5月下旬、俺たちの体育祭への熱量は最高潮を迎えていた。
保健室や図書館でのあれこれを経て、何かと仲良くしている凪と俺は練習をするべく校庭へ向かった。
校庭には高校全学年が揃っていた。
高3もいるじゃん…マジで強いんだよなこの学年…
珍しいことに、俺たちの学校の体育祭は学年対抗戦だ。年に一度の体育祭という祭では先輩後輩関係なく本気で勝ちにいく。しかし、現高3、すなわち俺たちの2個上は高1から負けなしの伝説の学年と言われる連中だ。
勝てる気がしねーーーー
「やっぱ人多いね。」
俺と一緒に高1A組の列を探す凪が言った。
「うん。高3も受験までまだあるから、登校してる人多いな。」
「おーーーい!叶汰ーーーー!」
「うわ、亮雅」
「うわってなんだよ、うわって。お二人仲良く迷ってるようだったので、迎えにきてあげましたー」
わざとらしく頬を膨らませて亮雅が言った。まあ、ありがたいな。
「高1あっちだけど。てか、種目何でるん?」
「つな引きと大玉、あ、あとクラスリレー」
「リレー、俺も出るよ。」
亮雅との会話に珍しく凪が口を挟んだ。
「え、凪、クラスリレーの名簿入ってなかったよ。」
「うん。選抜リレー。」
「えっ?!選抜って足早いやつのやつじゃん!」
驚いて変な日本語になってしまった。
「まあ、そう。」
「すっげーー、足早そうだもん。たしかに。」
そういうと凪は恥ずかしそうに目線を逸らした。
褒めたり見たりするとよく照れるな。
「てかさ、」
亮雅が気まずそうに手を挙げる仕草をした。
「2人って、そんな仲良かったっけ。」
当然の質問だな。
「まあ、最近なんかちょくちょく喋るようんなってさ。席、隣だし?」
無難な回答。我ながら平然を保てたと思う。
「え、お前らしゃべってなくない?いや、他のクラスだからなんもいえないけどさ、俺が叶汰のクラス行った時、だいたい蒼井寝てね?」
ピーーーーーーーーーーーーー
練習開始を伝える学年主任の笛が校庭に響いた。
「やべっ俺もクラス戻るわ。じゃあな!」
亮雅は自分勝手にひとこと言うと、走って自分のクラスの列に戻っていった。
ふぅーーー
「ふぅーーー」
自分の心の声が漏れたかと思って隣を見たら、凪も大きく息を吐いていた。
「バレなくて良かったね。」
凪は目を弓形にしてニコッと笑った。
「ホント、焦った。マジで。たしかに、俺たち教室で話したことなくね?凪いつも寝てるし。」
「あるよ。一回だけ。」
凪は俺から目線を逸らしていった。
「俺が、好きって言った時。」
…………!
「あ、あれは喋ったに入らないだろっ!」
照れ隠しのために凪の肩を、ばしっと叩いた。
「ごめんて。調子乗った。」
「突然かまさないでもらえると助かる。」
「りょーかい」
ほんとに、どこまでも危なっかしい。
楽しみにしていることはあっという間に来てしまい、ついに体育祭当日がやってきた。
3学年が集まった校庭は、練習の時よりも明らかにボルテージが違った。女子は髪型や顔面を気にして鏡や、スマホの暗い画面を鏡がわりにずっと見ていたし、男子は男子でそこらじゅうで円陣を組んで、先生たちは出席確認で忙しそうに動いていた。
「お、叶汰。」
「亮雅ー!猪原ー!小笠原ー!マジで勝てる気がしねえ…」
人混みの中から俺を見つけた卓球部の同学年が、走ってやってきた。
「ほんとそれな。先生たちみんな優勝目指せ!とか言ってたけど、あの高3がいる時点で無理だあーー!」
「2人ともネガティブすぎだよ!わたしたち練習してきたよ?自信もと!!!」
他の女子と同様、二つに分けて編み込んだロングヘアを揺らして、小笠原が言った。
ごもっともだなー
「「「卓球部員の名にかけて!絶対!優勝!おーーー!」」」
周りに負けじと俺たちも円陣を組んでいると
「叶汰。」
「あ、凪。」
新品かと思われるくらいピカピカの体操着に身を包んだ凪が登場した。
「うわー蒼井ってほんと何着てもイケメンオーラバチバチだな。」
「すげー1人だけモデルおるんですけど。」
