保護猫おもちの縁結びやさん

「ロシアンブルー。お前、ロシアンブルーに似てるよ」

「あー。お姫からよく言われる」

 本当に何回も言われているらしく、呆れられてしまった。ロシアンブルーのような、お嬢様(男だから王子様か?感)。高級な貴族に飼われていそうな猫だ。

 ──俺だけが気づいたと思ったのにな。

 綾人の胸の奥がひりつく。なぜ? と疑問になる前に、現実が押し寄せてきた。

「なー」

 すりすり、とおもちが綾人の膝に身体をすりつけてきたのだ。珍しい。綾人にすりすりすることは、めったにない。どうしたんだろう。

「おもちー?」

「なー」

 おもちは綾人の膝の上に乗り上げると、おしりをあげてしっぽをピンと持ち上げている。喜んでるのか? 撫でてくれと言わんばかりの甘え様である。綾人は、わしゃわしゃとおもちのお腹を撫で回す。

 うさぎ派だけど、猫もかわいいな。やっぱ。

 そしたら、強い視線を浴びていることに気づく。灯織、怒ってます。無言の圧力と眼力で、綾人のことを睨みつけている。

「俺のおもち~」

 綾人におもちを取られたことがこたえたらしい。むすっと仏頂面で、帰りの車の中でも助手席でずっとスマホを触っていた。トラブルの本人のおもちは、猫リュックの中で休んでいる。宇宙服みたいなフォルムのリュックなので、リュックの上部にアクリルでドーム型のケースが付いているため、リュックの中身が見える。つまり、おもちがよく見えるのだ。おもちももう、すっかり大きくなってつい3ヶ月前まで子猫だったことを忘れてしまうくらいだ。


◇◇◇


「灯織」

 部屋に戻ってすぐに、綾人は声をかけた。まだ、ツンとしてる灯織を宥める。猫リュックの中からおもちを取り出し、部屋の中に放った。おもちはてくてくと寝室のほうへ歩いていく。その背中を見送りながら、ぷいと横を向いて拗ねている灯織の隣に腰掛けた。ソファが綾人の重みで少し沈む。
 
「拗ねてんのか? たまにはいいだろ。俺がおもちを撫でたって。俺も飼い主なんだから」

 ぽん、と灯織の肩に手をのせる。唇をきゅっと結んでいた。

「うー。そういうことじゃないもん」

「えー。じゃあどういうことなんだよ。教えて」

 勝手に1人でぷんぷん怒っている灯織を見てると、まるで5歳児を相手にしているようである。

 俺は思春期の娘の父親か。

 と、苦笑いするくらいには2人の距離は縮まっていた。

「俺もお仕事がんばってるから、なでなでしろください」

 ちょっと驚いた。こいつ、おもちに嫉妬してんのか。なでなでされたいのか? 俺に?

「どうしたんだよ、いきなり」

「なんか、綾人の手骨ばっててごつごつしててかっこいいし、俺の手なんて女みたいに小さいし、折れそうだし、綾人に触られてるときのおもちが気持ちよさそうな顔してるから俺だって気になるんだもん」

 1呼吸でまくしたてるように、灯織が言葉を零す。

「俺のことも保護したんだから、もっと愛情込めてお世話しろ」

「……」

 いやいや、お前さん。愛情込めて世話してるつもりですよ、こちとら。22歳になった君の誕生日もお祝いしたでしょう。この前。苺のホールケーキで。忘れたのか?

「愛情込めてお世話してるつもりだけどな。何が足りないんだよ」

 「うー」と言葉を濁す灯織。数センチだけ目を泳がせてから。

「ぎゅってしてえ」

「ん?」

 両手を広げて目を瞑っている灯織。その身体が小刻みに震えている。甘えんぼう将軍になった灯織に驚きつつも、まあ減るもんではないしと己に言い聞かせ灯織を腕の中に囲った。

「ん。香水、どこの?」

 数秒押し黙ったあとで灯織が掠れた声で聞く。

「韓国」

 柚音先輩と、去年韓国旅行に行った時に買った香水を付けている。ムスクとアプリコットの甘い香りだ。めちゃくちゃトップが強いわけじゃないから、部屋でも付けられる。
 
「今日から寝る前に俺にも1プッシュして」

「別にいいけど」

 「はぁい」と頷くと、灯織は綾人の肩に頭を乗せて動かなくなった。綾人の背中に回されていた手がだらりと床に落ちる。

 こいつ、寝落ちしたな。どうするんだ。これ。

「なー」

 寝室からおもちがとたとたと出てきた。綾人と灯織の抱きついている様子を見ると、ダッシュでその2人の隙間。お腹の辺りに飛び込む。ごろごろと喉を鳴らし、おもちも爆睡。灯織も爆睡。

 俺はどうすれば……。

 30分後、綾人選手、爆睡。