透明なしずくが、体温を奪っていく。
これは人間が言うところの雨というらしい。指をさして笑う、人間の子供たち。含み笑いを隠し切れず、車に轢かれた僕のことを興味津々にのぞき込んでは何かをわめいている。
楽しそうな甲高い声が鼻につく。感覚のなくなった体を黄色い傘でつつかれる。惨めったらしいな。本当、最期の時ぐらい静かに過ごさせてほしい。
僕がいる歩道の向こうに交差点がある。
そこには大きな花束が供えられ、青と白の小さな花が雨に濡れて、その可憐さに薄汚さが足されていく。
人間は、死後の世界を信じているらしい。そして、死後の世界へ行く途中に喉が渇かないよう、花の水分を吸って天に上がると聞いたことがある。
うらやましいな。死んでも気遣ってもらえるなんて。
僕は人間じゃないから、きっと花なんか供えてももらえない。
ぼんやりと視界に入るのは、僕から沁みだす血。雨に滲んで下水道に流されていく。生臭さと動物の死骸と食べ物のカスが詰まってドロドロになった下水道に。
あんなところに僕は沁みこんでいくのか。嫌だなぁって思っても、僕の足はつぶされて、下半身は見るも無残に赤黒く染まり、ぐにゃりと歪んでいてもう僕が歩けないことは確かだった。
今更助かりようもない。
頬をアスファルトに付けてどうにか動く前足を何度も動かそうとするけど、その度血がしみだして視界をぼやけさせて、余計に寒さを植え付けるのだ。
悲しいなぁ。こんなふうに僕は終わってしまうのか。
死にかけの僕を濡らす雨が、今までの人生で貯めた涙の代わりになってくれればいいなって思った。
僕が生まれたのは春だった。うららかな春の陽気と柔らかな母さんのお腹、兄弟たちのぬくもりがあれば、僕はもう何もいらなかった。温かな日差しの中で、ずっと母さんと兄弟たちを一緒にいられると思っていた。
きっとみんな一緒にずっといられると、何の根拠もなく思っていたんだ。そんなある日、兄弟の中で一番大きな姉猫が死んだ。
生ごみを漁っているときに、カラスに襲われてお腹を裂かれてしまった。
お母さんは姉猫を自らの体を翻して隠し、僕らにここを一刻も早く去るように促した。カラスがまたやってくるから殺されてしまうと、そういって僕らは死を初めて知った。
「お母さん、死ぬってなあに?」
「動かなくなってしまうことよ」
「動かくなくなってしまうとどうなるの?」
母さんは目を伏せて顔をそらしてそのままいった。
「あの子のようになるってこと」
死を知った僕たちは、悲しくて、悲しくて目の前にいたはずの存在がいなくなってしまうことに震えて、そして気づいたんだ。
自分はそうなりたくないと。
「こんなふうになりたくなかったなぁ」
一人呟いても誰もいない。お母さんも兄弟たちもみんな死んでしまった。そして僕もきっとそうなる。
最後は暖かい光の中で死にたかったなぁなんて思った。けれどあいにく、今日は雨なんだ。僕を早く死なせたいみたいに、雨だったんだ。
涙と血に滲んで世界が遠のいていく。
「うっわー汚っねぇー」
ふいに聞こえた声に、僕は視線を向ける。そこには悪意に満ちた表情の子供が、黒い大きなカバンを背負って僕を見ていた。
そして僕が生きているか確かめようと、小ぎれいな長靴でそっと僕の体に蹴る。
「ちょっとやめなよ、汚れるよ!」
他の子供が叫ぶように言う。その言葉が酷く残酷に聞こえた。僕は好きでこんなふうに生まれたわけじゃない。僕は好きで死ぬんじゃない。どうして望んでもないことを受け入れらなければならないのに、お前たちは僕を「汚い」なんていうんだ。
僕の中で真っ黒な悲しい感情が肥大していく。
心が腐っていく。冷めていく。枯れていく。
でも、本当は初めからわかっていたことなんだ。愛らしい小動物には、無性に愛を注ぎ、気持ちの悪い虫を見ると、踏み潰して笑う。それが悲しいと思うのはおかしいだろうか?