「蒼井くん、やっぱ美形〜あとで写真撮ろうよ〜!」
先程まで円陣を組んでいた三人は、降臨した漫画のヒーローに釘付けになった。
「え、何」
三人に褒められまくっているのをびっくりするくらい無視して俺の方を見た。
「なんか言うことない?」
なんかしたっけ、俺。
凪は言い出しづらそうに、わーわー騒ぐ三人の方をちらっと見た。
ああ、そうゆうこと。
「似合うね、体操着。」
「ありがと。」
ほんとに…手のかかるやつ。
褒められて満足したのか、ポケットから学年色の鉢巻を出して頭につけていた。
長かった校長先生の話も終わり、いよいよ種目に入る時間になった。
「うおおおおお始まるーーー」
どこかの学年のやつがこんなことを言ったので、3学年とも、わーーーっと一斉に盛り上がり出した。
そしてまた、あちこちで円陣が組まれた。
「俺たちもやる?」
凪がぼーっと円陣のほうを見ていたので、声をかけてみると
「やる」
ぴょこっと跳ねるうさぎみたいに反応した。
「おーーい!種目出る前に円陣組もーぜーーー!!」
俺の近くにいたA組に声をかけると、みんなゾロゾロとやってきた。
一部、蒼井凪ファンクラブー俺が勝手にそう呼んでいるんだがーはなんとかして凪と肩を組もうと、こっちに来るが、凪はすでに右腕を俺の肩にかけていた。そして、もう片方は、
「俺も入れろよーーー」
「同じクラスじゃないじゃんお前!」
「いいだろ同じ部活なんだから!俺たち親友だって誓い合ったの忘れたのか?!」
「いや、誓ってねーよ!」
訳のわからないことを喚きながら、案の定、亮雅がやってきた。
円陣は、他クラスを含めて20人ほどになった。掛け声を誰がするのかとそわそわしていると、最初に掛け声を発したのは、以外にも凪だった。
「優勝するぞー!!」
『おーーーーーーーー!!』
20人の声と想いが、校庭に響いた。
体育祭は1種目、2種目、と順調に進んで行き、クラスリレーを終えた俺はへろへろになりながら、自分の席に戻った。
「おつかれ。見てたよ。速かったね……そこそこ。」
「ありがと…う?え、言い直した?」
「うん。ごめん無意識……」
分かりやすすぎる言い直しが不満で、凪をぽかぽかなぐる真似をした。
「そいえば、」
なぐるのをやめて俺は言った。
「もう次で種目最後じゃない?」
「うん。」
「選抜リレーだ!!」
最後の種目、選抜リレー。凪が出場する種目だ。選抜リレーはその名の通り、学年で足の速い5人ずつがリレーをして、学年順位を競う競技。
凪なら…高3に勝てるかもしれない……
そんな期待を胸に、凪にエールを送った。
「が、頑張れよ!凪めっちゃ足早いし、高3負かせるよ!」
「あのさ、、提案なんだけど、」
緊張しないように盛り上げようとした雰囲気の中、凪は急に真剣な顔をして俺のことを見た。
「な、なに?」
「俺が…その…このリレーで高3に勝ったら、、、、俺と、付き合ってほしい。」
「………………!!!!」
「行ってくる。」
驚いた俺の顔を見てなにを思ったのか、覚悟を決めたように行ってしまった。
付き合ってほしい。
4月の告白の時とは違う、真正面からの言葉に、違う胸のドキドキを感じる。もうこれは…
「位置についてーよーい、ドンッ!」
体育委員の掛け声で、選抜リレー選手が一斉に走り出した。
選抜だと、やっぱ比べ物にならないくらい速いな…
なんと、高1が先頭を走っている。このまま、このまま凪まで走り抜けられれば…
「やば!」
隣の席に座るクラスメイトの声にふっと顔を上げた。
転んだ。
凪の一人前の走者だった。バトンを受け取るために後ろを向いていた凪の表情が、焦りの色に染まった。
『頑張れ!!頑張れーーーーーー!!蒼井ーー!!』
全方向から凪に応援が集中する。全速力、百万馬力、今までの練習では見たことのない速さで凪は走った。
俺は胸の前で両手を組んで祈った。もう自分の気持ちには十分に気づいていた。
頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ…
