昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する

だからね、思うんだ。

 今日から君は誰かの旦那さんになるんだね。


「結婚おめでとう」


 そう言って君に渡した花束を、君は奥さんに誇らしげに見せたね。

「こいつ、幼馴染。センスいいよな」

 ってあの頃と同じ眩しい笑顔で君が言うから、ウェディングドレスを着た奥さんも心底嬉しそうに笑うんだ。美男美女でお似合いの夫婦だよねって、みんなが言う。


 君は僕以外の人と結婚するんだね。

 幸せになってほしいよ。

 でも、ちょっとさみしいな。

 僕が与えることのできない幸せを、奥さんは君に与えられるんだろう。

 僕には何が足りなかったのかな。


 愛情? 信頼? 波長?


 もうずっと、この日が来るのが怖くてたまらなかった。ずっとずっといっしょにいたのに。手の触れる距離にいたのに。

 なんでこんなに胸が苦しいんだろう。

 好きだったよ。初めてだったよ。こんな気持ち。



 僕は君との思い出の全部を自分だけの秘密にするから。


 氷砂糖みたいに、甘い思い出で満たすから。


 いつか、いつの日か。また会うことがあれば。


 その時は、僕だけはその氷砂糖をコーヒーに入れさせて。

 君の進む道の先に僕はいないけど、僕だけは君との思い出に浸っていたいんだ。愛してたよ。

 さようなら。僕の初恋。


 結婚式から帰る帰り道、暗がりの中をひとりで歩いている。

 僕のワイシャツの袖が濡れてる。

 電柱の下にいた野良猫が僕を見て、ぎょっとしてしっぽを立てて忍者みたいに逃げていった。

 夜空に舞い初めた白い雪が僕の嗚咽を白く残していく。

 大好きだよ。初めて会ったときからずっと、君は僕の運命の人なんだと思ってた。

 しんしん降る雪の中、家路を急ぐ。

 愛してた。

 愛してたんだよ。

 生まれ変わったらその時は君のお嫁さんになれますように。

 僕はそんな祈りを込めて雪の降る空を見上げていた。




 家に帰った。

 スーツを脱いでハンガーに掛けた時、本当に終わってしまったんだと膝から床に崩れ落ちた。

 鏡を見たら乾いた涙の跡がほんのりと頬に残っている。

 祝ったはずなのにどうしてこんなことを考えてしまうんだろう、と思いながら。

 自分の抗えない欲を心の底から軽蔑しながら。

 それでも眠りにつく時、自分の身体を抱きしめると君のことしか頭に浮かばなかった。

 25歳の冬だった。


Fin