悲しいと思ってはいけないのだろうか? 僕だって、自分に関わらないことならどうだっていいって思うんだ。遠くの何処かの知らない猫が殺されようが、酷い虐殺をされようが、僕らは僕らの現実を受け入れ笑って暮らす。しいけど、それが当たり前なんだ。それなのにどうしてこんな気持ちになるんだろう。感情が溢れて悲しいとしか思えない。
それでも耐えるしかない。他に僕にどうすることも出来なかった。
それでも――。
誰でもいい、僕を触ってほしい。こんな汚いものを触るようにじゃない。母さんと兄弟たちみたいに、宝物みたいに僕に触れてほしい。
こんなふうに誰にも看取られず、こんな痛い感覚まま死ぬなんて。
産まれたことの証明も、愛された証明も、覚えていてくれる人さえ誰もいない、僕が死んだところで何も変わらない。
僕が生まれた世界は、そうして真っ白にリセットされて穏やかな何もない世界へと僕を導いて僕がいなくなっていく。どうしようもない。諦め目を閉じようとした、その時だった。
「……だめ。だめ!」
僕は誰かに抱きしめられた。ぬくもりが布を通して伝わってくる。あたたかい。ぬくもりを僕は感じて閉じかけた目を開ける。
「もう一人ぼっちじゃないよ、寂しくなんてないよ。」
一人の少女が、僕を抱きしめて守っていた。優しい声だ。あの春の日差しを思い出した。優しい匂いだ。優しい力を感じる。大事そうに抱きしめるその少女の体温に僕は言葉を失っった。
「僕、もう死ぬんだよ? 守ったってしょうがないよ」
僕は声にもならない声で言う。きっとその少女には伝わらない。きっと意味さえわからない。それでも少女は言うんだ。
「大丈夫、一人じゃないから。怖くないから」
その様子に、周りの人間の子供たちが理解のできないものを見るように、少女を見た。
「それ、汚いよ」
その言葉は少女を思いやるような言葉ですらない。
その少女の人格を疑うような「信じられない」「頭がおかしいのか」というニュアンスが含まれていることは明らかだった。
少女は傘も差さず、ずぶ濡れで僕の血が彼女の白い服に染みを作っていく。
ざわめく子供らの声が、少女から人間という価値を剥がしていくように疎外していくようだった。
「関わるなよ、あいつは頭がおかしい」
口々に子供らは言うのだ。
僕はもうそれを見ることが辛くなってもうやめて欲しいと思った。
僕だって惨めだ。やめてよ、僕はそんな惨めな奴なんかじゃない、惨めなんかじゃないんだ。
僕は彼女を否定するように弱った手で少女に触れようとした。その時、少女の表情が見えた。泣いても笑ってもいなかった。
大切な宝物を抱きしめるような優しい表情をしている。少女からは慈しみしか感じなかった。同情も憐みもなかったんだ。
ただ僕を抱きしめて、最後に終わろうとする命に対する最後の敬意と一つの命を拾い上げて微笑み、慈しむような優しさ。
ぬくもりを、優しさを、こんなに純粋に感じたことはない。綺麗だと思った。その少女からあふれるものが、あまりにも優しくきれいで一片の汚れすらなくて。それが僕の救いになった。
ぼたぼたと感情が溢れだす。その汚い感情を許してくれる気さえして僕はあふれ出す感情に身をゆだねた。
生きることに失望して絶望して、何度も何度も打ちのめされて、それでも、生きていることに僕という存在に、愛情を求めることを止められなかったんだ。
「もう一人ぼっちじゃないよ、寂しくなんてない」
そういったのは僕の気持ちが分かったから。
少女はきっと、僕と同じなんだ。きっとこの世界に失望してそれでも優しさを他のものに求めることをやめることができなくて、情けなくて惨めで、悲しくて。そんな気持ちを消すことのできなくて。
