保護猫おもちの縁結びやさん

「わあ、かわいい! ママ、パパ! 見て、うさしゃん、ごはんたべてる! もぐもぐ。おくちかわいい!」

 うさぎのおうちを見下ろす姿勢で、幼稚園生くらいの年頃の女の子がママとパパに報告している。両親とも穏やかな眼差しで、我が子と餌を食べる数匹のうさぎ達を見つめている。

 時刻は10:30。「触れ合いスペース」にいる「小動物達の朝のもぐもぐタイム」だ。
 もぐもぐタイムは朝の10:30と、夜の19:30に行っている。

 ここは、渋谷駅ハチ公前から徒歩10分の商業ビルに入っている「小動物カフェ・ミルキーウェイ」

 店内には先程の家族連れやカップルが小動物たちと触れ合っている。

 うさぎのおうちを覗き込んでいるその女の子は2つ結びをしていて、ピンク色のリボンの髪留めを付けていた。おませさんなんだな、とうさぎのおうちで干し草を交換している菊伏 綾人(きくふし あやと)は、目線を上げた。すると、ぱっ! と音が鳴るんじゃないかと思うくらいに、その女の子とぱちりと目が合った。綾人は、女の子を怯えさせないように、にこ、と口端を上げた。しかし、女の子はーー。

「ママ~! こわいよお!」

 パパとママの両手を繋いでいた手を離し、パパの後ろに隠れて泣きじゃくり始めた。

 やっば。またやっちまった…。

「あらぁ。どうしたのお? ユイちゃんうさぎさんのことこわくなっちゃった?」

 ユイちゃんと呼ばれた女の子はぶんぶんと首を振りながら、こっそりと綾人のほうを指さした。

「こわい! うさしゃんたべられちゃうっ! うさしゃん! にげて!」

 「あら~」と、ユイちゃんのママとパパが綾人のほうに視線を向ける。いや、向けると言うよりは見上げるといったかたちで。

 綾人は思わず、頭を下げた。

「すみません。お子さん怖がらせちゃって。せっかく、うさぎさんたちの朝のもぐもぐタイムなのに」

「いいえ~。こちらこそ、すみません。うちの子とても人見知りで、お兄さん背が高いから、びっくりしちゃっただけですよ」

 ママさんは、にこ、と微笑んでから、パパにも向き合った。

「この人も背が高いと思っていたけど、世の中にはこんなに高身長な男の人もいるのね。店員さんは何センチあるの?」

 と言って、パパの頭のてっぺんと、綾人の頭のてっぺんを見比べてくる。綾人は少し猫背気味にして、

「186です。健康診断で最近測って」

「186!? すごいなあ。最近の男の子は」

 ママが目を丸めている隣で、パパが感心したような声を洩らす。あはは、と綾人が頭をかいていると、ユイちゃんがそっと顔を出す。

 綾人は、床に膝をつけてユイちゃんに声をかけた。

「こんにちは。びっくりさせてごめんね。うさぎさんのお世話を担当しているお兄さんです。ユイちゃんは、どの子がいちばんすき?」

 ユイちゃんは、うさぎのおうちの中で一生懸命ごはんを食べているうさぎの1番端っこの赤ちゃんうさぎを指さして、

「このこ、すき」

「どうしてこのこがすきなのかな?」

 怖がらせないように、ゆっくりと聞く。すると。

「レオくんににてちっちゃいもん」

「レオくん?」

 繰り返して聞くと、ママが

「ああ。レオっていうのは、ユイちゃんの弟で。今1歳で、家で祖父母に面倒を見てもらっていて。実は、レオくんに付きっきりでお世話をしていたからか、ユイちゃん少し拗ねちゃって。だから今日はずっとユイちゃんが行きたがってたこのお店に連れてきたんです」

「まだ小さいのに、ジェラシーってやつですかねえ?」

 パパも明るく笑う。

 綾人はそんな事情があったのかと頷き、ユイちゃんに目線を合わせた。

「そうかあ。このこレオくんに似てちいさいもんね。ユイちゃんもうさぎさんとたくさんふれあって、たくさんママとパパと思い出を作ってね」

「うん!」

 パパの足の後ろから目を少し覗かせて、ユイちゃん達は「飲食スペース」に向かっていった。

 綾人はうさぎ達がごはんを食べ終えるのを待ち、うさぎのおうちの隅にたまった麦チョコに近い物体の掃除をしていった。うさぎ達の身体から出てきたものだ。その色や大きさを確認しながら、うさぎ達の健康チェックを行う。色、大きさともに異常なし。給水器に新しい水を入れ替えて、朝の掃除を完了させた。

うさぎ達はお腹がいっぱいになったのか、くっつきながらみんなで眠りにつき始めている。そんなうさぎ達を見つめながら、綾人も微笑ましく思う。ユイちゃんという女の子はきっと良いお姉ちゃんになるに違いない。赤ちゃんのお世話は本当に大変だから、ママやパパに構ってもらえなくて少し寂しかったんだろうな。かわいらしいお姉ちゃんのジェラシーに、ちょっと心がくすぐったい。