しかし
「選抜リレー、優勝は高校3年生でーす!!!」
わーーーっと高3が立ち上がった。見にきている保護者も大人気なく立ち上がって喜んでいた。
気づいた時には走り出していた。
「凪!」
走り終えたなぎは目に涙を浮かべていた。
切れ長の目に溜まった涙は、いまにもこぼれ落ちそうだった。考えるのが先か、行動が先か、俺は凪の手を掴んで走り出していた。
「叶汰っっっ…」
「いいから!!」
周りの数人がこちらに視線を向けるが、大多数は勝敗に夢中でこちらに気を向けることはなかった。
校庭の騒がしさはさておき、俺たちは開きっぱなしの体育倉庫に入った。
いまだにしくしく泣く凪の正面に立ち、何度もシミュレーションをした言葉を言った。
「好きです。俺と、付き合ってください。」
「…!!」
数秒、数十秒見つめあって、やっと凪が口を開いた。
「…いい、の?」
「いい、っていうか、付き合って、ほしい…」
「でもっ俺負けて…」
「そうゆうことじゃ!ない!」
また泣き出しそうな凪を止めるために、唇を塞いだ。
「?!」
驚いた凪は目を見開いて俺を見た。俺も凪も真っ赤になって向かい合っていた。
「わかった…?俺の、、気持ち…」
「うん。」
凪にいつもの冷静さはなく、ただ頷いていた。
「もう一回、していい…?」
「うん。」
今度は、凪がキスをした。
「よろしくね、叶汰。」
「よろしく、凪。」
幸せに包まれた俺たちにもう校庭の喧騒は聞こえなかった。
保健室や図書館でのあれこれを経て、何かと仲良くしている凪と俺は練習をするべく校庭へ向かった。
校庭には高校全学年が揃っていた。
高3もいるじゃん…マジで強いんだよなこの学年…
珍しいことに、俺たちの学校の体育祭は学年対抗戦だ。年に一度の体育祭という祭では先輩後輩関係なく本気で勝ちにいく。しかし、現高3、すなわち俺たちの2個上は高1から負けなしの伝説の学年と言われる連中だ。
勝てる気がしねーーーー
「やっぱ人多いね。」
俺と一緒に高1A組の列を探す凪が言った。
「うん。高3も受験までまだあるから、登校してる人多いな。」
「おーーーい!叶汰ーーーー!」
「うわ、亮雅」
「うわってなんだよ、うわって。お二人仲良く迷ってるようだったので、迎えにきてあげましたー」
わざとらしく頬を膨らませて亮雅が言った。まあ、ありがたいな。
「高1あっちだけど。てか、種目何でるん?」
「つな引きと大玉、あ、あとクラスリレー」
「リレー、俺も出るよ。」
亮雅との会話に珍しく凪が口を挟んだ。
「え、凪、クラスリレーの名簿入ってなかったよ。」
「うん。選抜リレー。」
「えっ?!選抜って足早いやつのやつじゃん!」
驚いて変な日本語になってしまった。
「まあ、そう。」
「すっげーー、足早そうだもん。たしかに。」
そういうと凪は恥ずかしそうに目線を逸らした。
褒めたり見たりするとよく照れるな。
「てかさ、」
亮雅が気まずそうに手を挙げる仕草をした。
「2人って、そんな仲良かったっけ。」
当然の質問だな。
「まあ、最近なんかちょくちょく喋るようんなってさ。席、隣だし?」
無難な回答。我ながら平然を保てたと思う。
「え、お前らしゃべってなくない?いや、他のクラスだからなんもいえないけどさ、俺が叶汰のクラス行った時、だいたい蒼井寝てね?」
ピーーーーーーーーーーーーー
練習開始を伝える学年主任の笛が校庭に響いた。
「やべっ俺もクラス戻るわ。じゃあな!」
亮雅は自分勝手にひとこと言うと、走って自分のクラスの列に戻っていった。
ふぅーーー
「ふぅーーー」
自分の心の声が漏れたかと思って隣を見たら、凪も大きく息を吐いていた。
「バレなくて良かったね。」
凪は目を弓形にしてニコッと笑った。
「ホント、焦った。マジで。たしかに、俺たち教室で話したことなくね?凪いつも寝てるし。」
「あるよ。一回だけ。」
凪は俺から目線を逸らしていった。
「俺が、好きって言った時。」
…………!