だから僕に優しくすることしかできなかった。自分が欲しいものを僕に与えてくれたんだ。
僕は目をつぶって彼女のぬくもりを感じた。
僕らは僕らの現実を受け入れ笑って暮らすって、それが当たり前なんだって分かってた。でも、でも本当は、そう思わなきゃ生きてなんていけなかった。
先回りして諦めたフリして立ち上がれる程度先に傷ついて、痛みに覚悟して、当たり前だなんて言い聞かせないと僕は、とても弱くて前を向いてなんて生きてなんていけなかった。
寂しいなんて気持ち、それが哀しいなんて思う事はとてもおこがましくて、自分が与えてもあげれないものを願うのは傲慢で、みすぼらしくて、そんな自分が恥ずかしくて惨めで出来なかった。
ごまかして自分の感情に嘘をつくことしか出来なかった。
僕に対して汚いとか気持ち悪いとか思う気持ち、それはあって当然だと思う。
僕だってそうだ、姉猫が死んだとき、大好きだった姉猫が汚い、気持ち悪いって思った。あんなに好きだった兄弟で、大好きだったぬくもりだった姉猫さえに思う感情を、どうにかしろなんて言えない。触りたくないとさえ思った。けれど、それでも! どうしようもなく僕は矛盾してる。
けれど僕は、寂しくてどうしようもないんだ。死んじゃうことも悲しんでもらえないことも、汚いと言われることも、全部悲しいって思うことぐらい許して欲しい。
最期は、最後ぐらいは誰かに手を差し伸べられたい。助けて欲しかった。
大事な存在だと嘘でもいい。言ってほしかったんだ。
「あたたかい」
知らない少女だった。けれど、持て余してどうしようもないほど、優しい人だった。花の名前の少女はきっと、知らないだろう。知らないまま、自分を愛せずに、愛されたまま幸せなまま、こちらに来た。
だから、寂しくないように、僕が待っているんだ。
これは人間が言うところの雨というらしい。指をさして笑う、人間の子供たち。含み笑いを隠し切れず、車に轢かれた僕のことを興味津々にのぞき込んでは何かをわめいている。
楽しそうな甲高い声が鼻につく。感覚のなくなった体を黄色い傘でつつかれる。惨めったらしいな。本当、最期の時ぐらい静かに過ごさせてほしい。
僕がいる歩道の向こうに交差点がある。
そこには大きな花束が供えられ、青と白の小さな花が雨に濡れて、その可憐さに薄汚さが足されていく。
人間は、死後の世界を信じているらしい。そして、死後の世界へ行く途中に喉が渇かないよう、花の水分を吸って天に上がると聞いたことがある。
うらやましいな。死んでも気遣ってもらえるなんて。
僕は人間じゃないから、きっと花なんか供えてももらえない。
ぼんやりと視界に入るのは、僕から沁みだす血。雨に滲んで下水道に流されていく。生臭さと動物の死骸と食べ物のカスが詰まってドロドロになった下水道に。
あんなところに僕は沁みこんでいくのか。嫌だなぁって思っても、僕の足はつぶされて、下半身は見るも無残に赤黒く染まり、ぐにゃりと歪んでいてもう僕が歩けないことは確かだった。
今更助かりようもない。
頬をアスファルトに付けてどうにか動く前足を何度も動かそうとするけど、その度血がしみだして視界をぼやけさせて、余計に寒さを植え付けるのだ。
悲しいなぁ。こんなふうに僕は終わってしまうのか。
死にかけの僕を濡らす雨が、今までの人生で貯めた涙の代わりになってくれればいいなって思った。
僕が生まれたのは春だった。うららかな春の陽気と柔らかな母さんのお腹、兄弟たちのぬくもりがあれば、僕はもう何もいらなかった。温かな日差しの中で、ずっと母さんと兄弟たちを一緒にいられると思っていた。
きっとみんな一緒にずっといられると、何の根拠もなく思っていたんだ。そんなある日、兄弟の中で一番大きな姉猫が死んだ。
