隣のイケメンと少女マンガの恋をしました

体育祭の閉会式を終えた後の校庭は、写真撮影会場と化していた。
部活ごとで集まったり、仲良いグループで親に写真を撮ってもらったり。もれなく俺たちも親に写真を撮ってもらっていた。
「ほら!もっと寄って寄って!」

「よろしくな、叶汰。」

俺の一世一代の告白を通じて見事恋人同士となった俺たちは、俺の母さんの言葉に忠実にぎゅっと距離をつめた。
「わ!亮雅くんたちもいるじゃない!呼んでこなきゃ!」
中学の頃から同じ部活なので、もちろん母さんも認知している。
「いいよ、まずは2人で…」
「なんだよー!写真撮るなら最初から誘えよー!ケチケチケチーー」
 2人がよかったのに…
本音はそっと心にしまい、猪原(いはら)や小笠原を含めた5、6人の卓球部と凪、というなんとも謎な組み合わせで写真を撮った。
「ほんとは2人がよかったな。」
ぼそっと耳元で言われ、倉庫での一連を思い出して耳が熱くなった。
赤くなる俺を見て、凪はふっ、と笑った。


「叶汰――そろそろ行こーぜ」
写真撮影に夢中になっていた俺に亮雅が言った。
「あ、うん」
「え、行くって、どこに」
「…俺の…家。」
「…え?」
 言ってなかったっけ…
さっきの甘酸っぱさが消え去り冷ややかな目で、どうゆうこと、と詰め寄られる。
「卓球部でこいつんちに泊まる予定なんだよーーっ」
亮雅が言った。
「え、それって…」
「小笠原は流石に来ない!」
「ああ、良かった。」
 心配してたの、そこなんだ。
「蒼井も来たらー?」
唯一、凪と関わりのある猪原が言った。
 え?凪が、うちに、来る?
「いい、の?」
「あ、え、あ、うん、全然いいよ。」
「ありがとう。」
安心して凪はニコッと笑った。関係が変わったからか、ただ笑っただけなのに耳が熱くなる。
 今日、眠れるかな…
誰にも言えない恥ずかしすぎる不安を胸に、母さんの車に乗り込んだ。

「それにしても、叶汰に卓球以外のお友達ができて、嬉しいわ〜」
「別に友達いるし。卓球部じゃなくても。。」
「しかも、こーんなモデルさんみたいな子で。ありがとね、蒼井くん?だっけ。」
「はい。すみません、いきなり。ご迷惑じゃなかったですか。」
「いいのよ〜滅多に友達なんて来ないんだから、あははは」
 ほんとに……
俺を差し置いて、凪に話しかける母さんは楽しそうだった。
 まあ、それもそうか。俺がこんなイケメンと友だ…じゃなくて恋人……
「どしたの。」
1人で熱くなっていると、隣に座る凪が耳元で(ささや)いてきた。予定より1人増えて、きつきつに座っていたので、無意識に距離が近くなる。
「な、んでもない。」
「ちょっとーいちゃつかないでくださーい。」
距離が近くなっていた俺たちを茶化して猪原が言った。ちょっと揶揄(からか)われただけなのに恥ずかしがる自分がいた。

「着いたよー!体育祭のあとにおつかれさまー」
「「「ありがとうごさいました〜〜〜!」」」
みんな母さんに礼を言い、俺の家に入って行った。
家に入ると、ソファでテレビを見ていた父さんも立ち上がって、母さんの夕食の準備を手伝い始めた。
「晩ご飯まだできないから、先お風呂入っちゃってきて〜!」
 お風呂…
「あ、うちじゃ4人は無理だから、近くの銭湯でも行ってきたらー?」
そんなに時間がかかる予定なのか。友達2人とイケメン1人、食事が豪華になるにちがいない。父さんまでも召喚(しょうかん)してんだから。