「あ、あれは喋ったに入らないだろっ!」
照れ隠しのために凪の肩を、ばしっと叩いた。
「ごめんて。調子乗った。」
「突然かまさないでもらえると助かる。」
「りょーかい」
ほんとに、どこまでも危なっかしい。
楽しみにしていることはあっという間に来てしまい、ついに体育祭当日がやってきた。
3学年が集まった校庭は、練習の時よりも明らかにボルテージが違った。女子は髪型や顔面を気にして鏡や、スマホの暗い画面を鏡がわりにずっと見ていたし、男子は男子でそこらじゅうで円陣を組んで、先生たちは出席確認で忙しそうに動いていた。
「お、叶汰。」
「亮雅ー!猪原ー!小笠原ー!マジで勝てる気がしねえ…」
人混みの中から俺を見つけた卓球部の同学年が、走ってやってきた。
「ほんとそれな。先生たちみんな優勝目指せ!とか言ってたけど、あの高3がいる時点で無理だあーー!」
「2人ともネガティブすぎだよ!わたしたち練習してきたよ?自信もと!!!」
他の女子と同様、二つに分けて編み込んだロングヘアを揺らして、小笠原が言った。
ごもっともだなー
「「「卓球部員の名にかけて!絶対!優勝!おーーー!」」」
周りに負けじと俺たちも円陣を組んでいると
「叶汰。」
「あ、凪。」
新品かと思われるくらいピカピカの体操着に身を包んだ凪が登場した。
「うわー蒼井ってほんと何着てもイケメンオーラバチバチだな。」
「すげー1人だけモデルおるんですけど。」
「蒼井くん、やっぱ美形〜あとで写真撮ろうよ〜!」
先程まで円陣を組んでいた三人は、降臨した漫画のヒーローに釘付けになった。
「え、何」
三人に褒められまくっているのをびっくりするくらい無視して俺の方を見た。
「なんか言うことない?」
なんかしたっけ、俺。
凪は言い出しづらそうに、わーわー騒ぐ三人の方をちらっと見た。
ああ、そうゆうこと。
「似合うね、体操着。」
「ありがと。」
ほんとに…手のかかるやつ。
褒められて満足したのか、ポケットから学年色の鉢巻を出して頭につけていた。
長かった校長先生の話も終わり、いよいよ種目に入る時間になった。
「うおおおおお始まるーーー」
どこかの学年のやつがこんなことを言ったので、3学年とも、わーーーっと一斉に盛り上がり出した。
そしてまた、あちこちで円陣が組まれた。
「俺たちもやる?」
凪がぼーっと円陣のほうを見ていたので、声をかけてみると
「やる」
ぴょこっと跳ねるうさぎみたいに反応した。
「おーーい!種目出る前に円陣組もーぜーーー!!」
俺の近くにいたA組に声をかけると、みんなゾロゾロとやってきた。
一部、蒼井凪ファンクラブー俺が勝手にそう呼んでいるんだがーはなんとかして凪と肩を組もうと、こっちに来るが、凪はすでに右腕を俺の肩にかけていた。そして、もう片方は、
「俺も入れろよーーー」
「同じクラスじゃないじゃんお前!」
「いいだろ同じ部活なんだから!俺たち親友だって誓い合ったの忘れたのか?!」
「いや、誓ってねーよ!」
訳のわからないことを喚きながら、案の定、亮雅がやってきた。
円陣は、他クラスを含めて20人ほどになった。掛け声を誰がするのかとそわそわしていると、最初に掛け声を発したのは、以外にも凪だった。
「優勝するぞー!!」
『おーーーーーーーー!!』
20人の声と想いが、校庭に響いた。
体育祭は1種目、2種目、と順調に進んで行き、クラスリレーを終えた俺はへろへろになりながら、自分の席に戻った。
「おつかれ。見てたよ。速かったね……そこそこ。」