生ごみを漁っているときに、カラスに襲われてお腹を裂かれてしまった。
お母さんは姉猫を自らの体を翻して隠し、僕らにここを一刻も早く去るように促した。カラスがまたやってくるから殺されてしまうと、そういって僕らは死を初めて知った。
「お母さん、死ぬってなあに?」
「動かなくなってしまうことよ」
「動かくなくなってしまうとどうなるの?」
母さんは目を伏せて顔をそらしてそのままいった。
「あの子のようになるってこと」
死を知った僕たちは、悲しくて、悲しくて目の前にいたはずの存在がいなくなってしまうことに震えて、そして気づいたんだ。
自分はそうなりたくないと。
「こんなふうになりたくなかったなぁ」
一人呟いても誰もいない。お母さんも兄弟たちもみんな死んでしまった。そして僕もきっとそうなる。
最後は暖かい光の中で死にたかったなぁなんて思った。けれどあいにく、今日は雨なんだ。僕を早く死なせたいみたいに、雨だったんだ。
涙と血に滲んで世界が遠のいていく。
「うっわー汚っねぇー」
ふいに聞こえた声に、僕は視線を向ける。そこには悪意に満ちた表情の子供が、黒い大きなカバンを背負って僕を見ていた。
そして僕が生きているか確かめようと、小ぎれいな長靴でそっと僕の体に蹴る。
「ちょっとやめなよ、汚れるよ!」
他の子供が叫ぶように言う。その言葉が酷く残酷に聞こえた。僕は好きでこんなふうに生まれたわけじゃない。僕は好きで死ぬんじゃない。どうして望んでもないことを受け入れらなければならないのに、お前たちは僕を「汚い」なんていうんだ。
僕の中で真っ黒な悲しい感情が肥大していく。
心が腐っていく。冷めていく。枯れていく。
でも、本当は初めからわかっていたことなんだ。愛らしい小動物には、無性に愛を注ぎ、気持ちの悪い虫を見ると、踏み潰して笑う。それが悲しいと思うのはおかしいだろうか?
悲しいと思ってはいけないのだろうか? 僕だって、自分に関わらないことならどうだっていいって思うんだ。遠くの何処かの知らない猫が殺されようが、酷い虐殺をされようが、僕らは僕らの現実を受け入れ笑って暮らす。しいけど、それが当たり前なんだ。それなのにどうしてこんな気持ちになるんだろう。感情が溢れて悲しいとしか思えない。
それでも耐えるしかない。他に僕にどうすることも出来なかった。
それでも――。
誰でもいい、僕を触ってほしい。こんな汚いものを触るようにじゃない。母さんと兄弟たちみたいに、宝物みたいに僕に触れてほしい。
こんなふうに誰にも看取られず、こんな痛い感覚まま死ぬなんて。
産まれたことの証明も、愛された証明も、覚えていてくれる人さえ誰もいない、僕が死んだところで何も変わらない。
僕が生まれた世界は、そうして真っ白にリセットされて穏やかな何もない世界へと僕を導いて僕がいなくなっていく。どうしようもない。諦め目を閉じようとした、その時だった。
「……だめ。だめ!」
僕は誰かに抱きしめられた。ぬくもりが布を通して伝わってくる。あたたかい。ぬくもりを僕は感じて閉じかけた目を開ける。
「もう一人ぼっちじゃないよ、寂しくなんてないよ。」
一人の少女が、僕を抱きしめて守っていた。優しい声だ。あの春の日差しを思い出した。優しい匂いだ。優しい力を感じる。大事そうに抱きしめるその少女の体温に僕は言葉を失っった。
「僕、もう死ぬんだよ? 守ったってしょうがないよ」
僕は声にもならない声で言う。きっとその少女には伝わらない。きっと意味さえわからない。それでも少女は言うんだ。
「大丈夫、一人じゃないから。怖くないから」
その様子に、周りの人間の子供たちが理解のできないものを見るように、少女を見た。