銭湯はうちから徒歩5分のところにある。暑さの足音がせまる6月の夕方は、少し歩くだけでもしっとりと汗をかいた。
「ここの銭湯、創業60周年なんだよー」
俺たちの横を通り過ぎて入っていくカップルが言っていた。
「叶汰はここ、よく来るの?」
「うーん、よくってわけじゃないけど、中学のとき、家の給湯器壊れてさ、2週間くらい通ったことはある。」
「叶汰の聖地…」
たぶん、独り言のつもりだったけれど、俺にははっきり聞こえてしまった。
「おばちゃん、こんにちは〜」
「ま〜叶汰くん、久しぶりだねえ。あら、今日はお友達連れてきてくれたのお。嬉しいわ〜!」
銭湯の番台に座った顔見知りのおばちゃんは、陽気に迎えてくれた。
「あら、こんなかっこいいこ、ここら辺にいるの?叶汰くんのお友達?」
「か、と、友達です。」
彼氏です、と口走りそうになったのを必死に(こら)えて言った。
 ここで口を滑らせたら、亮雅たちにもバレるから気をつけないとヤバイ…
「そうなの〜〜ほんっとかっこいいわあ…あ、ごめんなさいね、足止めしちゃって!お風呂、ごゆっくり」
ありがとうございまーす、とロッカーの鍵を受け取ると俺たちは脱衣所へ向かった。
「前も来たけど、ほんと広いなここ。」
中学の頃に一度来たことのある亮雅は風呂の方も見回して言った。
「管理、行き届いてるよね。」
社会科学習のような感想を言ってしまった。俺はそれどころではなかった。
 凪と一緒に…?
正直、亮雅と猪原とは合宿に何度も行っているからなにも思わない。でも……
「俺もう入るわーおさき〜」
「俺も〜」
ぐるぐる考え事をしているうちに2人は先にお湯の方へ行ってしまった。
「叶汰も行こうよ。」
「あ」
制服を着ていたからほっそりと見えていた凪の体は、思ったよりもしっかりしていて、うっすら腹筋が割れていた。
運動部ではないけど、きっと日頃から気を遣っているに違いない。やっぱり、イケメンはすごい。
「そんなに見ないでもらえると助かる。」
「あっ、ごめんっっ」
しまった、無意識にジロジロと見てしまっていた。
 変態だと思われたかな。体育倉庫でも突然キスしちゃったし、でもあれは告白で…
「俺たちも行こっか。」
またもや自分の世界に入り込んでしまっていた俺を引き戻し、凪も風呂の方に向かって行った。
 しっかりしろ!俺!!

体育祭の話で盛り上がって意外と長風呂になってしまった俺たちは、みんなゆでだこみたいなって、番台の近くの椅子で涼んでいた。
「流石に、盛り上がりすぎた…」
「うん」
「猪原の宮センの真似は傑作だったけどね〜」
「それな、風呂じゃなかったら動画撮りたかった、はははは」
さっきあったことを振り返ってまた盛り返していると、
「あらま!みんな真っ赤じゃないの〜!」
「うへへ、盛り上がりすぎちゃって、今日体育祭だったんすよ」
亮雅がてへ、と舌を出してイタズラっぽく笑って言った。
「体育祭だったのね〜じゃあ、青春満喫のアンタたちに、はい!おばちゃんからの愛のプレゼント!」
そう言って、おばちゃんは俺たち4人にパックのコーヒー牛乳をくれた。
「「あざす!!」」
亮雅と猪原は運動部っぽく豪快にお礼を言った。
「ありがとうございます。」
凪は相変わらず冷静クールに言っていた。
その時、ピロンと俺のスマホが鳴った。

[そろそろ帰ってきなさいよーお夕飯もうできてる!]

「みんなそろそろ戻ろう。夜ご飯できたって」
「「「よっしゃ」」」
今回ばかりは凪も子供っぽくガッツポーズをした。


少し涼しくなった夜道を歩き、家に帰ったらダイニングテーブルにいつもの3、4倍の豪華な料理が陳列していた。
「いただきます!!」
「はい!|召し上がれ!どんどん食べなさい!」
食べ盛りの高1男子4人の食欲は底を知らず、一時間もしないうちにテーブルの上の皿は空っぽになった。
「「「「ごちそうさまでしたー!」」」」
「マジで美味しかったっす!!」
「あらそう?よかった〜」
猪原がそう褒めると、母さんは、最近行き始めた料理教室の腕を見せられて嬉しそうだった。
「もうみんな寝る?布団は敷いてあるけど…」
食べ終わってのんびりした後、時計を見たら夜10時を回っていた。
「うん、まだ寝ないけど寝る。」
「そう?みんなおやすみ。体育祭お疲れ様〜」
母さんはそういうと片付けに取り掛かり、俺たちは寝室へ向かった。


