梶山村には、山道を抜けてきたところにちょっとした休憩所がある。そこは村の入口になっていた。
「ようこそ 梶山村へ」と書かれた、白いところどころ錆の目立つ看板が立っている。その隣にちょこんと建つ木造の小屋が休憩所だった。といっても、特に何かがあるわけでもない。赤いプラスチックのベンチが1つ置いてあるだけだ。
チャットでやりとりをして、担当の宗方が梶山村に来る日が決まった。それが今日だ。
莉良は自分の方から最寄り駅まで村役場の車で迎えに行こうと提案したが、宗方は自家用車で来るのだという。運転に自信があるんだな。莉良はそう思った。
こんな山奥に自家用車できたら、きっととんでもなくビビるだろう。崖あり、山あり、小川あり。莉良だって、運転するのは毎回冷や汗ものだ。村の人達は焦る様子もなく車を運転するけど。
5月の初風が心地いい。莉良は休憩所の外で大きく伸びをした。田舎の時計は、都会と進み具合は同じはずなのにやけにゆっくりと感じられる。それが、莉良のおきにいりだった。
「あれかな……」
約束の時間ちょうどに、舗装されていない道から白い車が見えてきた。最初は点に近かったものが、だんだんと大きく車の形を帯びてくる。
近づくにつれ、莉良はあれ? と首を傾げた。
なんか、都内でもめったに見られない高級車みたいな。
あれって、ランボルギーニ!? ドアが翼みたいに開くやつ?
眼前まで迫り来る白いランボルギーニに目が釘付けになる。運転手はよっぽどの車好きか、金に余裕がある人なのか。莉良は、内心戸惑っていたがそれを悟られないように普通の顔をした。
車が目の前で静かに停車する。やっぱり、ランボルギーニだ。こんな近くで拝める日が来るなんて。
ドアが開き、運転席から長い手足が見えた。すらりとした足が、地面につく。革靴も磨きあげられていてピカピカの黒光りだ。莉良は作業着姿の自分が少し恥ずかしくなった。
ぬっとドアから男性が出てくる。背、高いな。莉良は平均男性の身長より少し小さいくらいだった。
身長には昔からコンプレックスがある。165センチ。もう少し、あってもいいではないか。背の高い人を見ると、それだけで嫉妬してしまう。けれど、莉良の担当の宗方という人物は身長以外にも嫉妬する部分があった。
「お待たせしてしまいすみません。櫻川様ですか?」
「は、はい」
恐ろしいほどに顔が整っている。顔のバランスが黄金比とでも言うのだろうか。くっきりとした二重に、繊細そうな長い睫毛。
唇は薄く、微笑みを浮かべるために横に引っ張られている。瞳は三日月のように細められている。
「わたしが櫻川様の担当となります。宗方と申します」
宗方はにこりと笑うだけで名刺を差し出してきた。莉良はお辞儀をしながら自分の名刺を差し出す。
「チャットではお世話になりました。丁寧にやりとりしていただいて安心しました。宗方様ですね。櫻川と申します。よろしくお願いします」
「はい。ではさっそくですが、梶山村の案内をお願いしてもよろしいですか? 車はわたしが運転しますので、櫻川様は道案内をお願いします」
莉良はランボルギーニに視線を泳がせる。
「車に乗らせていただくなんて……いいんですか?」
「はい。徒歩で行くのは大変でしょう。5月半ばですし、熱中症の危険もありますから」
そう言って、宗方は助手席のドアを開ける。莉良はごくりと唾を飲み込んで車に乗り込んだ。
やばい。長靴だし、泥付いてるだろうし……怒られるかな。
乗るのを躊躇っていると、宗方が隣で微笑んだ。
「気になさらないでください。汚れても構いませんので」
「すみません。お邪魔します」
莉良は腰を低くして車に乗り込んだ。程なくして、宗方も運転席に座る。スウゥンと車が発進した。
砂利道だというのに、ほとんど車体はがたつかない。莉良は、右やら左やら指さして道を教える。カーブが難しい坂道も宗方はなんなく走っていた。ハンドルさばきは的確で、無駄がない。車に乗っていて、これほど安心感を覚えたのは初めてだった。30分ほど村の名所を案内し終えてから、村役場に向かった。
「ありがとうございました」
「いいえ。とんでもない」
宗方はセットされた黒髪を指で整えると、莉良の後ろにぴたりとついて歩き出す。
「ただいま戻りました。お客様がいらっしゃいました」
村役場の受付で声をかけると、莉良を含めて5人いる職員が全員立ち上がり、お辞儀をする。
「いらっしゃいませ!」
と元気よく挨拶した。
宗方は「お邪魔します」と口にして、軽く村役場を見渡した。きっと、ぼろい建物だと思われてるんだろうな。莉良は少し落ち込みつつ、表上には出さないように宗方を会議室に案内した。少し埃っぽいが、窓も開けたし大丈夫だろう。長机の前にパイプ椅子を用意して、宗方に指し示す。
「失礼します」
椅子に座るときにも声をかけるなんて、律儀な人だなあ。莉良は感心していた。
「ようこそ 梶山村へ」と書かれた、白いところどころ錆の目立つ看板が立っている。その隣にちょこんと建つ木造の小屋が休憩所だった。といっても、特に何かがあるわけでもない。赤いプラスチックのベンチが1つ置いてあるだけだ。
チャットでやりとりをして、担当の宗方が梶山村に来る日が決まった。それが今日だ。
莉良は自分の方から最寄り駅まで村役場の車で迎えに行こうと提案したが、宗方は自家用車で来るのだという。運転に自信があるんだな。莉良はそう思った。
こんな山奥に自家用車できたら、きっととんでもなくビビるだろう。崖あり、山あり、小川あり。莉良だって、運転するのは毎回冷や汗ものだ。村の人達は焦る様子もなく車を運転するけど。
5月の初風が心地いい。莉良は休憩所の外で大きく伸びをした。田舎の時計は、都会と進み具合は同じはずなのにやけにゆっくりと感じられる。それが、莉良のおきにいりだった。
「あれかな……」
約束の時間ちょうどに、舗装されていない道から白い車が見えてきた。最初は点に近かったものが、だんだんと大きく車の形を帯びてくる。
近づくにつれ、莉良はあれ? と首を傾げた。
なんか、都内でもめったに見られない高級車みたいな。
あれって、ランボルギーニ!? ドアが翼みたいに開くやつ?