「それ、汚いよ」
その言葉は少女を思いやるような言葉ですらない。
その少女の人格を疑うような「信じられない」「頭がおかしいのか」というニュアンスが含まれていることは明らかだった。
少女は傘も差さず、ずぶ濡れで僕の血が彼女の白い服に染みを作っていく。
ざわめく子供らの声が、少女から人間という価値を剥がしていくように疎外していくようだった。
「関わるなよ、あいつは頭がおかしい」
口々に子供らは言うのだ。
僕はもうそれを見ることが辛くなってもうやめて欲しいと思った。
僕だって惨めだ。やめてよ、僕はそんな惨めな奴なんかじゃない、惨めなんかじゃないんだ。
僕は彼女を否定するように弱った手で少女に触れようとした。その時、少女の表情が見えた。泣いても笑ってもいなかった。
大切な宝物を抱きしめるような優しい表情をしている。少女からは慈しみしか感じなかった。同情も憐みもなかったんだ。
ただ僕を抱きしめて、最後に終わろうとする命に対する最後の敬意と一つの命を拾い上げて微笑み、慈しむような優しさ。
ぬくもりを、優しさを、こんなに純粋に感じたことはない。綺麗だと思った。その少女からあふれるものが、あまりにも優しくきれいで一片の汚れすらなくて。それが僕の救いになった。
ぼたぼたと感情が溢れだす。その汚い感情を許してくれる気さえして僕はあふれ出す感情に身をゆだねた。
生きることに失望して絶望して、何度も何度も打ちのめされて、それでも、生きていることに僕という存在に、愛情を求めることを止められなかったんだ。
「もう一人ぼっちじゃないよ、寂しくなんてない」
そういったのは僕の気持ちが分かったから。
少女はきっと、僕と同じなんだ。きっとこの世界に失望してそれでも優しさを他のものに求めることをやめることができなくて、情けなくて惨めで、悲しくて。そんな気持ちを消すことのできなくて。
だから僕に優しくすることしかできなかった。自分が欲しいものを僕に与えてくれたんだ。
僕は目をつぶって彼女のぬくもりを感じた。
僕らは僕らの現実を受け入れ笑って暮らすって、それが当たり前なんだって分かってた。でも、でも本当は、そう思わなきゃ生きてなんていけなかった。
先回りして諦めたフリして立ち上がれる程度先に傷ついて、痛みに覚悟して、当たり前だなんて言い聞かせないと僕は、とても弱くて前を向いてなんて生きてなんていけなかった。
寂しいなんて気持ち、それが哀しいなんて思う事はとてもおこがましくて、自分が与えてもあげれないものを願うのは傲慢で、みすぼらしくて、そんな自分が恥ずかしくて惨めで出来なかった。
ごまかして自分の感情に嘘をつくことしか出来なかった。
僕に対して汚いとか気持ち悪いとか思う気持ち、それはあって当然だと思う。
僕だってそうだ、姉猫が死んだとき、大好きだった姉猫が汚い、気持ち悪いって思った。あんなに好きだった兄弟で、大好きだったぬくもりだった姉猫さえに思う感情を、どうにかしろなんて言えない。触りたくないとさえ思った。けれど、それでも! どうしようもなく僕は矛盾してる。
けれど僕は、寂しくてどうしようもないんだ。死んじゃうことも悲しんでもらえないことも、汚いと言われることも、全部悲しいって思うことぐらい許して欲しい。
最期は、最後ぐらいは誰かに手を差し伸べられたい。助けて欲しかった。
大事な存在だと嘘でもいい。言ってほしかったんだ。
「あたたかい」
知らない少女だった。けれど、持て余してどうしようもないほど、優しい人だった。花の名前の少女はきっと、知らないだろう。知らないまま、自分を愛せずに、愛されたまま幸せなまま、こちらに来た。
だから、寂しくないように、僕が待っているんだ。

