興味は無いんです。
ただ、戦い続ける貴方に恋をしただけなのですから」
ミレイユは幸せそうに胸元に手を当てる。
人間は悪を嫌うはずだが、
この娘は変わっているな。
「そうか……。
だが、結婚はできない」
「まあ!嬉しい!」
喜びの声を上げた後で
ミレイユはしばし思考を停止する。
「……え?」
「結婚はできないと言ったんだ。
わたしは魔王だ。アルフィリアと魔国の友好関係を
示すための政略結婚ならばやむを得ないが、
所詮、人間と魔族。
人間の中にはわたしを恨み、嫌う者もいる。
そんなわたしと何の後ろ盾もなく
婚姻を結ぶということは姫にも魔族にも危険が及ぶ。
最悪、国同士の争いに発展するかもしれない。
そうなれば、姫も困るだろう?」
「なるほど、後ろ盾を用意すればいいのですね!」
「話を聞いてたか?」
「待っててください!ディオン様!
必ずや後見人を探し出してご覧にいれます!!」
「いや、だから」
「そうと決まれば早速準備をしなくては!!
では、ディオン様、しばしの間お待ちください!
それではご機嫌よう!!」
口を挟む間もなく、ミレイユは謁見の間を
飛び出して行った。
……。
ディオンは思った。
わたしの気持ちは一体どこへ?



