冷たい冬の風を全身に受けながら、大空を翔る。ここ最近、一段と厳しくなった寒さに、思わず舌を打ちそうになる。
しばらくして、町の中心部にある商業ビルの屋上で、ようやく羽根を休めた。
さして立派とも言えない町並みの中、視認できるものだけで五つの黒煙が立ち上っている。その黒煙を頼りにここまでやって来たのだ。
町ゆく人々は、自分たちが暮らしている場所に、こんな悍ましい光景が広がっていることなど知る由もないだろう。
なんて愚かで、哀れな生き物なんだ。誰もが、この黒煙渦に巻き込まれる可能性があるというのに、まるで、自分には関係ないと高を括っているように見える。
――まあ、無理もない。そもそも、この黒煙は彼らの目には見えていないのだから。
両耳を塞ぎ、首を垂らし、手元にある小さな箱を見つめながら歩いていく人々から目を逸らし、再び柱のように伸びた黒煙に視線を向ける。
今日はやけに多い。
同じ建物から二つ、違う建物から一つ。この二軒の建物から黒煙が上がっているのは二日に一回のペースでよく見かけるから、さほど驚きはしない。残り二つの片方は、大通りの交差点からだ。遠目からではっきりとは見えないが、赤、白、黒の緊急車両が縦列しているのが確認できる。きっと、交通事故だろう。
そして、最後の一つ。それは、単身者向けのアパートから立ち上っていた。
つい先ほど、ほぼ集約されている黒煙のほうに三羽、交差点のほうに一羽飛んで行ったのを確認している。これから向かうのであれば、選択肢はひとつだけだ。
あそこには、家を出て独り立ちをした若者ばかりが住んでいると聞く。人間関係の希薄化、貧困化――日常生活における幸福レベルが右肩下がりの中で、あのような場所から黒煙が立ち上るのは穏やかではない。
――行くしかないか。
一羽のカラスが、羽根を広げて大空へと飛び立った。
その右足には、【35】と彫られた黒いタグが、足枷のようにつけられている。



