目の前に広がる青い海を見渡せる、人気のテラス席。潮風をうけて、幼馴染の蒼真の柔らかなねこっ毛が揺れてる。
並んで座る恋人の大きな掌が蒼真の小さな頭を撫ぜて髪を整えた。はにかむ蒼真の耳が真っ赤に染まる。蒼真が照れるとああなるの、隣にいるあいつより俺の方が良く知ってる。
しかもその流れからテーブルの下で男同士で手を繋いだ。足元に伏せたゴールデンレトリバーがのんびりと昼寝をしていて、ご主人たちのイチャイチャは見ないふりしているみたいだ。だけど俺の目は誤魔化せないぞ。あーなんだよ。人前でイチャイチャしやがって!
(蒼真のやつ、幼馴染の俺がいるのに、まるで眼中なしかよ。お互いしか目に入ってないんだろうな。このバカップルめ。)
俺は今バイト中だから、隣のテーブルに生クリームもりもりの名物パンケーキを運びつつ、視界に入る二人を見てはイライラを募らせてる。
(蒼真のバカ! 恋人なんて作らないで、俺ら幼馴染三人、ずっと一緒にいようねって言ってたくせに!)
「……くっそ。いちゃつくなら他でやれよ。普通、元バイト先に彼氏連れでくるかあ?」
流石にホールでは大人しくしてたけど、カウンター裏に戻ったら低っくい声がでた。あーもう、ムカつく。腹いせにトレイをどっかに投げつけたくなる。
ぷんすかしてたら、このカフェのオーナーの息子で、もう一人の幼馴染みである隼が賄いを食べ終わってこっちに歩いて来た。
「小鳩、イライラしすぎ」
「うっさい」
こっちをあきれ顔で見下ろしてきて、間髪入れずに、眉間を指先で擦られる。
「しかめっ面。皺ができてるぞ」
「はあ! 触んな」
(こいつ、身長抜かしたあたりから態度がすげぇでかくなってきたな。てか、俺のが年上なのに)
俺はイライラの気持ちをそのまま、隼にぶつけ、ばしって大きな手を払いのけて顔を背けた。
「お前の取り柄が台無しだぞ」
「うっさい。人を顔だけみたいに言うな」
「綺麗だって褒めてんだよ」
むう、無茶苦茶イケメンである隼の褒められると悪い気はしない。確かに俺は顔だけは、わりと自信はあるけどね。
昔から可愛い顔だね、綺麗だね、整ってるね。肌も透き通ってて白くてお人形みたい、手足もほっそりしてて少女漫画家から出てきたみたい! なんて女子から言われまくってきたしな。
この外見を生かして外面だけはいい俺にとって、幼馴染の二人以外に素で愚痴れる相手はいない。蒼真と微妙な感じになっている今は、もはやこいつしかいないのだ。
「蒼真さあ、別のバイトが見つかったからって、こっちのバイトを即辞めんのって駄目じゃねぇ? 責任感なさすぎだろ」
「仕方ないだろ。恋人にアルバイト頼まれたら、そっちいって当然だろ。オーナーも納得してるんだし」
「そうだけどさ……」
隼はここのオーナーの息子だ。そういう隼も、今年はシフトにほぼ入れない。進学校に通うめちゃめちゃ忙しい受験生として、今日はこのあと夜まで塾の夏期講習だ。
夏になると俺らの住む海街は観光シーズン真っ盛りだ。去年までひっきりなしにお客さんが入るホールを幼馴染三人が阿吽の呼吸で回してきた。だけど今年の夏はその二人がふたりとも、シフトから抜けてしまった。
夏の繁忙期に入ったから、今日みたいに他のアルバイトでシフトが埋まらない時だけの約束でも、隼が手伝いに来てくれるのは正直すげぇありがたい。
「新しく入った奴さ、オーダーとんの、すげぇ遅いし。何度も何度もカード支払いのやり方間違えるしさ、ポイントつけそこなったりするし」
呟いてるうちに色んなもやもやが湧いてきて、それが塊になってお腹の中でぐるぐる暴れてるみたいな気分になる。そんな俺の気持ちを察して、隼が背中をどうどうって感じに撫ぜてくれた。
「今、小鳩が一番先輩だから。頑張ってて偉いってオーナーも褒めてたよ」
俺が文句を言ったやつがちょうどカウンター裏に戻ってきた。隼は察しがいい。俺的にはそいつに聞かれてもいいぐらいの気持ちでいたんだけど、こいつはここの息子だし、そういうわけにはいかないんだろ。
「イライラしないで。昼休憩行って来いって」
「……分かった」
「今日の賄いも美味しいよ。マグロとアボカドのポキ丼。小鳩好きだろ」
頷いたらにこっとお上品に微笑まれた。流石有名進学校の学年一位。まるで年上みたいで、俺の方がガキみたいじゃん。ちょっと面白くない。
(今はこんなにでっかいけどさ、小さい時は蒼真も小鳩も、俺がいないと何にもできなかったくせにさあ)