眼前まで迫り来る白いランボルギーニに目が釘付けになる。運転手はよっぽどの車好きか、金に余裕がある人なのか。莉良は、内心戸惑っていたがそれを悟られないように普通の顔をした。
車が目の前で静かに停車する。やっぱり、ランボルギーニだ。こんな近くで拝める日が来るなんて。
ドアが開き、運転席から長い手足が見えた。すらりとした足が、地面につく。革靴も磨きあげられていてピカピカの黒光りだ。莉良は作業着姿の自分が少し恥ずかしくなった。
ぬっとドアから男性が出てくる。背、高いな。莉良は平均男性の身長より少し小さいくらいだった。
身長には昔からコンプレックスがある。165センチ。もう少し、あってもいいではないか。背の高い人を見ると、それだけで嫉妬してしまう。けれど、莉良の担当の宗方という人物は身長以外にも嫉妬する部分があった。
「お待たせしてしまいすみません。櫻川様ですか?」
「は、はい」
恐ろしいほどに顔が整っている。顔のバランスが黄金比とでも言うのだろうか。くっきりとした二重に、繊細そうな長い睫毛。
唇は薄く、微笑みを浮かべるために横に引っ張られている。瞳は三日月のように細められている。
「わたしが櫻川様の担当となります。宗方と申します」
宗方はにこりと笑うだけで名刺を差し出してきた。莉良はお辞儀をしながら自分の名刺を差し出す。
「チャットではお世話になりました。丁寧にやりとりしていただいて安心しました。宗方様ですね。櫻川と申します。よろしくお願いします」
「はい。ではさっそくですが、梶山村の案内をお願いしてもよろしいですか? 車はわたしが運転しますので、櫻川様は道案内をお願いします」
莉良はランボルギーニに視線を泳がせる。
「車に乗らせていただくなんて……いいんですか?」
「はい。徒歩で行くのは大変でしょう。5月半ばですし、熱中症の危険もありますから」
そう言って、宗方は助手席のドアを開ける。莉良はごくりと唾を飲み込んで車に乗り込んだ。
やばい。長靴だし、泥付いてるだろうし……怒られるかな。
乗るのを躊躇っていると、宗方が隣で微笑んだ。
「気になさらないでください。汚れても構いませんので」
「すみません。お邪魔します」
莉良は腰を低くして車に乗り込んだ。程なくして、宗方も運転席に座る。スウゥンと車が発進した。
砂利道だというのに、ほとんど車体はがたつかない。莉良は、右やら左やら指さして道を教える。カーブが難しい坂道も宗方はなんなく走っていた。ハンドルさばきは的確で、無駄がない。車に乗っていて、これほど安心感を覚えたのは初めてだった。30分ほど村の名所を案内し終えてから、村役場に向かった。
「ありがとうございました」
「いいえ。とんでもない」
宗方はセットされた黒髪を指で整えると、莉良の後ろにぴたりとついて歩き出す。
「ただいま戻りました。お客様がいらっしゃいました」
村役場の受付で声をかけると、莉良を含めて5人いる職員が全員立ち上がり、お辞儀をする。
「いらっしゃいませ!」
と元気よく挨拶した。
宗方は「お邪魔します」と口にして、軽く村役場を見渡した。きっと、ぼろい建物だと思われてるんだろうな。莉良は少し落ち込みつつ、表上には出さないように宗方を会議室に案内した。少し埃っぽいが、窓も開けたし大丈夫だろう。長机の前にパイプ椅子を用意して、宗方に指し示す。
「失礼します」
椅子に座るときにも声をかけるなんて、律儀な人だなあ。莉良は感心していた。