「ありがと…う?え、言い直した?」
「うん。ごめん無意識……」
分かりやすすぎる言い直しが不満で、凪をぽかぽかなぐる真似をした。
「そいえば、」
なぐるのをやめて俺は言った。
「もう次で種目最後じゃない?」
「うん。」
「選抜リレーだ!!」
最後の種目、選抜リレー。凪が出場する種目だ。選抜リレーはその名の通り、学年で足の速い5人ずつがリレーをして、学年順位を競う競技。
凪なら…高3に勝てるかもしれない……
そんな期待を胸に、凪にエールを送った。
「が、頑張れよ!凪めっちゃ足早いし、高3負かせるよ!」
「あのさ、、提案なんだけど、」
緊張しないように盛り上げようとした雰囲気の中、凪は急に真剣な顔をして俺のことを見た。
「な、なに?」
「俺が…その…このリレーで高3に勝ったら、、、、俺と、付き合ってほしい。」
「………………!!!!」
「行ってくる。」
驚いた俺の顔を見てなにを思ったのか、覚悟を決めたように行ってしまった。
付き合ってほしい。
4月の告白の時とは違う、真正面からの言葉に、違う胸のドキドキを感じる。もうこれは…
「位置についてーよーい、ドンッ!」
体育委員の掛け声で、選抜リレー選手が一斉に走り出した。
選抜だと、やっぱ比べ物にならないくらい速いな…
なんと、高1が先頭を走っている。このまま、このまま凪まで走り抜けられれば…
「やば!」
隣の席に座るクラスメイトの声にふっと顔を上げた。
転んだ。
凪の一人前の走者だった。バトンを受け取るために後ろを向いていた凪の表情が、焦りの色に染まった。
『頑張れ!!頑張れーーーーーー!!蒼井ーー!!』
全方向から凪に応援が集中する。全速力、百万馬力、今までの練習では見たことのない速さで凪は走った。
俺は胸の前で両手を組んで祈った。もう自分の気持ちには十分に気づいていた。
頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ…
しかし
「選抜リレー、優勝は高校3年生でーす!!!」
わーーーっと高3が立ち上がった。見にきている保護者も大人気なく立ち上がって喜んでいた。
気づいた時には走り出していた。
「凪!」
走り終えたなぎは目に涙を浮かべていた。
切れ長の目に溜まった涙は、いまにもこぼれ落ちそうだった。考えるのが先か、行動が先か、俺は凪の手を掴んで走り出していた。
「叶汰っっっ…」
「いいから!!」
周りの数人がこちらに視線を向けるが、大多数は勝敗に夢中でこちらに気を向けることはなかった。
校庭の騒がしさはさておき、俺たちは開きっぱなしの体育倉庫に入った。
いまだにしくしく泣く凪の正面に立ち、何度もシミュレーションをした言葉を言った。
「好きです。俺と、付き合ってください。」
「…!!」
数秒、数十秒見つめあって、やっと凪が口を開いた。
「…いい、の?」
「いい、っていうか、付き合って、ほしい…」
「でもっ俺負けて…」
「そうゆうことじゃ!ない!」
また泣き出しそうな凪を止めるために、唇を塞いだ。
「?!」
驚いた凪は目を見開いて俺を見た。俺も凪も真っ赤になって向かい合っていた。
「わかった…?俺の、、気持ち…」
「うん。」
凪にいつもの冷静さはなく、ただ頷いていた。
「もう一回、していい…?」
「うん。」
今度は、凪がキスをした。
「よろしくね、叶汰。」
「よろしく、凪。」
幸せに包まれた俺たちにもう校庭の喧騒は聞こえなかった。

