保護猫おもちの縁結びやさん

 今日はおもちが生後6ヶ月になった日。俺と出会った日をおもちの誕生日と決めたから、出会った頃は生後1ヶ月だったおもちがみるみるうちに大きくなった。今は赤ちゃんと大人の中間くらいなサイズ感だ。つまり、俺とおもちが綾人の家に保護されてから5ヶ月が経過した頃である。この頃にはもう俺は綾人とおもちにべったべたに懐いていて、楽しいぽかぽかライフを送っていた。

 今日は金曜日。華の金曜日。

 おもちに出会う前は、本カノに振られて家を追い出されて人生に絶望してたけど、今はやる気に満ち溢れている。あの本カノとはもうヨリが戻せそうにないから、新規のお姫に貢いでもらおう。そのためには、まずは初回。名刺を渡して、にこっと笑顔。

「わ~かわいい!」

「えへ、ありがとうー!」

 新規のお姫に缶ものを頼んでもらい、がぶがぶ飲み干す。もっとだ。もっと酒をくれ。早く酔いたい。おもちを養いたいんだ。綾人との半分この家賃とかもろもろ。ちゃんと払いたい。俺のこと保護してくれた人だから。

「ねえねえ灯織くん何歳なのー?」

「再来月で22だよ!」

「私のほうが年上ー。こんなかわいい男の子見たことない。都会はすごいね。さすが歌舞伎~」

「シオリちゃんはお姉さんなんだー。年上の落ち着きと余裕な感じがいいね。甘えんぼうしたくなっちゃう。もっとお酒飲みたいなー。今夜は酔わせてくれるよね?」

 自分でも、今日はきゅるるんモードがアツい。激しい。こんなにかわいくて、こんなに酒ヤクザでかっこいいホスト俺しかいないって。だからね、お姉さん。俺のことだけ見て? 俺のこと養って?

「いいよー。おねだり上手なんだね。じゃあシャンパンおろそうかな。灯織くんのオリシャンある?」

「あるある! 恥ずかしいんだけど、まだ在庫残ってる。だから下ろしてくれたらとっても嬉しいのだ」

 はむはむ顔をすると、シオリちゃんはにこにこしながら俺の頭を撫でる。

 えへへ。身長189センチだけど、小さくなるフリをする。

 フロアがきらきらと輝きだす。照明が暗くなり、雪さんがシャンパンコールをしてくれる。20人近いホストが俺とシオリちゃんの卓を囲ってくる。オリシャンを開けて、シオリちゃんのグラスに少し入れて、俺は直瓶した。久しぶりのオリシャンの味。焼酎とメロンソーダ割りなの、めちゃうまいし、飲みやすい。オリシャンには俺の盛れてる顔がガッツリ印刷されてる。たしかこの時はハロウィンで狼のコスプレをしたんだっけ。俺は狼耳がよく似合う。

「今日初回指名なんですけど~灯織くんがかわいすぎるので、オリシャン入れましたー。まだまだ飲めるみたいなんでたくさん酔わせてあげてくださーい。よいしょー」

 マイク片手にご満足の笑みを浮かべるシオリちゃん。

 シオリちゃん慣れてるな。さっき今まで1回もホスト行ったことないって言ってたけど嘘だあ。シオリちゃんの手からマイクを取り、ギャルピースと一緒にフロアのキャストに話す。

「初対面のお姫にーオリシャン入れてもらいましたー今月はなんばーわん目指して頑張るんで、ヘルプの子もたくさん飲ませまーす。よいしょー」

 煽るの好きすぎる。俺って天才。ホストは天職かもしんない。

 マイクパフォーマンスが終わった後も、卓についたヘルプの子にもシオリちゃんはオリシャンを飲ませてた。

「灯織くんー今日は楽しく飲めて良かった! また連絡するね!」

「うんっ! 今度は同伴しようね。気をつけて帰ってねーおやすみ!」

 店の出口まで見送って、シオリちゃんがタクシーに乗って走り去るまで手を振り続ける。少し変顔したら手を叩いて爆笑してくれた。いい子だなー。てか、今日飲みすぎたな。おもちパワーすぎる。綾人さんち、帰ろ。

 今日はラスソン、雪さんだった。俺は2番目。惜しかった。あと2人くらい強めのお姫が欲しい。

 営業後に雪さんから聞いたんだけど、俺の同棲してた恵比寿タワマン住みお姫、ちゃんと店の住所に俺の服とか私物を送ってくれたらしい。最後まで優しい。そんなお姫の1番になり続けたかったな。俺の、力不足だな。


 やっぱり俺、まじで女アレルギーなんだな。帰り道、いつもみたいに。歩きながら嗚咽が止まらない。大男が柄にもなく涙が止まらない。飲み干した酒の全てを、瞳から排水するみたいにして。

 泣きすぎると頭が熱くなって、ぼーっとするし、頭も痛くなる。毎度のことやし。仕方ない。

 例えるなら、玉ねぎみじん切りした後に、ツンって涙目になる感覚かな。

 おもちと出会えてよかった。

 だってあんなにも優しい人と出会えたんだもの。


ーーーーー

 タクシー拾って、綾人んちの前に下ろしてもらう。鼻声が痛いが、涙はなんとか止まった。かわりに鉛みたいに重い眠気がやってきた。階段をゆっくりと登る。スマホ見たら、深夜3時過ぎ。きっともう2人とも寝てる。起こさないように玄関を開ける。

 部屋は真っ暗で、とりあえず喉乾いたから冷蔵庫開けたら、見つけたよ。ジップロックの箱の蓋に、ピンクのふせん。

「お疲れ。お好み焼き食って寝とけ。おもちは今日は去勢手術をした。キンタマなくなるなんて、男だったらおっかねえよな。綾人」

「キンタマ……」

 綾人の丁寧な字とは毛色の違うキンタマって、パワーワードすぎる。綾人、ギャグ線高すぎない? ていうかさ、お好み焼き大好物。大泣きしたことも忘れて、レンチンして食べる。うまい、うまい。願わくば、あちあちの出来たてを食べたいな。

 おもちえらしゅぎる。さすが俺の子!!

 ニャクテンという猫用品専門のオンラインショップで買った猫用ケージの中の、ふわふわのベッドの上でおもちがヘソ天して寝ているのを確認してから、寝室に向かう。

 音を立てないように、部屋に入る。スマホの光で足元を見ながら、既に敷いてある布団に横になった。

 綾人がいつも、布団を敷いてくれている。優男じゃん。

 見上げれば、綾人の寝てるベッドがある。

 この幸せを忘れないように。
 この時間を刻むように。

 もうちょっと、お仕事がんばろう。

 おもちの成長を1番近くで間見守りたいから。