「なんか修学旅行みたいだな。」
「それな。全然まだ先だけど。」
全速力のリレーと、人生最大の緊張のダブルパンチを同日に受けた俺は、いつもなら起きている時間にも関わらず、眠気が県会を突破しようとしていた。
「まだだめ。」
凪が俺の頭をぐいっと戻す。
 あーーもうこのまま寝てもいいかも…
凪に頭を支えられて寝落ち始めそうになった時、
「さあ始まりました、体育祭後開催、恋バナ大会です!!」
猪原と亮雅が手をマイクの形にして言った。
 こいばな……た…い………



「これ、起こさないほうがいいかな」
「起こそうにも起こせないだろ」
「やっぱ蒼井が言ってたとおりだな」
「ん…」
「やべ、動いた、起きるぞこれ」
  暑い…こんなに布団被ったっけ…
ぼんやりと、覚めそうな意識の中で6月なのに布団を巻き付くように被っている自分を疑う。
 布団…じゃない?!
目を開けると凪が俺を抱きしめる格好で寝ていた。
「わっ!!!」
「ん、おはよ。叶汰。」
びっくりして体を起こそうとすると、俺の腰に巻き付いた凪の腕に力が入って抜け出せなくなった。
「ちょ、みんないるから…!」
亮雅も猪原も見てる中で、堂々と抱きしめる凪を離そうとすると、
「あ、いいですよーそのままでー」
亮雅がちょっと揶揄うように言った。 
「散々聞きましたからね〜」
「ね〜」
2人とも口に手を当てて近所のおばさんの真似をして言った。
 どういうこと……?散々聞いた…?なにを…?
寝起きに加え、状況をまったく理解できていない俺は3人に説明を()いた。
話を聞くと、昨日の夜、俺が寝落ちたあと俺を除いた3人で恋バナ大会をしていたそう。その中で、凪のターンになったとき、俺との馴れ初め、現状エトセトラを若干脚色して、長々と語っていたらしい。
「かなり惚気られたよー俺ら。ラブラブじゃん!!」
ちょっと待った、俺はまず恋愛対象が男であることを誰にも言ってないし、しかもそれは最近知ったというか、好きなの凪だけだし…凪に口止めしていなかった自分を責めたい…
「引いた…?」 
凪をうらめしい目で見ると同時に2人を探るような目で見た。
「ぜんぜん。まあ、びっくりはしたけどね。」
 え?
「俺のねーちゃん腐女子でさ、マンガ突きつけられてるから慣れてたというか」
「ごめん、言わない方がよかった…?」
姿勢はそのままで凪が濡れた子犬みたいな目で俺に向き合った。
「あ、いや、うん、いや…」
真正面から見つめられ、とくんと心臓が跳ね、嫌なんて言えなかった。
「あーーもう!朝から甘すぎてつらい!!」
「俺も彼女ほしい!」
亮雅と猪原はまったく引くこともなく、がやがやと朝ごはんを食べにリビングへ出て行った。
「ごめん。勝手に…」
見えない尻尾がしゅんと垂れているのを見ると、責める気にならなかった。
 おれ…もう結構こいつのこと…
「いいよ。なんか、2人とも引いてなかったし、広めなさそうだし。まあ、釘刺しといたほうがいいかもだけど。」
「ふふ、良かった。んーーーーねむ」
まだ眠たそうな目を弓形にして、ちゅっとおでこにキスをされた。
「なっ…」
「いやだった?」
絶対に嫌だと言わないとわかってるくせに。
「やなわけないだろっっ!!ほら!朝ごはん食べに行く!!」
仕返しだ、と言わんばかりに凪の頬に軽くキスをして、勢いよく布団から出た。
凪もぽかんとしながらも、布団から()い出てきた。
リビングに行くと、炊き立てのお米のいい匂いがたした。
「おはようみんな。よく寝れたかしら?」
「俺たちは結構遅くまで起きてたけど、叶汰はすぐ寝ました。」
 余計なことを…
「ごめんねーこの子が起きてなかった分はまた夏休みにでも泊まりに来て回収して!ほら!みんな朝ごはん食べちゃって〜」
夏休み。目前のイベントに、隣の凪を意識して胸が高鳴るのを感じた。
 夏祭り、行けたらいいな。

6月下旬、強くなる太陽の下でセミが鳴き始めました。